Rely on

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1-3

 人が廊下を歩く音、衣類の擦れる音、賑やかなテレビの音。
 有り触れた生活音が鼓膜を抜ける。

 これは走馬灯、あるいは臨死体験だ。この音を聞くのはもう四年ぶりになる。四年前の日々が戻ってきたと言う事は、やはり自分は死んでしまったのだ。

 記憶と理想が混同しているのか、聞き慣れた生活音の中に、不慣れな、だけど心地好い香りや感触がある。

 もしかすると、既に天国にいるのかもしれない。
 想像していたよりも高級感が溢れ、現実味を帯びているが、居心地は悪くは無い。

 だが、相変わらず体は不自由だ。
 金縛りに遭っているのか、四肢は硬直している。死亡時の状況はこんなところにも反映されてしまうのか、と呆気にとられる。

 気付かぬ内に鮮明になっていた意識に釣られ、瞼の向こうの白みも大分と強くなってきた。
 朝、目を覚ますように、重い瞼を持ち上げる。


 ――――部屋だ。ホテルの一室を連想させるような、立派な部屋。
 その光景に、次第に“自分の死”への確信が薄れてゆく。

 ここは、きっと死後の世界じゃない。

 咄嗟に声を出そうとするが、口を塞ぐあるものに塞き止められる。
 もう一度、状況を思い出す。

 夜道を歩いていたら、隣にワゴン車が停まって、引き摺り込まれて、目口を塞がれ、四肢を縛られ、薬を飲まされ……。

 急に恐ろしくなり、足元を見る。案の定、足首がロープで拘束されている。
 目視することは出来ないが、後ろ手の感覚から、手首も同じように縛られている事が分かった。

 悪夢はまだ、続いていた。

 本能のままに身を捩っていると、足音が近付いてきた。

「あ、やっと起きた」

 低い声色が、真新しい記憶を蘇らせる。
 車内で昇良と呼ばれていたその男は、朔斗の目の前にしゃがみ込んだ。

 小奇麗な顔立ちだが、気だるそうな右目と、左目を覆い隠している眼帯が、何だか不気味だ。
 彼は手に持っていた朔斗の運転免許証を凝視する。

「へぇー、今日誕生日なんだ」

 “誕生日”という言葉が、朔斗の意識をさらに現実へと引き戻す。
 運転免許証を机上に置き、昇良は口角を吊り上げた。

「良かったな、特別な日になって」

 何が、何が特別だ。

 彼を睨み付ける目が、抵抗出来ないもどかしさを物語っていた。
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