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飼い犬、捨て犬、愛玩されたいわけじゃない
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「……俺も、魔力持ちで」
俺に聞かせるというよりどこか独り言のように、師匠が声を漏らす。もっとよく聞きたくて手を軽く引っ張ったら、少し考えるように首を傾げて、それからベッドに座ってくれた。めちゃくちゃ嬉しくて今すぐハグしたいけど、あんまりやると逃げられるから我慢する。けど手は離さない。
「体質、つーのか……体ん中で出来た魔力を、外に出せねぇらしくて、ひたすら溜まってくんだと」
普通の魔力持ちの人間は、体の中に溜められる魔力量はある程度決まっていて、余剰分は勝手に排出されて自然と調整出来ているそうだ。寝れば回復するし、魔術を使えなくても日々のちょっとしたことで消費されるし、余っても勝手に体の外に出て行くから、普通は自分の魔力のことなんて考えなくていい。
でも師匠の場合は、元々魔力量が多い上に体質のせいで上手く調整出来ないから、限界に近付くと勝手に意識が落ちてしまうそうだ。魔物と戦えば多少は消費出来るけど、魔力が作られる速度の方が遥かに速くて追い付かない。余った魔力をわざわざ生命維持のためだけにひたすら浪費する状態になる、と考えられているけど、とにかく、体が魔力量の調整に専念するから昏々と眠り続けることになる。そして眠っている間は昏睡状態で何が傍にいてもわからないから、安全なところに身を置く必要が出てくる。
その時に師匠を守っているのも、モンドールの人たちだそうだ。
なら、師匠が、俺の前で寝てくれるようになったのって。
ちゃんと、俺、強くなれてる?
考えがまとまる前に師匠の手が俺の手を離れて、目元を撫でられる。
「魔力持ちは、目が金色に近くなるらしいんだが……鋼色は、初めて見た。元は、黒みてぇだけど」
今の俺は、魔術に全力で抵抗したせいで、ほとんど魔力が空っぽらしい。体内の魔力が減ると、元々持っていた目の色が現れるんだそうだ。師匠の瞳は、元々は碧なんだろう。普段金色が滲んでいるのは、魔力のせい。今は全部金色だ。
師匠が怠そうにまたため息を吐いたから、そっと背中を擦った。俺のために無理して起きてくれてるって、自惚れてもいいかな。でも、師匠が苦しそうなのも嫌だ。
「魔力が空になると、しんどい、つーから……寝てるうちにと思ってたのに起きやがるし、こっちが限界来そうで、クソ」
確かに怠いけど、師匠ほど具合は悪くない、と思う。魔力が過剰に溜まるというのは、辛いことみたいだ。今まで師匠みたいになったことがないから、たぶん、俺はそういう体質じゃないんだろう。
どうしたら師匠が楽になるのかわからなくて、でも何かしたくて背中を撫で続ける。
「……師匠、寝てるうちにって、何?」
胡乱げに視線を向けられた。余計なことしやがって、とかそういう時の顔だ。師匠がするなら最終的には何でもいいとしても、寝ている間に何かされるなら、知っておきたいと思うのは普通じゃないだろうか。おかしなことを言ったつもりはないから、答えが返ってくるまでじっと待つ。
今度はごまかすためじゃないため息を漏らして、師匠ががしがしと髪をかき回した。
「目閉じて口開けて大人しくしてろ。ぜってぇ動くな。いいな」
何か不味いものでも食べさせられるのかもしれない。だったら寝てる間じゃない方が良さそうだけど。うっかり喉に詰まったら大変だし。
とにかく師匠に言われたから、大人しく目を閉じて口を開ける。結構な間抜け面になってる気がする。布の擦れる音と、師匠の気配が近付いて、いいにおいがして、柔らか、い?
ふにふにしてて、ちょっと熱いものが口に当たってる。それから湿ってて、弾力があって厚みのあるものが中に入ってきて、俺の舌に触れた。少しだけざらざらしてて、触ってるところが何だか、気持ちいい。太陽を浴びて体があったまってくるような、ぽかぽかした感じだ。もっと欲しい。
触れるところを増やしたくて舌を動かしたら、ぴゃっと逃げていってしまった。何でと思って目を開けたら、師匠の顔が近くて、うわ、どうしよ。
「動くなって……!」
さっきのぽかぽかには逃げられたから、師匠は逃がしたくなくて、体に腕を回す。普段なら突き飛ばされそうだけど、思いのほか抵抗が緩くて、不機嫌というより不安そうに師匠の目が揺れてる。怒るか、何か別のことを言うか悩んでる、そんな感じ。
「……具合悪くなったり、してねぇか」
別のことを言う方が勝ったらしい。首を横に振って、師匠の背中を撫でる。
「ぽかぽかして気持ち良かったから、もっと欲しい」
「…………馬鹿犬……」
ため息を吐いて、今度は何も言い付けずにしてくれた。
師匠の余分な魔力を俺に渡すっていう名目はあったけど、師匠とするキスは、俺の心もぽかぽかにしてくれた。
俺に聞かせるというよりどこか独り言のように、師匠が声を漏らす。もっとよく聞きたくて手を軽く引っ張ったら、少し考えるように首を傾げて、それからベッドに座ってくれた。めちゃくちゃ嬉しくて今すぐハグしたいけど、あんまりやると逃げられるから我慢する。けど手は離さない。
「体質、つーのか……体ん中で出来た魔力を、外に出せねぇらしくて、ひたすら溜まってくんだと」
普通の魔力持ちの人間は、体の中に溜められる魔力量はある程度決まっていて、余剰分は勝手に排出されて自然と調整出来ているそうだ。寝れば回復するし、魔術を使えなくても日々のちょっとしたことで消費されるし、余っても勝手に体の外に出て行くから、普通は自分の魔力のことなんて考えなくていい。
でも師匠の場合は、元々魔力量が多い上に体質のせいで上手く調整出来ないから、限界に近付くと勝手に意識が落ちてしまうそうだ。魔物と戦えば多少は消費出来るけど、魔力が作られる速度の方が遥かに速くて追い付かない。余った魔力をわざわざ生命維持のためだけにひたすら浪費する状態になる、と考えられているけど、とにかく、体が魔力量の調整に専念するから昏々と眠り続けることになる。そして眠っている間は昏睡状態で何が傍にいてもわからないから、安全なところに身を置く必要が出てくる。
その時に師匠を守っているのも、モンドールの人たちだそうだ。
なら、師匠が、俺の前で寝てくれるようになったのって。
ちゃんと、俺、強くなれてる?
考えがまとまる前に師匠の手が俺の手を離れて、目元を撫でられる。
「魔力持ちは、目が金色に近くなるらしいんだが……鋼色は、初めて見た。元は、黒みてぇだけど」
今の俺は、魔術に全力で抵抗したせいで、ほとんど魔力が空っぽらしい。体内の魔力が減ると、元々持っていた目の色が現れるんだそうだ。師匠の瞳は、元々は碧なんだろう。普段金色が滲んでいるのは、魔力のせい。今は全部金色だ。
師匠が怠そうにまたため息を吐いたから、そっと背中を擦った。俺のために無理して起きてくれてるって、自惚れてもいいかな。でも、師匠が苦しそうなのも嫌だ。
「魔力が空になると、しんどい、つーから……寝てるうちにと思ってたのに起きやがるし、こっちが限界来そうで、クソ」
確かに怠いけど、師匠ほど具合は悪くない、と思う。魔力が過剰に溜まるというのは、辛いことみたいだ。今まで師匠みたいになったことがないから、たぶん、俺はそういう体質じゃないんだろう。
どうしたら師匠が楽になるのかわからなくて、でも何かしたくて背中を撫で続ける。
「……師匠、寝てるうちにって、何?」
胡乱げに視線を向けられた。余計なことしやがって、とかそういう時の顔だ。師匠がするなら最終的には何でもいいとしても、寝ている間に何かされるなら、知っておきたいと思うのは普通じゃないだろうか。おかしなことを言ったつもりはないから、答えが返ってくるまでじっと待つ。
今度はごまかすためじゃないため息を漏らして、師匠ががしがしと髪をかき回した。
「目閉じて口開けて大人しくしてろ。ぜってぇ動くな。いいな」
何か不味いものでも食べさせられるのかもしれない。だったら寝てる間じゃない方が良さそうだけど。うっかり喉に詰まったら大変だし。
とにかく師匠に言われたから、大人しく目を閉じて口を開ける。結構な間抜け面になってる気がする。布の擦れる音と、師匠の気配が近付いて、いいにおいがして、柔らか、い?
ふにふにしてて、ちょっと熱いものが口に当たってる。それから湿ってて、弾力があって厚みのあるものが中に入ってきて、俺の舌に触れた。少しだけざらざらしてて、触ってるところが何だか、気持ちいい。太陽を浴びて体があったまってくるような、ぽかぽかした感じだ。もっと欲しい。
触れるところを増やしたくて舌を動かしたら、ぴゃっと逃げていってしまった。何でと思って目を開けたら、師匠の顔が近くて、うわ、どうしよ。
「動くなって……!」
さっきのぽかぽかには逃げられたから、師匠は逃がしたくなくて、体に腕を回す。普段なら突き飛ばされそうだけど、思いのほか抵抗が緩くて、不機嫌というより不安そうに師匠の目が揺れてる。怒るか、何か別のことを言うか悩んでる、そんな感じ。
「……具合悪くなったり、してねぇか」
別のことを言う方が勝ったらしい。首を横に振って、師匠の背中を撫でる。
「ぽかぽかして気持ち良かったから、もっと欲しい」
「…………馬鹿犬……」
ため息を吐いて、今度は何も言い付けずにしてくれた。
師匠の余分な魔力を俺に渡すっていう名目はあったけど、師匠とするキスは、俺の心もぽかぽかにしてくれた。
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