雪豹くんは魔王さまに溺愛される

asagi

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続々.雪豹くんと新しい家族

3-37.思い合うということ

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 ロウエンと執務室に帰ったら、今度はアークと廊下を歩く。
 と言っても、スノウはアークに抱えられた状態だけれど。アーク曰く、今日のスノウは歩きすぎらしい。

 いつもとさほど違いがあるわけではないので、スノウは首を傾げてしまったけれど、とりあえず従っている。アークに抱っこされるのが嬉しい、というのも理由の一つである。

「医師に見せるなら、普通に部屋に呼べばいいと思うが。それに、卵があるかどうかの判断くらい、俺でもできる」
「それはもう、僕もほとんど確信しているよ。ただ、これからの注意事項とか、お医者さんの話を聞きたいの。そのために、医務室を空にさせるのは申し訳ないよ」

 どうやら今日は、医師の多くが出払っているらしい。
 今は医務室に、以前スノウを診察してくれたドリーがいるようなので、訪ねるつもりだ。多少なりとも慣れた医師の方が、色々と相談しやすそうなので。

「それこそ、今日でなくとも――」

 なぜか不満そうなアークの頬に手を添えて顔を瞳を覗き込む。ピタリと口を噤んだのを少し不思議に思いながら微笑みかけた。

「わがまま言わないの。あのね……」

 言うか言うまいか迷っていたけれど、アークを納得させるには仕方ない。
 耳を近づけるよう促して、スノウは声を潜めて囁きかける。

「――夜のこと。どれくらいしても大丈夫なのかなぁって、早めに聞いておいた方がいいでしょ? アーク知らないもんね?」
「っ……それは、そう、だな」

 なんだか照れくさい気分だったけれど、アークの神妙な面持ちでの頷きを見て笑ってしまった。そんなに真剣に考えることなのかな。

「ふふっ。アーク、可愛いね」
「……少々不本意な評価だ」
「可愛いを愛しいに言い換えたら?」
「喜んで受け取ろう」

 にこりと笑ったアークが、スノウの額にキスを落とす。続いてこめかみや頬にも。今いる場所なんてお構いなしの振る舞いだ。

 スノウはアークの額をペシッと叩いて止めた。危うく流されそうになってしまった。

「ここじゃだーめ」
「では、部屋に戻ろう」
「話が振り出しに戻ったー……」

 わざとらしく嘆くと、アークがクツクツと喉で笑った。
 双方ともに、これが戯れであると分かっている。こんな些細なことでも、番と共にいれば楽しくて仕方ない。

「――あ、そうだ。さっき、ロウエンさんを呼び出したのはどうしてだったの? 用があったわけじゃないんだよね?」

 ふと浮かんだ疑問を呟く。ロウエンに尋ねても、明確な答えが返らなかったのだ。

 アークは微笑みを消し、軽く眉を顰める。そして、ため息混じりに説明を始めた。

「ロウエンは、やると覚悟を決めたならば、やりきるだろう。だが、その過程で精神的負担が生じないわけがない。それでもあいつは、その程度のことは無視してしまうヤツだ」
「……うん」

 なんとなく話が見えてきた。
 スノウも神妙に声を潜め、周囲に話を聞かれないよう気を配る。

「俺が使いを出したタイミングが、おそらくロウエンにとってギリギリのラインだったはずだ。それ以上長引けば、生じた精神的負担によってロウエンの態度が悪くなり、そのせいでマルモとの交流が上手くいかなくなる可能性があった」

 アークが言っていることは正しいのだろう。なぜなら、ロウエンもアークの気遣いに感謝している様子だったのだから。

 ロウエンの精神状態に、すぐ傍にいたスノウが気づけなかったことは少し寂しい。でも、それが付き合いの長さゆえだと納得できる。
 ロウエンとスノウの関係性はこれからより深くなっていくはずなのだ。スノウの方はそうするつもりである。

「……ロウエンさん、楽しそうだったけど」
「本能だろう。運命の番を引き合わせる力は、それだけ強い。だが、普段理性的なあいつは、本能に振り回されることを受け入れがたい。無意識に抵抗するから疲労感が生まれるんだ」
「そっかぁ……なんか、分かるかも」

 ロウエンの心の中で生じていた葛藤を思うと、スノウは頷くしかなかった。
 そこでふと、ある考えが浮かぶ。

「――でも、運命の力だけじゃなくて、理性でも惹かれたなら、二人の関係はより良くなるね」
「ん? それは、どういう意味だ?」

 不思議そうな顔をするアークの頬を撫で、スノウは微笑んだ。

「アークは僕を運命の力で見つけてくれたのかもしれないけど。僕たちの間にあるのはそれだけじゃないでしょ? 僕はアークを愛しているし、アークも僕を愛してる。たとえ運命の番じゃなかったとしても、僕たちは愛し合う番になったと思うんだ」

 もしも、なんて仮定しても意味のないこと。でも、そう信じられるだけの想いが、スノウとアークには存在しているはずだ。
 そして、それほどの想いをロウエンたちも抱けるようになれば、苦しみは和らぎ、幸せを得られると思うのだ。

「――僕たちみたいに、ロウエンさんたちにも、幸せになってもらいたい」

 お腹を撫でる。
 スノウは今幸せいっぱいだ。この幸せが少しでもロウエンたちにも降り注げばいいのにと願う。

「そうだな……」

 アークはスノウの願いに目を細め頷いた。

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