龍王陛下は最強魔術師の王配を溺愛する

秋月真鳥

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五章 在位百周年

19.結婚百周年

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 他人に触れられるのはあまり好きではないので、龍王の髪を整えるのも、爪を整えるのもヨシュアがしてくれている。髭は薄くてほとんど生えないのだが、それでもまばらに生えてきたら自分で剃っている。
 湯上りの夜、椅子に座った龍王の隣りに座って、ヨシュアがぱちんぱちんと爪を切ってくれていた。爪を切った後には硝子のやすりで丁寧に削って滑らかに整えてくれる。

 結婚百周年を迎えて、龍王は腰を超すまで伸びていた黒髪を背中までで一度切ることにした。髪はまた伸びるし、ヨシュアと出会った頃の髪型に戻したかったのだ。
 龍王の要望を受けてヨシュアは髪も丁寧に切ってくれた。

 すっかりと龍王が髪も爪も整えられた後で、ヨシュアは自分の爪を切ってやすりがけをしていた。ヨシュアの爪はいつも短く、龍王の裸の背中に手を回しても絶対に傷付けないように整えてある。
 龍王の爪も短く整えてあるのだが、ヨシュアは特に念入りに爪を整えている様子である。

 龍王の願いで鎖骨に痕を付けてくれるようになったが、ヨシュアはそれ以外の場所に痕が付くようなことは絶対にしない。気にしてくれているのは嬉しいのだが、そういう理性がなくなるまでヨシュアが乱れたところを見たい龍王としては、少し残念な気もする。

 龍王とヨシュアの結婚記念日は、例年ならば国では祝われなかった。志龍王国に結婚記念日を祝う風習がないのだ。けれど結婚百周年となると話は別である。
 百年もの間龍王とヨシュアが仲睦まじく過ごした証でもあるので、国を挙げて盛大に祝われるようだった。

 龍王にしてみればヨシュアと二人きりで祝うだけで満足しているのに、国を挙げてになると面倒な宴があったり、周辺諸国の使者や賓客とも会わなければいけなかったりして、面倒で正直放っておいてほしいのだが、そういうわけにもいかないようだ。
 百年の節目ともなると志龍王国の国民も龍王と王配の仲睦まじさを尊く思っているし、祝いたいと思っているようだった。

 青陵殿にもその日には春の花が飾られた。
 遅咲きの桜や胡蝶蘭が飾られ、小さな花器には菫が添えられていた。

 龍王の玉座の両脇にも桜の枝が飾られている。
 それを見ながら龍王と王配、二人が座れる玉座について龍王とヨシュアは宴に出席した。

 ラバン王国からはヨシュアの甥であるジェレミーの子どもが使者として来ていて、祝いの言葉を述べてくれた。

「王配陛下がラバン王国から嫁がれて百年になります。龍王陛下と変わらず仲睦まじい様子で安心いたしました。今後ともお二人が仲睦まじくありますようにお祈り申し上げます」

 ヨシュアの誕生日に装飾品をジェレミーが持ってきたが、龍王はそれに対して嫉妬してしまった。それが伝わっているのか、ジェレミーの子が持ってきたのは、魔力を帯びた宝石の原石だった。

「この石は龍王陛下と王配陛下の望むように魔力を込めて使うことができます。龍王陛下の瞳の色の黒と、王配陛下の瞳の色の青をご用意いたしました。お二人で相談して加工して使ってくださいませ」
「ありがとう。わたしも愛しい王配の色を纏うのは好きだし、王配にはわたしの色を纏ってほしいと思っている」
「ありがたく使わせてもらうよ」

 龍王とヨシュアで礼を言えば、ジェレミーの子は深く頭を下げて原石の入った箱を侍従に預けた。
 他の国からも様々な贈り物が届けられたが、龍王はラバン王国からの贈り物が一番心に残っていた。

 宴の最中に葡萄酒に果物を漬けた酒が出された。
 以前にも飲んだことのある酒だが、果物の種類が違うので味わいが違った。
 果物の爽やかな香りと甘さが葡萄酒の渋みを取り去っており、その酒は龍王も盃が進んだ。珍しくよく飲んでいる龍王に、ハタッカ王国の使者が申し出る。

「その葡萄酒はハタッカ王国のものにございます。お気に召したのでしたら、またお届けいたします」
「果物を漬けると葡萄酒がこんなに飲みやすくなるとは思わなかった」
「冬は温めて香辛料を入れて飲んでも美味しく飲めます」
「それも試してみたいな。ハタッカ王国が葡萄酒を届けるという申し入れ、ありがたく受け入れよう」
「光栄にございます」

 龍王の生誕祭のときにハタッカ王国の使者がヨシュアの手の甲に口付けようとして叱責されたのは記憶に新しい。その謝罪をするように、ハタッカ王国は特産の葡萄酒を龍王に捧げると言ってきた。葡萄酒のこの飲み方は気に入ったので龍王はそれを受け入れると共に、前回の無礼を許すことにした。

 宴が終わると龍王とヨシュアは青陵殿に戻る。
 今日は龍王はかなり飲んでいたので、ヨシュアが抱えるようにして青陵殿の廊下を歩いて部屋の椅子に座らせた。
 椅子に座るとヨシュアの脚の間に移動した龍王に、ギデオンが茶を入れてくれる。

「ヨシュア、わたしは酔っていませんよ」
「酔っぱらいはみんなそう言うものだ」
「本当に酔っていません」

 龍族は酒に強いのでこれくらいでは酔わないと主張する龍王に、ヨシュアが苦笑している。本当に酔っていないことを示そうと、ヨシュアに向き直って膝に跨った龍王に、ヨシュアが目を閉じる。

 口付けるとヨシュアの舌からも果実で甘く香りの付いた葡萄酒の味がした。

「星宇、見られてるぞ?」
「口付けくらい見慣れているでしょう」
「そういうのを酔っていると言うんじゃないのか?」
「酔っていません」

 不毛な言い争いをしてから、龍王はヨシュアに抱えられて湯殿まで連れて行かれた。
 湯殿で髪を洗ってもらっていると、気持ちよくて眠気が襲ってくる。そんなに飲んだつもりはなかったのに、龍王にしては今日の酒量は多かったようだ。

 体まで洗ってもらって湯船に座らされて、ヨシュアは自分の体と髪を洗っている。
 ヨシュアは湯あみするときに魔術と石鹸で後孔も清潔にしているので、龍王よりも少し時間がかかる。先に龍王の方が湯船に浸かって待っているのはいつものことだった。

「ヨシュア、百年前は髪の長さは背中くらいでしたね」
「星宇はあのころの長さに戻したよな。おれも切るか?」
「ダメです。ヨシュアは長いのが似合います」

 どんな冠を被るよりも豪奢に見える金色の髪が龍王は好きだった。
 始めて見たときからヨシュアは何て美しい男性だろうと思っていた。

「百年前も今もヨシュアは変わらず美しい」
「星宇はずっと可愛いな」
「可愛いではなく、格好いいになりたいですね」
「可愛いんだから仕方がない」

 啄むように頬に口付けしてくれたヨシュアに、龍王は目を閉じて唇に口付けを強請る。
 唇に口付けられて、ヨシュアの髪に手を差し入れて引き寄せ、舌を絡めると、ヨシュアが龍王の頬を撫でる。

「ヨシュア、明日、二人だけで結婚記念日のやり直しをしましょう」
「二人だけだと寂しいから、赤栄殿でみんなで食事をしないか?」
「それもいいですけど、二人きりの時間も欲しいです」

 甘える龍王にヨシュアが口付けをしながら答えてくれる。

「それなら、明日の執務は休みにするか」
「最初からそのつもりです。ヨシュアも遠征は入っていないでしょう?」

 明日はたっぷりと二人の時間を持ちたい。
 そう主張する龍王にヨシュアは笑って「一緒に過ごそう」と言ってくれた。

 湯あみから出ると、ヨシュアが抱き上げて寝台まで運んでくれる。
 このまま抱き合ってもよかったが、龍王は今日は酒のせいか眠気の方が勝っていた。
 ヨシュアの胸に頭を乗せると、ヨシュアが水の加護で水気を飛ばした乾いた髪を撫でてくれる。
 その心地よさに目を閉じながら、龍王は眠りへと落ちて行った。
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