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3,異星人で異性人
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夕食はエスターの部屋で取ることにした。
テリエさんは、恐れ多くて一緒に食べるどころか、部屋の隅で食事が終わるまでずっと跪いているので、鬱陶しくて仕方ないそうだ。
祐子さんは当たり前の様に俺の目の前で食うぞと伝えると、真剣に羨ましがったので、じゃあ俺でいいなら一緒に食うか?と聞いたら、諸手を挙げて喜んでいた。ついでにとばかり、祐子さんにも声を掛けたエスターだが、祐子さんには断られたらしい。
「ふ、二人とも、仕事だから、仕方がないな」
そう言いながら、エスターの目がなぜか泳いでいた。
「祐子さんになんか言われたの?」
「いや、別に何も言われていない、うん、何にもな」
はははははと笑うエスターの笑いはどこかぎこちなかった。
ちなみに、椅子とベッドどちらが良いと聞かれたので、正直にベッドの方が柔らかいのでベッドと答えると、エスターの顔が真っ赤になり、そ、そうかとなぜか嬉しそうにしていた。何を考えてるんですか、エスターさん・・・・
今は、食事を終えて、エスターが期間限定抹茶アイスを口に運びながら、パルクの簡易モニタに視線を向けていた。俺の小遣い今月大ピンチです。
俺はお茶を飲みながら心の中で涙を流していた。
「面白い物が有るぞ」
エスターの言葉に、俺は湯飲みから顔を上げた。
この学校支給のパルクはもちろん、地球製ではなく、そのIFはシミュレータと同じく知覚に直接アクセスする表層心理通信である。しかし、いちいち表層心理通信でリンクするまでもない簡単なことは付属のモニタでも確認が出来るようになっている。結果として、その形はまるでタブレットのようである。
「リンクするぞ」
エスターの言葉に俺がお茶をすすりながら、頷いた。
パルクの表層心理通信内の光景は独特である。シミュレータの場合は、その背景は何もない空間になるのだが、例えば、エスターのこのパルクの場合、簡易モニタの壁紙は青一色である。そうするとリンクが確立した今の俺の様なビジターには、現実の光景にオーバーラップして辺り一面が青い世界に降り立ったかの様な錯覚に陥る空間に降り立つことになる。その中に、簡易モニタに表示されているファイルのアイコンが空中に浮かんでいるように見えるので、それを触るような行動を取ることで内容を読むことが出来るのである。同じような行動でネット検索も専用のアイコンを触ることで可能となるのである。
俺の目の前にその面白い物が、映し出された。
商品棚を前にして、屈み込み、こちらを少し驚いた顔で見る俺の映像。
「・・・・・・・」
「【幻の超弩級美少年、エフェクト解除前に現れた謎の一年生、彼は実在するのか】だそうだ」
喉の奥で笑いながらエスターがタイトルを読んだ。
特技科ニュース。
俺達が毎日見ていた筈のそれは、俺達の知らない情報に満ちていた。知覚操作のおかげで、見ても認識出来なかったコーナーが沢山ある。
「なにが楽しくて俺の顔写真なんか、掲載されるのか分からない」
「ああ、そうだな」
またエスターが喉の奥で笑った。ちなみに現在、俺達の会話は肉声で行われている。パルクにも簡易的な無音モードと呼ばれる第三者に会話が聞かれる恐れがないモードも備わっているが、意識を高速化している訳でもないので、このような場合では肉声が主な会話の手段であった。
「閲覧のカウントが鰻登りに上がっているな、明日の朝にはお前は有名人だ。好物は草餅と抹茶アイスか、特に抹茶アイスは大好物の様だと書いてある」
「冗談としか思えない」
俺はうんざりしてそう答えた。
「まぁ。そう思っていればいい、普段のお前でいいんだ」
「普段以外の自分って俺は知らん」
「そうか?私は普段以外の自分を持っているが?」
「お姫様のエスター?」
「そう言うことになる」
「氷の妖精?」
エスターが期間限定抹茶アイスを吹き出した。リアルスペース、すなわち現実の空間で正面に座っていた俺はまともに期間限定抹茶アイスの飛沫を食らうことになった。
慌てて俺の顔をウエットティッシュで拭うエスター。
あれ?ウエットティッシュなんか有ったっけ?
見ると、ベッドの枕元には普通のティッシュとウエットティッシュが置かれている。さっき食事の用意と片付けをしてくれた祐子さんがエスターに何かを渡していたがそれか?
「それをどこで聞いた?って聞くまでもないか、購買部だな」
「そうかもね、他も見て良いか?」
「ああ、好きに見て構わない」
許可を得た俺は、記事の一覧を開いた。
トップのアイコンを指先で触れて、横にスライドさせると、カテゴリー別にウインドウが開いていく。
「氷の妖精と呼ばれるのは、私の名誉であり、同時に汚点でもある。氷の妖精は見る物全てを凍らす伝説の怪物だ・・・・・それほど冷たい人間の事だ」
「そんな人間を演じているんだ、疲れるだろ」
「・・・・・・」
エスターが言葉を失い、そして、微笑んだ。どことなく泣きそうな顔であった。
「なんだ?」
「いや、お前が天然で良かったと思ってな」
「自覚はない・・・・・」
「ああ、そうだろう、しかし、礼を言っておく、お前が初めてだ、そう言ってくれたのは」
「見る物全てを凍らすような人間は、期間限定抹茶アイスを人の顔に吹き出したりしないと思っただけだ」
俺はそう言いながら、色々な記事に目を通していった。
「なるほど、天然ながら色々と考えているわけだ」
「だから、天然言うな」
憮然とした俺にエスターが今度は楽しそうに笑った。
俺は教師のプロフィールを開いた。昨日の朝に見たやつである。何気なしにアジス先生を見るとやはりというか女性であった。マリネルを背負っていた時に見た女の人の写真がそこに有った。やっぱりどことなくアミアミ姉ちゃんに似ているなと思いつつ、ディッケも見てみると、こちらも女性であった。とら姉さんのように、厳ついというより、ブラッゲをもっと筋肉質にした感じの女の人である。その写真だけを見ると少々自信過剰な所は見受けられるが、そんなに悪い人間には見えない。ミリエ・オーガスも調べてみたが、特別講師の写真は掲載されていなかった。あの胡散臭い男を見てみたかったのだが、無いものは仕方がない。
「改めて見ると・・・・やっぱディッケって、悪い人には見えないんだけどな・・・」
リアルでのエスターが頬杖をつき、俺をじっと見つめてきた。
「なんだ?」
「お前、やっぱり、鋭いのか?」
「何をそんなわかりきったことを・・・・」
「・・・・・・・・簡易的なものだが、目を通しておけ」
仮想空間内にファイルが浮き出してきた。
「ディッケの調査記録?」
ファイルの内容に意識を向けると、ディッケの友人知人の談話から、学生時代の成績、評価、果ては産まれた時からの公的記録から、私的な記録までが全て書かれたファイルであった。プライバシーという言葉はもしかして、ステイン星系には存在しないのでは無いかと思えるほど生々しい記録である。例えば、ディッケが今までに付き合った男の名と時期。そしてその彼氏との行為までもが、記載されていた。これで簡易的となれば、オリジナルはどれほどのものか想像しただけで薄ら寒くなってくる。
「エスター・・・・・ステイン星系にプライバシーという言葉は、あるよね?」
「当たり前だ、地球よりも個人情報についての制限は厳しい・・・・」
「それを聞いて、安心したよ」
「安心している顔には見えないが?」
そりゃそうだ、ここまで生々しい女性の記録を目の当たりにすることなど、そうそうないものである。眉間に皺が寄るぐらいは勘弁して貰いたい。
「・・・・・・・・」
ふと気がつくと、リアルでのエスターが俺の顔に見入っていた。
「?何だ?」
「え?な、何だ?」
俺が聞くとエスターは我に返ったように慌てて背筋を伸ばした。
「べ、別に、辛そうに他人のプライベートを覗き込んでいるその姿が、凄く可愛いとか綺麗とか、そんなことは思っていないぞ?」
「・・・・・・・」
時折訳のわからないことを口走るエスターであった。
「そ、そんな事より、それを読んでお前はどう思った?」
顔を真っ赤にしながらもエスターが俺の意見を求めた。
「まだ、全部読んでないが・・・・こりゃびっくりだ」
俺が知っているディッケは自己保身と自己欺瞞、そして権力の権化と感じていたのだが、そのファイルに書かれている人物は、全く正反対の人物であった。
そもそも、ディッケは権力を振りかざす親族を嫌っているのだ。
ディッケが親族を嫌う切っ掛けになったのは、タミルークスという名の地球によく似た恒星に作られた救難科に強制的に入らされたことであるという事実は皮肉と言うしかない。
当時のディッケも自分が裏口入学であることを知っていた節がある。そしてディッケは 己の実力を知っていたからこそ、自分がその場にいることについて罪悪感に苛まれ、そして己を責めた。
ディッケがエレクアントに出会い、これにのめり込んでいったのはこの時期である。
無意識的に目に見える単純な力に引かれたのであろうとエスターは呟いた。
それ以降のディッケはエレクアントの流派に所属し、その頭角を現すことになる。
「当時からディッケはかなりの正義感と使命感を持っていた事が伺える。その原因が元をただせば自分の裏口入学に対する罪悪感から来たものであったとしても、実際ディッケを慕う学友は多く、未だにディッケを親友、もしくは恩人と呼ぶ者も多い。実際、昨年までノーラステインのマルゾーヤ高等学校の体育教師をしていたディッケは多少精神論的な面もあるが、生徒の面倒見も良く、特に落ちこぼれた生徒に対する指導は献身的と表現出来る」
「これって、本当にあのディッケなのか?」
俺の質問にエスターが頷いた。
「そこに書かれているマルゾーヤ高校の記録は表向きは削除されていた。お粗末な削除の仕方は、システムに詳しくない民間人の仕業だな。この学校の教師の一人に不審な金が振り込まれているが多分そいつの仕業だろう・・・・・・」
「その不審な金の出所は解っているのか?」
俺の質問にエスターは頷いた。頷いたが、それの出所を口にしないのは、俺に余計な事を背負わせないためである事も俺には解った。
「ところでこのランツって言う人、有名人なの?」
「ん?ディッケの師匠か。ああ、かなり有名だったな。美男子格闘家として実力よりもビジュアル的に話題になったが、実力はかなりのものであったらしい」
「死亡?・・・・」
そのファイルには、二年前に姿を消して以来、その姿を確認した者はいないと書かれている。
かなりの確立で既に死亡していると考えられるていると結ばれている。
「ああ、そうだ、旅先で瀕死の重傷を負ったらしく、その旅先の病院で死んだらしい」
俺は不思議な感覚を抱いていた。これだけきっちりと調べ上げられている資料で、そこだけが漠然としているのだ。
「・・・・・そこはまだ調査中だ。ただ、ランツの最後を看取ったのはディッケだったそうだ」
俺が疑問を感じているのが解ったのか、エスターがそう言ってきた。
テリエさんは、恐れ多くて一緒に食べるどころか、部屋の隅で食事が終わるまでずっと跪いているので、鬱陶しくて仕方ないそうだ。
祐子さんは当たり前の様に俺の目の前で食うぞと伝えると、真剣に羨ましがったので、じゃあ俺でいいなら一緒に食うか?と聞いたら、諸手を挙げて喜んでいた。ついでにとばかり、祐子さんにも声を掛けたエスターだが、祐子さんには断られたらしい。
「ふ、二人とも、仕事だから、仕方がないな」
そう言いながら、エスターの目がなぜか泳いでいた。
「祐子さんになんか言われたの?」
「いや、別に何も言われていない、うん、何にもな」
はははははと笑うエスターの笑いはどこかぎこちなかった。
ちなみに、椅子とベッドどちらが良いと聞かれたので、正直にベッドの方が柔らかいのでベッドと答えると、エスターの顔が真っ赤になり、そ、そうかとなぜか嬉しそうにしていた。何を考えてるんですか、エスターさん・・・・
今は、食事を終えて、エスターが期間限定抹茶アイスを口に運びながら、パルクの簡易モニタに視線を向けていた。俺の小遣い今月大ピンチです。
俺はお茶を飲みながら心の中で涙を流していた。
「面白い物が有るぞ」
エスターの言葉に、俺は湯飲みから顔を上げた。
この学校支給のパルクはもちろん、地球製ではなく、そのIFはシミュレータと同じく知覚に直接アクセスする表層心理通信である。しかし、いちいち表層心理通信でリンクするまでもない簡単なことは付属のモニタでも確認が出来るようになっている。結果として、その形はまるでタブレットのようである。
「リンクするぞ」
エスターの言葉に俺がお茶をすすりながら、頷いた。
パルクの表層心理通信内の光景は独特である。シミュレータの場合は、その背景は何もない空間になるのだが、例えば、エスターのこのパルクの場合、簡易モニタの壁紙は青一色である。そうするとリンクが確立した今の俺の様なビジターには、現実の光景にオーバーラップして辺り一面が青い世界に降り立ったかの様な錯覚に陥る空間に降り立つことになる。その中に、簡易モニタに表示されているファイルのアイコンが空中に浮かんでいるように見えるので、それを触るような行動を取ることで内容を読むことが出来るのである。同じような行動でネット検索も専用のアイコンを触ることで可能となるのである。
俺の目の前にその面白い物が、映し出された。
商品棚を前にして、屈み込み、こちらを少し驚いた顔で見る俺の映像。
「・・・・・・・」
「【幻の超弩級美少年、エフェクト解除前に現れた謎の一年生、彼は実在するのか】だそうだ」
喉の奥で笑いながらエスターがタイトルを読んだ。
特技科ニュース。
俺達が毎日見ていた筈のそれは、俺達の知らない情報に満ちていた。知覚操作のおかげで、見ても認識出来なかったコーナーが沢山ある。
「なにが楽しくて俺の顔写真なんか、掲載されるのか分からない」
「ああ、そうだな」
またエスターが喉の奥で笑った。ちなみに現在、俺達の会話は肉声で行われている。パルクにも簡易的な無音モードと呼ばれる第三者に会話が聞かれる恐れがないモードも備わっているが、意識を高速化している訳でもないので、このような場合では肉声が主な会話の手段であった。
「閲覧のカウントが鰻登りに上がっているな、明日の朝にはお前は有名人だ。好物は草餅と抹茶アイスか、特に抹茶アイスは大好物の様だと書いてある」
「冗談としか思えない」
俺はうんざりしてそう答えた。
「まぁ。そう思っていればいい、普段のお前でいいんだ」
「普段以外の自分って俺は知らん」
「そうか?私は普段以外の自分を持っているが?」
「お姫様のエスター?」
「そう言うことになる」
「氷の妖精?」
エスターが期間限定抹茶アイスを吹き出した。リアルスペース、すなわち現実の空間で正面に座っていた俺はまともに期間限定抹茶アイスの飛沫を食らうことになった。
慌てて俺の顔をウエットティッシュで拭うエスター。
あれ?ウエットティッシュなんか有ったっけ?
見ると、ベッドの枕元には普通のティッシュとウエットティッシュが置かれている。さっき食事の用意と片付けをしてくれた祐子さんがエスターに何かを渡していたがそれか?
「それをどこで聞いた?って聞くまでもないか、購買部だな」
「そうかもね、他も見て良いか?」
「ああ、好きに見て構わない」
許可を得た俺は、記事の一覧を開いた。
トップのアイコンを指先で触れて、横にスライドさせると、カテゴリー別にウインドウが開いていく。
「氷の妖精と呼ばれるのは、私の名誉であり、同時に汚点でもある。氷の妖精は見る物全てを凍らす伝説の怪物だ・・・・・それほど冷たい人間の事だ」
「そんな人間を演じているんだ、疲れるだろ」
「・・・・・・」
エスターが言葉を失い、そして、微笑んだ。どことなく泣きそうな顔であった。
「なんだ?」
「いや、お前が天然で良かったと思ってな」
「自覚はない・・・・・」
「ああ、そうだろう、しかし、礼を言っておく、お前が初めてだ、そう言ってくれたのは」
「見る物全てを凍らすような人間は、期間限定抹茶アイスを人の顔に吹き出したりしないと思っただけだ」
俺はそう言いながら、色々な記事に目を通していった。
「なるほど、天然ながら色々と考えているわけだ」
「だから、天然言うな」
憮然とした俺にエスターが今度は楽しそうに笑った。
俺は教師のプロフィールを開いた。昨日の朝に見たやつである。何気なしにアジス先生を見るとやはりというか女性であった。マリネルを背負っていた時に見た女の人の写真がそこに有った。やっぱりどことなくアミアミ姉ちゃんに似ているなと思いつつ、ディッケも見てみると、こちらも女性であった。とら姉さんのように、厳ついというより、ブラッゲをもっと筋肉質にした感じの女の人である。その写真だけを見ると少々自信過剰な所は見受けられるが、そんなに悪い人間には見えない。ミリエ・オーガスも調べてみたが、特別講師の写真は掲載されていなかった。あの胡散臭い男を見てみたかったのだが、無いものは仕方がない。
「改めて見ると・・・・やっぱディッケって、悪い人には見えないんだけどな・・・」
リアルでのエスターが頬杖をつき、俺をじっと見つめてきた。
「なんだ?」
「お前、やっぱり、鋭いのか?」
「何をそんなわかりきったことを・・・・」
「・・・・・・・・簡易的なものだが、目を通しておけ」
仮想空間内にファイルが浮き出してきた。
「ディッケの調査記録?」
ファイルの内容に意識を向けると、ディッケの友人知人の談話から、学生時代の成績、評価、果ては産まれた時からの公的記録から、私的な記録までが全て書かれたファイルであった。プライバシーという言葉はもしかして、ステイン星系には存在しないのでは無いかと思えるほど生々しい記録である。例えば、ディッケが今までに付き合った男の名と時期。そしてその彼氏との行為までもが、記載されていた。これで簡易的となれば、オリジナルはどれほどのものか想像しただけで薄ら寒くなってくる。
「エスター・・・・・ステイン星系にプライバシーという言葉は、あるよね?」
「当たり前だ、地球よりも個人情報についての制限は厳しい・・・・」
「それを聞いて、安心したよ」
「安心している顔には見えないが?」
そりゃそうだ、ここまで生々しい女性の記録を目の当たりにすることなど、そうそうないものである。眉間に皺が寄るぐらいは勘弁して貰いたい。
「・・・・・・・・」
ふと気がつくと、リアルでのエスターが俺の顔に見入っていた。
「?何だ?」
「え?な、何だ?」
俺が聞くとエスターは我に返ったように慌てて背筋を伸ばした。
「べ、別に、辛そうに他人のプライベートを覗き込んでいるその姿が、凄く可愛いとか綺麗とか、そんなことは思っていないぞ?」
「・・・・・・・」
時折訳のわからないことを口走るエスターであった。
「そ、そんな事より、それを読んでお前はどう思った?」
顔を真っ赤にしながらもエスターが俺の意見を求めた。
「まだ、全部読んでないが・・・・こりゃびっくりだ」
俺が知っているディッケは自己保身と自己欺瞞、そして権力の権化と感じていたのだが、そのファイルに書かれている人物は、全く正反対の人物であった。
そもそも、ディッケは権力を振りかざす親族を嫌っているのだ。
ディッケが親族を嫌う切っ掛けになったのは、タミルークスという名の地球によく似た恒星に作られた救難科に強制的に入らされたことであるという事実は皮肉と言うしかない。
当時のディッケも自分が裏口入学であることを知っていた節がある。そしてディッケは 己の実力を知っていたからこそ、自分がその場にいることについて罪悪感に苛まれ、そして己を責めた。
ディッケがエレクアントに出会い、これにのめり込んでいったのはこの時期である。
無意識的に目に見える単純な力に引かれたのであろうとエスターは呟いた。
それ以降のディッケはエレクアントの流派に所属し、その頭角を現すことになる。
「当時からディッケはかなりの正義感と使命感を持っていた事が伺える。その原因が元をただせば自分の裏口入学に対する罪悪感から来たものであったとしても、実際ディッケを慕う学友は多く、未だにディッケを親友、もしくは恩人と呼ぶ者も多い。実際、昨年までノーラステインのマルゾーヤ高等学校の体育教師をしていたディッケは多少精神論的な面もあるが、生徒の面倒見も良く、特に落ちこぼれた生徒に対する指導は献身的と表現出来る」
「これって、本当にあのディッケなのか?」
俺の質問にエスターが頷いた。
「そこに書かれているマルゾーヤ高校の記録は表向きは削除されていた。お粗末な削除の仕方は、システムに詳しくない民間人の仕業だな。この学校の教師の一人に不審な金が振り込まれているが多分そいつの仕業だろう・・・・・・」
「その不審な金の出所は解っているのか?」
俺の質問にエスターは頷いた。頷いたが、それの出所を口にしないのは、俺に余計な事を背負わせないためである事も俺には解った。
「ところでこのランツって言う人、有名人なの?」
「ん?ディッケの師匠か。ああ、かなり有名だったな。美男子格闘家として実力よりもビジュアル的に話題になったが、実力はかなりのものであったらしい」
「死亡?・・・・」
そのファイルには、二年前に姿を消して以来、その姿を確認した者はいないと書かれている。
かなりの確立で既に死亡していると考えられるていると結ばれている。
「ああ、そうだ、旅先で瀕死の重傷を負ったらしく、その旅先の病院で死んだらしい」
俺は不思議な感覚を抱いていた。これだけきっちりと調べ上げられている資料で、そこだけが漠然としているのだ。
「・・・・・そこはまだ調査中だ。ただ、ランツの最後を看取ったのはディッケだったそうだ」
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