神と従者

彩茸

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第四部

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―――数分後。ドタンッという音が聞こえた後、扉がすらりと開かれる。

「雨谷様、やりすぎです」

 呆れたように言いながら、雪華が部屋に入ってくる。

「だってあんな起こし方卑怯じゃない?!」

 そう言いながら凄く嫌そうな顔で部屋に入ってきた雨谷は、俺達を見て
 いらっしゃ~いとヘラヘラ笑う。

「どんな起こし方されたんだ・・・」

「利斧さんのことだし、雨谷の嫌がることやりまくったんじゃない?」

 静也さんと晴樹さんがそんな会話をしていると、顔に少し泥を付けた利斧が
 ムスッとした顔で入ってきた。

「縁側から突き落とさなくても良いでしょう。私はただ貴方を起こそうとした
 だけなのに」

 雨谷を見てそう言った利斧に対し、雨谷は嫌そうな顔で言った。

「起こし方が性格悪すぎるんだよね~。そんなに喧嘩したいなら買ってあげようか?
 馬鹿利斧」

「おや、勝てない喧嘩をするつもりですか?馬鹿刀谷」

 明らかに煽っている様子の利斧に、イライラとしている様子の雨谷。

「その名前で呼ぶなって何度言えば・・・!」

「喧嘩買ったら雨谷の負けですぜ」

 今にも掴みかかろうとした雨谷に、落魅が本から視線を上げて言う。
 ハッとした顔で落魅を見た雨谷は、溜息を吐いて落魅に近付いた。

「だよね~、ごめんごめん。・・・で、何で来てるの?今日来ても相手できないって
 言わなかったっけ?」

「え、いや、その・・・」

 雨谷の言葉に言い淀む落魅。雨谷は訝しげな顔をすると、落魅の後ろに手を
 回した。腕を慌てて掴んだ落魅は、本を雨谷に押し付けながら口を開く。

「露骨に包帯取ろうとしないでくだせえ!」

「だって分からないし」

「その癖直せって利斧にも言われてただろうが!!」

 わちゃわちゃとしているその光景を、雪華が微笑ましげに見る。静也さんや
 晴樹さん、そして狗神は呆れた顔で笑っており、置いてけぼりを食らっている
 様子の糸繰と令はきょとんとした顔をしていた。



―――少しして。嬉しそうに落魅の頭を撫でている雨谷に、今回来た目的を伝える。
ちなみに落魅が根負けし雨谷に目を見せたことで、落魅が来た理由が雨谷を心配
してのことだったと判明した。それを知った雨谷は恥ずかしそうに笑うと、上機嫌で
落魅の頭を撫で始めたのである。

「治療の為にオイラを利用するって・・・」

 少し嫌そうな顔をした雨谷に、狗神がすまんのと困ったように笑う。

「はあ・・・。まあ、取り敢えず

 溜め息を吐きつつも、雨谷は糸繰の頬に手を添え、目をじっと見る。雨谷の目に
 視線が釘付けになったまま微動だにしなくなった糸繰を、脳に干渉されると
 ああなるのかなんて思いながら眺めていた。
 ・・・少しの間そうしていた雨谷が、ふいっと視線を逸らす。口元を押さえ蹲った
 糸繰に何があったんだと近付くと、俺を見た糸繰は口元を押さえたまま片手で
 メモを書いて渡してきた。

〈頭の中、グチャグチャになって気持ち悪い。吐きそう。〉

「だ、大丈夫か・・・?」

「・・・利斧、何でを連れて来たの?」

 フラリと寄り掛かってきた糸繰の背を擦っていると、雨谷が少しイラついたような
 声音で利斧に言う。

「おや、何か変でしたか?」

「変も何も、あんな狂ってる奴オイラに見せようとしないでよ。何で
 ような奴を生かしてやろうとしてるのさ」

 利斧の言葉にそう返した雨谷。思わず、え・・・と声が出る。
 雨谷は俺を見ると、呆れたような顔をする。そしてヘラヘラと笑うと、様子を
 眺めていた静也さんと晴樹さんの隣に座って言った。

「ねえ、二人はどう思う~?糸繰、変だと思わなかった?」

「違和感はあったけど・・・懐いてるんだなってくらいに思ってた」

「俺さっき初めて会ったばかりだから分かんねえよ・・・」

 雨谷の問いに、晴樹さんと静也さんはそう答える。そっか~と笑った雨谷は、
 俺を見て口を開いた。

「蒼汰。君の大好きな弟は、って理由だけで生きようと
 してるんだよ。・・・そういう奴、大嫌いなんだ」

 酷く冷たい声。ビクリと肩を震わせた糸繰が、怯えた顔で雨谷を見る。

「オイラは嫌いな奴を相手してあげる程優しくないんだよ。そこの優しい狗神にでも
 甘えれば良い」

 感情を乗せず淡々と紡がれた言葉に、他の皆の顔が引きつる。
 その様子に、ああ一番怒らせちゃいけないのは雨谷だったのかなんて思っていた。

「・・・雨谷の良い所は、嫌いだからで完全に見放さない所ですよねい」

 静寂の中、ふと落魅が言う。

「そうですね、気に入れば態度を変える。それは昔から変わりません」

 利斧が便乗するように言って、クスリと笑う。

「そうだっけ?・・・あー、まあ機会があればそうかも?」

 雨谷が首を傾げながら言うと、狗神が小声で糸繰に言った。

「気に入られたいなら、を見つけろということじゃ」
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