神と従者

彩茸

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第一部

神殺し

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―――怪異を全て倒しきり、神と対峙する。流石の神もここまで圧倒されるとは
思っていなかったようで、顔から笑みは消え、焦りを隠しているかのような表情を
浮かべていた。

「人間ト出来損ナイ如キニ、何デ・・・!」

 そう言った神が、襲い掛かってくる。狙いは真悟さん、厄介な方を先に片付けたい
 らしい。
 真悟さんは近接戦闘に持ち込まれたくないのか、神の攻撃を避けて一定の距離を
 保とうとする。俺が援護しようと神に向かって駆け出すと、神が気味の悪い笑みを
 浮かべた。

「止まって!!」

 真悟さんが叫ぶ。驚き足を止めると、目の前を何かが掠めていった。

「え、は?何・・・??」

 何故だか分からないが、恐ろしいほどの悪寒が走る。直感的に、今のに当たって
 いたら死んでいたかもしれないと思った。
 何だったんだ今の。そう思いながら、神を見る。神は気味の悪い笑みを浮かべた
 まま、真悟さんに攻撃を繰り出しながら言った。

「知ッテイルカ?ハ、生キ物ヲ殺セルンダ。当タラナクテ残念ダヨ」

 つまり、今のに当たっていたら俺は恐怖で死んでいたと?・・・神ってのは何でも
 ありかよ。
 どうしたものかと真悟さんを見る。真悟さんは神通力を使った後から若干疲れた
 様子を見せていたが、今はもう息が上がっているようだった。
 苦しそうな顔の真悟さんが、突然立ち止まる。諦めたようにも見えるその状況に、
 俺は飛び出した。

「真悟さん!」

 名前を呼びながら、真悟さんに襲い掛かる神に向かって全力で駆ける。
 真悟さんは俺をちらりと見ると、神に手を向け小さく言った。

「・・・後は任せるよ」

 その瞬間、神を青い炎が包み込む。
 怪異と違い灰どころか骨にすらならない神に、本当に妖術は効きにくいんだな
 と思う。
 しかし怪異を燃やした時よりも明らかに高い火力に神は動けなくなっている
 ようで、熱イ熱イと悲鳴を上げていた。
 神に向かって、柏木を振り上げる。普通に殴っても倒せない、そんな気がした。

「オ前、殺ス、殺ス・・・!!」

 神が燃える手を俺に伸ばしてくる。
 胸の辺りが温かくなるのを感じ、俺は柏木を振り下ろしながら思い付いた言葉を
 言ってみた。

『痛みよ、死を与えたまえ』

 柏木が神に当たる。すると、神が突然叫び出した。

「痛イ、痛イ、痛イ!!アアアアアアアッ!!!!」

 その場に倒れ、柏木が当たった場所を押さえながらのた打ち回る神。燃える体で
 悶え苦しむその様子は、見ているこっちまで辛くなってくるようなものだった。
 神通力を二度も使ったからか、俺は既にフラフラだった。明らかに疲れている
 様子の真悟さんに支えてもらいながら、俺は神に言った。

「ショック死って言葉知ってるか?・・・強い痛みを感じても、生き物って死ぬ
 らしいぜ」

 神は断末魔を上げ、動かなくなる。それと同時に駅舎が崩れ始め、俺と真悟さんは
 慌てて外に出た。
 外に出ると、そこは先程のホームではなかった。先程とは打って変わって明るい
 景色に目を細めながら、キョロキョロと駅名が書かれている所を探す。
 ホームの柱に駅名の書かれたプレートが貼り付けてあり、その駅名を見て声を
 上げた。

「知ってる所?」

 真悟さんが聞いてくる。

「俺の最寄り駅の、次の駅ですね。無人駅なんですよここ」

 そう答えると、そうなんだと真悟さんは安堵の表情を浮かべる。
 戻ってこれたんだと実感した途端、意識を失いそうになった。どうやら、既に体は
 限界らしい。

「大丈夫?」

 真悟さんが心配そうな顔で聞いてくる。頷き、真悟さんを見る。
 首を傾げた真悟さんに、俺は言った。

「あの・・・その姿だと、電車乗れませんよね。変化って・・・」

「あー・・・ごめんね、変化できるだけの妖力残ってなくてさ。何処かで少し休ん
 でも良いかな?」

 好きじゃないとか言ったくせに、カッコ悪いね。そう言って真悟さんが苦笑いを
 浮かべると、俺達の後ろから声が聞こえた。

「ワシが運べば問題ないじゃろう」

 聞き覚えのある声に振り向くと、そこには狗神が立っていて。その隣には、目に
 涙を浮かべた御鈴が居た。
 さっき見た時には居なかったのに・・・と一瞬で現れた彼らに驚いていると、
 真悟さんが狗神を見て言った。

「親父・・・ごめん、後は任せて良いか?」

「勿論じゃ。真悟、よく頑張ったの」

 狗神の言葉に真悟さんは微笑み、尻尾を嬉しそうにゆらゆらと揺らす。尻尾も
 動くんだなあと思っていると、真悟さんがフラリと倒れた。
 それを受け止めた狗神は、俺を見る。そして俺の頭をポンポンと撫でると、
 微笑んで言った。

「お主も、よく頑張ったの」

 照れくさくて、頭を掻く。
 すると御鈴が凄い勢いで抱き着いてきて、そのまま後ろに倒れ込んだ。
 倒れ込みながら、視界が暗くなっていく。あー、これ気絶するやつだ。そんな
 ことを考えながら、俺は意識を手放した。
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