龍王陛下は最強魔術師の王配を溺愛する

秋月真鳥

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三章 甥の誕生と六年目まで

2.俊宇、一歳の祝い

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 前王妃が亡くなったのは夏の盛りだった。
 龍王の妹、梓晴が産んだ甥、俊宇は一歳直前で、祖母が亡くなったことを全く分かっていない様子だった。
 前王妃の遺言で葬式も簡単なものにしてほしいし、喪にも服さずに俊宇の誕生日は盛大にいわってほしいということだったので、龍王は自分の母の葬式にしてはひっそりと、龍王とヨシュアと梓晴と浩然と俊宇と龍王の従兄弟の子睿ズールイだけで見送った。
 火葬された前王妃の骨と灰は前龍王の隣りに葬られた。
 王宮の敷地内にある巨大な墓に龍王は代々葬られている。その伴侶もその隣りに葬られるのが普通だった。
 骨壺を前龍王の隣りに納めた龍王は泣いてはいなかった。

 突然の別れというわけではなかった。
 前王妃は二年前の夏から体調を崩し始めて、龍族は死の直前まで全盛期の姿で生きるようなのだが、徐々に老いてきていて、寿命を感じさせていた。
 年齢は二百歳を少し越したくらいを聞いていたので、王族の中でも血の薄い前王妃は、二百年から五百年生きる王族の中でも早い寿命を迎える気配だった。
 それを何とか医者とマンドラゴラの葉っぱで繋ぎとめていたが、二年が限度だった。

 遺言通り喪に服すことなく政務に戻って行った龍王だが、俊宇の一歳の誕生日前にここぞとばかりに様々な国から使者が来てうんざりしている様子だった。
 ヨシュアも同席していたが使者たちの様子は酷かった。

「俊宇殿下も一歳になられます。婚約を考えてもよろしいのではないでしょうか? 我が国には三歳になられる王女がおります。きっと俊宇殿下と仲良くなれると思います」
「我が国の王女は五歳だが、それくらい年が離れている方がしっかりしていて頼りがいがあるでしょう?」
「いえいえ、龍族の王族は長く生きると聞いております。我が国の十八歳の王女をおそばに御置きください。よくお世話をさせていただくと思います」

 龍王は母親を失ったばかりで気落ちしているのに、まもなく一歳になる甥である俊宇に持ち込まれる縁談に辟易した表情をしていた。

「冗談はやめろ。俊宇は一歳になったばかりだ。婚約は成人してからと思っている」

 不快感を露わに告げて、使者の前から立ち去る龍王にヨシュアも続いた。
 青陵殿に戻って龍王はひと払いをして、ヨシュアと二人きりになる。
 ヨシュアが長椅子に座って両腕を広げると、龍王はヨシュアの膝の間に納まった。

「母が亡くなって悲しむ暇もなく、一歳になったばかりの俊宇に婚約話を持ってくるなんて、何を考えているのでしょう」
「星宇、義母上は喪に服すことはないと遺言に書いてあったが、星宇が望むなら、喪に服してもいいと思うよ」
「母の望みは叶えたいのです。俊宇の誕生日も祝いたいですし」

 前王妃の喪に服すことで俊宇の一歳の誕生日が盛大に祝えないことを龍王は気にしているようだ。

「それなら、俊宇殿下の誕生日を祝った後で、星宇とおれが個人的に喪に服す形にしてはどうかな?」

 それならば前王妃の望みである俊宇の誕生日を盛大に祝うということは叶えられるし、龍王が亡き母を悼みたい思いも遂げられる。
 ヨシュアの提案に龍王は少し考えて、小さく頷いた。

「ヨシュアの言う通りにしたいと思います。ヨシュアはわたしのことをよく考えてくれる」
「当然だろう。おれは星宇の伴侶だぞ」
「母のことは覚悟していたのですが、父のときはわたしがすぐに龍王に即位せねばならなくて、悲しむどころではなかったのに、母はゆっくりと衰えて行ったから、その分堪えている気がします」

 くるりと体の向きを変えて、ヨシュアと向き合うようにして膝を跨いで座った龍王に、ヨシュアは足を閉じて龍王を膝の上に座らせてやる。
 唇を食むようにされてそのままにしていると、龍王の手がヨシュアの青い長衣の上から胸に触れて胸を揉まれる。
 口付けを交わしながら胸も触られていると、どうしても下半身に熱がこもってくる。ヨシュアは龍王の両頬を手で挟むようにして口付けを止めさせた。

「抱きたいなら、夜にお付き合いするけど、今は駄目だ。夜は俊宇殿下の誕生日の宴があるだろう? 宴で星宇が眠そうにしてたら、梓晴殿下や浩然殿下や俊宇殿下を守るものがいなくなってしまう」

 昼間の使者への対応ですら、俊宇に婚約者を持たせたいものが各国から現れたのだ。国内の貴族たちにもそういう動きが出てこないとも限らない。
 俊宇の祝いとなると梓晴や浩然も表に出て来なければいけなくなって、龍王以外に妹一家を守れるものはいなくなる。

「ヨシュアがそう言うなら我慢します」

 前王妃が亡くなって寂しい気持ちがあるのだろう、龍王がヨシュアに甘えたいのは分からなくもないが、ときは弁えてもらわなければ困る。夜にはたっぷりと甘やかしてやるつもりで、ヨシュアは龍王が今すぐにでもヨシュアを抱きたそうにしているのを止めた。

 志龍ジーロン王国では喪服の色は白だ。
 前王妃の親族だけの葬式のときには龍王もヨシュアも白い長衣を着て、下衣も白いものを身に着けた。
 宴の前に集まっている宰相と四大臣家の当主たちに龍王は宣言した。

「俊宇の誕生日が終わり次第、わたしと王配は前王妃の喪に服す。国民には喪に服すことを強要しない。わたしと王配だけが前王妃を悼む期間を一年間持とうと思う。その期間、わたしと王配は白い衣装を身に着けて公の場に出て、結婚式など祝いの場には参加しない。わたしの誕生日も王配の誕生日も一年の間は祝うことはない」

 龍王の宣言は絶対である。
 宰相と四大臣家の当主は深く頭を下げてその言葉を聞いていた。
 個人的に喪に服すとしても、誕生日を祝うことがなくなると、毎年行われている龍王の生誕の式典もなくなることになる。

「このことは周辺諸国に伝えておきましょう。龍王陛下の生誕の式典は来年は行われないこと。王配陛下の誕生日も祝われないことを伝えなければ、周辺諸国からの祝いの品が大量に届くでしょう」
「頼んだ、宰相よ」

 宰相の言葉に龍王は頷き、任せることにしたようだった。

 俊宇の一歳の誕生日の宴には、俊宇を連れて梓晴と浩然が出席した。梓晴と浩然と俊宇は龍王とヨシュアに近い席に座らせて、龍王はできる限り妙な貴族からの要求から梓晴一家を守るつもりだった。ヨシュアも龍王の隣りに座って話を聞いておく。

「俊宇殿下、一歳のお誕生日おめでとうございます」
「俊宇殿下が無事に一歳を迎えられたことをお慶び申し上げます」
「俊宇殿下におかれましては、各国から婚約の申し込みが来ていると聞いております。龍族の血を薄めないために、龍族の中から婚約者をお選びになるのがよろしいかと思われます」

 やはり話題は俊宇の婚約になってくる。
 まだ一歳の幼児に婚約も何もないのだが。

「俊宇の婚約は俊宇自身から希望がない限り、成人するまでさせないこととする」
「王族にとっては結婚も義務でございます」
「俊宇殿下に早く相応しい方をお選びになった方がよろしいのではないでしょうか」
「わたしは誰だ?」
「龍王陛下にございます」
「わたしは二十五まで婚約も結婚もしなかったが、今は王配を得て幸せに暮らしている。梓晴も十八まで婚約をしなかったが、今は夫を得て、子どもにも恵まれている。我らの生き方を否定するつもりか?」

 うるさい貴族を黙らせようと龍王が静かに圧をかけると、貴族の矛先が変わった。

「子睿殿下は結婚なさらないのですか?」
「子睿殿下は成人もなさっていて、数少ない王族のお一人です。子睿殿下こそ、そろそろ婚約をお考えになるときなのではないですか?」

 俊宇の婚約をこれ以上進めようとすると龍王の怒りを買うと貴族も気付いたのだろう。その矛先が龍王の従兄弟の子睿に向かった。子睿は今年で二十歳になっているし、王族として結婚してもおかしくはない年齢だった。

「子睿の結婚はまだ考えていない。子睿ともよく話し合って、相手を決めたいと思っている」
「ぜひわたくしの娘を。今年十八歳になります。よく子睿殿下にお仕えするでしょう」
「いえいえ、わたしの娘こそ相応しいと思われます。子睿殿下と同じ二十歳です」

 王族である以上は政略結婚は免れないものだし、龍王とヨシュアも政略結婚で結ばれた。最初は全く愛のない険悪な関係だったが、今は深く愛し合っている。
 梓晴も、自分の身分を考えて、宰相家の浩然を夫にしている。梓晴と浩然の間には愛情があったが、政略結婚ではないとは言い切れなかった。

「子睿の結婚は子睿の意思を尊重したいと思っている。そなたたちの口出しすることではない」

 ハタッカ王国の平民の育ちの子睿が王族として教育を受けているとしても、政略結婚に納得するかといえば疑問が残る。
 龍王は子睿の意思を尊重すると言っているので、まずは子睿に相応しい身分の女性を会わせてみて決めるかもしれない。

 宴が終わるころには龍王はすっかりと疲れ切っていた。
 梓晴と浩然も眠ってしまった俊宇を連れて赤栄殿に戻っている。
 最後まで宴に付き合っていた龍王は青陵殿に戻るころには酔っ払って眠そうにしていた。
 
「ヨシュア……眠いです……」
「湯殿で体を流して今日は寝よう」
「抱きたかったのに……」

 悔しそうに言いながらも酒が回っている龍王は、ヨシュアに担がれて湯殿に連れて行かれて、体を流して寝間着に着替えると、ヨシュアの胸に顔を埋めるようにして眠ってしまった。
 前王妃が亡くなってから、心の隙間を埋めるようにヨシュアを抱く毎日で、夜も碌に眠れていなかった龍王を、ヨシュアは抱き締めてゆっくりと眠らせてやった。
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