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十一章 研究課程最後の年
27.サラ様とティーア様のお誕生日
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サラ様とティーア様が1歳になる。
お二人のお誕生日は同じ日なので、ヘルレヴィ家とヴァンニ家の子どもたちで話し合いが行われた。
「サラとティーアのお誕生日は同じ場所でしたいと思っています」
「日替わりじゃダメかな?」
「日替わりだと、どちらかが本当の誕生日じゃない日に祝われることになるでしょう?」
ハンネス様の言葉にマウリ様が日替わりで二日連続で祝うことを提案したが、ハンネス様は真剣な表情でそれを却下した。可愛い末の妹のことである、ハンネス様もマウリ様も真剣になってしまうのは仕方がない。
「そしたら、ヘルレヴィ家でやった方がいいんじゃないかな。子ども部屋も広いし」
「そうなると、ティーアが不平等な気がするのですよね。ティーアも自分の家でお誕生日を祝いたいと思う日が来るのではないでしょうか」
話し合うマウリ様とハンネス様に、ミルヴァ様とフローラ様が入ってくる。
「まだサラもティーアも1歳だわ。どっちの家がいいなんて主張できないでしょう?」
「もう少し大きくなってから、二人に話し合わせてはどうかしら?」
「それまでは、今年はヘルレヴィ家、来年はヴァンニ家と、順番にするのよ」
ミルヴァ様とフローラ様の発言にも一理ある。
「今年はサラとティーアのお誕生日はヘルレヴィ家でやりますが、いいですか?」
「来年はヴァンニ家でやればいいよね」
ハンネス様とマウリ様の問いかけに、エミリア様とライネ様とダーヴィド様が答える。
「いいと思うわ」
「ことしは、ヘルレヴィけだね」
「らいねんは、ヴァンニけ。ねぇ、らいちゃん、らいねんっていつ?」
「いちねんごのことだよ」
まだ5歳のダーヴィド様には来年の概念がピンと来ていないようで、ライネ様が説明してあげている。話し合いで無事に今年のサラ様とティーア様のお誕生日はヘルレヴィ家で祝うことが決まった。
子どもたちが話し合って決めたことに、基本的にカールロ様もスティーナ様も、サロモン先生もヨハンナ様も反対はしない。それぞれにマウリ様とハンネス様が報告に行くと、子どもたちが話し合って決めたとおりにしてくださるようだった。
子ども部屋の椅子に座って、サラ様が大きなお口を開けて離乳食を食べさせてもらっている。離乳食のお皿に残っている食べ物が少なくなると、サラ様はぷるぷると震えてなくなっていく様子を惜しんでいる。
食いしん坊のサラ様のためにも1歳のお誕生日ケーキは考えなければいけない。
「サラはアレルギーはないんだよね?」
「はい、乳製品、卵、小麦粉のアレルギーはないことを確認しています」
「兄上、ティーアは?」
「特にアレルギーはないみたいですよ」
わたくしがアレルギー反応に関する研究をしているのでマウリ様もミルヴァ様もアレルギーへの関心は高い。サラ様にもティーア様にもアレルギーがないことを確認して、ケーキを考える。
「初めてのケーキだから、私たちで作ってあげたい」
「サラとティーアだけのケーキを作りたいわね」
毎日お弁当を作ることで料理スキルを上げているマウリ様とミルヴァ様はケーキを作ることに興味津々だ。サラ様に丸々一個、ティーア様に丸々一個、特別なケーキを作りたいと考えているようだ。
「まー兄上と姉上がケーキを作るなら、わたくしはお花を用意しようかしら」
「庭師さんに聞いてみましょう、ふー姉上」
フローラ様とエミリア様はお誕生日のためのお花を準備するつもりでいる。
「だーちゃん、わたしたちはおたんじょうび、どうする?」
「サラとティーアはわたしたちが、『いないいないばぁ』するとよろこぶよ」
「おたんじょうびおいわいに、『いないいないばぁ』?」
「えほんがある! 『いないいないばぁ』するえほんがあるから、それをよんであげよう」
「えほんか! それはいいかもしれないね」
ライネ様とダーヴィド様はお誕生日お祝いに絵本を読んであげることに決めたようだった。
それぞれにできることを考えて、お誕生日の準備をする。まだ歯の生え揃っていないサラ様とティーア様のケーキは柔らかいものを準備しなければいけない。レシピを見てマウリ様とミルヴァ様が目をつけたのは、ヨーグルトとクリームのムースだった。
「これなら、サラとティーアも食べられるよね」
「上にジャムをかけてあげたら、華やかになるわ」
わたくしもお手伝いして、ヨーグルトとクリームのムースを厨房で作らせてもらった。ヨーグルトとクリームとお砂糖を混ぜ合わせて、溶かしたゼラチンを入れて、下に敷いたスポンジ生地の上に流し入れて固めるだけの簡単なものだが、小さなケーキ二個分と、それ以外の子どもたちと大人たちの分を作るのはかなり大量だった。子どもだけでもマウリ様とミルヴァ様とエミリア様とダーヴィド様、ハンネス様とフローラ様とライネ様、それにわたくしの八人いるし、加えてカールロ様とスティーナ様と、サロモン先生とヨハンナ様という大人が四人いる。合計十二人分のケーキとは別に、サラ様の小さなケーキが一個、ティーア様の小さなケーキが一個なので、厨房の巨大な冷蔵庫もかなり埋まってしまった。
厨房の料理人さんには申し訳ないが、お誕生日は明日なのでなんとかその状態で仕事をしてもらうことにする。
次の日は朝に畑仕事を終えて、シャワーを浴びて、マウリ様とミルヴァ様を高等学校に送って行って、わたくしもサンルームでハールス先生と勉強をした。午後の授業が終わってマウリ様とミルヴァ様が戻ってくると、ヘルレヴィ家に移転の魔法で帰る。
帰り付く頃にはサラ様もお昼寝から起きていて、フローラ様とライネ様と一緒に連れて来られていたティーア様もお昼寝から起きていて、お腹を空かせてスティーナ様とヨハンナ様に抱っこされて泣いていた。
「待っててくれたの?」
「途中で何か食べさせようかと思いましたが、せっかくケーキがあるので我慢させました」
「ティーアも少しの間ならもつのではないかと思って、ミルクだけ飲ませて待たせていました」
「ごめんね、サラ、ティーア。帰るのが遅くなっちゃって」
謝るマウリ様とミルヴァ様に、サラ様とティーア様は泣き止んでくれない。大急ぎで着替えてケーキを持ってくると、サラ様とティーア様は限界だったのか、目の前にケーキが来た瞬間に顔から突っ込んで食べていた。
部屋にはフローラ様とエミリア様が庭師さんからもらってきた花が飾られていて、ライネ様とダーヴィド様はハンネス様に手伝ってもらって、絵本を読む用意をしている。
「お誕生日おめでとう、サラ、ティーア」
「もう食べるのに夢中ね」
フローラ様が声をかけてもサラ様とティーア様はケーキを顔中で食べていて、エミリア様がくすくすと笑っていた。ケーキを食べ終えて落ち着くと、サラ様とティーア様にライネ様とダーヴィド様が絵本を読んで差し上げる。最初は自分の方を向けて読んでいるライネ様とダーヴィド様に、ハンネス様が絵をサラ様とティーア様に見せるようにそっと教えていた。ハンネス様の指導もあって、ライネ様とダーヴィド様は無事に絵本をサラ様とティーア様に読んであげることができた。
お腹いっぱいになったサラ様とティーア様が子ども部屋で蕪マンドラゴラのかぶのすけとおかぶを引きずりながら、よちよち歩いて遊んでいる間に、わたくしたちもお茶の時間にする。部屋の暑さでムースは少し溶けかけていたが、まだ冷たく、紅茶と共に食べると口の中で蕩けてとても美味しかった。
「サラとティーアがもう1歳なんて信じられませんね」
「去年の今頃は、わたくしは命懸けでティーアを産んでいたのですよ」
「夜が明けていましたよね」
サラ様は日付が変わってすぐに生まれたが、ティーア様は朝までかかって生まれた。月経にも個人差があるが、妊娠や出産にも個人差があることをわたくしはスティーナ様とヨハンナ様に学ばせていただいていた。
「サラ、かぶのすけが擦れちゃうわよ」
「ティーア、おかぶは歩けるわよ」
「う?」
「あぶ?」
エミリア様とフローラ様が言っても、サラ様とティーア様は蕪マンドラゴラのかぶのすけとおかぶを引きずって歩いている。床に体が擦れても、蕪マンドラゴラのかぶのすけとおかぶは、必死に我慢しているようだった。
お二人のお誕生日は同じ日なので、ヘルレヴィ家とヴァンニ家の子どもたちで話し合いが行われた。
「サラとティーアのお誕生日は同じ場所でしたいと思っています」
「日替わりじゃダメかな?」
「日替わりだと、どちらかが本当の誕生日じゃない日に祝われることになるでしょう?」
ハンネス様の言葉にマウリ様が日替わりで二日連続で祝うことを提案したが、ハンネス様は真剣な表情でそれを却下した。可愛い末の妹のことである、ハンネス様もマウリ様も真剣になってしまうのは仕方がない。
「そしたら、ヘルレヴィ家でやった方がいいんじゃないかな。子ども部屋も広いし」
「そうなると、ティーアが不平等な気がするのですよね。ティーアも自分の家でお誕生日を祝いたいと思う日が来るのではないでしょうか」
話し合うマウリ様とハンネス様に、ミルヴァ様とフローラ様が入ってくる。
「まだサラもティーアも1歳だわ。どっちの家がいいなんて主張できないでしょう?」
「もう少し大きくなってから、二人に話し合わせてはどうかしら?」
「それまでは、今年はヘルレヴィ家、来年はヴァンニ家と、順番にするのよ」
ミルヴァ様とフローラ様の発言にも一理ある。
「今年はサラとティーアのお誕生日はヘルレヴィ家でやりますが、いいですか?」
「来年はヴァンニ家でやればいいよね」
ハンネス様とマウリ様の問いかけに、エミリア様とライネ様とダーヴィド様が答える。
「いいと思うわ」
「ことしは、ヘルレヴィけだね」
「らいねんは、ヴァンニけ。ねぇ、らいちゃん、らいねんっていつ?」
「いちねんごのことだよ」
まだ5歳のダーヴィド様には来年の概念がピンと来ていないようで、ライネ様が説明してあげている。話し合いで無事に今年のサラ様とティーア様のお誕生日はヘルレヴィ家で祝うことが決まった。
子どもたちが話し合って決めたことに、基本的にカールロ様もスティーナ様も、サロモン先生もヨハンナ様も反対はしない。それぞれにマウリ様とハンネス様が報告に行くと、子どもたちが話し合って決めたとおりにしてくださるようだった。
子ども部屋の椅子に座って、サラ様が大きなお口を開けて離乳食を食べさせてもらっている。離乳食のお皿に残っている食べ物が少なくなると、サラ様はぷるぷると震えてなくなっていく様子を惜しんでいる。
食いしん坊のサラ様のためにも1歳のお誕生日ケーキは考えなければいけない。
「サラはアレルギーはないんだよね?」
「はい、乳製品、卵、小麦粉のアレルギーはないことを確認しています」
「兄上、ティーアは?」
「特にアレルギーはないみたいですよ」
わたくしがアレルギー反応に関する研究をしているのでマウリ様もミルヴァ様もアレルギーへの関心は高い。サラ様にもティーア様にもアレルギーがないことを確認して、ケーキを考える。
「初めてのケーキだから、私たちで作ってあげたい」
「サラとティーアだけのケーキを作りたいわね」
毎日お弁当を作ることで料理スキルを上げているマウリ様とミルヴァ様はケーキを作ることに興味津々だ。サラ様に丸々一個、ティーア様に丸々一個、特別なケーキを作りたいと考えているようだ。
「まー兄上と姉上がケーキを作るなら、わたくしはお花を用意しようかしら」
「庭師さんに聞いてみましょう、ふー姉上」
フローラ様とエミリア様はお誕生日のためのお花を準備するつもりでいる。
「だーちゃん、わたしたちはおたんじょうび、どうする?」
「サラとティーアはわたしたちが、『いないいないばぁ』するとよろこぶよ」
「おたんじょうびおいわいに、『いないいないばぁ』?」
「えほんがある! 『いないいないばぁ』するえほんがあるから、それをよんであげよう」
「えほんか! それはいいかもしれないね」
ライネ様とダーヴィド様はお誕生日お祝いに絵本を読んであげることに決めたようだった。
それぞれにできることを考えて、お誕生日の準備をする。まだ歯の生え揃っていないサラ様とティーア様のケーキは柔らかいものを準備しなければいけない。レシピを見てマウリ様とミルヴァ様が目をつけたのは、ヨーグルトとクリームのムースだった。
「これなら、サラとティーアも食べられるよね」
「上にジャムをかけてあげたら、華やかになるわ」
わたくしもお手伝いして、ヨーグルトとクリームのムースを厨房で作らせてもらった。ヨーグルトとクリームとお砂糖を混ぜ合わせて、溶かしたゼラチンを入れて、下に敷いたスポンジ生地の上に流し入れて固めるだけの簡単なものだが、小さなケーキ二個分と、それ以外の子どもたちと大人たちの分を作るのはかなり大量だった。子どもだけでもマウリ様とミルヴァ様とエミリア様とダーヴィド様、ハンネス様とフローラ様とライネ様、それにわたくしの八人いるし、加えてカールロ様とスティーナ様と、サロモン先生とヨハンナ様という大人が四人いる。合計十二人分のケーキとは別に、サラ様の小さなケーキが一個、ティーア様の小さなケーキが一個なので、厨房の巨大な冷蔵庫もかなり埋まってしまった。
厨房の料理人さんには申し訳ないが、お誕生日は明日なのでなんとかその状態で仕事をしてもらうことにする。
次の日は朝に畑仕事を終えて、シャワーを浴びて、マウリ様とミルヴァ様を高等学校に送って行って、わたくしもサンルームでハールス先生と勉強をした。午後の授業が終わってマウリ様とミルヴァ様が戻ってくると、ヘルレヴィ家に移転の魔法で帰る。
帰り付く頃にはサラ様もお昼寝から起きていて、フローラ様とライネ様と一緒に連れて来られていたティーア様もお昼寝から起きていて、お腹を空かせてスティーナ様とヨハンナ様に抱っこされて泣いていた。
「待っててくれたの?」
「途中で何か食べさせようかと思いましたが、せっかくケーキがあるので我慢させました」
「ティーアも少しの間ならもつのではないかと思って、ミルクだけ飲ませて待たせていました」
「ごめんね、サラ、ティーア。帰るのが遅くなっちゃって」
謝るマウリ様とミルヴァ様に、サラ様とティーア様は泣き止んでくれない。大急ぎで着替えてケーキを持ってくると、サラ様とティーア様は限界だったのか、目の前にケーキが来た瞬間に顔から突っ込んで食べていた。
部屋にはフローラ様とエミリア様が庭師さんからもらってきた花が飾られていて、ライネ様とダーヴィド様はハンネス様に手伝ってもらって、絵本を読む用意をしている。
「お誕生日おめでとう、サラ、ティーア」
「もう食べるのに夢中ね」
フローラ様が声をかけてもサラ様とティーア様はケーキを顔中で食べていて、エミリア様がくすくすと笑っていた。ケーキを食べ終えて落ち着くと、サラ様とティーア様にライネ様とダーヴィド様が絵本を読んで差し上げる。最初は自分の方を向けて読んでいるライネ様とダーヴィド様に、ハンネス様が絵をサラ様とティーア様に見せるようにそっと教えていた。ハンネス様の指導もあって、ライネ様とダーヴィド様は無事に絵本をサラ様とティーア様に読んであげることができた。
お腹いっぱいになったサラ様とティーア様が子ども部屋で蕪マンドラゴラのかぶのすけとおかぶを引きずりながら、よちよち歩いて遊んでいる間に、わたくしたちもお茶の時間にする。部屋の暑さでムースは少し溶けかけていたが、まだ冷たく、紅茶と共に食べると口の中で蕩けてとても美味しかった。
「サラとティーアがもう1歳なんて信じられませんね」
「去年の今頃は、わたくしは命懸けでティーアを産んでいたのですよ」
「夜が明けていましたよね」
サラ様は日付が変わってすぐに生まれたが、ティーア様は朝までかかって生まれた。月経にも個人差があるが、妊娠や出産にも個人差があることをわたくしはスティーナ様とヨハンナ様に学ばせていただいていた。
「サラ、かぶのすけが擦れちゃうわよ」
「ティーア、おかぶは歩けるわよ」
「う?」
「あぶ?」
エミリア様とフローラ様が言っても、サラ様とティーア様は蕪マンドラゴラのかぶのすけとおかぶを引きずって歩いている。床に体が擦れても、蕪マンドラゴラのかぶのすけとおかぶは、必死に我慢しているようだった。
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