隣人 (BL、完結)

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番外編

可愛い子 1

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※女性同士がいちゃつくシーンがあります。匂わせ程度ですが、苦手な方はご注意下さい。



『可愛い』と人に評されるのは、いつも郁美だった。
お互い一人っ子同士。姉弟と言うより姉妹のように育ってきた、可愛い、大切な従弟。
郁美と比べて私は『綺麗』と言われることが多かった。もしかしたら郁美が隣にいたからかしれない。異性なのに、郁美は私よりも『可愛い』。
郁美が私よりも小さい子供だから?
年下だけど大して年は変わらない。
郁美は柔和で可愛い性格だから?
それはあるかもしれない。『綺麗』と言われるから美しくあろうとした。美しい人間にふさわしい中身になろうと努力した。
それは見る人によっては生意気な少女に見えたかもしれない。必死に取り繕った鎧だったなんて、誰も気づいてくれなかった。
「郁美が女の子だったら良かったのに」
何度か美幸は彼に言った。美幸だけじゃない。親戚も共通の知り合いも。きっと、悪気はなかった。
その度に郁美は首を傾げてニコニコ笑っていた。郁美の父もニコニコと笑っていた。郁美の母だけが難しい顔で発言した相手を見ていた。
美幸の祖父も父親も、郁美をとても可愛がった。会うたびに奪い合って、どちらかが郁美を膝に乗せて離さなかった。
美幸の母は美幸のお下がりの服を着せて郁美を着せ替え人形にしていた。嫌がらず、むしろ嬉しそうにお下がりを着る郁美を、美幸の母は益々可愛がった。いつしか母のクローゼットには郁美が着ることを前提とした、甘くて、フリルをふんだんに使った服が入るようになった。美幸には、郁美ほど可愛らしい洋服は似合わなかった。郁美に比べると少しきつい顔立ちが余計に強調されてしまう。
いっそ同性なら諦めがついた。美幸とは真逆の可愛い顔と可愛い体と可愛い中身。美幸が欲しくて手に入らなかったもの。手に入らないもの。
郁美は男性だ。なのに幼い頃から愛らしい雰囲気の中に、淫靡な何かを隠し持っていた。首を傾げる仕草や人を見返す時の視線。彼は媚びるような、時に蔑むような態度で無意識に相手を翻弄する。翻弄された人間は気づかずに郁美の虜になってしまう。
『郁美は、誰が一番好き?』
『いく、みゆきちゃんすき』
『おじちゃんは?』
『おじちゃん、すき、やーよ。や!』
『…生意気だなぁ、郁美は!』
美幸の父の問いに、郁美が答える。美幸を好きという年相応の顔と美幸の父を嫌と言うときの挑発するかのような笑み。
相手の欲を、郁美は無意識に掻き立てる。
生まれ持ったそれは美幸には備わっていない郁美の魅力で、時に郁美自身も傷つける。可愛がられるときもあれば、欲情した相手に傷つけられることもある。郁美が見知らぬ人間につけ回されたり手を出されそうになったことがあると、最近になって知った。
美幸は小学校から女子しかいない学校に通った。俗に言うお嬢様学校だ。成金の両親は一人娘の美幸を蝶よ花よと育てた。
女子だけの空間は美幸にとってとても居心地が良かった。女性にしては背が高く、美しくあろうとした外見も性格も相まって『凛とした素敵な女性』と周りは持て囃してくれた。可愛らしい女の子も、少しの男らしさを兼ね備えた少女も、みんな美幸の虜になった。お付き合いを願う少女が多くいた。実際何人もの少女とお付き合いをして、体と肌を重ねたことも数え切れない。美幸は女学校の中で王子様であり女王様だった。
お付き合いをした少女達の中には、郁美に似た少女もいた。儚げでどこかいやらしい雰囲気を醸し出す彼女は郁美より劣った。郁美に比べると、彼女のその雰囲気は所詮まがい物だ。無垢で、なのに時々無意識に恐ろしいほど淫靡な匂いを放つ郁美には、どの少女も敵わなかった。
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