神と従者

彩茸

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第一部

かくれんぼ

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―――御鈴に腕の痛みも消してもらい、俺はベッドに寝転がってのんびりと本を
読む。
山霧姉弟に借りた本によると、妖にはランクが存在するらしい。強い順から大妖怪、
中妖怪、小妖怪と分類されていて、中妖怪が一番多いんだそうだ。
そういえば令は何妖怪に分類されるんだろうと思っていると、タイミング良く令を
肩に乗せた御鈴が部屋に入ってきた。

「あのな、蒼汰・・・」

 御鈴が遠慮がちに声を掛けてくる。何だ?と起き上がりながら聞くと、御鈴は
 ベッドに腰掛けて言った。

「妾達が居たらゆっくりできないだろうと思うて離れていたが・・・限界じゃ。
 近くに居るのに離れていると思うと、何だか寂しくなってしもうた」

「だから構え、蒼汰」

 令がそう言って御鈴の肩から降り、俺の肩に乗る。頭を撫でてやると、令は嬉し
 そうにゴロゴロと喉を鳴らした。

「・・・なあ令、一つ聞いて良いか?」

「にゃんだ?」

 首を傾げた令に、俺は言った。

「令は、何妖怪に分類されてるんだ?」

 令は不思議そうな顔をしながら、俺の肩から降りる。そして、足の上で丸くなり
 ながら言った。

「ボク・・・というか猫又全般は、中妖怪だな。いきなりそんなこと聞いてどう
 したんだ?」

「いや、さっき本で読んだから何となく気になってさ」

「人間は三つに分けてるが、その中でも上下はあるんだぞ。人間が決めた指標なん
 て、大まか過ぎて妖の中では一部の指標にしかなってない」

 中妖怪が大妖怪を倒したなんて話も聞いたことあるし、結局は相性だ。
 そう令が言うと、御鈴も頷いて言った。

「妾の信者も殆どが中妖怪じゃが、妖気は中妖怪でも小妖怪並に弱かったり、逆に
 大妖怪に迫るくらい強かったりと様々な者がおるぞ」

「妖気って確か、妖の力・・・妖力だっけ?それの気配みたいなもんだよな。妖気の
 濃さで妖は分類を見分けているって、本に書いてあった」

 俺がそう言うと、御鈴は頷く。

「妖は妖力を使って妖術を繰り出す。まあ中には妖術を使えぬ特殊な者もいるらしい
 が・・・妾は会ったことがないの」

「まあ蒼汰は祓い屋じゃないんだし、あんまり気にすることじゃないけどな」

 そう言って令は欠伸をする。祓い屋には関係あるのかと思っていると、御鈴も
 うんうんと頷いて言った。

「祓い屋は倒した妖のランクで報酬が変わったりするらしいが、蒼汰には関係のない
 ことじゃ」

「そうなのか」

 御鈴はベッドの上に上がると、後ろから俺に抱き着く。

「そんなことより妾は暇なんじゃ、遊んでくれ!」

「良いよ、何がしたい?一応仮病使ってるから、家の中でな」

 俺の言葉に御鈴は少し悩んだ後、笑顔で言った。

「じゃあ、かくれんぼをしよう!」



―――御鈴と令が隠れることとなり、俺は部屋で一分ほど待つ。そこそこ広いこの
家は、ある意味かくれんぼに最適かもしれない。
そろそろかと立ち上がり、部屋の扉を開ける。

「さて・・・と、何処から探すかな」

 そう呟きながら、廊下を歩く。隣の部屋に居れば隠れる時に扉の音が聞こえる
 だろうし、ここは違うかなんて考えながら、リビングの方へ向かう。

「御鈴ー?令ー?」

 呼んでみるが、返事はない。そりゃそうかとカーテンの裏を見る。うん、居ない。
 リビングを探してみるが、令はおろか御鈴の姿も見当たらなかった。次は何処を
 探そうかと、再び廊下に出る。
 トイレは・・・居ない。洗面所・・・も、居ないな。

「あれ?」

 ふと、風呂場の扉が少しだけ開いていることに気付く。もしやと思い扉を開ける
 と、空の浴槽の中に令が居た。

「お、令だ」

「にゃっ、見つかったか!」

 悔しそうな声でそう言った令は、御鈴様は?と言いながら俺の肩に乗る。
 まだ見つけてないと答えると、令は意外そうな顔をした。

「にゃんだお前、従者のくせに主の居場所分かんないのかよ」

「従者とか関係あるものなのか?」

 そう言って首を傾げると、令は呆れたように言った。

「にゃんでボクが知ってるのに蒼汰は知らないんだ。聞いた話だと、従者は主の
 居場所が分かるから、呼び出しがあったらすぐにでも駆け付けられるらしいぞ」

「何そのGPSみたいな機能」

「じーぴーえす?・・・まあよく分からないが、蒼汰もやろうと思えばできるんじゃ
 ないか?」

 令の言葉にそういうものなのか?と思いつつ、何となくやってみようという気持ち
 になる。
 でもどうやって?と思っていると、ふと胸の辺りが温かいことに気付いた。
 直感的に、胸に手を当て心の中で御鈴を呼ぶ。
 突如感じた気配にハッとして廊下に出ると、令が首を傾げた。

「蒼汰?」

 俺は令をちらりと見ると、多分こっちだと言って歩き出す。
 廊下を歩き、リビングへ。さっきは誰も居ないと思っていたが、今は何となく
 分かる。

「見つけた」

 そう言いながら、ソファの下を見る。すると、驚いた顔の御鈴と目が合った。

「ここならバレないと思っておったのに・・・」

「俺、従者だから」

 御鈴の言葉にそう言うと、御鈴は嬉しそうな顔をしてソファの下から這い出て
 くる。

「アドバイスしたのはボクだけどな」

 令がそう言って撫でろと言いたげに頬に頭を擦り寄せてきたので、ありがとなと
 頭を撫でる。すると、御鈴が頬を膨らませて言った。

「自力じゃないのか?・・・ズルじゃ」

 でも殆ど自力だったぞと令が慌ててフォローを入れてくれる。御鈴は疑うような
 眼でそうなのか?と俺を見た。

「令に、従者なら主の位置が分かるって話を聞いてさ。やってみたら何かできたん
 だよ」

「なるほど、それなら納得じゃ」

 御鈴はそう言うと、俺に抱き着く。
 御鈴の頭を優しく撫でると、嬉しそうな顔で笑った。
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