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【五分休憩-一】
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「あんたって、ほんと美味しそうに給食食べるわね」
いっただっきまーす。
そう言ってぼたんがカレーを口に運ぼうとしたその時だ。
アキがぼそっと呟いた。
いつものアキの突っかかりには慣れているけど、今のは何か引っかかった。
ぼたんがこの世でいちばん好きなポークカレーを口に入れる一秒前にスプーンを止めた。
「……あによー?」
「……べつに」
ふいと、目を逸らして校庭を眺めた。
んー?
……なんか、機嫌悪いわね。
ぼたんはお姉ちゃんだ。
人形四姉妹の。
あたまはそこまで良くないけれど。
四姉妹のことは誰より知っている。
一つ下の妹は一々五月蝿い子だけど、今日のアキはなんか、気になった。
「あんたって、ほんと楽しそうに遊ぶわね」
けーどろすーるひーと、この指とーまれっ。
そう言って校庭でぼたんが姉妹たちを集めたその時だ。
アキがぶすっと呟いた。
ぼたんは、また何かひっかかった。
いちばん大好きなケイドロで、妹達が集まる前に指をさげた。
「……なに?」
「……べつにー」
つんとそっぽを向いて、教室まで歩き始めた。
……んんー?
……何が言いたいん……?
ぼたんはお姉ちゃんだ。
人形四姉妹の。
(以下略)
「……アキお姉ちゃんが……おかしい……?」
アキがトイレに行っている間に。
「そうなんだよ、なんか……あん……あんにゅ……なんだっけ」
教室でのひそひそ話。
「けけ。アンニュイ、だロ」
サクラがけたけた笑う。
「そう! それ! アンニュイだ。なんか元気ないんだよ」
「……わかった。わたしがアキお姉ちゃんの心を読んで」
つばきが、胸に手を当て、目をつぶる。
「あー! だめだめ! それはさ、なんか……違うと思うんだよ」
「……むぐむぐ」
ぼたんが慌ててつばきの口を塞ぐ。
「くけけケ。知りたいノか知りたくナイのカ、どっチなんだヨ」
サクラが煽る。
ぼたんは胸に手を当てた。
「あんた達もそうだけどさ。……アキは、大事な妹の一人なんだよ。言いたいことがあるなら、聞いてあげなきゃ……」
「どーしたん?」
アキは体育館の裏で、ひとり膝を抱えていた。
校舎にも校庭にも居ないから、探すのに苦労した。
ぼたんは、なるべく明るく話しかけた。
「なんでもない」
「んなわけないっしょ。私にはわかるよ?」
「今日、何日?」
「え?」
急な問いかけに、ぼたんは固まる。
「えと……人形学級は……ずっと九月一日、だけど?」
この妹は、何を言ってるんだろう?
「……月子先生、次で死ぬの、何回目?」
えと……
「十四……回かな、確か。……それがどしたの?」
「……もういい」
アキは、つん、とまたどこかへ歩いていってしまった。
ん?
九月一日に……十四回……
そうか!
「はいはーい! みなさん、おはようございます」
十四回目の朝の会が始まった。
「いつもどおり」自己紹介が済んで構内案内も済んだ。
そして「いつもどおり」社会科準備室で月子先生を殺した。
その「いつもの授業」が終わった給食の席で。
「……はい、皆様……いただきます」
「いただきまーす!」
給食係のつばきが小さな声で号令を掛けると、ぼたんが元気よく返事をした。
「の、前に!」
ぼたんが席を立って皆の注目を集める。
ぱんっ!
ぱんっ!
サクラとひすい先生が、クラッカーを鳴らした。
視聴覚室のロッカーで、以前サクラが見つけていたものだ。
「ハッピーバースデー! アキ!」
「え……」
「気付かなくて、ごめん! 九月十五日は、アキがひすいちゃんに編んで貰った日だよね!」
「ふふふ、先生は覚えていましたよ。だから、ほら」
白いお皿に載せた、丸いショートケーキを教卓の裏から出してきた。
「……ケーキくらいなら……家庭科室で作れる……レシピは……テレパシーで共有して、ひすい先生とサクラお姉ちゃんと三人で作ったよ……」
アキは目をきらきらさせている。
「みんな……」
涙を拭って、頭を下げた。
「本当にありがとう。嬉しいわ、心の底から」
「今日で十四歳だね!」
「……小学五年生なのにね……」
「けけけ、それハ言わなイお約束ッテやつダ」
「アキさん。本当におめでとう」
そして、理科室から持ってきた白いロウソクを刺して、同じく理科室のライターで火をつけた。
「ハッピーバース……」
「ああっ、ちょっとタンマ!」
みんなが歌い出した瞬間、ぼたんが叫んだ。
そして、窓際まで走っていって、カーテンを閉めた。
サクラも、電気のスイッチを消した。
「やっぱ大事っしょ! 雰囲気!」
ハッピーバースデートゥーユー。
ハッピーバースデートゥーユー。
ハッピーバースデーディア アキー。
ハッピーバースデートゥーユー。
ぱちぱちぱちぱち。
優しい歌声と、甘い香りが、世界一優しい学級を満たした。
「次」は、十五周目だ。
これが、ぼたんがみんなと食べる最後の食事になった。
いっただっきまーす。
そう言ってぼたんがカレーを口に運ぼうとしたその時だ。
アキがぼそっと呟いた。
いつものアキの突っかかりには慣れているけど、今のは何か引っかかった。
ぼたんがこの世でいちばん好きなポークカレーを口に入れる一秒前にスプーンを止めた。
「……あによー?」
「……べつに」
ふいと、目を逸らして校庭を眺めた。
んー?
……なんか、機嫌悪いわね。
ぼたんはお姉ちゃんだ。
人形四姉妹の。
あたまはそこまで良くないけれど。
四姉妹のことは誰より知っている。
一つ下の妹は一々五月蝿い子だけど、今日のアキはなんか、気になった。
「あんたって、ほんと楽しそうに遊ぶわね」
けーどろすーるひーと、この指とーまれっ。
そう言って校庭でぼたんが姉妹たちを集めたその時だ。
アキがぶすっと呟いた。
ぼたんは、また何かひっかかった。
いちばん大好きなケイドロで、妹達が集まる前に指をさげた。
「……なに?」
「……べつにー」
つんとそっぽを向いて、教室まで歩き始めた。
……んんー?
……何が言いたいん……?
ぼたんはお姉ちゃんだ。
人形四姉妹の。
(以下略)
「……アキお姉ちゃんが……おかしい……?」
アキがトイレに行っている間に。
「そうなんだよ、なんか……あん……あんにゅ……なんだっけ」
教室でのひそひそ話。
「けけ。アンニュイ、だロ」
サクラがけたけた笑う。
「そう! それ! アンニュイだ。なんか元気ないんだよ」
「……わかった。わたしがアキお姉ちゃんの心を読んで」
つばきが、胸に手を当て、目をつぶる。
「あー! だめだめ! それはさ、なんか……違うと思うんだよ」
「……むぐむぐ」
ぼたんが慌ててつばきの口を塞ぐ。
「くけけケ。知りたいノか知りたくナイのカ、どっチなんだヨ」
サクラが煽る。
ぼたんは胸に手を当てた。
「あんた達もそうだけどさ。……アキは、大事な妹の一人なんだよ。言いたいことがあるなら、聞いてあげなきゃ……」
「どーしたん?」
アキは体育館の裏で、ひとり膝を抱えていた。
校舎にも校庭にも居ないから、探すのに苦労した。
ぼたんは、なるべく明るく話しかけた。
「なんでもない」
「んなわけないっしょ。私にはわかるよ?」
「今日、何日?」
「え?」
急な問いかけに、ぼたんは固まる。
「えと……人形学級は……ずっと九月一日、だけど?」
この妹は、何を言ってるんだろう?
「……月子先生、次で死ぬの、何回目?」
えと……
「十四……回かな、確か。……それがどしたの?」
「……もういい」
アキは、つん、とまたどこかへ歩いていってしまった。
ん?
九月一日に……十四回……
そうか!
「はいはーい! みなさん、おはようございます」
十四回目の朝の会が始まった。
「いつもどおり」自己紹介が済んで構内案内も済んだ。
そして「いつもどおり」社会科準備室で月子先生を殺した。
その「いつもの授業」が終わった給食の席で。
「……はい、皆様……いただきます」
「いただきまーす!」
給食係のつばきが小さな声で号令を掛けると、ぼたんが元気よく返事をした。
「の、前に!」
ぼたんが席を立って皆の注目を集める。
ぱんっ!
ぱんっ!
サクラとひすい先生が、クラッカーを鳴らした。
視聴覚室のロッカーで、以前サクラが見つけていたものだ。
「ハッピーバースデー! アキ!」
「え……」
「気付かなくて、ごめん! 九月十五日は、アキがひすいちゃんに編んで貰った日だよね!」
「ふふふ、先生は覚えていましたよ。だから、ほら」
白いお皿に載せた、丸いショートケーキを教卓の裏から出してきた。
「……ケーキくらいなら……家庭科室で作れる……レシピは……テレパシーで共有して、ひすい先生とサクラお姉ちゃんと三人で作ったよ……」
アキは目をきらきらさせている。
「みんな……」
涙を拭って、頭を下げた。
「本当にありがとう。嬉しいわ、心の底から」
「今日で十四歳だね!」
「……小学五年生なのにね……」
「けけけ、それハ言わなイお約束ッテやつダ」
「アキさん。本当におめでとう」
そして、理科室から持ってきた白いロウソクを刺して、同じく理科室のライターで火をつけた。
「ハッピーバース……」
「ああっ、ちょっとタンマ!」
みんなが歌い出した瞬間、ぼたんが叫んだ。
そして、窓際まで走っていって、カーテンを閉めた。
サクラも、電気のスイッチを消した。
「やっぱ大事っしょ! 雰囲気!」
ハッピーバースデートゥーユー。
ハッピーバースデートゥーユー。
ハッピーバースデーディア アキー。
ハッピーバースデートゥーユー。
ぱちぱちぱちぱち。
優しい歌声と、甘い香りが、世界一優しい学級を満たした。
「次」は、十五周目だ。
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