龍王陛下は最強魔術師の王配を溺愛する

秋月真鳥

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三章 甥の誕生と六年目まで

11.ドラゴンの世話

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 龍王の誕生日と、ヨシュアと龍王の結婚記念日は近い。
 志龍王国に結婚記念日を祝う風習はなかったが、一年ごと積み重ねる日として龍王もヨシュアもその日を大事にしていた。

 それにしても、獣人の国は龍王とヨシュアがジャックをドラゴンの世話係として青陵殿に入れたことに関して妙な勘繰りをしているようだ。

「やはりあの獣人が気に入られたのでしょう? あの獣人の力を使えばお二人の夜がますます楽しいものになるでしょうから。いや、あまり激しくしては、龍王陛下の次の日の政務に関わりますか」

 ジャックの血を使っていると勘違いしている獣人の国の使者に、龍王は冷たく言い放つ。

「そんなものがなくとも我が王配はわたしを満足させてくれるし、わたしの夜の生活に口出しされるのも不敬だ。何より、獣人の国ではあのような奴隷制度がまだ残っているのか。文化的とはとても言えない。奴隷制度のある国とは国交を結んでおきたくない」
「お待ちください。我が国は志龍王国の援助がなければ民が飢えます」
「援助を今後も続けてほしいのであれば、即刻奴隷制度をなくし、全ての民が平等に暮らせる国づくりをするように王に伝えるのだな」

 そうでなければ国交の断絶も考えると告げた龍王に、使者は青い顔をして下がっていった。

 大陸で一番大きな国である志龍王国に睨まれては獣人の国は手も足も出ないだろう。
 青陵殿に戻ってヨシュアの部屋に行くと、ヨシュアはドラゴンのところに行ったとネイサンに告げられた。
 龍王もドラゴンを住まわせている厩舎に出向くと、ジャックがドラゴンに手を翳して魔力を与えていた。ヨシュアが後ろからそれを見守り、指導している。

「魔力が微量にしか放出できていない。もっとしっかりと魔力を意識して手の平に集めて、与える気持ちで」
「は、はい」
「それでは到底足りないな。おれが変わろう」

 交代してヨシュアがドラゴンに手を翳すと元気なさそうに蹲っていたドラゴンの長い尻尾がぴくぴくと動き、まだ小さな羽根が元気にぱたぱたと動き出す。
 太古は妖精に育てられていたというドラゴンは、先祖返りの妖精であるヨシュアの魔力と相性がいいのだろう。
 元気よく動き出した大型犬くらいの大きさのドラゴンは、ジャックに水と果物を与えられて美味しそうに口にしている。

 ヨシュアから聞いたのだが小さいころのドラゴンは水や果物や野菜は口にして少しだけ栄養が取れるようなのだ。

「王配陛下、ドラゴン様とお散歩をしてきてもいいですか?」
「太陽の光を浴びるのはドラゴンの育成にもいいから、毎日散歩には連れて行ってやってくれ。ただし、池には落ちないように気を付けるのだよ」
「はい! 行ってまいります」

 ドラゴンの先に立って歩き出すジャックに、ドラゴンがちょこちょことついて行く。歩くのはまだ覚束ないが、羽根を動かしてどうにか均衡を取っているようだった。

 ドラゴンとジャックが散歩に行くのを見送っていると、ヨシュアが龍王の方に向き直る。
 緩く両腕を広げられたので、龍王はその腕の中に飛び込んだ。

「午前の政務に一緒に出られなくてすまなかった」
「ヨシュアはドラゴンの世話もしなければいけないのでしょう。仕方がないです」
「びぎゃ!」
「びゅえ?」
「びょわ!!!」

 よく見れば足元にマンドラゴラたちが寄ってきていて、ドラゴンの果物を入れた皿に一本ずつ葉っぱを抜いて葉っぱを添えていた。

「マンドラゴラもドラゴンが気になるようで、ここにきてジャックの手伝いをしてくれているみたいなんだ」
「それは助かりますね」
「マンドラゴラの葉を食べるとドラゴンはとても元気に色艶もよくなる」
「さすがマンドラゴラの葉です」

 龍王の母親である前王妃もマンドラゴラの葉に助けられて命を長らえていたが、ドラゴンの成長にもマンドラゴラの葉は役立つようだ。毎日葉っぱを一枚ずつ上げているのか、マンドラゴラたちは少し頭の葉っぱが少なくなったような気がする。

「ドラゴンは順調に育っているし、ジャックもここの暮らしに慣れてきている。子睿殿下の御両親が、自分たちのことを親と思うようにと言ってくれていて、ジャックもよく懐いているようだ」
「ジャックもヨシュアの膝に乗らなくなったし、安心しました」

 素直な感想をヨシュアに言えば、「気にするのはそこなのか」と笑われてしまった。

「獣人の国ではジャックのような力を持った獣人が、奴隷として虐げられているかもしれません。志龍王国としても奴隷制度は反対です。獣人の国に圧力をかけていかなければいけないと思っています」
「星宇はこういうときに頼りになる」
「獣人の国の使者がジャックを捧げて来なければ獣人の国の内情までは分からなかったのですが、分かった以上は対処をしなければ」

 最悪、国交の断絶も有り得る。
 真剣な表情の龍王にヨシュアがゆるゆると首を振る。

「国交の断絶は獣人の国にとっては絶対に避けたいところだろう。獣人の国は砂漠の多い実りの少ない土地だと聞いている。志龍王国からの支援がなければ多くの民が飢える」
「使者もそう言っていました。わたしとしても、一部の貴族や王族のせいで民が飢えるのは避けたいと思っています」

 獣人の国が龍王の出した条件を飲むかどうかにかかっているが、それは時間の問題のような気がしていた。冷静に考えて、志龍王国との交流がなければ獣人の国は成り立たない。民は飢えれば暴動も起きるだろう。王朝自体が倒される危険性もある。
 そんな危ない橋を渡るよりも、志龍王国の要求を呑んで奴隷制度をなくし、奴隷がいなくなるようにしていった方が容易いに決まっている。

「ジャックの血液には媚薬のような効果がある。獣人の国でジャックは血を搾取され続けたのだろう。切り傷も治りかけているが、最初は大量にあった」

 痛々しいジャックの手や腕を思い出して眉を顰めるヨシュアに、龍王は腕に抱かれながらその優しさを感じる。
 十歳程度にしか見えないジャックがどれだけ搾取されたのかは、あの痩せ方と顔色の悪さからよく分かる。
 志龍王国に来て少し改善されたが、まだジャックは顔色が悪いままだった。

「お散歩してきました! あ、龍王陛下、おはようございます。王配陛下と仲良しですね。血をお求めですか?」
「血はいらないと再三言っている。ジャックは今後誰にも血を与える必要はないし、欲しがるものがいればわたしたちに言えば遠ざける。ジャックにはわたしも王配も平和に暮らしてほしいと思っている」

 ジャックが来ても抱き締め合っていたので、無邪気に問いかけられてしまったが、龍王は丁寧にジャックに血は必要ないことを伝えた。何度も言っているのだが、これまでずっと求められていたので癖が抜けないのだろう、ジャックはヨシュアと龍王がいい雰囲気になると血を差し出してこようとする。
 媚薬になる血など飲まなくても龍王はヨシュアとの行為に満足しているし、ヨシュアも龍王との行為に感じてくれているのが分かるので、好奇心でもジャックを傷付けて血を求めるようなことは龍王はしなかった。

 戻ってきたドラゴンは龍王の足にすり寄っている。
 龍王が龍の本性を持っているのが分かるのか、生まれてきてからずっとドラゴンは龍王を見かけると同種にでも会ったかのように懐いてくるのだ。

「ドラゴン様のお皿にマンドラゴラ様の葉があります。ドラゴン様、マンドラゴラ様が葉をくださっていますよ」
「ぴぃ!」

 可愛く高い声で鳴くとドラゴンが馬房に入って、清潔な取り換えたばかりの藁の上に寝そべりお皿の上のマンドラゴラの葉っぱをもりもりと食べる。マンドラゴラの葉っぱを食べるとドラゴンの真珠色の鱗が虹色に煌めき、白銀の鬣が艶を増す気がして、龍王はジャックに撫でられながらマンドラゴラの葉を食べるドラゴンに釘付けになっていた。

 ジャックが戻ってきたのでヨシュアが離れてしまって少し寂しいが、あまりべたべたしているところをジャックに見せるのもよくないだろう。

「ぴぃ、ぴぃ」
「びぎゃびぎゃ」
「ぼぎゃぼぎゃ」
「ぎょわぎょわ」

 マンドラゴラの葉っぱを食べ終えて満足そうにしているドラゴンにマンドラゴラが話しかけている。マンドラゴラとドラゴンは言葉が通じているようなのだ。

「大根、人参、蕪、今日はドラゴンと過ごすか?」
「びゃい!」

 三匹が声を揃えて返事をしたのでヨシュアはマンドラゴラをドラゴンの馬房に置いていくことにしたようだ。
 朝の散歩を終えたドラゴンはうつらうつらと眠そうにしている。ドラゴンが眠っている間にジャックは小屋に帰って昼食を食べて、王宮で生活する上での行儀作法の勉強や、読み書きの勉強をするだろう。
 龍王とヨシュアも青陵殿のヨシュアの部屋に戻って昼餉を食べることにした。

「今年の結婚記念日はどうしますか?」
「星宇が休みが取れるなら、町に出てみないか?」
「町歩きですか?」
「今回は獣人の国との国境の町に行ってみようかと思っている」

 魔術騎士団を連れて視察に行ってもいいのだが、それでは目立ってしまうので、とりあえず龍王とヨシュアの二人だけで獣人の国との国境の町に行こうと誘われて、龍王は表情を引き締める。

「それなら、わたしが行くと告げて、小旅行の形にした方がいいかもしれません」
「龍王が出向いていいのか?」
「わたしが出向くことに意味があります。わたしとヨシュアが出向けば、その土地には水の加護が多くもたらされる。それを目の当たりにすれば獣人の国も龍王に対する態度を改めるはずです」

 媚薬になるような血を持つ獣人の奴隷を捧げてきた時点で、獣人の国が龍王を下卑た目で見ているのは分かっている。それに対抗するには水の加護の力をしっかりと見せつける必要があった。
 龍王は他国からも敬われる存在でなければいけない。

「分かった。魔術騎士団を護衛に連れて、一緒に獣人の国との国境まで行こう」
「結婚記念日の小旅行ですよ。わたしたちが旅行に出るのは久しぶりなので、国が賑わいますね」

 移転の魔術で一瞬で行ってもいいのだが、それでは途中の町に水の加護が届けられない。
 龍王の旅行とは水の加護を国の隅々まで行き渡らせるために行うものでもあった。

「馬車で揺られての旅行か。久しぶりに悪くないかもな」

 新婚旅行以来の旅行に、ヨシュアも面倒くささよりも楽しみを見出してくれているようだった。
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