悪魔に憑かれた男

大松ヨヨギ

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受胎告知

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  ぶくぶくと泡を吹きながら目を剥く。酸素をどうにかして体に取り込もうと暴れるソレに男がぐっと全体重を乗せると、骨がボキ、ボキと音を立てた。
 
 エレモアシティーの素晴らしい夜景を背後に、その部屋ではおぞましい光景が広がっている。

「クソ!邪魔しやがって!」
 
 男は癇癪を起こした子供のように何度も何度も転がった死体を蹴飛ばして、ぺっと唾を吐く。それでも足りないのか椅子を掴み、大きく振りかぶって肉を殴打するのだ。自身の体にも無数の穴があるというのに、まるでそんなものは無いと言わんばかりの力強さだ。
 
「あと少しだったのに…お前らのせいでまた逃げられた!ようやく回ってきたチャンスだってのに!!」
 
 
 部屋の隅で蹲る彼女は、両足を撃ち抜かれ今にも意識を失いそうだ。いっそ気を失った方がまだマシだっただろう。今度は彼女に標的を合わせ、肩を上下に大きく揺らしながらズボンの右ポケットに差し込まれた拳銃を抜き取った。
 逃げようにも背後は壁、男は輝きの違う両目で冷たく見下ろした。その後ろで、転がっていた死体が空気を入れられたように膨れ上がる。赤黒く、ブヨブヨとした何かに変わっていくのだ。
 
(嫌だ!あんな風にはなりたくない!助けて…死にたくない!)
 
 向けられた銃口は、彼女の思いも虚しくその脳天をぶち抜いたのだった。
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ほんの数時間、その場所を離れていただけだと言うのに一体何があったというのか。
 
 捜査会議から開放されたノエルはその足でデリカロッドへ向かった。黒いビルに反射する赤い回転灯は物々しく、入口には大量の野次馬が集っている。それを収めるため警察官が複数名揉みくちゃになり、怒号が飛び交うのだ。遅れてやってきた車は、すぐ近くに横付けされる。
 
(……遺体搬送車?)
 
 ノエルはその野次馬を離れたところから観察する。帝国警察がいる以上、下手に近づけばどこで情報が回るか分からないのでいつもより慎重だ。
 
(あいつは大丈夫なのか…?)
 
 ザワついた集団は入口に視線を向けた。出てきたのはタンカの上に転がった黒いビニールだ。もちろん中身は人だろう。それが次から次へと車の中に運ばれている。ざっと見る限り五体程がそれに押し込まれるように収容される。野次馬もそれを見てどんどんまばらに散っていった。
 
「テロ?怖いわね」
「いや、ここの社長に恨みを持った奴の犯行らしいぞ」

 聞こえてくる憶測に耳を立てながら、ノエルはそっとその集団に背を向ける。これ以上ここにいると周りにノエルの存在が認識されてしまうだろう。それは色々とまずい。どこに捜査部の連中がいるか分からないので、計画を練ってから行動することが良いと判断したのだ。
 

 
 

 
 
 

 
 
『認証中………システムエラー、IDガ変更サレテイマス』  
 
(……)
 
 エレモアシティーからスキープカーで揺られること三十分、時刻は午前二時を回った頃まさか自宅の前で立ち往生する事になるとは思っていなかった。
 ノエルは再び扉のモニターにその右腕を押し当てる。
 
『認証中………システムエラー、IDガ変更サレテイマス』
 
 そんなわけは無い、何せこのロックはノエルの指紋や手相、大きさから凹凸まで何から何まで登録してあるはずだからだ。仕方が無いのでマスターキーをガサゴソと内ポケットから取り出し掲げた。
 
『認証中………解錠致シマシタ』
 
(このボロめ)と扉を軽く蹴って八つ当たりをする。一歩玄関に足を踏み入れた時、この家の住人でなくともその異変に気がつくだろう。
 
 照らされた廊下の先、ポツポツと床に着いた血の跡がリビングに続いている。よく目を凝らすと外廊下にも血痕がこの部屋へ続いているではないか。
 
(…まさか、いや、あの男がここを知っているはずは無い)
 
 ノエルは気配を消し、胸元から拳銃を取り出してそっとそのリビングへの扉に手をかけた。
 ゆっくり扉を押すように開いて、銃口を未知の敵を想定し構えた。
 
 ウィーン、ウィーンとモーター音が部屋に響く。ごつごつと何かにぶつかる掃除ロボットは汚れを吸い込もうと躍起になっているのだ。
 
 ノエルのお気に入りの黒革のソファー、その向こうに放られた足はピクリとも動かない。銃口はそのままにそっと近づくと、転がっているのは予想した通りウィリアム・ウィルソンであった。
 
 壁や家具には酷い血飛沫が付着して、汚れと判断した掃除ロボットが男の死体を何度も小突いている。今にも煙を上げそうなそれの電源を切って一応脈を測る。
 
「…生きてる」
 
 転がっている男は、左手に拳銃を、右手には小さな銀色の筒状のケースを握りしめて眠っているのだ。 
 
(人の部屋で自殺したのか?…イカれてる。一体その死になんの目的があるんだ)
 
 ノエルは右手のケースを引き抜いて『エレモアシティー総合病院』のロゴが刻印されている事を確認した。
 
(…何かの薬、か)
 
 中身は残念ながら空のようだ。他に何か持っていないか調べるためポケットを全て裏返しにして弄るが特に何も持っていないようだ。
 
 
「おい起きろ」
 
 その美しい顔は血だらけで、だがとても穏やかな表情をして眠っている。ノエルはその肩を揺するが、中々目覚めない。恐らく頭を撃ったのだろう、後頭部が血でバリバリに固まっている。無理やりその体を引っ張りあげて起こしたが、ぐうぐうと寝息を立てて眠っているのだ。
 
「おい!」
 
 その頬を軽く叩くと、男は「う、うーん」と呑気な声を上げてようやく目を覚ました。
 
「…」
「お前大丈夫なのか?」
 
 ウィリアム・ウィルソンはノエルをぼんやり眺めるとその顔の血を左手で拭って「…大丈夫、心配してくれてありがとう」と、どこか放って置けない笑顔を浮かべる。
 
「デリカロッドで何があった?帝国警察が複数遺体を搬送していた。…あそこに居たんだろう」
「……………」
 
 彼は先程の笑顔を凍らせ、あからさまに視線を逸らした。その反応は自分が関わっていると言っているようなものだ。
 
(…こいつが殺した可能性もある)
 
「私は殺ってないからな」
 
  ウィルソンはノエルの疑惑を直ぐに払拭するように食い気味にそう言った。その様子は嘘を言っていないと信じたくなるが、よく知りもしない人間を信用するには早い。 
 そもそもどうやってノエルの自宅を特定したのか、…どうやってIDを変更し侵入したのかも謎だ。
 
「私は…巻き込まれただけだ」

 
 ノエルは跪いて胸ポケットから取り出したハンカチで男の血を丁寧に拭う。男の動揺を狙っての行動だったが、慣れているのか全く抵抗せず甘んじて受け入れている。
 
「…話せることは話して欲しい。匿って欲しいというのは王打会や帝国警察に追われているから、で相違はないな?」
「ああ。そうだ。あいつらしつこいんだ。帝国警察もどういう訳か私を探しているようだから毎日安心して眠れない」
 
 その返答に納得は出来るがしっくり来ない。それはノエルが男を追う帝国警察の人間だからだろう。もし彼の立場を自身に当てはめてみても、ウィルソンのような行動には出ない。
 
「何故俺を頼る?…他にいないにしても俺は秩序維持課バッジ付きだ。」
「お前はロボットじゃない、だろ?…味を占めてしまったのかもな」
 
 赤い唇がにっと魔性を浮かべ、その低い声は口説くようにそう言った。もしこれが意図していない発言であったとしても出会ってから三回目の男への態度ではない。
 
 人を操る時、いつもそうしていると言わんばかりの平然とした振る舞い。男を信じたいというノエルの気持ちは疑わしいさで隅に追いやられるのだ。
 
「何故俺の家が分かった」
「偶然」
「…そうか」
 
 ノエルは敢えて否定はせず男の嘘を聞き流した。それは絶対嘘で、顔色一つ変えることなく男は吐いたのだ。デリカロッドの死体ももしかしたらウィルソンが殺ったのかもしれない。
 
「こちらにメリットは?」
「私の"安全"が確保され次第、お前と一緒に帝国警察へ出頭しよう。」
「安全がいつまで経っても確保出来なかった場合は?」
「その時に考える。」
 
(………訳が分からん。話せば話す程理解出来なくなるのはどういう事だ?)とこんがらがる思考の中でノエルは自身の心臓が高鳴り、燻っていた好奇心に火がついた事に気がつく。
 
 ただの不死身か、それともこちら利用しほくそ笑む悪魔なのか。
 
 
「分かった。お前を匿おう。だがおかしな行動や俺の任務の邪魔をするようなら無かった事にさせてもらう」

 
 
 
 
 心做しか、寂しそうな目で性の女神像はデリカロッドを見つめる。出入口には立ち入り禁止の赤いレーザーが張り巡らされて、禍々しさに拍車をかけるのだ。
 
 早朝鳴り響いたのは目覚ましのアラームではなく、ローレンからの招集の連絡だった。
 
『高級娼館デリカロッドの社長であるドミニク・モナとその他従業員合わせて五名が三十五階の一室で遺体で発見された。そして一人は意識不明の重体でエレモアシティー総合病院に搬送されている。』
 
 その事件概要はノエルが予想した範疇を超えていない。それにプラスして『社長がブヨブヨになっていた』と付け加えられてもだ。
 
 デリカロッドの裏手に回ると、隠れるように全面鏡張りのビルが現れる。地上から六十メートル、二十階建てのそこは娼婦たちが暮らす寄宿舎だ。
 
 
 
 「座りなよ。お茶でいい?」
「……いや、遠慮する」
 
 高級娼婦の暮らす部屋とは思えぬ程、そこはゴミで溢れかえっている。膝が埋まりそうなほど服やら空き缶やらで溢れているのだ、どうやって、どこに座れというのか。
 
 ブロンドの髪を適当に頭の上で丸める美しい女性は、そのゴミを踏み荒らしてその固まった山の上に腰を下ろした。
 
「それで?バッジ付きがあたしに何か用?」と彼女はへの字に口を曲げ面倒くさそうに足を組む。
 
「…不死身の男が王国打倒委員会に拘束される現場を見たと聞いた」
 
 レミ・ゴール、彼女はサコダに嘘の情報を流し、ウィリアム・ウィルソンとノエルを再び引き合わせた張本人である。
 
「そうだけど?」と可燃ごみの上でタバコをぷかぷか吸い始める彼女に、ノエルは眉を顰める。この可燃ごみの山の中でもし火でも着いたら大変なことになるだろう。
 
「…ウィリアム・ウィルソンに頼まれて嘘の情報を流した、貴女で間違いないか?」
「……………………!!なぁーんだ、あんただったのね!」
 
 ガサガサとゴミを撒き散らした彼女は先程までの不貞腐れた表情をパッと明るくした。
 
「やだー、タイプ変わったの~?」
 
 彼女はニヤニヤしながらノエルの全身を舐め回すように見る。こちらの質問への回答などする気もないようだ。
 
「彼に嘘の情報を流すよう頼まれたのは確かにあたしよ。『どうしても会いたい男がいる』ってお願いされてね。でも彼が連れてるのってぜーんぶ弱そうなのばっかだから新鮮だわ~。ねぇねぇ、どこで知り合ったの?」
 
 マシンガンのように彼女は次から次へと言葉を撃つ。その目はキラキラと輝いて、落ち着きのない足がガサガサとゴミを踏むのだ。
 
「悪いがそれは言えない。それよりあの男は連れがいるのか?」
「あれでいない方がおかしくない?特定の一人、てのはいないけどね。大体が有力者の娘だったり政治家の息子だったり…みーんな美男美女揃い。」
 
 
 ノエルの眉間に今日一番深い溝が出来た。彼女の言うことが正しければ、男の言った『頼れる人間がいない』という言葉が嘘に傾く。確かにウィルソンほど目を引く容姿の人間ならば引く手数多だろう。…そこまで考えが至らなかった。
 
 彼女はノエルの不機嫌そうな顔を見て「あ、別にあんたがそうじゃないって言ってる訳じゃないよ。あんたも十分いい男だけど、系統が違うって意味」と取り繕う。
 
「ウィルソンはその連れとまだ関係があるのか」
「あるでしょうね。常に侍らせてる感じ?…光に集まる虫みたいなもんでしょ。だから彼が自分からなんてないのよ。にしてもバッジ付きにねぇ~」
 
(…一体俺に近づいて何の目的がある?)
 
 ハエが空間を切るようにブンブンと飛び回る。彼女はそれを気にすることなく平然としているが、ノエルはそろそろその匂いに限界を感じていた。
 
「今日ここへ来たのは、…貴女が流した情報が間違いだった、ということにするためだ」
「…なるほどね。なにか不都合でも?」
「それは言えないが、見間違えたとサコダに言って貰えないだろうか」
 
 彼女はあっさりそれを了承した。ゴミの中から赤い口紅を見つけ出し、その唇に塗っている。それは腐っているのではないかとノエルは目を逸らした。鼻での呼吸を一時停止し、できるだけ呼吸を最小限にする。
 
「…勤め先が大変な中協力感謝する。」 
「どうせすぐ社長の首は挿げ替えられるから問題ないわ。それにあのレイシストが死んで清々した。天罰って下るのね」
「…天罰?」
「あいつこの間王国民の従業員全員首にしたのよ。それも先代がやってる頃から働いていた人達を。」
 「…その従業員と連絡は取れるか?」
「それが誰一人音信不通。…大丈夫だといいけど。って、もうこんな時間!あたしこの後予定あるから。リクにはちゃんと言っとくから心配しないでね」
 
 ゴミの山を崩し、そこから洋服を引っ張り出して慌てる彼女に軽く礼を言って、さっさとその場を離れる事にした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 その部屋は、どこから引っ張り出してきたのか工具が散乱している。男の腕の中には我が家で毎日活躍している掃除ロボットが抱きしめられているのだ。
 
 
 
「………おい起きろ」とノエルが床で昼寝する男を揺すると、その腕の中の掃除ロボットがピロピロと音を立てて起動する。
 
『起キロ。部屋ノ主ガ帰ッテキタゾ』とそれはモーターを回しながら喋った。この掃除ロボットにそのような機能は搭載されていないはずだ。
 
「…どういう事だ」と面食らうノエルにそいつは抑揚のない声で答える。
 
『ドウモコウモ、コイツガ人格ノ設定ヲ導入シタノダカラショウガナイ。起キロ、主ガ帰ッタゾ』
 
 目覚めない男を起こすため、ゴツゴツとその額にボディをぶつけるロボットにようやく目を覚ましたウィルソンは、「おかえり」と赤くなったおでこを撫でる。
 
「お前、うちのロボットに何した?何故こいつは喋る」
「話し相手がいなかったから少し弄っただけだ。」
「少し弄って話せるようになるのか」
「おや、機械に疎いのかね。バッジ付きのしかも機密部だろう。」
 
 少し弄っただけで話せるようになるとは思えないが、どうやら男はノエルの不在中にそれらをやってのけたらしい。
 ウィルソンは散らかった工具を片付ける。掃除ロボットは何やらぶつくさ言いながら自分の家充電スペースに帰っていった。
 
 ノエルはテーブルにどさり、と袋を置いて中身を取り出す。そこには様々な加工食品が詰められている。肉、肉、時々魚。健康に気を使っているノエルはサラダも忘れない。普段は栄養カプセルで食事を済ませるが、たまにはちゃんとした物体を胃に入れておかなければ。
 
「ウィルソン、飯にするぞ」

 男に声をかけて、ノエルはさっさと一人で黙々と食べ始める。彼は遅れて席に着くと「私の分もありがとう」と体に悪そうな油でギトギトの肉サンドイッチの封を切った。
 
「仕事だったのか?」
 
 一口サイズにちぎられたそれを口に含み、品良くゆっくり咀嚼するウィルソンにノエルはきっとこのようなジャンクフードは普段食べないだろうと何だか申し訳ない気持ちになる。
 
(いや、俺の金なのだからそんな事を考える必要は無い。)
 
「…ああ。お前の素性を探りにな」  
「私の?…レミのところに行ったのか。…何か分かった?」
「頼れる人間がいない、という言葉の嘘がめくれただけだ。まだお前が殺していないという証拠は今のところ上がっていない」
 
 ギロリとウィルソンを睨みつけると、彼は「…あいつ、余計なことを」と低い声で呟いた。
 
「俺に頼るよりお前が囲っている人間の方が余程役に立つだろう。それをしないのは俺に何かあるというより、…帝国警察を操ろうとしているとしか思えんのだが」
 
 ノエルはサラダをバリっと口に含み、それらを甘ったるいジュースで流し込む。ウィルソンは食事の手を止めて、「考え過ぎだ。…私が帝国警察を操って何になる?」と困ったように眉を下げる。
 
  
「…俺には事件を撹乱しているようにしか見えない。」
「そりゃあ、多少はそうだろう。私も化け物扱いで拘束されたくはないからね」
「じゃあ聞くが、……何故俺が機密部隊所属だと知っている」

 ノエルはウィルソンに自分の名前と帝国警察の秩序維持課バッジ付きということしか知られていないはずだ。それなのに先程この男はノエルが機密部だと知っていた。一般人ではそもそもバッジ付きだからといって捜査部なのか機密部なのか区別が出来ない。
 
「…お前が自分でそう言っただろう?」と捏造をする男にノエルの無表情にまたシワが寄った。
 
「悪いが俺はお前に名前くらいしか言っていない。」
 
 口が滑った、ウィルソンは自分の唇を左手で隠すような仕草をして困り果てている?…実の所そうでは無く、彼の隠した唇はにっとつり上がっているのだ。
 
「何がおかしい」
 
 ゾッとするほどそれは邪悪だ。美しさに人間のどうしようも無い欲望が滲み出て、ノエルはそれに謎の高揚を感じる。その魅力的な微笑みは絶対に信用してはいけないのに、不意にその頬に手を伸ばしたくなるのだ。
 
「私が答えたら、お前も私の質問に答えてくれるか?ああ、でもお互い一つだけにしよう」
 
 あやす様に男はそう言うと、ノエルの答えをじっと待った。その視線に捕まりながら、しばらくの沈黙を守る。
 
「………分かった。嘘を言うなよ。お前は帝国警察を操ってどうしたい?」
「決めつけは良くないぞ。まあ、そうだな。ざっくり言うと家族を守りたい。」
 
 その邪悪な表情から思いもよらぬ回答だ。思わず「………家族?」と聞き返す。ノエルが想像していたのはもっと理解できないような何かだと思っていた。
 
「質問は一つだけの約束だろう。さて、次は私がお前に尋ねたい。」
 
 ノエルは男の質問が帝国警察関連である可能性を考え肩が強ばった。流石に内部情報は漏らす訳にもいかない。ウィルソンには嘘を言うなと言ったが、ノエルは嘘をつく気満々だ。

(何でも来い、全部嘘で返してやる) 
 
 彼はその視線を一度テーブルに落とし、息を吐くタイミングで
 
「お前は今恋人がいるのか?」
 
 と突拍子もない質問をノエルに投げかけるのだった。
 
 
 
「は?…何言ってる?まさかそれがお前の質問なのか?」
「ああ。そうだが?どうなんだ?」
 
 やはり理解できない。聞こうと思えばもっと自分に優位になる話に持っていけるというのに恋人の有無など何に必要なのか。
 
「……いない」と嘘をつく理由もないので正直に答えると、ウィルソンはどこか安心したように表情を和らげる。
 
「…結婚は?」
「していない」
 
「そうか、…良かった。」と頼りない笑顔を浮かべるものだから、ノエルは喉の奥がキュッと引き締まった。彼は食事を再開して、それ以上話す気は無さそうだ。
 
 何が良かったのか、と聞くことが出来ぬほどドンドンと内側から叩く鼓動に、ノエルは何かの間違いではないかと疑う。
 フォークを握る手がじんわり汗ばみ、どうにか口に運んだ肉が上手く飲み下らない。
 
(…絶対に違う)と自分の感情を否定して、その無表情の下、一人混乱に揉まれているのであった。
 
 
 
 
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