Rely on

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10-2

 居間を恐る恐る覗くと、すぐに昇良の吐息が耳に入ってきた。浅く早い息遣いだ。ソファー越しに見える背中は丸まり、痙攣している。

 一瞬、状況が分からなかった。だが、すぐに何が起きているのかを理解する。

 そっと体を翻し、ざまあみろ、と小さく呟く。けれども、気分が晴れない。むしろ見殺しにしているという罪悪感が膨れ上がり、苛立ちすら覚える。

「……あぁあもう!!」

 躁急し、勢いで昇良の元に戻る。
 彼の足元にはコップが倒れていて、透明な水が床に広がっていた。

「……あの、大丈夫ですか……?」

 反応がない。
 不図付けっぱなしのテレビを見遣る。ちょうど、最近話題になっているらしい児童虐待のニュースが終わったところだった。

 ――――まさか。

 一先ずテレビを消し、一考する。
 呼吸の乱れに加え、胸を押さえていることから動悸も起こしていると予測する。

 どうしたものかと悩んでいると、机上に薬袋やくたいがあることに気付いた。そこには『メンタルクリニック』の文字が記されていた。
 だんだんと、欠けたパズルにピースがはまってゆく。

「薬、これ……ですか?」

 微小な声は、今の昇良には届かないようだ。額には冷や汗が滲み、座っているのも辛そうだ。恐らく、彼は朔斗が来たことにも気付いていない。

 放っておくのも癪だと思い、必死に過去の記憶を漁る。

「……昇良、さん」

 気を紛らわすために名前を呼んでみても、彼の発作は治まらない。耳鳴りが、邪魔をしているのかもしれない。

 今からでも見て見ぬフリをしようか。

 そんな迷いの中に、亡き妹の顔が映る。
 朔斗は半ば自棄になると、昇良の肩口を掴んだ。

「昇良、……昇良……!」

 ハッと息を詰め、昇良が汗と涙で濡れそぼった顔をあげる。

「さ、さつ……き……?」

 その苦しそうな顔を見て、好い気味だ、とは思えなかった。

 彼の隣にそっと腰を下ろす。下半身の裂傷が疼くが、何とか着席した。
 昇良はぐったりと凭れ掛かり、朔斗の肩に顔を埋めた。少し落ち着いたように見えるが、完全に治まるにはまだまだ時間が掛かりそうだ。

「……ゆっくり息吐いて、そう」

 彼の息遣いが、美叶と重なった。

 こんな姿を見せられては、嫌でも同情してしまう。憎悪を忘れてはいけない。でも今この時だけは、彼を受け止めるという選択肢しか無いように思えた。
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