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続々.雪豹くんと新しい家族
3-38.お医者さん
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話をしながら辿り着いた医務室。
幸いなことに、一人も患者がいなかったようで、スノウたちはドリーに喜んで迎え入れられた。
「お呼びでしたら、私の方から伺いましたのに」
「俺はそうするつもりだったんだがな」
「ここ、結構居心地がいいことを知っちゃったから」
ふふ、と笑いながら答える。これは嘘ではない。
視界をスライムたちがぷよぷよと飛び跳ねている光景は、なかなか面白くて好きだ。
ルイスが「私ではご不満ですか~っ」と泣き真似をしている。他のスライム族に目を奪われているスノウに、自尊心が傷ついているらしい。
もちろんスノウはルイスのことが大好きだし、不満はない。でも、それはそれとして、ごく普通のスライムも可愛がりたいのだ。
「そんなにスライムが好きなんて、番様は変わっていらっしゃいますね……」
「ぬいぐるみ感覚なのではないか」
近づいてきたスライムを膝に抱き上げ、もちもちぷるるんとした不思議な触感を楽しむ。
さすがのアークも、スライムに嫉妬することはないようだ。お世話係にルイスを選出しているところからも、スライム族は同じ魔族というよりペット枠に近いように感じられる。
「スライムって、可愛がるものじゃないの?」
「番様は、雨上がりの後の水たまりを可愛いと思いますか?」
「……なんか、それは、ひどい」
ドリーの言葉は失礼に思えるけれど、アークばかりかルイスからも文句はでなかった。つまり、そのくらいの感覚が一般的だということ。
スライムって思っていた以上に可哀相な種族なのかな、とスノウが真剣な顔になってしまったのは仕方ない。
平和にぽよんぽよんと跳ねているスライムたちは、そんな哀れみなんて一切欲しがっていないのだろうけれど。
「ルイスって、だいぶ特殊?」
「そうだな。俺が手をかけたから」
「そうです。陛下さまさまです。頭が上がりません」
ルイスが胸を張って答える。凄いのはアークのはずなのに、なんだかルイスの功績みたいだ。
アークが少し呆れた顔でルイスを眺める。
「思い切り正面から俺を見ているぞ」
「陛下は大変お優しい方なので」
「思ってもいないことを言う。書物で余計なことを学びすぎているんじゃないか。どうせなら殊勝な態度というものを学べ」
「その言葉は、まだ私の脳内の辞書には存在していないようです」
シレッとした顔でのたまうルイスを、アークだけでなくドリーまで白い目で見ていた。
「……年々、厚かましくなる」
「それも成長なのでしょうか。一度研究させていただいても?」
「構わん」
「構いますー! スノウ様のお世話係が、私以外に務まりますか!?」
拳を握って主張するルイスに、アークがあっさりと「たくさんいるだろうな」と答えた。
たまらず、ルイスはわんわんと泣く。涙が出ていないのは御愛嬌。ルイスの嘘泣きは、まだ練習途中なのだ。
「僕はルイスがいいよ。大丈夫だよ。僕が傍にいてほしいんだって、アークにお願いするからね」
「私の味方はスノウ様だけです~!」
スノウに抱きつき、ルイスが満面の笑みを浮かべる。楽しそうでなにより。
「……スノウはルイスに甘い」
「だって、僕の一番最初のお友達で、お兄ちゃんだもん」
「はぅっ……私は、スノウ様の、お兄ちゃん……!」
恍惚とした表情でルイスが胸を押さえる。いちいち大げさな態度だけれど、面白いから止める気はない。
楽しんでいるスノウとは違い、アークとドリーは冷たい表情だったけれど、ルイスは一切気にしていないようだ。
「ごほんっ……それで、本日のご用件は卵についてですか?」
ドリーがおふざけを打ち切り、真剣な表情で口火を切る。既にスノウの状態は把握できている様子だ。さすが本職の医師である。
「うん。状態が大丈夫かな、って聞きたいのと……後、その、……夜はどうしたらいいのか、教えてもらえたらなぁって」
「夜。……なるほど、それで」
うんうん、と頷くと、ドリーはアークに生温かい目を向けた。
アークは少し気まずそうに視線を逸らしている。
「そうですねぇ。卵の状態は、ようやく柔らかい殻ができたくらいなので、今は衝撃を与えないよう気をつけていただければ」
「衝撃……。どのくらいの強さが駄目なの?」
思いがけない忠告に、スノウは真剣な眼差しでドリーを見つめる。
子どもたちを守るのは親としてのスノウの役目だ。その思いはおそらく、アークよりも強い。
「どのくらい……転んだり、机にぶつかったり、そういうのは避けてください」
「気をつける」
大きく頷く。
転んだら駄目なのか。それなら、歩く時はもっと気をつけないと。そうなると、アークに抱えてもらったのはそういう意味でもありがたいことだったのかもしれない。
「……万が一にも怪我をしないよう、守護の腕輪が働くはずだ。あまり気負わなくていい」
髪を梳かすように頭を撫でられる。その優しい仕草が、アークの慈しみの表れだった。自分の子どもへの実感が薄くとも、スノウへの想いはあふれんばかりにある。
「そっか。そういうのでも、これの効果があるんだ。嬉しいよ、ありがとう」
子どもの頃にもらった、大切な腕輪を手で撫でる。
あまり効果を確認したことはないけれど、いつだってスノウを守ってくれるものだ。
「あ、そういうことなら心配なさそうですね」
「そうみたい。後、気をつけることは?」
「栄養とかは料理人が気にかけているはずですし、その他もルイスが手配しているでしょう」
ちらりと視線を向けられたルイスが重々しく頷き返す。
「万事抜かりなく」
「意外に頼りになるから驚きます」
「意外ってひどいです。私はスライム族のエリートですよ!」
「それは否定しません」
ルイスの抗議を軽く聞き流したドリーが、「あ――」と呟く。そして、アークをちらりと眺め、肩をすくめた。
「衝撃には性交も含まれるので。殻が固くなる第二週が過ぎるまで夜はお預けです」
「え、そうなんだ」
目を丸くするスノウの横で、アークが「やはり、そうか……」と苦々しげに呟きながら肩を落とした。
幸いなことに、一人も患者がいなかったようで、スノウたちはドリーに喜んで迎え入れられた。
「お呼びでしたら、私の方から伺いましたのに」
「俺はそうするつもりだったんだがな」
「ここ、結構居心地がいいことを知っちゃったから」
ふふ、と笑いながら答える。これは嘘ではない。
視界をスライムたちがぷよぷよと飛び跳ねている光景は、なかなか面白くて好きだ。
ルイスが「私ではご不満ですか~っ」と泣き真似をしている。他のスライム族に目を奪われているスノウに、自尊心が傷ついているらしい。
もちろんスノウはルイスのことが大好きだし、不満はない。でも、それはそれとして、ごく普通のスライムも可愛がりたいのだ。
「そんなにスライムが好きなんて、番様は変わっていらっしゃいますね……」
「ぬいぐるみ感覚なのではないか」
近づいてきたスライムを膝に抱き上げ、もちもちぷるるんとした不思議な触感を楽しむ。
さすがのアークも、スライムに嫉妬することはないようだ。お世話係にルイスを選出しているところからも、スライム族は同じ魔族というよりペット枠に近いように感じられる。
「スライムって、可愛がるものじゃないの?」
「番様は、雨上がりの後の水たまりを可愛いと思いますか?」
「……なんか、それは、ひどい」
ドリーの言葉は失礼に思えるけれど、アークばかりかルイスからも文句はでなかった。つまり、そのくらいの感覚が一般的だということ。
スライムって思っていた以上に可哀相な種族なのかな、とスノウが真剣な顔になってしまったのは仕方ない。
平和にぽよんぽよんと跳ねているスライムたちは、そんな哀れみなんて一切欲しがっていないのだろうけれど。
「ルイスって、だいぶ特殊?」
「そうだな。俺が手をかけたから」
「そうです。陛下さまさまです。頭が上がりません」
ルイスが胸を張って答える。凄いのはアークのはずなのに、なんだかルイスの功績みたいだ。
アークが少し呆れた顔でルイスを眺める。
「思い切り正面から俺を見ているぞ」
「陛下は大変お優しい方なので」
「思ってもいないことを言う。書物で余計なことを学びすぎているんじゃないか。どうせなら殊勝な態度というものを学べ」
「その言葉は、まだ私の脳内の辞書には存在していないようです」
シレッとした顔でのたまうルイスを、アークだけでなくドリーまで白い目で見ていた。
「……年々、厚かましくなる」
「それも成長なのでしょうか。一度研究させていただいても?」
「構わん」
「構いますー! スノウ様のお世話係が、私以外に務まりますか!?」
拳を握って主張するルイスに、アークがあっさりと「たくさんいるだろうな」と答えた。
たまらず、ルイスはわんわんと泣く。涙が出ていないのは御愛嬌。ルイスの嘘泣きは、まだ練習途中なのだ。
「僕はルイスがいいよ。大丈夫だよ。僕が傍にいてほしいんだって、アークにお願いするからね」
「私の味方はスノウ様だけです~!」
スノウに抱きつき、ルイスが満面の笑みを浮かべる。楽しそうでなにより。
「……スノウはルイスに甘い」
「だって、僕の一番最初のお友達で、お兄ちゃんだもん」
「はぅっ……私は、スノウ様の、お兄ちゃん……!」
恍惚とした表情でルイスが胸を押さえる。いちいち大げさな態度だけれど、面白いから止める気はない。
楽しんでいるスノウとは違い、アークとドリーは冷たい表情だったけれど、ルイスは一切気にしていないようだ。
「ごほんっ……それで、本日のご用件は卵についてですか?」
ドリーがおふざけを打ち切り、真剣な表情で口火を切る。既にスノウの状態は把握できている様子だ。さすが本職の医師である。
「うん。状態が大丈夫かな、って聞きたいのと……後、その、……夜はどうしたらいいのか、教えてもらえたらなぁって」
「夜。……なるほど、それで」
うんうん、と頷くと、ドリーはアークに生温かい目を向けた。
アークは少し気まずそうに視線を逸らしている。
「そうですねぇ。卵の状態は、ようやく柔らかい殻ができたくらいなので、今は衝撃を与えないよう気をつけていただければ」
「衝撃……。どのくらいの強さが駄目なの?」
思いがけない忠告に、スノウは真剣な眼差しでドリーを見つめる。
子どもたちを守るのは親としてのスノウの役目だ。その思いはおそらく、アークよりも強い。
「どのくらい……転んだり、机にぶつかったり、そういうのは避けてください」
「気をつける」
大きく頷く。
転んだら駄目なのか。それなら、歩く時はもっと気をつけないと。そうなると、アークに抱えてもらったのはそういう意味でもありがたいことだったのかもしれない。
「……万が一にも怪我をしないよう、守護の腕輪が働くはずだ。あまり気負わなくていい」
髪を梳かすように頭を撫でられる。その優しい仕草が、アークの慈しみの表れだった。自分の子どもへの実感が薄くとも、スノウへの想いはあふれんばかりにある。
「そっか。そういうのでも、これの効果があるんだ。嬉しいよ、ありがとう」
子どもの頃にもらった、大切な腕輪を手で撫でる。
あまり効果を確認したことはないけれど、いつだってスノウを守ってくれるものだ。
「あ、そういうことなら心配なさそうですね」
「そうみたい。後、気をつけることは?」
「栄養とかは料理人が気にかけているはずですし、その他もルイスが手配しているでしょう」
ちらりと視線を向けられたルイスが重々しく頷き返す。
「万事抜かりなく」
「意外に頼りになるから驚きます」
「意外ってひどいです。私はスライム族のエリートですよ!」
「それは否定しません」
ルイスの抗議を軽く聞き流したドリーが、「あ――」と呟く。そして、アークをちらりと眺め、肩をすくめた。
「衝撃には性交も含まれるので。殻が固くなる第二週が過ぎるまで夜はお預けです」
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