オーバー・ターン!

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5,少しだけ賢くなりつつある子犬たち

5-1

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 「友弥、さっきのインタビューの記事、もうアップされているよ」
 俺はぐったりしながら、校舎が仰ぎ見える裏山に近い芝生に横たわっていた。
 生徒会役員と風紀委員に囲まれながら、ペイゼル達と各部活を巡っていた俺達は生徒会長に呼び出されたのだ。どうやら、俺に対する取材制限に対して、不満の意見が吹き出たらしい。特に昨日の理事会で俺の退学が決定になった時点で、その声は頂点に達したらしく、これ以上の取材制限は効果が無いと判断したらしい。そこで、生徒会の立ち会いの下、俺は新聞部のインタビューに答えたのだが、これがまた誘導尋問的な質問が多発し、エスターのサインを確認しながらの受け答えになり、神経がすり減ったのである。
 「でもすごいねぇ、さっきの受け答え、友弥ってああいうの慣れてるの?」
 「ぜんぜん」
 突っ伏したまま俺は答えた。
 「いえ、とても素敵でしたわ、堂々としていて、それでいて奥ゆかしく、決して相手の挑発などにも怒るような事はせず、最後の方では嫌味な質問を繰り返す相手の方が恐縮していましたもの」
 ペイゼルが感動したように両手を組んだ。
 「あれは、エスターの指示だ、俺はエスターの指示通りに受け答えをしただけだ」
 「そうなのか?」
 当のエスターが驚いたように聞いてくる。
 「エスター、俺のことフォローしていてくれてたよな?」
 「いや、そんなつもりはなかったが・・・・・ただ、厭な質問をしてきた時は少々苛つきはしたがな」
 「・・・・・俺の勘違い?」
 「少なくとも、私はお前に指示を出した覚えはない」
 「凄い偶然だね」
 マリネルの言葉で俺の疲労感が増した。
 「そ、それより、早いところご飯食べないと、エントリーに間に合いません」
 トライが慌てた様子で腕時計を確認している。
 「食べていないのは友弥だけだよぉー」
 マリネルがバスケットを振った。
 「さっきので食欲が吹き飛んだ・・・だめ、俺帰る」
 「何を繊細なふりしてるんだ、飯食え、もしくは私に食っても良いと言え」
 ブラッゲが俺に詰め寄ってきた。以前なら叩かれていたところだ。
 「まさか、マリネルではなく、友弥がこうなるとはな」
  女性恐怖症の気があるマリネルは、俺の近くにいれば普段通りであった。それでも女性の集団がこちらを見ていると、腰が引けるのは仕方がない。
 俺も集団で女性に見られると、腰が引けるのは確かだ。しかも黄色い声や、鼻血付きともなると腰が引けるだけではなく、逃げ出したくなる。なんというか異様な興奮をしている女性の集団というのは恐ろしい。
 中にはぎらぎらとした欲望丸出しの女性もいるわけで、頭の先からつま先までじっくりとなぶるように視線を這わされたあげくに、股間とか胸元とかを凝視されると、背中に悪寒を感じてしまうのだ。
 先程のインタビューをしてきた二人の先輩の片方がそうであった。
 やたらと触ろうとしてくるし・・・・・・
 そのたびに生徒会長に注意されていたので、触られることは無かったが、逆に生徒会長の注意がなかったら、俺がはり倒していたかもしれないと思うと、これはこれで凹む事実である。
 ああ、もっと物事に動じない冷静な自分になりたい・・・・・
 「諮らずとも、昨晩のマリネルの言葉が現実となるとは・・・・」
 エスターが口にした昨晩のマリネルの言葉とは、つまり全ては危険に飛び込むことを俺がしないという前提条件が必須だと言うことであったのだが、別の意味でマリネルの言葉が現実となったと言う訳である。
 「ペイゼル様、ライバルに死を送っても良いですか?」
 「な、な、なんて言うことを言うのですかログミール」
 「間違えました、塩を送っても良いですか?」
 お前今の絶対にわざとだろうと思いながら、親指を立ててしまった。俺の事であったとしてもナイスなタイミングでの突っ込みである。
 ログミールが親指を立て返してくる。
 「構いません、早くおやりなさい」
 では失礼いたしますとログミールは言うと、傍らに置いてあったパルクを手に取った。
 俺以外の全員がそれぞれのパルクを携帯していた。俺の記事をリアルタイムで読むためと、今日のデモに参加するチームはチームに一台はパルクを持ってくるように言われているかららしい。
 「友弥様、三十五分の一スケールのタイガーI型です」
 「?」
 「タイガーI型のプラモデルを景品に出している部活があります、しかも塗料付きです」
 俺は跳ね起きて、ログミールの傍らに座った。
 「な、な、なに?今の早さ・・・友弥の体が一瞬霞んだよね?」
 マリネルの声を無視して、ログミールがリンク解放してきたので、リンクを確立させた。
 赤と青地に白く切り抜いたメーカーのマークと、1/35の文字。
 【傾斜をつけて砲弾を弾くなんて邪道だ、俺は正面から、鉄板の厚さで勝負するぜ、それが男というのもだ】的な一種の無謀さを感じさせるフォルムのパッケージイラスト。
 「あの時の三割引タイガーか!」
 「塗料の方は、サーフェサーは付いていませんね、接着剤も付いていませんが」
 「混合格闘技部のミニゲーム?」
 「部員が頭にくくりつけているアイテムを制限時間三分以内で取るというのをトーナメントで行うらしいですね、未だに景品を手にした者はいないようです。如何ですか?」
 「マリネル、俺の飯くれ」
 俺のテンションが上がってきた。マリネルからバスケットを受け取り、太巻きにかぶりついた。
 「タイガーI型、取りに行くぞ!」
 俺はログミールに親指を立てた。ログミールも親指を立てて返してくる。
 「その前に、デモに集中しろ・・・・・頼むから・・・・」
 エスターが額に手を当てながら首を振った。
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