自分大好き姫と不細工な犬

花木 葵音

文字の大きさ
16 / 27
ヒースの秘密と愛するということ

4

しおりを挟む
「ヒースは誰かを愛したことはあるの?」
「そうですね。実は私も以前は特定の異性に興味を抱くことはありませんでした。けれど、アンナ様に会って何かが変わりました」
 アンナは首を傾げる。ヒースはそんなアンナを可愛く思いながら見上げる。
「始めはなんて変わった姫なのだろうと呆れました。鏡ばかり見て、鏡の自分に話しかける。この姫は自分しか好きではないのだろうと。でも、同時に思ったのです。アンナ姫は可哀想なお人だと」
「可哀想? そんなこと……」
 アンナは意外そうに目を見張った。
「いいえ。今の貴女ならわかるのではありませんか? 世界には驚きが満ちているとわかったアンナ様には」
 アンナはヒースのベッドになっているクッションを胸の前で抱きしめた。ピースに合う前の自分を思い出すとなんだか変な気分だった。手鏡さえあれば幸せだった自分。
「可哀想かはわからないけれど、私はものを識らなくて、私にしか興味もなくて、美しいものや楽しいことがこんなにたくさんあるなんて思っていなかったわ。それがそうなの?」
 ヒースは頷いた。
「アンナ様の世界はアンナ様だけで完成されていたのです。それはとても閉鎖的で寂しいものです。ですが、アンナ様は私が思っていた自己中心的で寂しいだけの姫ではありませんでした。私が話すことを素直に受け取り、感動するアンナ様はとても魅力的だと思いました。本当は心が純粋なかたなんだなと」
「まあ、なんだか照れるわ」
 アンナはクッションを置いて、赤らめた自分の頬を両手で挟んだ。
「アンナ様からすれば不気味かもしれませんが、今私はアンナ様を愛しいと思っています」
「愛しい……?」
 初めて耳にする言葉のようにアンナは聞き返した。
 胸の辺りが落ち着かない。
「ええ。出来ればアンナ様とずっと一緒に過ごしたい。正直、最初は呪いを解くのは無理だろうと思っていました。でも、欲が出てきてしまいました。もっと長生きしてアンナ様のそばで苦楽を共にしたいと」
 アンナはヒースの言葉になんだか切なくなった。
「誰だって長生きしたいと思うわ。それに、私は別に不気味なんて思わないわ。ヒースにそんな風に思ってもらって、とても嬉しいわ」
「では私と結婚してもいいと思えますか?」
「け、結婚?!」
 アンナは思わず大きな声をだし、慌てて自分の口を押さえた。
「ヒースと結婚……」
 アンナは立ち上がると、再び部屋をぐるぐると歩き回った。
「すみません。先走りすぎましたね。アンナ様。私のことをどうかじっくり考えてみてください。アンナ様にとって私はどんな存在なのか」
 ヒースの懇願にアンナは頷く。
「分かったわ。ちゃんと考えてみるわ」



 アンナはベッドの中でもやもやする気持ちと戦っていた。ヒースは寝ているようだ。
(そうよね。愛していれば結婚という形になってもおかしくはないのよね)
 ヒースが玉座にちょこんと座っているのを想像して、笑いそうになるのを堪える。笑っている場合ではないのだ。ヒースの命がかかっているのだから。
(でも変ね。この不細工な犬をどうしてここまで救いたいと思うのかしら)
 ヒースには色々なことを教わった。ヒースが来てからアンナの世界は変化し、広がった。毎日自分ばかりを見てこの年まで過ごして来た。それはそれで幸せだったけれど、ドキドキやワクワクはなかった。ヒースが来てからなんだか色んな感情が芽生えている。
(今だって、ヒースはぐーすか寝ているのに、私はこんなに気持ちが塞いで……)
 アンナは布団を頭まで被った。
(夜は寝ないと美容に良くないわ。明日考えましょう)
 そうは思ったアンナだが、この日はなかなか寝付けなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

手ぶくろ

はまだかよこ
児童書・童話
バレンタインデイ 真由の黒歴史 いいもん、しあわせだもん ちょっと聞いてね、手ぶくろのお話し

突然、お隣さんと暮らすことになりました~実は推しの配信者だったなんて!?~

ミズメ
児童書・童話
 動画配信を視聴するのが大好きな市山ひなは、みんなより背が高すぎることがコンプレックスの小学生。  周りの目を気にしていたひなは、ある日突然お隣さんに預けられることになってしまった。  そこは幼なじみでもある志水蒼太(しみずそうた)くんのおうちだった。  どうやら蒼太くんには秘密があって……!?  身長コンプレックスもちの優しい女の子✖️好きな子の前では背伸びをしたい男の子…を見守る愉快なメンバーで繰り広げるドタバタラブコメ!  

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です* 最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

処理中です...