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第96話
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悲鳴は合図だった。
鮮やかとしか言いようがない、破壊の開始を告げるサイレンだった。
青髪が、おかしな方向に指が曲がってしまった片手を押さえて、喚いた。
怒りに狂った青髪が、靴底を打ち下ろすよも早く、下から振り上がった脚が、ソイツのカラダを地面へと叩きつけていた。
一瞬の間が空いた後、バキッと、先ほどよりもカタい音が響く。
悲鳴をBGMに、ゆらりと彼が立ち上がった。
青髪が、自分の左足を押さえて、地面を転がっていた。
誰もが呆然と、目の前で起きた事を理解しようと試み……俺も、状況を理解しようとして……けれど、頭が追いつかない。
見上げる先で、彼の上体がゆらりと、前に傾き。
倒れるっ!!
そう思った次の瞬間には、力強く地を蹴った彼の身体はすぐ近くにあった。
踏み込みからの、中段回し蹴り。
どうやら、俺を押さえつけていた男の頭部に、蹴りが見事に決まったらしい。
茶髪男はぶっ飛ばされて、ふっと背中の重みが消え失せた。
「調子に乗るなテメェ!!」
別の男が繰り出した拳を、彼は片手で受け止め、素早く手首を掴むと、もう片方の掌で伸びきった腕の肘の辺りに突きを一撃。
骨が破壊される音を訊いたのは、三回目だ。
ほんの僅か、1、2分の間に、三人をぶちのめした。
呆気ないほど、簡単に。
血に濡れた髪に、目が隠れていて、表情を伺い知る事は出来ない。
ひぃっと悲鳴を飲み込みながら、取り巻きたちは路地から駆け出し。
「遅れてきたヒーロー!イぇい!!!」
西河原の跳び蹴りと、椎名の拳を受けて、次々とノックアウトされた。
西河原たちを心配した俺に久賀が「大丈夫だろ、あいつ等は野獣だから」と言った意味がようやく分かった。
レベルが違う。
ざりっと砂を踏み鳴らし、久賀が倒れている青髪に向かっていく。
右手の指を何本か砕かれて、足も、あり得ない方向に曲がってるんだけど、まだ、蹴り足りないか。久賀さん!
気持ちはわかるけど、落ち着け。
「待って、久賀!!」
背中に投げかけたけど、止まらない。
止めなきゃ、と、腰を浮かしかけた俺の予想を裏切って、久賀は青髪の前を横切った。
(あ……良かった。俺の杞憂だ)
久賀の姿を目で追いかけながら、ほっと胸を撫で下ろした。
そう。
そうだよな。
久賀はコイツ等みたいに常識に欠けて(いや、久賀も十分も欠けているけども……)根性の腐ったクソヤローとか、脳みそ腐乱したキチガイヤローとは違……。
ヒュンッ。と、空気を切り裂く素早い蹴りが繰り出されて、潰れたカエルのような声が聞こえた。
ガシガシと容赦なく靴底を踏み下ろす久賀の背中を、思わずガン見してしまった。
無様な悲鳴と命乞いを繰り返すのは、久賀が蹴り倒した茶髪男だ。
ちょっと久賀さん!!蹴り潰す相手を間違ってますぅ!!……じゃなくって!!お前はクソヤローでもキチガイヤローでもないだろっ!!
慌てて立ち上がり、久賀の背中に抱きついた。
「久賀!!ヤり過ぎヤり過ぎ!!死んじゃうから!!!」
制止の言葉なんて聞こえていない相手を「ダメだって!!」と力任せに茶髪男から引き離した。
「あいつ……殺す」
「ここころ?ダメだって!そんなのっ!殺しちゃダメだ!!お前はそんなこと出来るヤツじゃねぇだろ!」
地を這う程の、冷気を含んだ一言に内心ビビりながら、ただ必死に、久賀に抱きついて叫んだ。
久賀が傷つけられんのは勿論だけど、コイツが誰かを傷つけている場面なんて、俺は見たくなんて無いよ。
お前の手は誰かを殴るモノじゃなくて、美波ちゃんの頭を撫でるための手だよ。
足は、誰かを踏みつけるモノじゃなくて、フィールドを走って輝くためで、唇は、誰かを呪う言葉を紡ぐ為ではなく、緩く笑みを乗っけるためにあるんだ。
そっちの方がずっとお前らしいよ。
「お前はあいつ等とは違う!!ちゃんと善悪の区別がつく、優しい男だろ!!!」
ちょっぴり、いや、かなり支離滅裂だ。
だけど、すがりついて、がむしゃらに叫ぶくらいしか出来なかった。
暫く、ぎゅっと抱きついていると、久賀のカラダから力が抜けた事が分かった。
よろめいて壁に手をついた彼に「……はなせ」と短く命令された。
「こ、殺さない?」
不安になりながら確認する俺に「ん」と短く返事が返ってくる。
「殴るのもダメ、だぞ?」
「ん」
「勿論、蹴るのもダメだかんな」
「ん」
背中にはりついているから表情なんて分からないが、壁に寄りかかる様子から察するに、茶髪男を痛めつける気力もつきた……と、思う。
ビビりながら、そろりと戒めをとくと、久賀は壁にもたれ掛かりながらずるずると地面に座り込んだ。
鮮やかとしか言いようがない、破壊の開始を告げるサイレンだった。
青髪が、おかしな方向に指が曲がってしまった片手を押さえて、喚いた。
怒りに狂った青髪が、靴底を打ち下ろすよも早く、下から振り上がった脚が、ソイツのカラダを地面へと叩きつけていた。
一瞬の間が空いた後、バキッと、先ほどよりもカタい音が響く。
悲鳴をBGMに、ゆらりと彼が立ち上がった。
青髪が、自分の左足を押さえて、地面を転がっていた。
誰もが呆然と、目の前で起きた事を理解しようと試み……俺も、状況を理解しようとして……けれど、頭が追いつかない。
見上げる先で、彼の上体がゆらりと、前に傾き。
倒れるっ!!
そう思った次の瞬間には、力強く地を蹴った彼の身体はすぐ近くにあった。
踏み込みからの、中段回し蹴り。
どうやら、俺を押さえつけていた男の頭部に、蹴りが見事に決まったらしい。
茶髪男はぶっ飛ばされて、ふっと背中の重みが消え失せた。
「調子に乗るなテメェ!!」
別の男が繰り出した拳を、彼は片手で受け止め、素早く手首を掴むと、もう片方の掌で伸びきった腕の肘の辺りに突きを一撃。
骨が破壊される音を訊いたのは、三回目だ。
ほんの僅か、1、2分の間に、三人をぶちのめした。
呆気ないほど、簡単に。
血に濡れた髪に、目が隠れていて、表情を伺い知る事は出来ない。
ひぃっと悲鳴を飲み込みながら、取り巻きたちは路地から駆け出し。
「遅れてきたヒーロー!イぇい!!!」
西河原の跳び蹴りと、椎名の拳を受けて、次々とノックアウトされた。
西河原たちを心配した俺に久賀が「大丈夫だろ、あいつ等は野獣だから」と言った意味がようやく分かった。
レベルが違う。
ざりっと砂を踏み鳴らし、久賀が倒れている青髪に向かっていく。
右手の指を何本か砕かれて、足も、あり得ない方向に曲がってるんだけど、まだ、蹴り足りないか。久賀さん!
気持ちはわかるけど、落ち着け。
「待って、久賀!!」
背中に投げかけたけど、止まらない。
止めなきゃ、と、腰を浮かしかけた俺の予想を裏切って、久賀は青髪の前を横切った。
(あ……良かった。俺の杞憂だ)
久賀の姿を目で追いかけながら、ほっと胸を撫で下ろした。
そう。
そうだよな。
久賀はコイツ等みたいに常識に欠けて(いや、久賀も十分も欠けているけども……)根性の腐ったクソヤローとか、脳みそ腐乱したキチガイヤローとは違……。
ヒュンッ。と、空気を切り裂く素早い蹴りが繰り出されて、潰れたカエルのような声が聞こえた。
ガシガシと容赦なく靴底を踏み下ろす久賀の背中を、思わずガン見してしまった。
無様な悲鳴と命乞いを繰り返すのは、久賀が蹴り倒した茶髪男だ。
ちょっと久賀さん!!蹴り潰す相手を間違ってますぅ!!……じゃなくって!!お前はクソヤローでもキチガイヤローでもないだろっ!!
慌てて立ち上がり、久賀の背中に抱きついた。
「久賀!!ヤり過ぎヤり過ぎ!!死んじゃうから!!!」
制止の言葉なんて聞こえていない相手を「ダメだって!!」と力任せに茶髪男から引き離した。
「あいつ……殺す」
「ここころ?ダメだって!そんなのっ!殺しちゃダメだ!!お前はそんなこと出来るヤツじゃねぇだろ!」
地を這う程の、冷気を含んだ一言に内心ビビりながら、ただ必死に、久賀に抱きついて叫んだ。
久賀が傷つけられんのは勿論だけど、コイツが誰かを傷つけている場面なんて、俺は見たくなんて無いよ。
お前の手は誰かを殴るモノじゃなくて、美波ちゃんの頭を撫でるための手だよ。
足は、誰かを踏みつけるモノじゃなくて、フィールドを走って輝くためで、唇は、誰かを呪う言葉を紡ぐ為ではなく、緩く笑みを乗っけるためにあるんだ。
そっちの方がずっとお前らしいよ。
「お前はあいつ等とは違う!!ちゃんと善悪の区別がつく、優しい男だろ!!!」
ちょっぴり、いや、かなり支離滅裂だ。
だけど、すがりついて、がむしゃらに叫ぶくらいしか出来なかった。
暫く、ぎゅっと抱きついていると、久賀のカラダから力が抜けた事が分かった。
よろめいて壁に手をついた彼に「……はなせ」と短く命令された。
「こ、殺さない?」
不安になりながら確認する俺に「ん」と短く返事が返ってくる。
「殴るのもダメ、だぞ?」
「ん」
「勿論、蹴るのもダメだかんな」
「ん」
背中にはりついているから表情なんて分からないが、壁に寄りかかる様子から察するに、茶髪男を痛めつける気力もつきた……と、思う。
ビビりながら、そろりと戒めをとくと、久賀は壁にもたれ掛かりながらずるずると地面に座り込んだ。
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