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第13話 さぁ、塵も残さず焼き尽くそうか

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【ロイ・プロキオン・サウザンバルドが始めて兄を見た時の衝動は、言葉に出来ない程の尊敬と感動であった。
 自分と全く同じ血を分けた、双子の兄。
 生まれてまもなく下された神託によって、兄は父王の庭の奥深くに隠された。
 長い年月をたった一人で過ごした片割れ。
 早くに亡くなり肖像画でしか知らぬ母親の面影を抱いた、とても美しい人なのだと、今日まで知らなかった。
 光の中、微笑む兄は一点の汚れすらない、ヒト以外の何かに見えて、ロイ・プロキオンは、その笑みに心を奪われた。
 鳥籠から開放され、自由を得た兄のために開かれた宴。
 美しい音楽と、煌びやかな装飾。
 柔らかな光が溢れるホールで、王と談笑する兄を遠巻きに、じっと熱の籠った視線を向ける。
 一挙一動が気になった。
 ふと、兄の視線がロイ・プロキオンに向けられた。
 息を飲む。
 銀色の光を抱いた瞳の中に、己の姿が映っていることを知り、ロイ・プロキオンは羞恥に震えた。
 母の美しさに心を奪われた王も、こんな気持ちだったのだろうかと、ふとそんな事を思った。
 愛情と執着と羞恥と。
 それらの狭間で心が揺れた。
 目を逸らす事が出来なかった。
 そして、視線の先で、柔らかそうな唇が緩やかに開いて、心地よい声音が流れた。

『孤独な王に捧げる人形・番外編:双子の黒い鳥より一部抜粋』】

 はい、というわけでオッス!俺、一葉inナジィカ!
 突然だけど、兄貴の威厳って大事だよね?
 タイミング良く本の内容を思い出して、弟のロイがどんだけ兄のナジィカに憧れていたのかを思い出しました。
 ナジィカってばロイの前じゃあ無駄に強がって、お兄ちゃんぶってたんだよね。
 他の兄弟はヘドクソだったけどロイは別です。
 双子の弟のロイだけは溺愛しました。
 だって本編だと乳母のメアリーを失った後、味方になってくれたのは友人一名と弟ひとりだけだったんだもん。
 そりゃあー大事にするよね。
 王さまとはスレ違い運命を突き進んで心許せる家族ではなく『王』と『数多い王子の一人』という、なんとも冷たい関係になっていたから、ロイが唯一の家族と言っても過言ではなかった。

 それにさ、キラッキラした目で見つめられたら、弟の期待とか理想とか裏切れないじゃん。
 ナジィカは物凄くいいお兄ちゃんであろうとした。
 友人の赤鷹に『陛下は王弟殿の前でカッコつけすぎですよねー。たったひとりの身内の前でくらい肩の力を抜いてみたらどーだ?』とからかわれるくらいだった。
 余談だがそれに対するナジィカの返しが『必要ない。私が王でも兄でもなくなる場所は、お前の側だけだと決めているからな』だったので、脳みそ腐らせている俺の彼女が悶え死んだらしい。
 
 だが、敢えて言おう。
 王さまと赤鷹はプラトニックな関係であったと。

『それ故に萌える!』と彼女が街中で叫んだ記憶は、永久的に捨て去りたいです。

 閑話休題。

 さてさて、死亡エンドを全力的に回避したい俺としましてはもちろん、兄弟との関係も修復したいんですよね。
 と、いっても、ロイ以外の兄弟は幼いナジィカを呪われっ子呼ばわりするような【いじめっ子体質】を始め【ロリコン】に【近親相姦】に【死体愛好家】に【ドS】と【ドM】に【病んでるヤツ】に【目玉が好きで好きで堪らないヤツ】だったり、更には『そうだよ!もっと、もっと!僕を取り合って殺し合えよー!あーははははは』なんて頭おかしい台詞を叫んじゃう変態までいるんです。
 俺の兄弟がことごとく終わっているお知らせデス。

 おとーさん……王さまはマトモですよね?
 側近のアルバートさんと、禁断の恋とか発展させてないですよね?
 
 怖い想像はさておき、多少ブラコンを拗らせてはいても、ロイだけはマトモであってください。
 そして俺の味方になってくれると嬉しいです。
 そんなわけで、俺はロイに尊敬されるに相応しい兄なるために、全力で取り繕うことにしました。

 小精霊たちに地面に降ろされて、ロイの下からなんとか這い出した俺が始めに行ったのはー。


「炎王。僕の敵を消し炭にしてくれるよね?」

 守護精霊への命令。
 自分でも驚くくらい、可愛く響いた声音でした。
 坂谷くん、これ知ってる。
 【あざとい】ってやつだコレ。
 だが、誰になんと言われようと、命令を撤回する気はありません。

『ああ、勿論だ。跡形もなくこの世から消し去ってくれよう』

 にこやかに笑って命じた俺に、至極真面目な顔をした炎王が答え、左手に炎を宿す。
 俺はすっと片手を持ち上げて、目標を指し示す。

「殺れ」

 短くいい放った命令を受けて、炎王の手から放たれた炎が地面を焼いた。

 そりゃあもう念入りに、跡形もなく、ヤツとその周りの地面が黒こげになるほど、燃やして燃やして燃やし尽くしました。
 因みにナジィカが幽閉されている塔は、王さまの庭の奥にあります。
 庭です。
 小さな森のようでもあります。
 火事にならなくてホント良かったと、後で冷静になって反省いましました。
 しかし、ヤツがその場に存在することを、許すことは出来なかった。

『あの……尊きお方の主さま。もう十分なのでは?』

 おずおずと話しかけてきた時の精霊をキッと睨んで黙らせた。
 ヤツとの戦いに臆して逃げたお前に、とやかく言う権利はない。

「まだだ炎王。僕の目の前から完全に消し去るんだ……っ」

 俺は炎王の炎に焼かれ、文字通り消し炭になる憎らしいヤツを、瞬きもせずに睨み続けた。
 ええ、そうです。
 吐物ヤツです。
 俺は兄の威厳を保つために、俺のお口から飛び出した吐物の隠蔽を徹底的に行いました。

 目が覚めた弟に「怪我はないか、ロイ」と、余裕ぶっこいて微笑んでみたとしても、寝転がる地面にモザイクがかかった物体があるなんて色々と台無しですよねー?
 ロイくんドン引き必至ですヨ。
 弟には勿論、兵士さんたちにも……ってゆーか誰にもこんな無様な姿を見られてたまるものか。
 メアリーの時に一度ぶちかましてるが、あれはまぁ一回目だし焼死体の衝撃スゴいしで仕方ねぇー感があるけど、次はない。
 将来の異名が黒鷹王ではなくゲロ鷹王になったらどーしてくれる。
 いや、王さまになる気はさらさらねぇーですけど。

「さて、もう良いだろう。炎王、地の精霊に頼んで、燃やした地面をどーにかしといてね。あと匂いも」

『消し炭にしただけでは足りぬか?』

「証拠隠滅は完璧に終わらせて。あれ、もしかして出来ないとか?無理ならいいけど」

『ふん……地の精霊よ、力を貸せ』

 炎王の呼び掛けに答えて、地面から小人のような精霊がひょっこりと顔を出した。

「お。かわいいー。君が地の精霊?よろしくね」

 ひらひらと手を振ると地面から出てきた精霊は、嬉しそうに手を振り返してくれた。

『……』

 守護精霊の視線がぶっ刺さるくらい鋭いけど、何故だか本能が見るなと警鐘を鳴らした気がしたので、全力でシカトしました。



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