神と従者

彩茸

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第一部

影響

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―――その後も鬼を交代しながらかくれんぼを続ける。どうやら御鈴も俺が何処に
居るのか分かるらしく、始まって三十秒経たないうちに見つけられた時は驚いた。
あっという間に時は経ち、昼食を食べてソファで昼寝を始めた御鈴と令を横目に
リビングで寛ぐ。御鈴を探した際に胸の辺りが温かくなったことを思い出し、何と
なく胸に手を当てた。

「何でここだけ・・・」

 そう呟いて、思い出す。御鈴と契約を交わしたとき、御鈴は俺の胸に手を押し当て
 小さな声で何かを呟いていた。見た目では何も変わっていないが、もしかしたら
 神の力というものがここに注ぎ込まれているのかもしれない。
 有り得ないだろと笑いたくなるが、神やら妖やら異能力やらと俺の知らない世界を
 知った今、もしかしたらなんて考えてしまう。
 ふと、御鈴の言葉を思い出した。少しとはいえ神の力を持っているんだから、俺も
 神通力が使えるかもしれない。
 ・・・そんなの、実践してみたくなるじゃないか。

「えーっと、何かないかな・・・」

 御鈴は痛みを司る神だ。もし使えるとしたら、俺も痛みを消すことができるの
 だろう。ただ、今は御鈴に痛みを消してもらって何処も痛くない。さて、他に
 何かできるだろうか。
 御鈴は他に何をやっていたっけな。宙に浮いたり、長い棒を出したり・・・。
 あ、棒なら出せるんじゃないか?
 俺は座ったまま、片手を上に掲げる。昨日使った自分の武器・・・棒術に使われる
 ようなあの棒を、心に思い浮かべてみる。
 すると、胸の辺りが温かくなった。何となくいける気がして、俺は口を開く。
 そして、思い浮かんだ言葉を言った。

柏木かしわぎ

 その瞬間、俺の手元に長い棒が出現する。間違いない、あの棒だ。
 棒を掴むと、ずっしりと重さを感じる。練習で毎日のように振り回している慣れ
 親しんだ重さに、思わず声を上げた。

「おお、すっげえ・・・」

 これなら、御鈴が襲われた時にわざわざ取りに行かなくても戦えるな。
 そんなことを考えていると、突然眠気が襲ってきた。
 おかしいな、今さっきまで眠くなかったのに。この棒出した所為か?

「ふああ・・・」

 大きく欠伸をして、その場で横になる。目を閉じると、あっという間に眠りに
 落ちた。



―――目が覚めた時にはもう夜で。起き上がると、心配そうな顔で俺を見る御鈴と
令と目が合った。

「蒼汰、大丈夫か?無理はするなよ・・・?」

「棒持ってにゃにしてたんだ?知らない間に襲われてたのか・・・?」

 そう言いながら駆け寄ってきた御鈴と令に、大丈夫と答える。棒は壁に立て掛け
 られており、御鈴が移動させたのかと考えていた。

「心配かけてごめんな。自力で棒出せねえかなと思ってさ、試してみたら眠くなっ
 ちゃって」

 俺がそう言うと、御鈴が驚いたように言った。

「蒼汰お主、神通力を使ったのか?!」

「え、ああ・・・多分?」

 俺の言葉に、御鈴は凄いぞ!と飛び跳ねる。

「妾の従者は才能の塊じゃの!!」

 そう言った御鈴に頭を撫でられ何だか恥ずかしくなっていると、令が俺の肩に
 乗って言った。

「神通力を使ったら眠くなるって、にゃんか大変だな」

 確かに、あの棒を出したところで眠くなってしまっては守るどころじゃなくなる。
 そもそも何で眠くなるんだと思っていると、御鈴が令に言った。

「神通力も妖術と同じで、力を使うからの。令も妖力の使い過ぎで疲れたりは
 せぬか?」

「確かに、妖術いっぱい使ったら疲れるな。まあ、妖術なんて普段使うことない
 けど」

 令の言葉に、そういうことじゃと御鈴は頷く。そして、俺を見ると言った。

「蒼汰にも分かりやすく言うと、神通力や妖力は消耗すると体にも影響があるん
 じゃ。人間も運動をすると疲れるじゃろう?そんな感じじゃ」

「体力みたいなもんか?」

「まあそう捉えても良いな。妖や神にも体力はあるから、厳密には違うじゃろうが」

 俺の問いに御鈴はそう答えると、俺の胸に手を当てる。

「必要ならば、妾の力をもう少し分け与えても良いが・・・与えすぎるのも問題が
 あっての」

 そう言った御鈴に、首を傾げる。

「御鈴の力が少なくなるとか?」

 俺の言葉に、御鈴は首を横に振って言った。

「これは直感的なものなんじゃが・・・。神の力を与えすぎると、蒼汰は
 ことになる」

「へ?」

 思わず変な声が出る。御鈴は真剣な表情で、言葉を続けた。

「そもそも人間は、神の力を持つように作られていないからの。人間の体が神の力に
 耐えられなくなれば、良くて人間でないナニカへの変貌、悪くて死が待っておる」

 おそらく、妖でも同じようなことになる。そう御鈴は言うと、俺の胸から手を
 離して不安げな声で聞いた。

「妾には、力をどこまで与えても大丈夫なのか分からぬ。それでも・・・それでも
 蒼汰は、力を欲するか?」

 俺は少し考える。
 人間を辞めるなんて想像もできないし、辞めたいなんて思う訳がない。だけど、
 今のままでも困る。契約もそうだが、俺は自分の意思で御鈴を守りたいと思って
 いる。そのためには、せめて武器を出しても支障がない程度の力は欲しい。
 ・・・なら、やってみるしかないだろう。

「御鈴の加減で構わない、俺に力を分けてくれないか?」

 俺はそう言って、御鈴の手を取る。御鈴は不安げな顔のまま、分かったと頷いた。

「・・・令、少し離れておれ」

 御鈴の言葉に、令は俺の肩から降りて少し離れた所に座る。
 俺は少し緊張しつつ体勢を変えて、御鈴の前にちゃんと座る。御鈴は立ったまま、
 俺の胸に手を当てて小さな声で言った。

『我が力を従者に与えん。契りをもちて、この力を我がために振るいたまえ』

 その瞬間、胸の辺りが温かくなる。それと同時に、御鈴と契約をした時に感じた
 不思議な感覚を覚える。
 御鈴は俺の顔を見ると、胸から手を離して言った。

「大丈夫か?蒼汰」

「ああ、大丈夫」

 そう言って頷くと、御鈴は安心したような顔で良かった・・・と呟いて抱き着いて
 くる。
 ありがとなと頭を撫でると、御鈴はコクリと頷いて言った。

「あのな、蒼汰。妾は、蒼汰と一緒にいる時間が好きなんじゃ。・・・だから、
 死んでくれるなよ」

 御鈴は俺を抱きしめる腕に力を籠める。相変わらずの腕力に若干苦しさを感じ
 ながらも、俺は少し格好つけて言ってみた。

「仰せのままに」



―――その後何事もなく、俺達は夕食を食べたり風呂に入ったりといつも通りの
生活を送る。
いつも通りの時間に寝て・・・次の日の早朝。目覚まし時計の音で目が覚め、時計を
見る。今日こそは学校に行けるな、なんて思いながら着替えを済ませ日課となった
朝のランニングへ向かう。
家に戻り、着替えてから御鈴を起こしに隣の部屋へ。
元は両親の部屋だが、今は居ないから別に良いだろうと御鈴に宛がっていた。
扉をノックし、朝だぞーと言いながら開ける。すると、いつもはぐっすり寝ている
はずの御鈴が起きてこちらを見ていた。

「おはよう、蒼汰」

 ニッコリと笑う御鈴に何かあったのかなんて思いつつ、おはようと返す。

「俺が起こす前に起きてるなんて珍しいな」

「暑くて目が覚めたんじゃ」

 俺の言葉に、御鈴はそう言いながら布団を捲る。そこには令が丸くなって寝て
 おり、いつぞやの動物番組で見た主人の布団で寝る猫を思い出した。

「うにゃ・・・」

 布団を捲られたことで目が覚めたのか、令が眠そうな声を上げながら目を開ける。
 そして伸びをすると、大きな欠伸を一つして言った。

「今日は早起きだな」

「違えよ、昨日が遅すぎたんだよ」

 俺がそう言うと、令はそうなのか?と言いながら俺の肩に乗る。
 寝起きなのによく跳ぶなあ・・・なんて思いながら、俺は言った。

「今日の朝食何が良い?」

「和食が食べたい!」

 御鈴が手を挙げて元気よく言う。

「ささみ以外も食べたい」

 令がそう言って頭を頬に摺り寄せてくる。

「和食・・・インスタントで良いなら、味噌汁があるな。流石に出汁取ってる時間は
 無いから、御鈴が良いならそれにしよう。令は・・・今日キャットフード買って
 帰るから、それまで我慢してくれ。野菜は付ける」

 それで良いぞ!と御鈴が嬉しそうに言う反面、令は不服そうに言った。

「キャットフードって、ささみよりも美味いイメージないんだが」

「栄養価的にはそっちの方が良いんだよ、猫飼ったことないけど」

 そう言いつつ、台所へ向かう。後ろを付いてくる御鈴が、そうじゃそうじゃーと
 興味無さげに言っていた。
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