神と従者

彩茸

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第四部

類友

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―――約一週間後、初めて悠斬に稽古をつけてもらいに行った糸繰を迎えに
夜宮神社へ行く。
神社に着くと、長い白髪を上で結んでいる隻腕の老紳士の前で座り込む糸繰が居た。
涙目で俺を見る糸繰の姿はボロボロで、何があったんだと思う。

「お、いらっしゃい」

 そう言って、静也さんが近付いてくる。

「こんにちは。えっと・・・」

「聞いてくれよ蒼汰、糸繰が悠斬さんにボッコボコにされてさあ」

 状況説明を求めようとした俺に、来ていたらしい圭梧が話し掛けてきた。
 圭梧の話だと、隻腕の老紳士・・・悠斬もとい悠斬さんに、糸繰が完膚なきまでに
 負けたらしい。

「何度も何度も頑張ってたんだけどさ、全部返り討ちにされちゃって」

「・・・それで、あんなにボロボロなのか」

 俺の言葉に、圭梧は頷く。すると、俺を見ていた糸繰がゆっくりと口を開いた。

「に・・・」

「に?」

「にぃ、さまぁ」

 ・・・・・・こんなに情けない糸繰の声、初めて聞いた。
 圭梧と静也さんは目を丸くしており、悠斬さんは明らかに困惑した顔をしていた。

「えーっと、お疲れ様?」

「雨谷様に教えてもらった動き、全然通用しなくて・・・」

 俺の言葉に糸繰は涙声でそう言いながら鼻をすする。悠斬さんに会釈しつつ糸繰に
 近付くと、彼は近くに落ちていた黄昏を拾い上げて鞘に収め俺に抱き着いてきた。

「うおっ、どうしたどうした」

「兄様あ、勝てないいいいいい」

 悔しそうな声で肩にグリグリと顔を押し付けてくる糸繰は、まるで小さな子供の
 ようで。笑いそうになるのを堪えていると、別の所から笑い声が聞こえてきた。

「あっはっはっはっは!そりゃ勝てる訳ないよ~!」

 ハッとして、声の方向に顔を向ける。そこには、鳥居の向こう側で豪快に笑う
 雨谷の姿があった。
 面白そうに笑う雨谷に、糸繰がムスッとした顔を向ける。

「雨谷様、嘘教えたんですか?」

 文句ありげな声で言った糸繰に、雨谷は鳥居の外からこちら側に来ることなく
 言った。

「嘘じゃないさ、オイラが教えたのはだけだ。応用も覚えなきゃそいつには
 勝てないよ~」

「えーっと、雨谷。何でお前がここに居るのかは置いておいて、どうしてこっちに
 来ないんだ?」

 静也さんが不思議そうな顔で言う。雨谷はヘラヘラと笑うと、一切目の笑って
 いない笑みを浮かべて言った。

「入らないんじゃなくて、入れないの~。そこの神共が鳥居より中に入ったら
 殺すぞって、わざわざ結界張って脅してくるんだもん」

 その時、静也さんの隣に宇迦と御魂が現れる。二柱の神は雨谷を睨み付けると、
 警戒するように言った。

「変な気配の輩をわざわざ入れると思うか?しかもお主、大妖怪であろう?」

「本来なら、我らの領域に入った時点で追い出している所だが・・・お主から、
 狗神と静也の気配がするのじゃ」

「・・・宇迦、御魂。雨谷とは結構長い付き合いなんです。あと狗神の酒飲み友達
 なんですよ、あいつ」

「胡散臭いだろうが、俺の見立てでは敵ではない奴だ」

 宇迦と御魂の言葉に、静也さんと悠斬さんが雨谷を擁護するように言う。
 それでもなお警戒の目を向け続ける宇迦と御魂に、雨谷は溜息を吐いて言った。

「何がそんなに気に入らないのさ~」

「・・・お主から、微かだが神の力を感じる。何者なのじゃ?」

「ああ、オイラ元《どっちつかず》だから」

「妖に堕ちたということか?それにしては、神の力が強すぎる!」

 宇迦がそう言った瞬間、雨谷の表情が変わる。深い深い溜息を吐いた雨谷は、
 言った方が早いんだろうねえと諦めたように口を開いた。

「それはオイラが、元々《武神》だったからさ。君達くらいなら、ギリギリ聞いた
 ことあるんじゃない?って名前」

 宇迦と御魂は驚愕の表情で顔を見合わせる。静也さんと悠斬さんは知っていた
 のか、平然とした顔をしていた。

「初めて聞いたんだけど・・・」

 ボソッと圭梧が呟く。それが聞こえていたのか、話してないからなと静也さんが
 言った。

「もうこれで嘘だ!って言われたらどうしようもないんだけど~・・・満足した?」

 ヘラヘラと笑いながら、雨谷は言う。宇迦と御魂が鳥居に手を向けた後静かに
 降ろすと、おっと声を上げた雨谷が鳥居をくぐってこちらにやってきた。

「この面子だから言ったけどさあ、やっぱり過去の肩書きを使わなきゃ信用されない
 のは良い気分しないよね~」

「でも、思ってたよりサラッと言ったな」

 雨谷の言葉に、静也さんが言う。雨谷は糸繰の隣へ行くと、頭をワシワシと撫で
 ながら笑みを浮かべた。

「糸繰の所為でちょっと吹っ切れてさ~。嫌なものは嫌だけど、過去へ触れる抵抗は
 減ったって感じ~」

 そんな様子を見ていた宇迦と御魂が、少し申し訳なさそうな顔をする。
 雨谷はそれに気付くと、ヘラヘラと笑って言った。

「ちゃんと自己紹介しておこうか?オイラは雨谷、妖さ。今は刀鍛冶やりながら、
 のんびり暮らしてるんだ」

「・・・何の用で来たのじゃ?」

 御魂の問いに、雨谷は思い出したように声を上げる。そして圭梧に近付くと、
 彼に軽くデコピンをして言った。

「ケイちんがオイラとの約束忘れてるっぽくてね~。わざわざ来てもらう程の
 ものでもないし、出先で済ませちゃうかーと思ってさ」

「え?・・・あ」

 心当たりがあったらしく、額を押さえながら首を傾げていた圭梧は慌てたような
 顔になった。

「圭梧くん、何か約束してたのか?」

「ちょっと夜月の柄糸が緩んじゃって、雨谷に巻き直してもらう約束してたんだ。
 ・・・今日なの、忘れてたけど」

 静也さんの問いに圭梧はそう答えると、ごめん・・・と雨谷に言う。
 別に良いよ~とのんびりした声で言った雨谷は、その場にいた面々を見回して
 楽しそうな笑みを浮かべた。

「オイラが打った妖刀の使用者が三人も揃ってるって、中々面白いよね~。
 類は友を呼ぶってやつ?」

「俺と圭梧くんはともかく、糸繰もそうなんだよなあ。意外と運命ってやつかも
 しれないぞ?」

「本当にそうなら、ワクワクするな!」

 同じく楽しそうな笑みを浮かべる静也さんと圭梧。糸繰に目を向けると、彼もまた
 ニコニコと笑っているのだった。
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