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宮殿
45.褒めるときは、撫でるとき
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キアラが長椅子で足を伸ばしていると、シアが温かいお茶を持ってきてくれた。お礼を言って息を吹きかけて冷まし、口をつけてみて想像以上の熱さに慌てる。
「申し訳ありません、熱かったですか」
「い、いえ、大丈夫です……少し、待ちます……」
口元を押さえてカップを置き、ミオの用意してくれた上掛けを足にかけ直す。
先日の騒ぎ以降、また危険な目に遭ってはならないからと、キアラは塔の部屋から出ないように厳命されていた。お祈りもなし、書庫に行くこともできず、窓から外を眺めたり、部屋の中をぐるぐる歩き回ってみたりくらいしかすることがない。
ミオとシアは事件の後始末に追われて忙しくしていて、今日はようやく、すべてに片がついた結果を話してもらえることになっていた。
「……まず、事の顛末、ですが」
精霊の加護を失い黒髪になったゲラルドは、自室に引きこもり、部屋でもできる公務をかろうじて担ってはいたものの、鬱屈としていた。加護を取り戻す方法などもちろん一般的に知られているものではないし、黒髪の王子など、例え公的な場面でなくとも人前に出られたものではない。
なんとか元通りにする方法を求めたが見つからず、おそらく引き金になった神子の怒りを解けば、精霊の加護が戻るのではないかと考え、人目を忍んでキアラの部屋を訪れ、帰りを待っていたらしい。
そうまでしてキアラの許しを受けに来たが、それでも加護が戻らないとわかり、逆上して怒りの矛先をキアラに向けた、というのが、今回のいきさつだそうだ。
「次に、ゲラルド……様、は、王族から除外、となりました」
王子とはいえ、神子を襲い、あまつさえ殺そうとした、という事実は重く、カガルトゥラード北方の地へ幽閉されることとなった。今後彼に対して殿下という称号が使われることはなく、生涯王族に復帰することもない。
これによって、カガルトゥラードの王位継承者はエドゥアルドに定まった、ということになる。
「ゆうへい、とは、なんですか」
「……ある場所に閉じ込めて、外に出さないことです。他の方との交流も禁じられます」
自分も似たような状態にあるのでは、と思ったが、キアラは口には出さなかった。少なくとも、マナヴィカに手紙を出すことは禁じられていない。
「……ゲラルド様と一緒にいらっしゃった方は、ご無事ですか」
「あの方は、ゲラルド様の従者であったようです」
従者として、本来ならゲラルドの凶行に連座して厳罰を受けるところだったが、罪を犯そうとした主人を止めようとしたこと、体を張って神子をかばったことが評価され、罰金刑だけで済んだそうだ。
キアラのおかげでけがはすぐ治ったが、騒ぎのショックなどもあり、今は自分の屋敷で静養している。復帰後は、自分を助けてくれた神子様のために力を尽くしたい、と話しているらしい。
「気になさることは、ないのですが……」
「大けがでしたから、神子様のご処置がなければ、死んでいたかもしれません。恩義を感じて当然でしょう」
シアに言われ、キアラは少し困ってやんわりと微笑んだ。
恩を感じてほしいから助けたのではないし、キアラが力を貸してほしいと思うようなことも、特には起きないと思う。それにゲラルドという主人がいなくなって困っているということだったら、他の主人を探したほうがいいだろう。
キアラの困りごとは、ミオとシアがいてくれたらおおむね解決してしまうようなささやかなものだ。
「ミオ、シア、お加減はいかがですか」
その大切な侍従二人に尋ねて、キアラは小さく首を傾げた。
「神子様のお力で、完治しております」
「元通りどころか、ちょっと調子がいいくらいです」
「そうでしたか……安心、しました」
安堵の笑みをこぼしたものの、キアラはすぐに目を丸くすることになった。
ミオとシアが、キアラの座る長椅子の前にひざまずいている。
「ミオ、シア……? どうか、なさいましたか」
あたふたと長椅子から足を下ろし、キアラはミオとシアの傍に膝をついた。顔を上げた二人の表情がとても真剣で、少し気圧されてしまう。
「……神子様に、謝罪を」
「我々は侍従ではありますが……本来は、神子様の監視役にあたります」
導の灯火は、伝統的に神子を預かる立場を保ってきた。それは、神子を守るための武力を持つことだけでなく、神子が逃げ出さないよう監視する役目でもあったのだ。
「かん、し……?」
「……神子様が、どこにも行かないよう見張ってきたのです」
宮殿の中で、キアラが行っていい場所はとても少ない。自分の部屋と、礼拝堂と、書庫、それとミオとシアが連れていってくれる庭くらい。たまにマナヴィカの離宮には訪問できるし、途中の廊下や階段は歩くけれど、その間もベールをかぶっているから、実際にどういう道順なのか、よく知らない。
「……そうですね、ベールも……神子様のご尊顔を不用意に衆目へさらすのを避ける目的と、同時に、神子様に道を覚えさせないためです」
ずるずると、キアラは床に座り込んだ。
逃げ出そうなどと、思ったことはない。キアラが逃げれば、カガルトゥラードがまたヨラガンと戦をするかもしれないと思えば、そんなことをしてはならなかった。
ただ、純粋に優しいと、よい人たちだと信じていたミオとシアにそんなことを言われたら、どうしていいかわからない。
「……どうして、私に、打ち明けてくださるのですか」
気持ちをどう保ったらいいのかわからなくて、キアラはただ尋ねた。見上げた二対の青い目は、とても、意地悪な人たちには見えない。
「……神子様は、ゲラルド様を助けていらっしゃいました」
「ひどいことをしてきた相手を、自らが傷つくことも厭わず救おうとなさる方に……何を、しているのだろうと」
今までも、キアラは親切で、穏やかで、優しい性格だった。ミオとシアを疑いもしなかったし、何かあれば守ろうともした。自由を奪われてなお、素直で、優しさを失わず、目の前で苦しむ人、困っている人がいれば分け隔てなく助けようとする情け深い人に、これ以上二心を持ちたくない。
もう一度キアラを長椅子に座らせると、ミオとシアはキアラの足元に再びひざまずいた。
「……不躾なお願いであることは、承知しております。改めて、我々を……神子様に、お仕えさせていただけませんか」
戸惑って、キアラは何度か瞬きをした。
「……ミオも、シアも、ずっと、私を助けてきてくださったと、思うのですが……」
キアラの侍従として、今までずっと支えてきてくれたはずだ。今までと何が変わるのか、よくわからない。
「今は、我々は総主様の命に従って動いております」
「今後は、神子様の御心に従いたいのです」
総主の指示は、キアラを逃がさないことと、キアラを王家に取り入らせて嫁がせ、新たな神子を産ませることだ。当初はアルファのゲラルドが最有力だったが、ゲラルドが王族から除外された以上、エドゥアルドとキアラの婚姻が必然となっている。キアラの感情など問題ではなく、導の灯火が、カガルトゥラード国内で強い権力を得るために、そうせねばならない。
どんな言葉を返せばいいかわからず、キアラは静かにうつむいた。
精霊はあまり寄りつかない様子だったけれど、総主もそんなに悪い人ではないと思っていた。少しだけ、欲張りなところもあるかもしれないが、食べ物のない人や病で苦しんでいる人に手を差し伸べる親切な一面も確かにあったのだ。カガルトゥラードで一人ぼっちだったキアラに、ミオやシアを引き合わせてくれたのも総主だった。
けれど、総主は、キアラを通じて自分の力が増せば、それでよいのだという。
「……ミオ、シア」
「はい、神子様」
きゅっと両手を握りしめて、キアラはうつむいていた顔を上げた。
キアラは弱くて、できることも知っていることも少ない。ミオとシアに助けてもらわなければ、宮殿の中も満足に歩けないし、何事も、一人でなんとかできるとは言い難い。
けれど、だからといって、嫌なものを無理強いされるいわれはないはずだ。ヨラガンにいたときはもっといろいろなことができなかったけれど、嫌なものは嫌と言っていいと、ユクガは教えてくれた。
嫌なものは嫌と、声を出さなければ、きっとキアラの気持ちはなかったものにされてしまう。
ただ、一人で総主に向き合うのは恐ろしいから、二人が傍にいてくれたらもちろん嬉しい。
「……私は、何をしたら、よいでしょう」
ミオとシアがきょとんとした顔をするのがわかって、キアラも小さく首を傾げた。言いたいことがうまく伝わらなかったようだ。
「二人が、私のために何かしてくださっても……お返しできることが、思いつかないのです」
ユクガは以前、傍にいるだけでいいと言ってくれた。でもミオやシアはそういうわけではないだろうし、何か、二人が喜んでくれることをしたいと思う。
そう思ったのだが、ミオとシアに苦笑いされてしまった。
「我々の身勝手な思いを受け入れてくださるのに、神子様にあれこれお願いしたりなどいたしません」
「そう、なのですか……?」
「主というものは、どっしりと構えていればいいのですよ」
そういうものなのだろうか。今のキアラでは、ミオとシアにご飯を食べさせることも難しいのだが、それくらいは用意できないといけない気がする。
少し考え込んだキアラに、ミオとシアは顔を見合わせた。
「……もし、気になられるようでしたら……」
何か提案してくれるらしい。
いそいそと居ずまいを正して身を乗り出すキアラに、ミオもシアも、少し照れくさそうな顔をする。
「お褒めくださることがあったら、撫でていただけませんか」
「……撫でる、ですか?」
「はい」
それならキアラにもできることだが、大したことではないのにいいのだろうか。
「以前、神子様が我々を撫でてくださったことがありましたが……」
「……その、二人とも、人に撫でられたのは初めてだったので……嬉しくて……」
その気持ちは、キアラにもわかる。
初めてユクガに撫でてもらったときの、こそばゆいような、ふわふわと空に舞い上がってしまいそうな、浮き立つような心は、ずっと抱きしめておきたい愛しさだった。
懐かしさに自然と口が弧を描いて、ミオとシアにそっと手を伸ばす。
「ありがとうございます、ミオ、シア」
何度か撫でていると、二人もくすぐったそうに顔をほころばせてくれた。
「申し訳ありません、熱かったですか」
「い、いえ、大丈夫です……少し、待ちます……」
口元を押さえてカップを置き、ミオの用意してくれた上掛けを足にかけ直す。
先日の騒ぎ以降、また危険な目に遭ってはならないからと、キアラは塔の部屋から出ないように厳命されていた。お祈りもなし、書庫に行くこともできず、窓から外を眺めたり、部屋の中をぐるぐる歩き回ってみたりくらいしかすることがない。
ミオとシアは事件の後始末に追われて忙しくしていて、今日はようやく、すべてに片がついた結果を話してもらえることになっていた。
「……まず、事の顛末、ですが」
精霊の加護を失い黒髪になったゲラルドは、自室に引きこもり、部屋でもできる公務をかろうじて担ってはいたものの、鬱屈としていた。加護を取り戻す方法などもちろん一般的に知られているものではないし、黒髪の王子など、例え公的な場面でなくとも人前に出られたものではない。
なんとか元通りにする方法を求めたが見つからず、おそらく引き金になった神子の怒りを解けば、精霊の加護が戻るのではないかと考え、人目を忍んでキアラの部屋を訪れ、帰りを待っていたらしい。
そうまでしてキアラの許しを受けに来たが、それでも加護が戻らないとわかり、逆上して怒りの矛先をキアラに向けた、というのが、今回のいきさつだそうだ。
「次に、ゲラルド……様、は、王族から除外、となりました」
王子とはいえ、神子を襲い、あまつさえ殺そうとした、という事実は重く、カガルトゥラード北方の地へ幽閉されることとなった。今後彼に対して殿下という称号が使われることはなく、生涯王族に復帰することもない。
これによって、カガルトゥラードの王位継承者はエドゥアルドに定まった、ということになる。
「ゆうへい、とは、なんですか」
「……ある場所に閉じ込めて、外に出さないことです。他の方との交流も禁じられます」
自分も似たような状態にあるのでは、と思ったが、キアラは口には出さなかった。少なくとも、マナヴィカに手紙を出すことは禁じられていない。
「……ゲラルド様と一緒にいらっしゃった方は、ご無事ですか」
「あの方は、ゲラルド様の従者であったようです」
従者として、本来ならゲラルドの凶行に連座して厳罰を受けるところだったが、罪を犯そうとした主人を止めようとしたこと、体を張って神子をかばったことが評価され、罰金刑だけで済んだそうだ。
キアラのおかげでけがはすぐ治ったが、騒ぎのショックなどもあり、今は自分の屋敷で静養している。復帰後は、自分を助けてくれた神子様のために力を尽くしたい、と話しているらしい。
「気になさることは、ないのですが……」
「大けがでしたから、神子様のご処置がなければ、死んでいたかもしれません。恩義を感じて当然でしょう」
シアに言われ、キアラは少し困ってやんわりと微笑んだ。
恩を感じてほしいから助けたのではないし、キアラが力を貸してほしいと思うようなことも、特には起きないと思う。それにゲラルドという主人がいなくなって困っているということだったら、他の主人を探したほうがいいだろう。
キアラの困りごとは、ミオとシアがいてくれたらおおむね解決してしまうようなささやかなものだ。
「ミオ、シア、お加減はいかがですか」
その大切な侍従二人に尋ねて、キアラは小さく首を傾げた。
「神子様のお力で、完治しております」
「元通りどころか、ちょっと調子がいいくらいです」
「そうでしたか……安心、しました」
安堵の笑みをこぼしたものの、キアラはすぐに目を丸くすることになった。
ミオとシアが、キアラの座る長椅子の前にひざまずいている。
「ミオ、シア……? どうか、なさいましたか」
あたふたと長椅子から足を下ろし、キアラはミオとシアの傍に膝をついた。顔を上げた二人の表情がとても真剣で、少し気圧されてしまう。
「……神子様に、謝罪を」
「我々は侍従ではありますが……本来は、神子様の監視役にあたります」
導の灯火は、伝統的に神子を預かる立場を保ってきた。それは、神子を守るための武力を持つことだけでなく、神子が逃げ出さないよう監視する役目でもあったのだ。
「かん、し……?」
「……神子様が、どこにも行かないよう見張ってきたのです」
宮殿の中で、キアラが行っていい場所はとても少ない。自分の部屋と、礼拝堂と、書庫、それとミオとシアが連れていってくれる庭くらい。たまにマナヴィカの離宮には訪問できるし、途中の廊下や階段は歩くけれど、その間もベールをかぶっているから、実際にどういう道順なのか、よく知らない。
「……そうですね、ベールも……神子様のご尊顔を不用意に衆目へさらすのを避ける目的と、同時に、神子様に道を覚えさせないためです」
ずるずると、キアラは床に座り込んだ。
逃げ出そうなどと、思ったことはない。キアラが逃げれば、カガルトゥラードがまたヨラガンと戦をするかもしれないと思えば、そんなことをしてはならなかった。
ただ、純粋に優しいと、よい人たちだと信じていたミオとシアにそんなことを言われたら、どうしていいかわからない。
「……どうして、私に、打ち明けてくださるのですか」
気持ちをどう保ったらいいのかわからなくて、キアラはただ尋ねた。見上げた二対の青い目は、とても、意地悪な人たちには見えない。
「……神子様は、ゲラルド様を助けていらっしゃいました」
「ひどいことをしてきた相手を、自らが傷つくことも厭わず救おうとなさる方に……何を、しているのだろうと」
今までも、キアラは親切で、穏やかで、優しい性格だった。ミオとシアを疑いもしなかったし、何かあれば守ろうともした。自由を奪われてなお、素直で、優しさを失わず、目の前で苦しむ人、困っている人がいれば分け隔てなく助けようとする情け深い人に、これ以上二心を持ちたくない。
もう一度キアラを長椅子に座らせると、ミオとシアはキアラの足元に再びひざまずいた。
「……不躾なお願いであることは、承知しております。改めて、我々を……神子様に、お仕えさせていただけませんか」
戸惑って、キアラは何度か瞬きをした。
「……ミオも、シアも、ずっと、私を助けてきてくださったと、思うのですが……」
キアラの侍従として、今までずっと支えてきてくれたはずだ。今までと何が変わるのか、よくわからない。
「今は、我々は総主様の命に従って動いております」
「今後は、神子様の御心に従いたいのです」
総主の指示は、キアラを逃がさないことと、キアラを王家に取り入らせて嫁がせ、新たな神子を産ませることだ。当初はアルファのゲラルドが最有力だったが、ゲラルドが王族から除外された以上、エドゥアルドとキアラの婚姻が必然となっている。キアラの感情など問題ではなく、導の灯火が、カガルトゥラード国内で強い権力を得るために、そうせねばならない。
どんな言葉を返せばいいかわからず、キアラは静かにうつむいた。
精霊はあまり寄りつかない様子だったけれど、総主もそんなに悪い人ではないと思っていた。少しだけ、欲張りなところもあるかもしれないが、食べ物のない人や病で苦しんでいる人に手を差し伸べる親切な一面も確かにあったのだ。カガルトゥラードで一人ぼっちだったキアラに、ミオやシアを引き合わせてくれたのも総主だった。
けれど、総主は、キアラを通じて自分の力が増せば、それでよいのだという。
「……ミオ、シア」
「はい、神子様」
きゅっと両手を握りしめて、キアラはうつむいていた顔を上げた。
キアラは弱くて、できることも知っていることも少ない。ミオとシアに助けてもらわなければ、宮殿の中も満足に歩けないし、何事も、一人でなんとかできるとは言い難い。
けれど、だからといって、嫌なものを無理強いされるいわれはないはずだ。ヨラガンにいたときはもっといろいろなことができなかったけれど、嫌なものは嫌と言っていいと、ユクガは教えてくれた。
嫌なものは嫌と、声を出さなければ、きっとキアラの気持ちはなかったものにされてしまう。
ただ、一人で総主に向き合うのは恐ろしいから、二人が傍にいてくれたらもちろん嬉しい。
「……私は、何をしたら、よいでしょう」
ミオとシアがきょとんとした顔をするのがわかって、キアラも小さく首を傾げた。言いたいことがうまく伝わらなかったようだ。
「二人が、私のために何かしてくださっても……お返しできることが、思いつかないのです」
ユクガは以前、傍にいるだけでいいと言ってくれた。でもミオやシアはそういうわけではないだろうし、何か、二人が喜んでくれることをしたいと思う。
そう思ったのだが、ミオとシアに苦笑いされてしまった。
「我々の身勝手な思いを受け入れてくださるのに、神子様にあれこれお願いしたりなどいたしません」
「そう、なのですか……?」
「主というものは、どっしりと構えていればいいのですよ」
そういうものなのだろうか。今のキアラでは、ミオとシアにご飯を食べさせることも難しいのだが、それくらいは用意できないといけない気がする。
少し考え込んだキアラに、ミオとシアは顔を見合わせた。
「……もし、気になられるようでしたら……」
何か提案してくれるらしい。
いそいそと居ずまいを正して身を乗り出すキアラに、ミオもシアも、少し照れくさそうな顔をする。
「お褒めくださることがあったら、撫でていただけませんか」
「……撫でる、ですか?」
「はい」
それならキアラにもできることだが、大したことではないのにいいのだろうか。
「以前、神子様が我々を撫でてくださったことがありましたが……」
「……その、二人とも、人に撫でられたのは初めてだったので……嬉しくて……」
その気持ちは、キアラにもわかる。
初めてユクガに撫でてもらったときの、こそばゆいような、ふわふわと空に舞い上がってしまいそうな、浮き立つような心は、ずっと抱きしめておきたい愛しさだった。
懐かしさに自然と口が弧を描いて、ミオとシアにそっと手を伸ばす。
「ありがとうございます、ミオ、シア」
何度か撫でていると、二人もくすぐったそうに顔をほころばせてくれた。
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