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persona
12-1
ベッドにて、暇潰しにと渡されたミステリー小説を読む。正直のところ全く興味が湧かない。他にすることがないので仕方なく文章を目で追っても、内容が入ってこない。
左隣で、無骨な指がキーボードを叩く。朔斗にとっては難解な作業を行っているようだが、何故か小説よりもそちらが気になってしまう。
「……仕事?」
「ん? あぁ」
いつものように味気無い返事をして、昇良がPCに向き直った。
「本、つまんない?」
「……面白いよ」
「つまんなそうじゃん。暇なら居間でテレビでも見てりゃ良いのに」
相変わらず寝室に居座る朔斗を気遣ってか、昇良がそんなことを呟く。彼の中で、自身がどんな存在であるのか、どんどん分からなくなっていく。
もうセックスもしていないのに、自分を此処に置いておく意味はあるのだろうか。
訊ねようと口を開きかけた時、着信音が鳴った。
「あ? ……誰だ?」
どうやら、未登録の番号から掛かってきたようだ。昇良はPCをナイトテーブルに置き、通話ボタンを押した。
「はい」
≪おい、昇良か?≫
昇良の表情が、一瞬で凍りつく。若干の怒気を含んだ男性の声に、朔斗も我知らずと身構えた。
「……なんで、番号……」
≪何でじゃねえんだよコソコソしやがって! 何で隠してんだ、今何処に居やがる!!≫
隣にいる朔斗にもはっきりと聞こえるほどのけたたましい怒号が、突如機関銃のように放たれる。
≪黙ってねえで何とか言えこの親不孝が!≫
相手は、間違いなく父親だ。『親不孝』という言葉と、そして何よりも、昇良の愕然とした表情が、それを証明している。
彼の父は舌打ちをし、さらに捲し立てた。
≪親に挨拶も出来ねえのか!! 相変わらずクズだなテメェは!! てめぇみたいな子供持った親の身にもなれクソが、今度しらばっくれたらぶっ殺してやるからな! おい! 聞いてんのか!!! 昇良!!!≫
昇良が咄嗟に口に手を当てる。
まずい、と半ば強引に彼の手からスマートフォンを奪い取り、躊躇いなく電源を切る。
蹲った昇良は、耐え切れずに嘔吐した。吐瀉物まみれの手は、ガクガクと震えていた。
「ころ、殺される……、殺される……」
喘鳴に近い息遣いが早くなっていく中、彼はふらりと立ち上がる。誰がどう見ても歩ける状態では無いのに、振り向くことなく壁を伝い始めた。
「……そこ、あとで掃除する、から……ソファーにでも……い、居てくれ……」
不覚にも憐憫の情が湧き、朔斗もベッドを抜ける。しかし、足が一歩も動かなかった。
追い駆けたとしても、何も出来ない。こんな自分が、あんな人間に、手を差し伸べるべきでもない。
男の怒号と、怯えた昇良の横顔を思い出す。ふたつは過去と、リンクする。
――――共感とは、これほどに人を苦しめる感情なのか。
他人と関わりを持ち、そこで初めて味わう感覚に、心が貪られてゆく。
左隣で、無骨な指がキーボードを叩く。朔斗にとっては難解な作業を行っているようだが、何故か小説よりもそちらが気になってしまう。
「……仕事?」
「ん? あぁ」
いつものように味気無い返事をして、昇良がPCに向き直った。
「本、つまんない?」
「……面白いよ」
「つまんなそうじゃん。暇なら居間でテレビでも見てりゃ良いのに」
相変わらず寝室に居座る朔斗を気遣ってか、昇良がそんなことを呟く。彼の中で、自身がどんな存在であるのか、どんどん分からなくなっていく。
もうセックスもしていないのに、自分を此処に置いておく意味はあるのだろうか。
訊ねようと口を開きかけた時、着信音が鳴った。
「あ? ……誰だ?」
どうやら、未登録の番号から掛かってきたようだ。昇良はPCをナイトテーブルに置き、通話ボタンを押した。
「はい」
≪おい、昇良か?≫
昇良の表情が、一瞬で凍りつく。若干の怒気を含んだ男性の声に、朔斗も我知らずと身構えた。
「……なんで、番号……」
≪何でじゃねえんだよコソコソしやがって! 何で隠してんだ、今何処に居やがる!!≫
隣にいる朔斗にもはっきりと聞こえるほどのけたたましい怒号が、突如機関銃のように放たれる。
≪黙ってねえで何とか言えこの親不孝が!≫
相手は、間違いなく父親だ。『親不孝』という言葉と、そして何よりも、昇良の愕然とした表情が、それを証明している。
彼の父は舌打ちをし、さらに捲し立てた。
≪親に挨拶も出来ねえのか!! 相変わらずクズだなテメェは!! てめぇみたいな子供持った親の身にもなれクソが、今度しらばっくれたらぶっ殺してやるからな! おい! 聞いてんのか!!! 昇良!!!≫
昇良が咄嗟に口に手を当てる。
まずい、と半ば強引に彼の手からスマートフォンを奪い取り、躊躇いなく電源を切る。
蹲った昇良は、耐え切れずに嘔吐した。吐瀉物まみれの手は、ガクガクと震えていた。
「ころ、殺される……、殺される……」
喘鳴に近い息遣いが早くなっていく中、彼はふらりと立ち上がる。誰がどう見ても歩ける状態では無いのに、振り向くことなく壁を伝い始めた。
「……そこ、あとで掃除する、から……ソファーにでも……い、居てくれ……」
不覚にも憐憫の情が湧き、朔斗もベッドを抜ける。しかし、足が一歩も動かなかった。
追い駆けたとしても、何も出来ない。こんな自分が、あんな人間に、手を差し伸べるべきでもない。
男の怒号と、怯えた昇良の横顔を思い出す。ふたつは過去と、リンクする。
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