龍王陛下は最強魔術師の王配を溺愛する

秋月真鳥

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四章 結婚十年目

24.龍王と王配の巡行

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 龍王と王配の巡行には、龍王と王配の馬も連れて行かれていた。
 龍王の馬は鹿毛の大人しい雌で、名前はフム。ヨシュアの馬は青毛の勇ましい雄で、名前はシャホル。
 魔術騎士団と近衛騎士に守られて、龍王とヨシュアは馬で移動するときもあった。
 馬車の速度で移動しているので、移動速度はそれほど早くない。
 ヨシュアは青い服を脱いで魔術騎士団の紺色の服に着替えて、龍王は近衛騎士団の服に着替えて、ヨシュアは金髪を黒髪に変えて、龍王はそのままの姿でシャホルとフムに乗ると、意外と魔術騎士団と近衛兵に紛れられてしまうものだ。
 魔術騎士団と近衛兵が馬で走っている中、横並びで馬を走らせながらヨシュアは龍王を気にしていた。

「疲れてないか?」
「楽しいです」

 巡行の最中に馬車から出るようなこともなかなかできないので、龍王にとってはいい息抜きになったようだった。
 馬を走らせていると、龍王がヨシュアに話しかけてくる。

「風が気持ちいいです。フムも楽しそうです」
「楽しいならよかった。シン、離れるなよ?」
「あなたの隣りを走っているのが楽しいのです。離れたりしません」

 守るためにも龍王が離れてはいけないというヨシュアに、龍王は甘く囁いてくる。どれだけ龍王がヨシュアを愛しているかに関しては、去年の秋の記憶喪失の期間を経て、記憶が戻ってからしっかりと実感していた。
 自分の記憶がない間龍王は苦悩していたし、それでも変わらぬ愛情をヨシュアにかけてくれていた。記憶がなくなったヨシュアの方は、魂の繋がりがあったせいか妙に落ち着いてはいたのだが、それでも心細くなかったと言えば嘘になる。それを全部取り払うように龍王はヨシュアに尽くしてくれた。
 あの期間の記憶は、本来の記憶が戻ったらなくなるのではないかと思っていたが、そんなことはなく、ヨシュアは記憶を失っていた間の記憶も、戻った記憶もどちらも持って回復した。

「シャホルはもう少し走りたそうにしているな。落ち着け、シャホル。星を置いていくわけにはいかない」
「置いて行かないでくださいね。わたしはあなたと一緒でないと嫌なんですからね」

 隣りを走る龍王のために、速く駆けそうになるシャホルを宥めていると、龍王もそれに同意する。一緒でないと嫌だと素直に言う龍王に、ヨシュアはシャホルを落ち着かせて馬車の速度に合わせた。

 馬同士の距離が近いと威嚇しあうものもいるのだが、フムはシャホルとの間に二頭も仔馬を産んでいる仲のいい夫婦である。距離はぶつかりそうなくらい近くてもお互いに嫌がらないのでそれは助かった。

 町が近くなると一度止まって、シャホルとフムを魔術騎士団に預けて、ヨシュアと龍王は馬車に戻る。馬車で着替えをして、龍王と王配らしい煌びやかな服を身に着けて、町に入る。
 町では領主がヨシュアと龍王を待っていた。
 領主の館に馬車が入ると、領主が出てきて歓迎してくれる。

「ようこそいらっしゃいました、龍王陛下、王配陛下。お二人が来られるということで、町はお祭り騒ぎになっております。夜には花火も上がります」
「歓迎に感謝する。花火が上がるのか。屋敷の中から見える場所があるか?」
「特等席を用意しております。楽しみにされていてください」

 客間に通されてヨシュアと龍王は一息つく。
 侍従は数名連れてきているが、最終的にヨシュアと龍王の世話をするのはネイサンの役目である。

「ヨシュア、窓から街並みが見えます。領主の館の周囲にひとが集まってきているようです」
「一目でも龍王陛下を拝もうって考えているんだろうな」
「歓迎されているのですね」

 町では祭りの準備もされているようだった。広場には露店が立ち並び、花で飾った舞台のような場所も作られている。

「あれはなんでしょう?」

 不思議そうに龍王が指差したのは、豚が一匹丸ごと鉄の棒に刺されて用意された場所だった。

「豚の丸焼きを作って振舞うんじゃないか?」
「豚の丸焼き……食べたことがないのですが、美味しいのでしょうか?」
「豚一頭だと、すぐになくなってしまうな。町歩きをしようと思っても、あまり時間がないし」

 龍王が望むなら豚の丸焼きが出来上がるころに町歩きをして、ひと切れ買って食べてもいいかと思っていたのだが、それには時間がない。そろそろ夕餉の宴で呼ばれるはずだ。その後になると花火もあるし、町に出ている時間はない。

「王宮に戻ってから厨房の料理人は作ってくれるでしょうか」
「子豚の丸焼きくらいなら作ってくれるんじゃないか」
「それなら、我慢します」

 素直に言う龍王は、これまでもたくさんのことを我慢してきたのだろう。
 ヨシュアがそばにいるのだから少しでも願いを叶えてやりたいとは思うのだが、今日の密な予定的に無理だった。

「青陵殿の庭で子豚の丸焼きを作るか?」
「赤栄殿の庭がいいかもしれません。俊宇も梓晴も浩然も、子睿も麗夏も呼んで」
「それは楽しそうだな」

 赤栄殿の庭で子豚の丸焼きをする案に関しては龍王は乗り気だった。

 夕餉の宴で、巨大な海老が出た。茹でたばかりのホカホカの海老が殻ごと出されて、龍王もヨシュアもそんな大きな海老を見たことがなかったので、興奮してしまった。

「これは大きな海老だな」
「ラバン王国でロブスターという海老を食べていたが、それより大きい」
「海老が印象的かもしれませんが蟹もございます」

 蟹は卵焼きの中に入れられていたり、炒めた米に入れられていたりするので目立たないが、しっかりと料理の中には組み込まれているようだ。
 ぷりぷりの海老を食べて、蟹の入った卵焼きや炒めた米も食べて、海鮮の豊かな食卓をたっぷりと楽しんで夕餉の宴は終わった。
 宴の後、領主は龍王とヨシュアを屋敷の塔の上に連れて行ってくれた。

「この場所からなら花火がよく見えます」
「花火はどちらの方向から上がるのだ?」
「町の方向からです」
「では、あちらか」

 町の方を指差す領主に龍王が頷いている。
 塔の上には椅子や卓が用意されていて、卓の上には酒や干した果物が置かれていた。

「龍王陛下と王配陛下のお二人でゆっくりとお楽しみください」
「ありがとう、そうさせてもらう」
「明日の早朝には龍王陛下と共に水の加護の祈りを行わせてもらう」
「ありがとうございます。領民がみな喜ぶことでしょう」

 気を利かせて下がってくれる領主に、龍王とヨシュアはシオンとイザークだけを護衛に残して、ネイサンだけを侍従として残して、他のものは下がってもらった。
 酒を硝子のグラスに注ぐと、龍王が酒の匂いを嗅いでいる。葡萄酒の中に果物を漬け込んで、蜂蜜で味を調えた甘い酒が用意されていた。
 一口飲んで龍王が目を輝かせる。

「美味しいですよ。ヨシュアも飲んでください」
「おれもいただこうかな」

 甘い酒は嫌いではなかったが飲みやすいので量を過ごすことがある。気を付けつつ飲んでいると、町の方で大きな花火が上がった。
 暗い夜空に咲く大きな花を見上げていると、龍王がヨシュアの手を握る。

「きれいですね」
「星宇が歓迎されている証だ」
「ヨシュアも歓迎されていますよ」
「おれは星宇のおまけだ」

 そんなことを言えば、龍王がヨシュアの青い目を真剣に見つめてくる。

「ヨシュアは歓迎されています。ヨシュアがいなければわたしはこんなに国民に寛容ではいられなかったでしょう。国民に認められていることすら、どうでもよかったかもしれない」

 ヨシュアが嫁いできて龍王の世界を広げてくれたから、龍王は国民を深く愛することができるようになった。
 龍王の言葉にヨシュアは龍王の手を握り返す。

「星宇がそう言うならそうなんだろうな」
「そうなんです」
「星宇、いつもの位置に来ないのか?」

 龍王の手を引くと、龍王がヨシュアの足の間に座る。広いゆったりとした椅子なので、龍王がヨシュアの足の間に座ってもゆっくりと余裕があった。
 風に吹かれて肩にかかるヨシュアの髪を龍王がひと房摘まんで恭しく口付ける。
 ヨシュアは龍王を背中から抱き締めて花火を見上げていた。
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