龍王陛下は最強魔術師の王配を溺愛する

秋月真鳥

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四章 結婚十年目

27.遅れたギデオンの誕生日

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 巡行から帰って青陵殿に戻ると、龍王とヨシュアはデボラのところに挨拶に行った。デボラは椅子に座って膝に抱いたギデオンに絵本を読んでやっていた。龍王とヨシュアが来たことに気付くとすぐに椅子から降りて礼の体勢を取る。ギデオンも小さいながらきちんと膝を突いて頭を下げていた。

「ギデオン、五歳の誕生日おめでとう。ネイサンを奪ってしまって悪かった」
「ギデオン、誕生日おめでとう。誕生日は楽しく過ごせたかな?」

 龍王とヨシュアの言葉に、ぱっとギデオンが顔を上げる。

「おたんじょうびは、ちちうえがかえってきてからいわおうって、ははうえがいったの。りゅうおうへいか、おうはいへいか、いっしょにおいわいしてくれる?」

 礼は一人前に取れるようだが、おねだりはやはり五歳児だ。

「ギデオン、いけません」
「龍王陛下と王配陛下はお忙しいのです」

 デボラとネイサンが止めるが、龍王とヨシュアは顔を見合わせていた。

「どうする、星宇。どうせ巡行が終わって今日は休みだ。おれは喜んで招待を受けたいのだが」
「わたしも可愛いギデオンの招待を受けたいですね」

 二人で話し合って答えを出す。

「ギデオンがよければ、今日ならばおれと星宇はお誕生日を祝えるよ」
「ネイサン、デボラ、わたしたちが邪魔でなければ祝わせてほしい」
「光栄なことにございます」
「感謝いたします」
「おいわいしてくれるの!? うれしい! やったー!」

 飛び跳ねて喜ぶギデオンに、せっかくの大事な誕生日にネイサンを不在にさせてしまった申し訳なさもあったし、生涯子どものできない龍王とヨシュアにとってはギデオンは自分たちの子どものように可愛かったので、誕生日に招かれることを承諾した。
 すぐに準備が始められて、厨房ではケーキが焼かれている。ギデオンはそわそわとデボラの膝の上に座ってケーキが持って来られるのを待っている。
 龍王とヨシュアが椅子に座ると、ネイサンがお茶を入れようとしたので、龍王とヨシュアは声を掛ける。

「ネイサンは今日は一緒に祝う立場なのだから座っていないと」
「お茶は他の侍従にさせよう」
「いいえ、わたくしのお茶が一番美味しいのです。龍王陛下にも王配陛下にも、デボラにもギデオンにも、この世で一番美味しいお茶を飲んでほしいのです」

 自分のお茶はこの世で一番美味しい。
 自信を持って言うネイサンに、確かにネイサンのお茶がこれまで飲んだ中で一番美味しかったと龍王も思う。龍王がヨシュアと食事をするようになる前に出されていたのは、食の細い龍王の栄養を補助するための薬草茶だったのだが、あれは苦くて渋くて龍王は嫌いだった。

「ちちうえのおいしいおちゃをのめるの、うれしい!」
「ギデオンにはたっぷりと牛乳を入れてあげようね」
「はい、ちちうえ!」

 龍王の香茶には牛乳と蜂蜜が入って、ギデオンの香茶には牛乳だけ入って、デボラとヨシュアの香茶には何も入れないで出される。ネイサンはこういう細かな好みも把握していた。
 ネイサンの分の香茶も入れてネイサンが椅子に座ると、厨房で焼き上がったケーキが届けられる。
 生クリームに苺が飾られたケーキは砂糖とバターの香りがする。

「ちちうえ、ははうえ、おたんじょうびのうたをうたって!」
「それでは失礼して」
「歌わせていただきます」

 デボラとネイサンが可愛い息子のためにラバン王国の言葉で誕生日の歌を歌っている。楽し気な旋律に、ギデオンが足をバタバタさせて体を揺らしている。
 誕生日の歌が終わると、ケーキの上に立てられたろうそくをギデオンが吹き消した。

「おねがいしたの。ジュンユーでんかとズーハンでんかといっぱいあそびたい!」
「梓涵殿下も早く一緒に遊べるようになるといいですね」
「ギデオンの弟妹も秋には生まれてきますし」
「わたし、おにいちゃんになるんだよ」

 誇らしげに胸を張ったギデオンに、ケーキの上のろうそくを取ってネイサンがケーキを切り分けていく。
 龍王の前にも、ヨシュアの前にも、デボラの前にも、ネイサンの前にも、当然ギデオンの前にもケーキが並んだ。
 フォークを使って器用にケーキを食べていくギデオンに、ラバン王国の子どもなのだと龍王は思う。志龍王国で過ごしていても、ラバン王国のネイサンとデボラに育てられたギデオンはラバン王国の風習の中で育ち、ラバン王国の食器を使っている。

「星宇、苺が美味しいよ」
「ヨシュア」

 フォーク使いが拙い龍王に、フォークで差し出された苺を少し照れながらヨシュアに食べさせてもらう。公の場ではこういうことは許されないが、ギデオンの誕生日お祝いという小さな場だからこそ許される。

「ははうえ、あーんした! わたしにもあーんして!」
「いいですよ、ギデオン。どうぞ」
「わーい!」

 羨ましがって自分もと強請るギデオンに、デボラが一口ケーキを食べさせていた。
 楽しくギデオンとお茶をして、お土産も渡して、龍王とヨシュアはネイサンに言い渡した。

「ネイサンは今日と明日は休みだ。しっかりとギデオンとデボラと過ごしてほしい」
「ギデオンにはわたしたちのせいで寂しい思いをさせてしまったから、しっかりと埋め合わせをしてくれ」

 命じる龍王とヨシュアに、ネイサンは頭を下げて感謝していた。

 ギデオンの誕生日のお茶会を終えて龍王とヨシュアが青陵殿の部屋に戻ると、色々と持たされたお土産を荷解きする侍従の一人に龍王は命じる。

「この布の深緑の方でわたしの上衣を、青い方で我が王配の上衣を作らせるように」
「心得ました」
「華美な刺繍や宝石の飾りはいらない。できるだけそのままの模様を活かしてほしい」
「はい、龍王陛下」

 巡行で行った市で買った布を侍従に渡すと、恭しく受け取って下がっていった。
 龍王の大きさもヨシュアの大きさも分かっているだろうから、数日で縫い上げて出来上がるだろう。異国の模様が入った布をヨシュアと色違いで着るのは楽しみだ。

 夕餉の時間まで部屋でゆっくりと過ごし、龍王とヨシュアは夕餉を食べて湯殿に行った。ネイサンがいないので完全に龍王とヨシュアだけで、それ以外の侍従はひと払いがしてある。
 髪と体を洗って湯船に浸かると、久しぶりの広い湯船に体が伸ばせる。旅先でも一緒に湯船に入っていたが、二人で入るには狭いところが多かった。

「ヨシュア、やっと帰ってきましたよ」
「星宇、それはお誘いかな?」
「あれだけ我慢したんだから、もういいでしょう?」

 ヨシュアの膝の上に乗り上げて口付けると、ヨシュアが濡れた手を龍王の後頭部に差し込んでくる。頭を支えられながら深い口付けをしてヨシュアの胸に触れていると、下半身が熱を持ってくるのが分かる。

「ヨシュア、ここではできないから……」
「寝台に行くか」

 龍王を解放して湯から立ち上がるヨシュアに、抱き上げられるようにして龍王も湯から上がっていた。
 脱衣所で体を拭いて、龍王は自分で寝間着を着る。完全に手伝いがないのは久しぶりだが、これくらいのことは龍王でもできた。
 寝間着を着てヨシュアの部屋に戻って寝台に上がると、ヨシュアが護衛に命じている。

「イザークとシオンだけ残して、他のものは部屋を出ろ」

 部屋の中にイザークとシオンだけになると、ヨシュアも寝台に上がってきた。
 天蓋の幕を閉めると、ヨシュアの結界の魔術が音と姿を遮断する。

 舌を絡める淫靡な水音も、寝台の外には聞こえない。天幕の布も透けることはないし、結界は完全に二人だけの世界を作り上げている。
 ヨシュアの腕が龍王を優しく寝台に倒した。

「ヨシュア、わたしがしたいです」
「星宇、おれが全部してあげるよ」
「ヨシュア」

 魅力的なお誘いだったが、龍王の方もヨシュアを悦くしたくて、腰に跨るような形になったヨシュアを見上げながら、龍王は体をうごめかせていた。
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