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続.雪豹くんと魔王さま
2-32.襲い来るもの②
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白狼たちの視線がアークに集まった。
彼らは自然と、アークに指示を仰いでいるのだ。獣人としての本能が、アークを上位者だと理解させている。
「――遠距離攻撃が可能な者はどれほどいる?」
「多くはありません。獣人はこの身で攻撃するものなので。ですが、数人――」
すかさず答えたセイローが、白狼を呼び寄せた。
その白狼たちは他より体格が劣っているように見える。でも、その手には弓矢を携えていて、力強い眼差しでアークを見つめ返した。
「そうか。では、上から狙い撃て。他の場所を担当する者たちにも、同じ指示を」
白狼たちが散開する。弓矢を扱うものは塀の上へ。肉弾戦をする者は、他所への伝令へ。
それぞれが役目を瞬時に理解して戦いに向かった。
「接敵した場合は槍か棒で打ち据えろ。くれぐれも、泥が跳ね返ってくるほどの近くには寄るな」
アークがポンポンと長い棒を取り出す。
「これ、どうしたの?」
「遠征用のテントの骨組みだ」
「へぇ、僕も使ってみていい?」
武器を使って戦うことに興味を惹かれ、ねだってみる。当たり前のように「駄目だ」と言われてしまったけれど。
白狼たちは微妙に嫌そうな顔をしながらも棒を拾い上げた。槍を補助武器にしていた者たちはホッとした顔をしている。
おそらく、鍛え上げた自分の身体で戦うことに慣れている白狼たちのプライドとして、ただの細い棒で戦うことは歓迎できなかったのだろう。
「……楽しそうなのに」
スノウは感性の違いを感じて、少し拗ねてしまった。
「陛下、我々も散開します」
「ああ。里を守れ」
吸血鬼族が一人を残して姿を消す。他の場所で防衛している白狼たちに合流するのだろう。
「スノウは魔法を使ったらいいんじゃないか」
「うんっ、がんばるね!」
安全圏に置かれてしまうのではないかと危惧していたけれど、戦闘参加許可が出て、スノウはにこりと笑った。
アークから離れるのは嫌だ。それに、みんなと一緒に戦いたい。
そんな思いをアークは汲んでくれたのだろう。
「うーんと……僕は、どんな魔法を使おうかなぁ」
いつの間にか、ラトはナイトと共に姿を消していた。貴重な魔法要員だから、手が足りないところへの援護に向かったのだろう。
ここはアークがいるから、どこよりも安全と言える。
「あ。吸血鬼族さん、すごいカッコいい!」
後方にいた泥人形が次々と崩壊していく。風のように駆け抜けた吸血鬼族が、泥人形を攻撃しているのだ。
「あれはどういう魔法なの?」
「魔法というか……吸血鬼族の種族特性だな。あいつらは触れたものの生気を奪う。ついでに殴りつけて壊しているんだろう。……しかし、あれが効くとなると、この泥人形はただの泥でできたものではないということに……」
考察しながら、アークが不可解そうに首を傾げる。
スノウはうんうん、と頷きながらも、あまり理解できていなかった。とりあえず「吸血鬼族ってすごいんだね!」と称賛しておく。
「――あっ、僕、こうしようっと」
棒が届く距離までやってきた泥人形が、白狼によって次々と倒されていく。
その光景を見て、スノウは良いアイディアが生まれた。
魔力を練って形作ったのは、氷柱のような氷の棒である。
「スノウ……」
アークからなんとも言えない視線を受けながら、スノウは泥人形を目掛けて指を振る。
「えいやー!」
指の動きと共に、飛んでいった氷の棒が泥人形を打ち据えた。
頭からかち割ったり、剣のように使って袈裟斬りにしてみたり。棒の使い方はさまざまで楽しい。
雨や泥に魔力を奪われて、氷の棒が崩壊する度に新しいものを生み出す。
「おっ、棒術ってなかなかおもしろいもんだな」
どこかから声が聞こえた。
嫌そうに棒を使って戦っていた白狼が、今では嬉々とした様子で動き回っている。スノウを見て、戦闘の創意工夫を理解したらしい。
白狼族は戦闘民族だ。戦うことが彼らにとってもっとも重要なのである。
彼らが武器を使って戦うことへの喜びを覚えたらどうなるか、という答えは、すでにスノウの眼前に現れていた。
近づいてきた泥人形は瞬く間に駆逐されていく。
無限に存在するように思えるそれらに対して、白狼族の戦意は落ちない。慣れない戦闘をいかに楽しむかへと、意識が移って熱中しているように見える。
「僕も、負けないもん!」
やる気が移ったスノウは、氷の棒を増やして泥人形を攻撃した。
「……なんだか、さほど大変な状況ではないような気がしてきたな」
ぽつりと呟いたアークが、苦笑しながら指先を振る。
途端に生み出されたかまいたちが、泥人形の集団の中に道を作った。
「あー! 全部倒しちゃ嫌だよ。僕も倒すんだよ」
「手柄の全部取りは卑怯ですよー!」
スノウに続き、白狼族たちからも声が飛んでくる。
アークは頭が痛そうに額を押さえた。
「陛下、私もいってきまーす」
「おいっ、ルイス! お前まで変なノリに付き合うなっ」
スライム状態で飛び出していったルイスが、泥人形を捕食していく。アークはますます疲れた表情になっていた。
彼らは自然と、アークに指示を仰いでいるのだ。獣人としての本能が、アークを上位者だと理解させている。
「――遠距離攻撃が可能な者はどれほどいる?」
「多くはありません。獣人はこの身で攻撃するものなので。ですが、数人――」
すかさず答えたセイローが、白狼を呼び寄せた。
その白狼たちは他より体格が劣っているように見える。でも、その手には弓矢を携えていて、力強い眼差しでアークを見つめ返した。
「そうか。では、上から狙い撃て。他の場所を担当する者たちにも、同じ指示を」
白狼たちが散開する。弓矢を扱うものは塀の上へ。肉弾戦をする者は、他所への伝令へ。
それぞれが役目を瞬時に理解して戦いに向かった。
「接敵した場合は槍か棒で打ち据えろ。くれぐれも、泥が跳ね返ってくるほどの近くには寄るな」
アークがポンポンと長い棒を取り出す。
「これ、どうしたの?」
「遠征用のテントの骨組みだ」
「へぇ、僕も使ってみていい?」
武器を使って戦うことに興味を惹かれ、ねだってみる。当たり前のように「駄目だ」と言われてしまったけれど。
白狼たちは微妙に嫌そうな顔をしながらも棒を拾い上げた。槍を補助武器にしていた者たちはホッとした顔をしている。
おそらく、鍛え上げた自分の身体で戦うことに慣れている白狼たちのプライドとして、ただの細い棒で戦うことは歓迎できなかったのだろう。
「……楽しそうなのに」
スノウは感性の違いを感じて、少し拗ねてしまった。
「陛下、我々も散開します」
「ああ。里を守れ」
吸血鬼族が一人を残して姿を消す。他の場所で防衛している白狼たちに合流するのだろう。
「スノウは魔法を使ったらいいんじゃないか」
「うんっ、がんばるね!」
安全圏に置かれてしまうのではないかと危惧していたけれど、戦闘参加許可が出て、スノウはにこりと笑った。
アークから離れるのは嫌だ。それに、みんなと一緒に戦いたい。
そんな思いをアークは汲んでくれたのだろう。
「うーんと……僕は、どんな魔法を使おうかなぁ」
いつの間にか、ラトはナイトと共に姿を消していた。貴重な魔法要員だから、手が足りないところへの援護に向かったのだろう。
ここはアークがいるから、どこよりも安全と言える。
「あ。吸血鬼族さん、すごいカッコいい!」
後方にいた泥人形が次々と崩壊していく。風のように駆け抜けた吸血鬼族が、泥人形を攻撃しているのだ。
「あれはどういう魔法なの?」
「魔法というか……吸血鬼族の種族特性だな。あいつらは触れたものの生気を奪う。ついでに殴りつけて壊しているんだろう。……しかし、あれが効くとなると、この泥人形はただの泥でできたものではないということに……」
考察しながら、アークが不可解そうに首を傾げる。
スノウはうんうん、と頷きながらも、あまり理解できていなかった。とりあえず「吸血鬼族ってすごいんだね!」と称賛しておく。
「――あっ、僕、こうしようっと」
棒が届く距離までやってきた泥人形が、白狼によって次々と倒されていく。
その光景を見て、スノウは良いアイディアが生まれた。
魔力を練って形作ったのは、氷柱のような氷の棒である。
「スノウ……」
アークからなんとも言えない視線を受けながら、スノウは泥人形を目掛けて指を振る。
「えいやー!」
指の動きと共に、飛んでいった氷の棒が泥人形を打ち据えた。
頭からかち割ったり、剣のように使って袈裟斬りにしてみたり。棒の使い方はさまざまで楽しい。
雨や泥に魔力を奪われて、氷の棒が崩壊する度に新しいものを生み出す。
「おっ、棒術ってなかなかおもしろいもんだな」
どこかから声が聞こえた。
嫌そうに棒を使って戦っていた白狼が、今では嬉々とした様子で動き回っている。スノウを見て、戦闘の創意工夫を理解したらしい。
白狼族は戦闘民族だ。戦うことが彼らにとってもっとも重要なのである。
彼らが武器を使って戦うことへの喜びを覚えたらどうなるか、という答えは、すでにスノウの眼前に現れていた。
近づいてきた泥人形は瞬く間に駆逐されていく。
無限に存在するように思えるそれらに対して、白狼族の戦意は落ちない。慣れない戦闘をいかに楽しむかへと、意識が移って熱中しているように見える。
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ぽつりと呟いたアークが、苦笑しながら指先を振る。
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「あー! 全部倒しちゃ嫌だよ。僕も倒すんだよ」
「手柄の全部取りは卑怯ですよー!」
スノウに続き、白狼族たちからも声が飛んでくる。
アークは頭が痛そうに額を押さえた。
「陛下、私もいってきまーす」
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