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第四部
目
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―――流れでそのまま行ってしまえと、俺達は狗神も連れて雨谷の暮らしている
場所へ向かう。狗神は朧車に乗り慣れているらしく、慣れない様子の糸繰と令を
見てクスクスと笑っていた。
「そうだ糸繰、利斧と狗神はこうやって書くんだ」
朧車に揺られながら、俺はそう言って糸繰から借りたメモに文字を書く。
「・・・呪うなよ」
〈さっき妖術使うなって話をされたばかりだろ、そこまで馬鹿じゃない。〉
俺の言葉に糸繰はそう返すと、談笑している利斧と狗神を見る。俺は少し開けた
窓から見える流れる景色を眺めながら、利斧と狗神の会話を聞いていた。
どうやら雨谷の話で盛り上がっているらしく、利斧は雨谷の昔のことを、狗神は
利斧の知らない最近の雨谷の様子を話していた。
「狗神、雨谷の目について知っていたんですね」
「教えてもらったんじゃよ。それに・・・実際、何度か勝手に見られておる」
「まあ、彼にとっては相手を知るための手段の一つですからね。その所為で苦労も
しているようですが」
「あ奴も元とはいえ《どっちつかず》じゃ。それに《武神》でもあったんじゃろう?
加えて、目の所為で妖術が使えんし・・・色々ありすぎて、ワシの理解が追い
付いているのかも怪しい。これで苦労していない訳がないじゃろう」
利斧と狗神の会話の中に出てくる目という単語が気になり、二人を見る。利斧は
思い出したような顔で俺を見ると、口を開いた。
「そうだ、雨谷の目についてお話していませんでしたね。彼が妖術を使えないという
のは御存じだと思うのですが、それは彼の妖力が目の持つ特別な能力に全て使われ
ている所為でして」
「落魅と一緒だな・・・」
令が俺の膝の上に移動しながら言う。狗神がコクコクと頷き、肯定の意を示した。
利斧は一切気にすることなく、話を続ける。
「特別な能力というのがですね、直接目を見た相手の脳に干渉するというもの
らしく。目を見た相手の思考を読んだり、過去を覗き見たり、半強制的に行動
させたり・・・まあ、色々とできるらしいです」
「らしい?」
言い回しが気になり、そう尋ねる。利斧は頷くと、ニッコリと笑って言った。
「彼とは幼い頃からの・・・それこそ、千年以上の付き合いでして。目のことは
出会った時に教えてもらっていたので、実際に能力を使われたことはないんです
よね。それを知って視線をわざわざ合わせるような真似はしませんし、それに
・・・私、眼鏡なので」
コンタクトや裸眼じゃなければ使われないんですよ。そう言って得意げに笑った
利斧に、狗神が少し不機嫌そうな様子を見せた気がした。
「さっき千年以上の付き合いって言ってたか?長生きなんだな、利斧も雨谷も」
令がそう言って利斧を見る。利斧は頷くと、笑みを浮かべて言った。
「神は寿命があるようでないですからね。信者さえいれば千年なんて余裕で生きて
しまえるんですよ」
「でも雨谷は妖に堕ちてますよね・・・?」
「《どっちつかず》は少し特殊でして。妖に堕ちた後でも、身体維持のためか
神としての力が少し残るんですよ。その影響か、寿命は他の妖よりも長くなる
のでしょうね」
俺の問いにそう答えた利斧は、ふと考える素振りを見せる。そして、困ったような
顔で口を開いた。
「ですが、今のは私の推測です。神としての力が残るのは事実ですが、本当に寿命と
関係しているのかは確証がありません。寿命は妖によって天と地ほどの差があり
ますし、現に彼の従者・・・雪華は、私や雨谷とほぼ同い年なんですよね」
与えられた神の力は彼が妖に堕ちた際に無くなっているはずなのに・・・興味深い
ですね。そう呟いた利斧は、楽しそうにクスリと笑った。
場所へ向かう。狗神は朧車に乗り慣れているらしく、慣れない様子の糸繰と令を
見てクスクスと笑っていた。
「そうだ糸繰、利斧と狗神はこうやって書くんだ」
朧車に揺られながら、俺はそう言って糸繰から借りたメモに文字を書く。
「・・・呪うなよ」
〈さっき妖術使うなって話をされたばかりだろ、そこまで馬鹿じゃない。〉
俺の言葉に糸繰はそう返すと、談笑している利斧と狗神を見る。俺は少し開けた
窓から見える流れる景色を眺めながら、利斧と狗神の会話を聞いていた。
どうやら雨谷の話で盛り上がっているらしく、利斧は雨谷の昔のことを、狗神は
利斧の知らない最近の雨谷の様子を話していた。
「狗神、雨谷の目について知っていたんですね」
「教えてもらったんじゃよ。それに・・・実際、何度か勝手に見られておる」
「まあ、彼にとっては相手を知るための手段の一つですからね。その所為で苦労も
しているようですが」
「あ奴も元とはいえ《どっちつかず》じゃ。それに《武神》でもあったんじゃろう?
加えて、目の所為で妖術が使えんし・・・色々ありすぎて、ワシの理解が追い
付いているのかも怪しい。これで苦労していない訳がないじゃろう」
利斧と狗神の会話の中に出てくる目という単語が気になり、二人を見る。利斧は
思い出したような顔で俺を見ると、口を開いた。
「そうだ、雨谷の目についてお話していませんでしたね。彼が妖術を使えないという
のは御存じだと思うのですが、それは彼の妖力が目の持つ特別な能力に全て使われ
ている所為でして」
「落魅と一緒だな・・・」
令が俺の膝の上に移動しながら言う。狗神がコクコクと頷き、肯定の意を示した。
利斧は一切気にすることなく、話を続ける。
「特別な能力というのがですね、直接目を見た相手の脳に干渉するというもの
らしく。目を見た相手の思考を読んだり、過去を覗き見たり、半強制的に行動
させたり・・・まあ、色々とできるらしいです」
「らしい?」
言い回しが気になり、そう尋ねる。利斧は頷くと、ニッコリと笑って言った。
「彼とは幼い頃からの・・・それこそ、千年以上の付き合いでして。目のことは
出会った時に教えてもらっていたので、実際に能力を使われたことはないんです
よね。それを知って視線をわざわざ合わせるような真似はしませんし、それに
・・・私、眼鏡なので」
コンタクトや裸眼じゃなければ使われないんですよ。そう言って得意げに笑った
利斧に、狗神が少し不機嫌そうな様子を見せた気がした。
「さっき千年以上の付き合いって言ってたか?長生きなんだな、利斧も雨谷も」
令がそう言って利斧を見る。利斧は頷くと、笑みを浮かべて言った。
「神は寿命があるようでないですからね。信者さえいれば千年なんて余裕で生きて
しまえるんですよ」
「でも雨谷は妖に堕ちてますよね・・・?」
「《どっちつかず》は少し特殊でして。妖に堕ちた後でも、身体維持のためか
神としての力が少し残るんですよ。その影響か、寿命は他の妖よりも長くなる
のでしょうね」
俺の問いにそう答えた利斧は、ふと考える素振りを見せる。そして、困ったような
顔で口を開いた。
「ですが、今のは私の推測です。神としての力が残るのは事実ですが、本当に寿命と
関係しているのかは確証がありません。寿命は妖によって天と地ほどの差があり
ますし、現に彼の従者・・・雪華は、私や雨谷とほぼ同い年なんですよね」
与えられた神の力は彼が妖に堕ちた際に無くなっているはずなのに・・・興味深い
ですね。そう呟いた利斧は、楽しそうにクスリと笑った。
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