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第三部
肉片
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―――ああ、これはまずい。
「蒼汰くん!」
真悟さんが俺を守るように前に立つ。変化を解き素の火力が出るようになった炎の
壁で、ソレの攻撃を防ぐ。
「真悟!」
上から降ってきた赤い実を狗神が神通力で出した葉で切り刻む。赤い汁と肉片が
降りかかり、全身が濡れる。
「狗神、後ろに!」
狗神の背後に移動したソレに向かって柏木を投げる。
「あぁ・・・アアアア、ハハハハハ!」
奇妙な笑い声を上げながら、ソレは柏木を掴む。
『痛みよ、彼の者に苦しみを与えたまえ』
そう呟くと、ソレは叫びながら柏木を投げ捨てる。
その隙にと真悟さんと狗神がソレに攻撃を仕掛ける。・・・だがそれをものとも
せず、奇妙な笑い声を上げてソレは二人を本殿の壁に叩きつけた。
「ガッ・・・」
血を吐いた狗神と真悟さんは、苦しそうな顔をしながらもフラリと立ち上がる。
『癒せ』
狗神が呟くと、狗神と真悟さんの傷が消える。
・・・これじゃあただの消耗戦だ。そう思いつつも、明らかに強いソレに対抗する
術が見つからずにいた。
―――戦い始めてから、どれくらい経ったのだろう。・・・もしかしたら、実は
そんなに経っていないのかもしれない。
『癒せ』
肩で息をしながら狗神が呟く。
「親父、もう・・・」
苦しそうな顔で息も絶え絶えの真悟さんが言う。
「・・・キリが、ない」
襲ってくる眠気に耐えつつ俺は言う。
目の前のソレは相変わらずぐちゃりぐちゃりと音を立てながら笑っていた。
削っても削っても実から出てくる肉片で回復していくソレは、こちらの疲労など
お構いなしに襲い掛かってくる。
「アハ、あ、あァ・・・ハハハ!」
気味の悪い笑い声が響く。どうにか攻撃をいなし、覚束ない足でソレから距離を
取る。
真悟さんを狙ったソレの攻撃を、狗神が前に出て庇う。傷だらけになり、腹に穴が
開き、口から血を吐く。
『・・・元の清げなる有様に』
攻撃が止むと同時に狗神は呟き、何事もなかったかのように怪我を完治させる。
肉片で回復する神と、神通力で回復する神。攻撃しても傷が治るという点では
同じだが、明らかにこちらの方が不利に思えた。
飛んでくる赤い実を柏木で叩き落とす。ぐにゃりと曲がる視界に、一瞬意識が
飛ぶ。・・・ああ、限界なんだ。
「殺さなきゃ。早く、殺さないと」
俺に向かって襲い掛かってきたソレを蹴り飛ばした真悟さんが、思いつめたような
表情で独り言のように呟く。
狗神は喋る余裕がないのか、ただ荒い呼吸を繰り返していた。
「あぁ、痛いィ」
そう言いながら立ち上がったソレに、肉片が集まる。
「痛いなら、死んでくれよ・・・!」
柏木で体を支えながら言うと、ソレはぐちゃりと音を立てて気味の悪い笑みを
浮かべた。ギョロギョロと動かされた目が俺を見る。
「お前を、食ってからぁ」
そう言って一瞬で距離を詰めてきたソレに、反応が遅れる。
手を伸ばした真悟さんの腕を、鋭く尖った木の枝が貫く。
・・・ああ、間に合わない。そう思うと同時に、片腕と腹に木の枝とソレの腕が
突き刺さる。
「いっ・・・・・・あれ?」
思わず声が出る。・・・あれ、そんなに痛くない?
「なーんだ、この程度か」
口から零れた言葉に自分で驚く。・・・まあ、それは後だ。
勝手に上がる口角、柏木を握る手に力が籠る。
『痛みよ、死を与えたまえ』
そう呟きながら、柏木をソレの脳天目掛けて振り下ろした。
「ああああぁぁぁァアアアア!!!!」
ソレは叫びながら俺の腹から腕を引き抜き、地面をのた打ち回る。
ぐちゃりぐりゃりと音を立てながら転がるソレに、肉片が尋常じゃない速度で
集まる。ぐちゅ・・・という不快感な音を立てたソレは、目をギョロギョロと
動かしながら立ち上がった。
「は・・・?」
何で死なない。そう思いながらソレから距離を取ろうとするが、体が言う事を
聞かずその場に倒れる。
「死ぬ、死ぬぅ・・・?お前、食ってから・・・クッテカラァアアアアア!!」
そう叫びながら、俺の胸目掛けてソレの腕が伸びる。
そんなに痛くはないんだけどなあ・・・なんてぼんやりと考えながら、動かない
体でソレの腕が迫ってくるのを眺める。
「待っ・・・」
真悟さんの声が聞こえる。
「避け・・・ゲホッ、ゲホッ」
狗神の咳き込む音がする。
・・・・・・ああ、そうだ。御鈴が家で待って・・・。
「待ちなさい」
その声と同時に、伸びた腕がボトリと地面に落ちる。目の前に現れたかなり高い
背丈の男性に、俺はぼんやりとする頭で呟いた。
「利斧・・・」
「蒼汰くん!」
真悟さんが俺を守るように前に立つ。変化を解き素の火力が出るようになった炎の
壁で、ソレの攻撃を防ぐ。
「真悟!」
上から降ってきた赤い実を狗神が神通力で出した葉で切り刻む。赤い汁と肉片が
降りかかり、全身が濡れる。
「狗神、後ろに!」
狗神の背後に移動したソレに向かって柏木を投げる。
「あぁ・・・アアアア、ハハハハハ!」
奇妙な笑い声を上げながら、ソレは柏木を掴む。
『痛みよ、彼の者に苦しみを与えたまえ』
そう呟くと、ソレは叫びながら柏木を投げ捨てる。
その隙にと真悟さんと狗神がソレに攻撃を仕掛ける。・・・だがそれをものとも
せず、奇妙な笑い声を上げてソレは二人を本殿の壁に叩きつけた。
「ガッ・・・」
血を吐いた狗神と真悟さんは、苦しそうな顔をしながらもフラリと立ち上がる。
『癒せ』
狗神が呟くと、狗神と真悟さんの傷が消える。
・・・これじゃあただの消耗戦だ。そう思いつつも、明らかに強いソレに対抗する
術が見つからずにいた。
―――戦い始めてから、どれくらい経ったのだろう。・・・もしかしたら、実は
そんなに経っていないのかもしれない。
『癒せ』
肩で息をしながら狗神が呟く。
「親父、もう・・・」
苦しそうな顔で息も絶え絶えの真悟さんが言う。
「・・・キリが、ない」
襲ってくる眠気に耐えつつ俺は言う。
目の前のソレは相変わらずぐちゃりぐちゃりと音を立てながら笑っていた。
削っても削っても実から出てくる肉片で回復していくソレは、こちらの疲労など
お構いなしに襲い掛かってくる。
「アハ、あ、あァ・・・ハハハ!」
気味の悪い笑い声が響く。どうにか攻撃をいなし、覚束ない足でソレから距離を
取る。
真悟さんを狙ったソレの攻撃を、狗神が前に出て庇う。傷だらけになり、腹に穴が
開き、口から血を吐く。
『・・・元の清げなる有様に』
攻撃が止むと同時に狗神は呟き、何事もなかったかのように怪我を完治させる。
肉片で回復する神と、神通力で回復する神。攻撃しても傷が治るという点では
同じだが、明らかにこちらの方が不利に思えた。
飛んでくる赤い実を柏木で叩き落とす。ぐにゃりと曲がる視界に、一瞬意識が
飛ぶ。・・・ああ、限界なんだ。
「殺さなきゃ。早く、殺さないと」
俺に向かって襲い掛かってきたソレを蹴り飛ばした真悟さんが、思いつめたような
表情で独り言のように呟く。
狗神は喋る余裕がないのか、ただ荒い呼吸を繰り返していた。
「あぁ、痛いィ」
そう言いながら立ち上がったソレに、肉片が集まる。
「痛いなら、死んでくれよ・・・!」
柏木で体を支えながら言うと、ソレはぐちゃりと音を立てて気味の悪い笑みを
浮かべた。ギョロギョロと動かされた目が俺を見る。
「お前を、食ってからぁ」
そう言って一瞬で距離を詰めてきたソレに、反応が遅れる。
手を伸ばした真悟さんの腕を、鋭く尖った木の枝が貫く。
・・・ああ、間に合わない。そう思うと同時に、片腕と腹に木の枝とソレの腕が
突き刺さる。
「いっ・・・・・・あれ?」
思わず声が出る。・・・あれ、そんなに痛くない?
「なーんだ、この程度か」
口から零れた言葉に自分で驚く。・・・まあ、それは後だ。
勝手に上がる口角、柏木を握る手に力が籠る。
『痛みよ、死を与えたまえ』
そう呟きながら、柏木をソレの脳天目掛けて振り下ろした。
「ああああぁぁぁァアアアア!!!!」
ソレは叫びながら俺の腹から腕を引き抜き、地面をのた打ち回る。
ぐちゃりぐりゃりと音を立てながら転がるソレに、肉片が尋常じゃない速度で
集まる。ぐちゅ・・・という不快感な音を立てたソレは、目をギョロギョロと
動かしながら立ち上がった。
「は・・・?」
何で死なない。そう思いながらソレから距離を取ろうとするが、体が言う事を
聞かずその場に倒れる。
「死ぬ、死ぬぅ・・・?お前、食ってから・・・クッテカラァアアアアア!!」
そう叫びながら、俺の胸目掛けてソレの腕が伸びる。
そんなに痛くはないんだけどなあ・・・なんてぼんやりと考えながら、動かない
体でソレの腕が迫ってくるのを眺める。
「待っ・・・」
真悟さんの声が聞こえる。
「避け・・・ゲホッ、ゲホッ」
狗神の咳き込む音がする。
・・・・・・ああ、そうだ。御鈴が家で待って・・・。
「待ちなさい」
その声と同時に、伸びた腕がボトリと地面に落ちる。目の前に現れたかなり高い
背丈の男性に、俺はぼんやりとする頭で呟いた。
「利斧・・・」
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