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第二部
蹂躙
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―――それからは早かった。身長2メートル超えの《武神》が、回復を続けるソレに
対して無双する。
回復が追い付く前にダメージを与え続け、手に持った戦斧でいとも簡単にソレの頭を
潰した。気が付けば、赤い実の汁や俺達の血で惨殺事件現場のようになっている
地面に、肉塊となって動かなくなったソレを踏みつける斧の《武神》が立っていた。
「全く・・・貴方、変な輩に目を付けられやすいんですね。いずれ疫病神なんて
呼ばれ始めますよ?」
そう言いながら、利斧が手を差し伸べてくる。上手く力の入らない体でどうにか
立ち上がると、真悟さんがフラフラとした足取りのまま近付いてきた。真悟さんは
無言で俺を引き寄せると、警戒するような眼で利斧を見る。
「おや、貴方が雨谷の言っていた《どっちつかず》ですか?でも、それにしては
気配が・・・」
利斧がそう言うと、上の方から違う違う!と声がする。そちらを見ると、雨谷が
本殿の屋根の上で頬杖をつき胡坐をかいていた。
「雨谷さん・・・?」
何でいるんだと言いたげな顔で、真悟さんは雨谷を見る。そしてハッとした顔を
すると、雨谷から顔を逸らすように俯いた。
「本当に狗神そっくりだね~、真悟くん。変化解いてる時の方がかっこいいんじゃ
ない?」
雨谷がそう言ってケラケラと笑う。何で変化のこと・・・と真悟さんが呟くと
同時に、肉塊がモゾモゾと動き出した。
この状態で生きているのか?!そう思いながらもヨロヨロと後ろへ下がると、
利斧は何でもないような顔でソレをぐちゃりと叩き潰した。
「ア、アァ・・・」
小さく声を上げたソレは、光の粒子となって消えていく。
「トドメまで刺してあげるなんて、利斧やっさし~」
そう言いながら雨谷が屋根の上から飛び降りると、懐から出した布で斧に付いた
血をふき取っていた利斧は言った。
「全部貴方がやっても良かったんですよ?雨谷」
それに対し雨谷はヘラヘラと笑うと、口を開く。
「えー、オイラ妖だし~。神倒すとか無理~」
「無謀なだけであって、不可能ではないでしょう。実際、ゴリ押しで神を殺した
人間もいるくらいですし」
利斧の言葉に雨谷は嫌そうな顔をすると、座り込んでいた狗神に手を差し伸べ
立ち上がらせながら言った。
「《武神》様が居るなら、そいつに任せた方が良くない?早いし~」
その言葉に利斧は溜息を吐くと、雨谷をジト目で見る。
「早い云々以前に、貴方は昔から面倒事を私に押し付けていたじゃないですか。
私より強い《武神》だったくせに」
利斧がそう言うと、雨谷は利斧を睨みつける。
雨谷の過去を知らなかったのか驚いた顔をしている狗神と真悟さんをちらりと見た
雨谷は、小さく溜息を吐いて言った。
「・・・君達と一緒にしないでくれるかな」
「事実でしょう。《武神》のツートップ、その一柱が妖に堕ちたところで、神を
倒せない訳がない」
悪気のなさそうな顔で言う利斧。
そうだったのかと驚いていると、雨谷は苛立ちを隠すことなく深い深い溜息を
吐く。ガラリと変わった彼の雰囲気にビビっていると、雨谷は吐き捨てるように
言った。
「オイラが強かったのは《どっちつかず》だったからだ。堕ちた今は、ただの妖術の
使えない妖なんだよ」
《武神》なんて過去がなきゃ、もっと気楽に生きていられるんだ。そう呟いた
雨谷に、利斧は口を噤む。
重い空気を変えるように雰囲気が元に戻った雨谷は、俺達を見てヘラヘラと
笑った。
「君達は自由に生きなよ~。中途半端な奴らは、自由に生きた者勝ちさ」
雨谷の言葉に、真悟さんは目を見開く。狗神は小さく笑い、利斧は呆れた顔を
した。
「貴方、自分はそうじゃないみたいな言い方をしていますけど・・・貴方も自由奔放
だったじゃないですか」
そう言った利斧を見てクスリと笑った雨谷は、何処か懐かしそうな顔をして
言った。
「君には言われたくない」
―――狗神に怪我を治してもらい、もう限界だと体の力が抜ける。流れるように
利斧に背負われた俺は、朦朧とする意識の中で狗神達の会話を聞いていた。
「狗神フラフラじゃ~ん」
「すまんの、酒を飲む約束をしておったのに・・・」
雨谷と狗神の声が聞こえる。
「ここの・・・片付け・・・」
真悟さんの声と、ドサリと何かが落ちる音がする。
「真悟?!」
「あー、気絶してるっぽいね~。ねえ利斧、真悟くん運べる?」
驚いた狗神の声と、相変わらずのんびりとした雨谷の声。
「私は蒼汰を背負っているんです、雨谷が運んでください」
「服汚れるからパー・・・ごめんごめん、そんな顔しないでよ狗神」
利斧と雨谷の声。
「すまんが、ついでにワシも運んで・・・ふあぁ」
眠そうな、狗神の・・・。
頭が回らない。そのまま、俺は目を閉じた。
対して無双する。
回復が追い付く前にダメージを与え続け、手に持った戦斧でいとも簡単にソレの頭を
潰した。気が付けば、赤い実の汁や俺達の血で惨殺事件現場のようになっている
地面に、肉塊となって動かなくなったソレを踏みつける斧の《武神》が立っていた。
「全く・・・貴方、変な輩に目を付けられやすいんですね。いずれ疫病神なんて
呼ばれ始めますよ?」
そう言いながら、利斧が手を差し伸べてくる。上手く力の入らない体でどうにか
立ち上がると、真悟さんがフラフラとした足取りのまま近付いてきた。真悟さんは
無言で俺を引き寄せると、警戒するような眼で利斧を見る。
「おや、貴方が雨谷の言っていた《どっちつかず》ですか?でも、それにしては
気配が・・・」
利斧がそう言うと、上の方から違う違う!と声がする。そちらを見ると、雨谷が
本殿の屋根の上で頬杖をつき胡坐をかいていた。
「雨谷さん・・・?」
何でいるんだと言いたげな顔で、真悟さんは雨谷を見る。そしてハッとした顔を
すると、雨谷から顔を逸らすように俯いた。
「本当に狗神そっくりだね~、真悟くん。変化解いてる時の方がかっこいいんじゃ
ない?」
雨谷がそう言ってケラケラと笑う。何で変化のこと・・・と真悟さんが呟くと
同時に、肉塊がモゾモゾと動き出した。
この状態で生きているのか?!そう思いながらもヨロヨロと後ろへ下がると、
利斧は何でもないような顔でソレをぐちゃりと叩き潰した。
「ア、アァ・・・」
小さく声を上げたソレは、光の粒子となって消えていく。
「トドメまで刺してあげるなんて、利斧やっさし~」
そう言いながら雨谷が屋根の上から飛び降りると、懐から出した布で斧に付いた
血をふき取っていた利斧は言った。
「全部貴方がやっても良かったんですよ?雨谷」
それに対し雨谷はヘラヘラと笑うと、口を開く。
「えー、オイラ妖だし~。神倒すとか無理~」
「無謀なだけであって、不可能ではないでしょう。実際、ゴリ押しで神を殺した
人間もいるくらいですし」
利斧の言葉に雨谷は嫌そうな顔をすると、座り込んでいた狗神に手を差し伸べ
立ち上がらせながら言った。
「《武神》様が居るなら、そいつに任せた方が良くない?早いし~」
その言葉に利斧は溜息を吐くと、雨谷をジト目で見る。
「早い云々以前に、貴方は昔から面倒事を私に押し付けていたじゃないですか。
私より強い《武神》だったくせに」
利斧がそう言うと、雨谷は利斧を睨みつける。
雨谷の過去を知らなかったのか驚いた顔をしている狗神と真悟さんをちらりと見た
雨谷は、小さく溜息を吐いて言った。
「・・・君達と一緒にしないでくれるかな」
「事実でしょう。《武神》のツートップ、その一柱が妖に堕ちたところで、神を
倒せない訳がない」
悪気のなさそうな顔で言う利斧。
そうだったのかと驚いていると、雨谷は苛立ちを隠すことなく深い深い溜息を
吐く。ガラリと変わった彼の雰囲気にビビっていると、雨谷は吐き捨てるように
言った。
「オイラが強かったのは《どっちつかず》だったからだ。堕ちた今は、ただの妖術の
使えない妖なんだよ」
《武神》なんて過去がなきゃ、もっと気楽に生きていられるんだ。そう呟いた
雨谷に、利斧は口を噤む。
重い空気を変えるように雰囲気が元に戻った雨谷は、俺達を見てヘラヘラと
笑った。
「君達は自由に生きなよ~。中途半端な奴らは、自由に生きた者勝ちさ」
雨谷の言葉に、真悟さんは目を見開く。狗神は小さく笑い、利斧は呆れた顔を
した。
「貴方、自分はそうじゃないみたいな言い方をしていますけど・・・貴方も自由奔放
だったじゃないですか」
そう言った利斧を見てクスリと笑った雨谷は、何処か懐かしそうな顔をして
言った。
「君には言われたくない」
―――狗神に怪我を治してもらい、もう限界だと体の力が抜ける。流れるように
利斧に背負われた俺は、朦朧とする意識の中で狗神達の会話を聞いていた。
「狗神フラフラじゃ~ん」
「すまんの、酒を飲む約束をしておったのに・・・」
雨谷と狗神の声が聞こえる。
「ここの・・・片付け・・・」
真悟さんの声と、ドサリと何かが落ちる音がする。
「真悟?!」
「あー、気絶してるっぽいね~。ねえ利斧、真悟くん運べる?」
驚いた狗神の声と、相変わらずのんびりとした雨谷の声。
「私は蒼汰を背負っているんです、雨谷が運んでください」
「服汚れるからパー・・・ごめんごめん、そんな顔しないでよ狗神」
利斧と雨谷の声。
「すまんが、ついでにワシも運んで・・・ふあぁ」
眠そうな、狗神の・・・。
頭が回らない。そのまま、俺は目を閉じた。
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