龍王陛下は最強魔術師の王配を溺愛する

秋月真鳥

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五章 在位百周年

5.五歳の龍王

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 龍王が縮んでしまった。
 五歳くらいの姿になった龍王は、不本意ながら子ども用の椅子を持って来てもらって、ヨシュアの手を借りて座って、料理も全部取り分けてもらって食べる。五歳児でも食べやすいものを用意してもらっていたが、小さな手に箸が馴染まず、なかなか上手に食べられない。焦れているとヨシュアが「あーん」と食べさせてくれる。
 ヨシュアに食べさせてもらって満腹になると少し休んで湯あみに行く。
 湯殿が遠くて、そこまで歩いて行くのだけでも疲れてしまう。
 湯殿に行くと服を脱ぐのだが組み紐がうまく解けない。ヨシュアにしてもらって、ヨシュアに抱っこしてもらって湯殿に入ると、ヨシュアが丁寧に龍王の体を洗う。髪も洗ってもらって、湯船に浸かろうとすると深くて溺れそうになる。

「ヨシュア、たすけてください」

 結局、全部ヨシュアの助けを借りなければ日常生活が送れないような状態になって龍王は困っていた。
 ヨシュアの膝の上に抱かれて湯船に浸かっても、熱くてすぐに出たくなってしまう。

「もうあついです」
「無理することはない。冷たい飲み物でも飲んで休もう」

 歯磨きもヨシュアに仕上げ磨きをしてもらわなければ、五歳児の手首ではしっかりと磨けない。
 歯も磨き終えて疲れ切ってヨシュアに抱っこされて部屋に戻ると、ギデオンとゴライアスがお茶を用意してくれていた。

 龍王が着ていた服も、今着ている寝間着も、全て龍王が小さなころに着ていたものだった。派手すぎないがそこそこに刺繍もされていて豪華である。
 ヨシュアの手によって新しい宰相と四大臣家には龍王が病で倒れてしばらく政務に出て来られないことは伝えてあった。

「ヨシュア、このままもどらなかったらどうしましょう」
「おれは星宇が育つまで二十年くらいは待てるつもりだが」
「わたしがいやです。このからだではヨシュアのことをだくこともできないし、しゃべるのもしたったらずになっているきがします」

 肩を落とす龍王を抱き締めてヨシュアは寝台に寝転んだ。ヨシュアの胸を枕にするようにして、龍王が小さな体でヨシュアにへばりつく。
 玉を捧げたときから龍王の老化は止まっているので、そのままでも二十歳前後の若い姿だったが、それがさらに幼くなるとなると不安が募る。ヨシュアは気にしていないようだが、この格好ではヨシュアと体を繋げることもできないし、何をするにもヨシュアの手を借りなければならないのは不本意だった。

「ラバンおうこくにはつたえたのですか?」
「伝えたが、すぐに対処できるわけではなさそうだ。おれも星宇に早く戻ってほしいけれど、おれが記憶を失ったときに星宇は一か月近く耐えてくれた。おれも星宇を見習って……」
「わたしがたえられないのです!」

 力を抜いた筋肉は柔らかい。ふにふにと小さな手でヨシュアの胸を揉みながら真剣に言う龍王にヨシュアが苦笑する。

「頼むから、その格好で抱きたいとか言うなよ。おれは犯罪者になりたくない」
「だこうとおもってもむりですよ。こんな……ちいさなからだで」

 湯あみしたときにヨシュアも見ただろうが、龍王の中心は年相応になっている。もちろん勃起することもないし、達することもないだろう。
 涙目になった龍王の目元にヨシュアが唇を寄せて涙を吸い取ってくれる。

「できるだけ早く戻る方法を考えよう。そういえば水の加護の力はどうなっているんだ? 変わりなく使えるか?」
「みずのかごのちからはつかえるとおもいます。ヨシュアにてつだってもらわなければいけないかもしれませんが」
「おれでできることなら何でもするよ」

 龍王の一番大事な仕事は水の加護を司ることである。それができなければ志龍王国は豊かな実りを失う。

 ヨシュアも龍王と一緒ならば水の加護の力が使えるようにはなっていたが、当の龍王が小さくなってしまったので能力がどうなっているかは心配なのだろう。水の加護の力は小さなころから訓練してきたので問題なく使えそうだが、それ以外の生活がままならない。
 何より、政務に出ることもできない。
 困りきっている龍王の髪をヨシュアが何度も撫でて、つむじに口付けを落とす。撫でられていると小さな体は疲れ切っていたので眠ってしまった。

 目が覚めると夜明け前で、龍王はヨシュアと共に椅子に移動して水の加護の祈りを捧げる。
 一晩寝たら戻っているかと思ったが、そんな簡単にはいかないようだ。
 小さな体で椅子によじ登ろうとすると、ヨシュアが両脇に腕を差し込んで抱き上げてくれる。ヨシュアに世話を焼かれるのは嬉しいのだが、何でもしてもらうというのには慣れない。
 龍王の後継者として小さなころから侍従に何でもしてきてもらっていたはずだが、龍王はずっとその状況に慣れないでいた。誰かが側にいることも、誰かに触れられることも龍王は好きではなかったのだ。
 ヨシュアの膝の上に抱き上げられると、少し安心する。
 目を閉じて水の加護の祈りを捧げると、ヨシュアも同じく水の加護の祈りを捧げている。
 国土の全土に水の加護の祈りが行き届いたのを確認して、ヨシュアと朝食を食べて、龍王はその日は外出もできずにヨシュアと部屋の中にいた。
 部屋の中で待っていると、ヨシュアの部屋に置いてある移転の箱に何かが届いたのが分かる。

 移転の箱からヨシュアが取り出してきたのはラバン王国から届けられた古い文献だった。

「永遠の命を望んだ魔術師がいたらしい。魔術で若返りの秘薬を作って、それを売り歩いていたと。その若返りの秘薬を使うと、年齢が百年ほど若返ると書かれている」
「わたしのひゃくねん、かえしてください……」

 正確には龍王は百二十歳なのだが、多少は誤差があるようで、百十五年ほど若返ってしまったようだ。

「かいじゅのほうほうはないのですか?」
「解呪の方法は……書かれてないな。百年若返ったものは喜んで、解呪など考えなかったんじゃないかな」
「わたしはこまります! ヨシュアとやっとどうとうにならべるようになったとおもったのに、こんなにちいさくなってしまうなんて」

 百年を若返らせたものは、老いて死にかけているものばかりだったのではないだろうか。それで解呪など考えずに百年寿命が延びたと純粋に喜んだ。
 それを考えると龍王は憂鬱になってくる。

 戻る方法が本当にないのであれば、龍王はヨシュアとまた触れ合えるようになるまで後十三年はかかるということではないか。

「わたしがちいさいあいだに、ヨシュアがほかのあいてにこころをうばわれたらどうすればいいのでしょう」
「奪われることはないから安心してくれ」
「せいむはどうすればいいのでしょう。このからだでできるとはおもいません」
「それは困るよな。ある程度はおれが肩代わりしてもいいんだけど」

 ヨシュアもラバン王国の王弟であるので国王の仕事がなんたるかを知っている。龍王の補佐として働いてくれるならば心強いが、後十三年ヨシュアを待たせてしまうのも心苦しいし、龍王自身が我慢できない。
 苦悩する龍王に、ヨシュアが五歳児の丸いお腹を撫でる。

「眠くなったんじゃないか?」
「ヨシュア、わたしをこどもあつかいしてますね!?」
「子ども扱いっていうか、本当に子どもだからね」

 朝起きて朝食を食べたばかりだというのに眠いはずはない。
 そう思っていても、欠伸が出て龍王の体は五歳児の体力しかない。夜明け前に起きてきたので、少し眠りたかった。

「ヨシュア……そばにいてください」
「ここにいるよ」
「そいねしてください」

 ヨシュアに甘える龍王に、ヨシュアは快く添い寝してくれた。
 これからどうなるのか不安な気持ちも、ヨシュアが側にいれば落ち着いてくる。

 何とかこの魔術を解かなければいけないが、手掛かりはほとんどない。
 長い人生からしてみれば十三年は一瞬ですぎるのかもしれないが、それでも龍王は早く元に戻りたくて仕方がなかった。
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