貧乏子爵令息のオメガは王弟殿下に溺愛されているようです

asagi

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Ⅰ‐ⅳ.僕とあなたの高まり

60.熱い交わり

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 甘い香りに支配されたように、身体の自由がきかない。
 それなのに、危機感は一切なくて、多幸感が頭の中に満ちていた。

 見上げると、冷たく感じられがちな薄青の瞳が熱情を湛えていて、ギラギラと表現したくなるほどの強い眼差しを感じる。

「ジル様……」

 横たわったベッドの上で、招くように手を伸ばしていた。
 少し離れているだけでも寂しくなってしまう。もっと、もっと、ジル様の香りを、体温を、近くに感じていたい。

「フラン、いい顔だ」

 頬を撫でられる。その手にすり寄りながら首を傾げた。
 いい顔、とはどういう意味だろう?

「――愛されたがっている表情だと言っているんだ。可愛らしい」
「ん……」

 唇が重なる。
 ジル様の少しカサついていた唇を、ちろりと舐めてみた。

 ピクッと小さく身体を震わせたジル様が、次の瞬間に食いつくように口づけを深める。舌が絡み、唾液がかき混ぜられて、くちゅくちゅと音がするのがあまりに淫らだった。

 お腹の奥がきゅん、と収縮して潤み始める。これは発情期ヒートの時の感覚に似ていた。身体が火照って、ムズムズする。

 ……僕は今、ジル様のことが、ほしくてたまらないんだ。

 覆いかぶさっているジル様に抱きついて、無意識で腰を擦り付けていた。

「感じてるのか」
「ふ、あ、ぁ……」

 口づけから解放されて、必死に呼吸を整える。なにを言われているのか、理解できるような余裕はなかった。

 熱い。ほしい。もっと愛して――。

「……噛みたい」

 首筋に顔を埋めて、ジル様がスンッと匂いを嗅ぐ。その息遣いにさえ、腰の辺りからゾクゾクと甘い刺激が駆け上がり、一向に息が整わない。

「かんで……」

 よくわからないまま、喘ぐように囁く。
 ジル様が望むことなら、なんでも叶えてあげたい。その代わり、僕をもっと愛してほしい。

「っ……いいのか?」

 空気に漂う甘さが、さらに濃密になった気がした。
 呼吸するたびに僕の中に入り込んできて、すでにいっぱいに満たされている。

 トロリ、と意識が蕩けていくような感覚に身を任せた。ジル様が僕にひどいことをするはずがないんだから、大丈夫だよね……?



◆◇◆



 褥での熱い交わりが始まって、どれほどの時間が経ったのか。
 僕にとっては永遠に等しく思えて、もうなにがなんだかわからない状態になっていた。

 最初は僕を気遣いながら、優しく愛撫してくれていたジル様も、今では欲望を叩きつけるように激しく攻め立ててくる。
 それさえも、深い愛情の証のように感じられて、喜びが湧いてくるのだからどうしようもない。

「あ、ぁ、っ! ん、そこ、だめ、ぇ……」
「気持ちいいだろう?」

 ガツガツと背後から突かれる。
 その度に、快感が襲いかかってきて、シーツをぎゅっと握って枕に額を擦り付けた。

 快感から逃げたくなって身動ぎしても、ジル様が腰を掴んでいるから意味がない。むしろ、逃げようとしたのを咎めるように、一際強く奥まで突かれて、力なく突っ伏してしまった。

 丹念にほぐされた後孔は、大きすぎるジル様のものを飲み込んでぎゅう、と締め付ける。それでさらに快感が強まるのだから、どうしたらいいのかもうわからない。

 制御のきかない身体を持て余して、ジル様に揺さぶられるままに喘ぐしかなかった。

「も、だめ、いっ、ちゃう……!」
「もう少し我慢してくれ」
「ひぅっ!?」

 前を掴まれて、解放することさえ妨げられて、思わず涙がこぼれた。
 どうして、だめなの。たすけて――。

「一緒にいきたい」
「ああっ!」

 項に熱い息がかかって、反射的にのけぞった。
 身体が甘く痺れる。アルファの息遣いをそこに感じると、無条件で明け渡したくなった。

 噛んで。僕を、ジル様のものにして。……ジル様を、僕のものにしたい。

 オメガとしての本能がこれ以上なく高まっていた。
 支配されたいし、独占したい。そうすることが自然なことのように思える。

「――かんで、っ……ジル様の、跡を、つけて……!」

 一生残る所有印を僕の身体に刻みつけてほしい。

「っ……ああ、わかった」
「ふ、あっ……んぅ……!」

 項に熱い舌が這った。ゾクゾクとこみ上げてきた快感で、溢れ出そうになる喘ぎ声を、枕を噛んでこらえる。
 敏感なそこに、ジル様の跡を刻んでもらえるのは、なによりも幸せなことであるような気がした。

「くっ……噛むぞ」
「あぅっ」

 身体を貫くように、ジル様のものが最奥まで入り込んでくる。
 その充溢感は例えようもなく、涙が出そうになるほど感じ入ってしまった。

 項に硬い感触。
 最奥に熱い飛沫を感じた瞬間に、衝撃が全身を貫いた。頭の中が真っ白になる。

 グッグッ、と押し込まれる歯の感触とともに押し寄せるのは、想像したこともないほどの幸福感。
 一切の不安なく、すべてに満たされたような感覚は、きっとこれから先に再び味わうことはできないのだろう。

「ぁ……ぁ、う……!」

 ガクガクと震える腰を掴まれて、更に奥を求めるように、熱と硬さを保ったままのものがグイグイと押し付けられる。
 そんな動きに、イッたばかりの身体は敏感に快感を拾ってしまって、熱が再び高まっていくのを感じた。

「……気持ちいい」

 常は冷静な口調のジル様が、熱に浮かされたように囁くのが嬉しくてたまらない。
 僕だけが、こんな姿を見ることができるのだ。

「あん、ん……好き、です……」
「俺も、愛してる……」

 ジル様を抱きしめられないのが寂しい。顔を見たい。
 握りしめていたシーツを離して、後ろを振り返る。そっと手を伸ばしたら、僕の意思を察したのか、中に埋められていたものがズズッと抜けていくのがわかった。

「あうっ」
「血が出てしまったな」

 項をペロッと舐められて、身体がコロンと転がされる。
 正面から隙間なく抱き合うと、安心感を覚えて自然とホッと息がこぼれた。

「ジル様……」
「フラン、愛してる。フランは、俺のものだ」
「ふふ……ジル様も、僕のものに、なってくださいますか……」

 一瞬丸くなった目が、柔らかく細められるのを見て、幸せを感じた。

「もちろんだ。俺はフランのものだ」
「大好きです、ジル様」

 唇が重なる。呼吸さえ飲み込むような激しい交わりさえも、愛情を感じた。

 脚を持ち上げられて、再び後孔を貫かれる。熱い交接の再開を、ジル様に抱きついて喜んだ。

 夜はまだ明けない。

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