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第二部
狭い世間
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―――朧車を降り、山道を進む。雨谷が暮らしている工房の周りに張ってある
結界は妖除けのものらしく、通常は雨谷が許可した者しか入れないようになって
いるらしい。
「まあ今の結界を張ったのはワシじゃから、ワシが許可した妖も入れるんじゃがな」
結界の説明をした後、狗神がそう言って笑う。
「今のってことは、前も誰かが結界を張っていたんですか?」
俺がそう聞くと、狗神と利斧は頷く。
「前は雨谷が自分で張っていたんじゃよ。妖に堕ちてから、結界を張れるだけの力が
残っていないらしくての」
「結界に触れた妖を跡形もなく消してしまうような強力なものでしたからね、張るの
にもかなり力を使ったはずです」
狗神と利斧の言葉になるほどと頷いていると、隣を歩いていた糸繰が立ち止まる。
令もいつの間にか糸繰の肩に乗っており、二人して警戒するような目で前方を見て
いた。
「警戒せずとも、お主らは入れるぞ。ワシが許可しておるからな」
狗神がそう言いながら糸繰の腕をそっと引く。不安げな顔で俺を見た糸繰に微笑み
かけると、彼は意を決したように足を踏み出した。
腕を引かれるまま、一歩一歩ゆっくりと進んでいく。そしておそらく結界内で
あろう場所に足を踏み入れた時、ほっとしたように息を吐いていた。
工房に近付くと、建物の中から雪華が出てくる。
「狗神様、蒼汰様、利斧様、いらっしゃいませ。そちらの方々は・・・?」
そう言った雪華に糸繰と令を紹介すると、彼女の後ろから思いがけない人物が
近寄ってきた。
「知ってる気配がすると思ったら、蒼汰くん達だったんだね」
「え、晴樹さん?!何でここに・・・」
そこに居た晴樹さんに驚き声を上げると、更に知った声が聞こえた。
「おー、勢揃いじゃん」
そう言って建物の中から出てきたのは静也さん。
兄弟揃って来ていたんだな・・・なんて思う。
〈蒼汰、あの人間は敵に回しちゃいけない気がする。〉
糸繰が静也さんをちらりと見てメモを差し出してくる。
まあ実際強いしな・・・なんて思っていると、静也さんが近付いてきて糸繰に
言った。
「鬼なんて久々に会ったよ。俺は静也、お前は?」
〈糸繰。〉
「いと・・・いとくり、で合ってるのかな?よろしく」
静也さんの言葉に糸繰はコクリと頷くと、静也さんが差し出した手を恐る恐る
握る。それをしっかりと握り返した静也さんは、ニッコリと笑って晴樹さんを
見た。
「晴樹が言ってたのって、糸繰のことだよな?」
「そうだけど、静兄って本当に距離感どうなってるの?仲良くなれるかもとは言った
けど、すぐに距離縮めるじゃん・・・」
若干引き気味の晴樹さんに、雪華がクスクスと笑う。
「雨谷様は今寝ていらっしゃいますし、中でゆっくりなさってください」
そう言った雪華に連れられ、俺達は工房の中へ足を踏み入れた。
―――工房と言ってもほぼ住居になっている建物内は、大人数でも暮らせるくらいに
広かった。以前来た時には気付かなかったことに目を向けつつ、通された部屋で出さ
れたお茶を飲む。
部屋の中には既に先客・・・落魅がおり、壁に寄り掛かりながら本を読んでいた。
糸繰が嬉しそうに手を振ると、落魅も小さく手を振り返す。それを見て、世間は狭い
ですねと雪華と利斧が笑い合っていた。
「そういえば、狗神が誰かと一緒に来るって珍しいよな」
机に置いてあったお茶菓子を食べながら、静也さんが言う。
「今日は酒を飲みに来た訳じゃないからの。こ奴の事で、雨谷に相談しに来たん
じゃ」
狗神がそう言って糸繰を指さす。糸繰は湯飲みを置くと、小さく頷いた。
「・・・起こしにいきましょうかね」
そう言って利斧が立ち上がる。雪華が止めようとするも、利斧は眼鏡をクイッと
上げて言った。
「彼、どうせ依頼が重なって徹夜していたんでしょう?そんな日の寝起きの悪さは
重々承知しています、任せてください」
必勝法があるので。利斧はそう言うと、意地悪そうな笑みを浮かべる。
「あまり怒らせないでくださいね・・・?疲れていらっしゃるのですから」
諦めたような顔で雪華はそう言うと、俺達を見る。
「蒼汰様、糸繰様、令様。雨谷様の目を見る際はお気を付けて」
そう言って雪華は利斧と共に部屋を出て行った。
結界は妖除けのものらしく、通常は雨谷が許可した者しか入れないようになって
いるらしい。
「まあ今の結界を張ったのはワシじゃから、ワシが許可した妖も入れるんじゃがな」
結界の説明をした後、狗神がそう言って笑う。
「今のってことは、前も誰かが結界を張っていたんですか?」
俺がそう聞くと、狗神と利斧は頷く。
「前は雨谷が自分で張っていたんじゃよ。妖に堕ちてから、結界を張れるだけの力が
残っていないらしくての」
「結界に触れた妖を跡形もなく消してしまうような強力なものでしたからね、張るの
にもかなり力を使ったはずです」
狗神と利斧の言葉になるほどと頷いていると、隣を歩いていた糸繰が立ち止まる。
令もいつの間にか糸繰の肩に乗っており、二人して警戒するような目で前方を見て
いた。
「警戒せずとも、お主らは入れるぞ。ワシが許可しておるからな」
狗神がそう言いながら糸繰の腕をそっと引く。不安げな顔で俺を見た糸繰に微笑み
かけると、彼は意を決したように足を踏み出した。
腕を引かれるまま、一歩一歩ゆっくりと進んでいく。そしておそらく結界内で
あろう場所に足を踏み入れた時、ほっとしたように息を吐いていた。
工房に近付くと、建物の中から雪華が出てくる。
「狗神様、蒼汰様、利斧様、いらっしゃいませ。そちらの方々は・・・?」
そう言った雪華に糸繰と令を紹介すると、彼女の後ろから思いがけない人物が
近寄ってきた。
「知ってる気配がすると思ったら、蒼汰くん達だったんだね」
「え、晴樹さん?!何でここに・・・」
そこに居た晴樹さんに驚き声を上げると、更に知った声が聞こえた。
「おー、勢揃いじゃん」
そう言って建物の中から出てきたのは静也さん。
兄弟揃って来ていたんだな・・・なんて思う。
〈蒼汰、あの人間は敵に回しちゃいけない気がする。〉
糸繰が静也さんをちらりと見てメモを差し出してくる。
まあ実際強いしな・・・なんて思っていると、静也さんが近付いてきて糸繰に
言った。
「鬼なんて久々に会ったよ。俺は静也、お前は?」
〈糸繰。〉
「いと・・・いとくり、で合ってるのかな?よろしく」
静也さんの言葉に糸繰はコクリと頷くと、静也さんが差し出した手を恐る恐る
握る。それをしっかりと握り返した静也さんは、ニッコリと笑って晴樹さんを
見た。
「晴樹が言ってたのって、糸繰のことだよな?」
「そうだけど、静兄って本当に距離感どうなってるの?仲良くなれるかもとは言った
けど、すぐに距離縮めるじゃん・・・」
若干引き気味の晴樹さんに、雪華がクスクスと笑う。
「雨谷様は今寝ていらっしゃいますし、中でゆっくりなさってください」
そう言った雪華に連れられ、俺達は工房の中へ足を踏み入れた。
―――工房と言ってもほぼ住居になっている建物内は、大人数でも暮らせるくらいに
広かった。以前来た時には気付かなかったことに目を向けつつ、通された部屋で出さ
れたお茶を飲む。
部屋の中には既に先客・・・落魅がおり、壁に寄り掛かりながら本を読んでいた。
糸繰が嬉しそうに手を振ると、落魅も小さく手を振り返す。それを見て、世間は狭い
ですねと雪華と利斧が笑い合っていた。
「そういえば、狗神が誰かと一緒に来るって珍しいよな」
机に置いてあったお茶菓子を食べながら、静也さんが言う。
「今日は酒を飲みに来た訳じゃないからの。こ奴の事で、雨谷に相談しに来たん
じゃ」
狗神がそう言って糸繰を指さす。糸繰は湯飲みを置くと、小さく頷いた。
「・・・起こしにいきましょうかね」
そう言って利斧が立ち上がる。雪華が止めようとするも、利斧は眼鏡をクイッと
上げて言った。
「彼、どうせ依頼が重なって徹夜していたんでしょう?そんな日の寝起きの悪さは
重々承知しています、任せてください」
必勝法があるので。利斧はそう言うと、意地悪そうな笑みを浮かべる。
「あまり怒らせないでくださいね・・・?疲れていらっしゃるのですから」
諦めたような顔で雪華はそう言うと、俺達を見る。
「蒼汰様、糸繰様、令様。雨谷様の目を見る際はお気を付けて」
そう言って雪華は利斧と共に部屋を出て行った。
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