神と従者

彩茸

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第一部

半妖

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―――前略。俺達は今、大量の怪異に囲まれている。
駅員室に神は居た。だけど今にも消えそうで、それなのに存在感が凄くて。
神の力によるものか、その神の気配がひどく歪なもののように感じられた。
神曰く、信者が殆どいなくなって消えかけているから都市伝説として生き長らえ
ようとしているそうで。引き込んだ俺達から神の力を感じ、邪魔をされたくない
から消してしまうつもりらしい。
・・・この話を引き出した真悟さんの話術も凄いのだが、どうしてこうなった。

「戦わなきゃ駄目かな・・・」

 真悟さんが少し嫌そうな顔をして言う。

「戦わなきゃ死ぬんじゃないですかね・・・」

 そう答えると、真悟さんはだよね・・・と溜息を吐いた。
 怪異達は言葉を発することなく、ジリジリと距離を詰めてくる。その向こうで、
 神が不気味な笑みを浮かべていた。

「蒼汰くん、先に言っておくね」

 真悟さんが申し訳なさそうな顔をして俺を見る。何ですか?と首を傾げると、
 真悟さんは言った。

「俺さ、体術は苦手だし、神通力の才能もないんだ。神って妖と比べて妖術じゃ
 圧倒的にダメージが入りにくくてね。神を叩くのは、神の力を使える君に頼る
 ことになると思う」

「俺、神と戦ったことないんですけど・・・」

 俺がそう言うと、君ならできるさと真悟さんは言う。
 そうこうしてるうちに襲い掛かってきた怪異を咄嗟に出した柏木で防ぐと、
 真悟さんが小さく何かを呟いた。
 その瞬間、目の前に居た怪異達が次々と青い炎に飲まれていく。

「何デ、何デ、何デ・・・?!」

 神が驚いた声を上げる。
 一体何が起きているんだと真悟さんを見ると、真悟さんは薄く笑って言った。

「怪異なら、妖術で十分だ」

 炎に包まれながらも、何体かの怪異は襲い掛かってくる。
 何で動けるんだよなんて思いながら、柏木が燃えないように気を付けつつ攻撃を
 避け、怪異を地面に叩きつける。
 攻撃を避けながらふと真悟さんの方を見ると、人間には不可能な高さに跳躍した
 彼は怪異の顔面を踏みつけて回っていた。

「えっ・・・」

 思わず声を上げる。真悟さんは犬耳をぴょこっと動かすと、俺の方を見る。

「身体能力どうなってるんですか・・・」

 そう言った俺に、真悟さんは笑って言った。

「言っただろ?俺は半妖だって」



―――襲い掛かってくる怪異を避けていると、死角から攻撃を受けた。避け切れず、
脇腹を抉られる。
予想の何倍も殺傷能力の高かったその攻撃に、困惑しつつ地面に倒れ込んだ。

「蒼汰くん!!」

 真悟さんが焦った顔で怪異をなぎ倒し駆け寄ってくる。そして俺の怪我を見ると、
 小さく呟いた。

「致し方なし、か・・・」

「真悟、さん・・・?」

 襲ってきた痛みで朦朧とする頭で、真悟さんを見る。
 すると真悟さんは、怪異から俺を守るように炎で壁を作った。
 俺の脇腹に手を当てた真悟さんの姿が変わる。・・・茶色かった目は獣っぽい
 黄色の目へと変わり、焦げ茶色の尻尾が生えた。
 毛の色は違えどまるで狗神の生き写しのようなその姿に、驚きで一瞬痛みを
 忘れる。

「へ・・・??」

 あまりの驚きで変な声が出る。真悟さんは悲しそうな顔で笑うと、口を開いた。

『神に伝わる癒しの力をもちて、この者に癒しを与へん。清らなる水のごとく、
 この者の負いし傷を元の清げなる有様に戻したまえ』

 真悟さんの手が淡い光を発し、脇腹からドクドクと流れていた血が止まる。

「・・・ごめんね、俺にはこれが限界なんだ」

 真悟さんはそう言うと、フラリと立ち上がる。消えない痛みに俺は息を吸い込み、
 心の中で御鈴に謝りながら呟いた。

『消えよ』

 痛みが消え、立ち上がる。
 真悟さんは俺を見て驚いた顔をすると、苦笑いを浮かべて言った。

「凄いね、詠唱してもこの程度の俺とは大違いだ。蒼汰くん、もしかしたら神様
 向いてるんじゃない?」

「大袈裟ですよ・・・」

 俺がそう言うと、その様子を見ていた神が真悟さんに言った。

「アア、狗神ノ子供ダッタノカ。ダッタカラ気付カナカッタヨ」

 真悟さんはその言葉にピクリと犬耳を動かし、神をゆっくりと見ながら言った。

「・・・親父の事、知ってるんだな。俺の事も」

「知ッテイル。狗神ハ我ガ信者ヲ殺シタ、忘レル訳ガナイ。子供ノ噂モ聞イテイル」

 アイツ、強カッタ。何処かわざとらしく言った神に、真悟さんは溜息を吐く。

「お前、比べるんだな」

 怒気を含んだような声で言った真悟さんをちらりと見て、息を呑む。真悟さんの
 黄色い目が、青い炎に照らされてギラギラと光っていた。

「真悟さん、その姿って・・・」

 ピリついた空気に耐えられず、俺は真悟さんに言う。
 すると真悟さんは俺から顔を逸らし、小さく呟いた。

「・・・俺の姿だよ。この姿は、親父に似ているからあまり好きじゃ
 ないんだ」

 良い思い出がなくてね。そう言った真悟さんの声は、とても悲しそうだった。

「殺ス。殺シテ、狗神ニ首ヲ届ケテヤル」

 不気味な笑みを浮かべた神に、冷汗が背中を伝う。怖い、だがそれ以上に・・・。
 真悟さんの炎の壁を越えて、怪異達が襲い掛かってくる。それを先程とは比べ物に
 ならない火力で一瞬のうちに灰へと変えた真悟さんは、小さく舌打ちして言った。

「変化に妖力使ってない分、この姿の方が威力は上がるんだよ。出来損ないを
 舐めるな」

 恐ろしいほど冷たい目で怪異と神を見る真悟さんを見て、彼が味方側で良かったと
 心底思う。・・・神以上に、こっちの方が怖い。
 俺も柏木で怪異を薙ぎ払うが、真悟さんの火力が凄過ぎて怪異どころではない。
 もう俺要らないんじゃないかな・・・なんて考えながら、襲い掛かってくる怪異
 だけを処理するのだった。
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