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第三章 結婚に向けて
27.国の危機、再び
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初夏にイサギが先に17歳の誕生日を迎えて、ナホが4歳になって、秋にはセイリュウ領にはめでたい話が持ち上がった。領主のサナが第二子を妊娠したことが分かったのだ。第一子のレオも1歳を超えて健康にすくすくと大きくなって、カナエも5歳になっていて、セイリュウ領は幸福な気配に包まれていた。
それを震撼させたのは、ローズの出産した第二子の王子が、死の病にかかってしまったという知らせだった。
国中の薬師や医者が、王都に集まって生まれたばかりの王子を助けようとしているが、誰も有効な手立てを打てないでいる。
サナに呼び出されたイサギは、エドヴァルドの後ろに隠れていることも忘れて、身を乗り出した。
「赤さん、死んでしまうんか?」
「このまま、熱が下がらずに、母乳も飲めなければ死んでまうやろな」
「生まれたばっかりやのに?」
年子で赤ん坊を産んだローズの方は健康なのに、産まれてきた赤ん坊が死にかけている。自分がナホを引き取って育てているだけあって、ローズが母親として産まれたばかりの自分の子どもが苦しんでいるという状態に、イサギはいても立ってもいられない。
「セイリュウ領の領主からの命令や。イサギ、行ってきて王子はんをお救いするんや」
「でも、俺は、学生で正式な薬草学者でもなんでもない」
「イサギさんの育てたマンドラゴラは非常に強い薬効を持っています。行きましょう」
「エドさん……」
ローズの従兄として放っておけない事態に立ち上がったエドヴァルドの手を、イサギはしっかりと握る。二年前、王都で文献の古代文字も読めなかったイサギは、勉強して、エドヴァルドの助けもあれば相当難しい文献も読み解けるようになっていた。
勇気を振り絞って、イサギは習得した能力を使うのは今だと顔を上げる。
「サナちゃんの従弟として、ローズ女王はんの従兄の婚約者として、その依頼、お受けします」
「命懸けでやってくるんやで」
「俺とエドさんがおらん間、ナホちゃんのこと、よろしく頼みます」
サナとレンにはカナエもレオもいるので、安心だと預けて、イサギは一度薬草畑に戻って、マンドラゴラたちに声をかけた。
「ローズ女王はんの赤さんが死にかけとる。あんさんらの命が必要や」
「びゃびゃ!」
「びゃい!」
「びょえ!」
神妙な顔つきでネットから這い出て来てマンドラゴラたちがイサギの前に整列する。自分たちが薬になるために、刻まれたり、煮込まれたり、すり潰されたりすることを、彼らは受け入れるつもりのようだった。
引き抜かれるときに抵抗して『死の絶叫』を上げて、身を守ろうとするマンドラゴラたちが、その身を捧げようとしている。
「大事にあんさんらの命は使わせてもらう」
エドヴァルドと二人で広げた袋の中に、自ら飛び込んでいくマンドラゴラの献身に涙ぐみながら、イサギはずっしりと重い袋を担いだ。領主の御屋敷に連れて来られたナホにはよく言い聞かせる。
「お父ちゃんたちは、エドお父ちゃんの従妹の大事な赤さんを助けに行って来る」
「ナホさんには少しの間、寂しい思いをさせるかもしれませんが、必ず迎えに来ますから、カナエさんとレオさんと、レンさんとサナさんのお屋敷で待っていてください」
「イサギおとうちゃん、エドおとうさん、あかちゃんをたすけてね」
「頑張ってくるで」
小さな手を握り締めるナホは、一度両親を亡くしている。離れることが怖いのは理解できるが、王子の危篤で雑然とした王都に連れて行くわけにはいかなかった。
必ず戻ると約束をして、移転の魔術で飛んだ先で、ローズがぐったりとした赤ん坊を抱き締めていた。そばでリュリュが癒しの歌を歌い続けて、どうにか命を繋いでいるようだ。
「熱が下がらなくて、お乳が喉を通らないんだ。飲ませても吐いてしまう。かなり衰弱している」
「お願いです、赤ちゃんを……」
涙で歌えなくならないようにぐっとこらえて、リュリュはまた歌を続ける。
「薬剤の調合室をお借りします」
衛兵に案内されて、エドヴァルドとイサギは薬剤の調合室に入った。中では大勢の医師や薬師がそれぞれに薬を調合している。部屋に満ちる異様な雰囲気に、イサギはエドヴァルドの顔を見上げた。
「その薬では副作用が強すぎる! 新生児に与えたら、危険だ」
「そっちの薬草は、幼い子どもにはまだ早い」
「下手に障害が残ったりすれば、女王陛下からどんな罰を与えられるか」
ローズの第二子は新生児で、内臓がまだ発達していない。与える薬剤には、副作用のあるものもあって、それを排出できる器官が出来上がっていない新生児に与えると、重篤な障害を残す可能性もあった。
可能性の段階で、彼らは躊躇して、産まれたばかりの王子に処置をできていないのだ。
「サナちゃんが、俺を送った理由が、分かった」
「そうですね。私たちは、自分の保身など考えなくて済みますものね」
自らの保身ばかりを考えて、治療の一歩を踏み出せない医師や薬師の気持ちも分かる。重篤な障害を残してしまえば、一生涯に渡って王子は手厚い介護なしに生活できなくなる。そんな様子を見せつけられて、あの医師が、あの薬師が、王子をあんな状態にしたのだと後ろ指をさされ続けるのは、王都での出世を棄てることに他ならない。
「エドヴァルドさん?」
「ジェーンさん、来られていたのですね」
「えぇ。私は婦人科で専門外ではあるけれど、新生児を診たことがないわけではないから」
躊躇う医師や薬師の中で、必死に調合台に向かっていたクリスティアンの婚約者のジェーンが、イサギとエドヴァルドに気付いて手招きする。周囲の医師や薬師は、形だけ薬を作るふりをしているが、作業の途中で「これはダメだ」と捨ててしまっていた。
「やる気がないひとは出て行って! 邪魔よ! 女王陛下の従兄のエドヴァルドさんと、セイリュウ領の領主の従弟で、あの人参マンドラゴラを育てた婚約者のイサギさんが来たわ。作業の邪魔をしないで!」
手を動かさずに口ばかり動かしている医師や薬師を、ジェーンが手際よく追い出してしまう。残ったのはローズのお産で王子を取り上げた主治医の女性と、ジェーンと、イサギとエドヴァルドだけだった。
「状況をイサギさんとエドヴァルドさんに教えてくださいますか?」
「はい。生まれたときにはなんの異常もなかったのです。産声も元気で、体重も一般的で、聴診器で聞いた限りでは内臓に異常があるとも思えませんでした」
ジェーンに促されて、主治医が説明してくれる。出産は何の問題もなく安産で、産まれたときには王子には何の異変も感じられなかったという。
異常が起きたのは、生後2日程経ってからのこと。急に夜中に泣き出して、熱を測ってみたら38度を超していて、母乳や薬を飲ませても吐いてしまうようになったのだ。
「俺は医学には詳しくないから、ジェーンさんと主治医はん、赤さんを診て来てくれませんか? せめて熱が下がったら、母乳くらい飲めるようになるかもしれへん」
「赤ん坊の熱さましと栄養補給には蕪マンドラゴラが有効ですが……まだ新生児で飲み込めないかもしれませんね」
「哺乳瓶に入れられるように調合しよ」
もうなく元気もなくぐったりとした王子を、ジェーンと主治医が見に行ってくれている間に、イサギとエドヴァルドは袋から蕪マンドラゴラを取り出した。丸々と太った蕪マンドラゴラは、イサギとエドヴァルドとナホが抱っこして栄養剤を飲ませて、大事に育てた一匹だった。
神妙な顔つきでまな板の上に大の字になって、蕪マンドラゴラが「やってくれ」とばかりに頷く。
「あんさんの命は無駄にせぇへん」
構えた包丁を振り下ろして刻んでも、蕪マンドラゴラは悲鳴すら上げず大人しかった。刻んだ蕪マンドラゴラに、他の薬液も加えて、柔らかくなるまで煮込む。煮込んだらすり潰して、ガーゼで濾して、哺乳瓶で飲めるように液体にした。
「ローズ女王はん、とりあえず、これを飲ませてください」
「赤ちゃんには少し強すぎるかもしれませんが、一刻を争う事態です」
「何が起ころうと、そなたたちを信頼しておる」
ランプの火に飛び込んで「自分を王子様に!」とばかりに捧げようとする人参マンドラゴラは、縛られて水と豊かな土で作られたプール付きの箱庭から逃げられないようにしてある。縛られてもウゴウゴと蠢いて、箱庭の中から王子を気にしている様子がよく分かる。
「人参さんは、赤ちゃんのために……」
「大丈夫や、あんさんはリュリュ様とローズ様のそばにいるのが、大事なんや。命を捧げようとせんでええ」
「びょえ……」
人参マンドラゴラにまで心配される小さな生まれたばかりの第二王子。哺乳瓶を口に咥えさせると、少しだけ飲んで眠ってしまった。寝顔にほとりとローズの涙が落ちる。
「生まれたときはなんともなかったのに」
「ローズ様、眠っていますよ」
高熱で苦しくて眠ることもできなかった赤ん坊が眠っている。それだけで涙が溢れて来て、リュリュとローズは抱き合う。その足元で、兄の1歳のユーリも、ローズの脚にしがみ付いて泣いていた。
世界中怖いものばかりで、ツムギの後ろに隠れて生きてきたイサギは、兄弟というものがどれだけ大事か痛いほど分かっている。
「弟さんは絶対助けるからな」
「あい……」
涙に濡れたリュリュそっくりの顔を撫でると、ユーリはこくりと頷いた。
目を覚ますたびに、蕪マンドラゴラを主な材料とした熱さましと栄養剤を与えていると、第二王子の熱が下がってきて、母乳を少しだけ飲めるようになった。
これで命は繋ぎ止めたと安堵していると、赤ん坊を診たジェーンと主治医から、不穏な言葉が出る。
「やはり、内臓や体の機能には、異常が見当たりません」
「菌に感染したとしても、新生児の場合には、母親から免疫を貰っているはずなのよね。ローズ女王陛下のかかっていない病気に、新生児がかかるとは思えない」
結論として、魔術的な干渉を受けているのではないかと言われて、イサギの頭に浮かんだのは、一人の女性だった。
それを震撼させたのは、ローズの出産した第二子の王子が、死の病にかかってしまったという知らせだった。
国中の薬師や医者が、王都に集まって生まれたばかりの王子を助けようとしているが、誰も有効な手立てを打てないでいる。
サナに呼び出されたイサギは、エドヴァルドの後ろに隠れていることも忘れて、身を乗り出した。
「赤さん、死んでしまうんか?」
「このまま、熱が下がらずに、母乳も飲めなければ死んでまうやろな」
「生まれたばっかりやのに?」
年子で赤ん坊を産んだローズの方は健康なのに、産まれてきた赤ん坊が死にかけている。自分がナホを引き取って育てているだけあって、ローズが母親として産まれたばかりの自分の子どもが苦しんでいるという状態に、イサギはいても立ってもいられない。
「セイリュウ領の領主からの命令や。イサギ、行ってきて王子はんをお救いするんや」
「でも、俺は、学生で正式な薬草学者でもなんでもない」
「イサギさんの育てたマンドラゴラは非常に強い薬効を持っています。行きましょう」
「エドさん……」
ローズの従兄として放っておけない事態に立ち上がったエドヴァルドの手を、イサギはしっかりと握る。二年前、王都で文献の古代文字も読めなかったイサギは、勉強して、エドヴァルドの助けもあれば相当難しい文献も読み解けるようになっていた。
勇気を振り絞って、イサギは習得した能力を使うのは今だと顔を上げる。
「サナちゃんの従弟として、ローズ女王はんの従兄の婚約者として、その依頼、お受けします」
「命懸けでやってくるんやで」
「俺とエドさんがおらん間、ナホちゃんのこと、よろしく頼みます」
サナとレンにはカナエもレオもいるので、安心だと預けて、イサギは一度薬草畑に戻って、マンドラゴラたちに声をかけた。
「ローズ女王はんの赤さんが死にかけとる。あんさんらの命が必要や」
「びゃびゃ!」
「びゃい!」
「びょえ!」
神妙な顔つきでネットから這い出て来てマンドラゴラたちがイサギの前に整列する。自分たちが薬になるために、刻まれたり、煮込まれたり、すり潰されたりすることを、彼らは受け入れるつもりのようだった。
引き抜かれるときに抵抗して『死の絶叫』を上げて、身を守ろうとするマンドラゴラたちが、その身を捧げようとしている。
「大事にあんさんらの命は使わせてもらう」
エドヴァルドと二人で広げた袋の中に、自ら飛び込んでいくマンドラゴラの献身に涙ぐみながら、イサギはずっしりと重い袋を担いだ。領主の御屋敷に連れて来られたナホにはよく言い聞かせる。
「お父ちゃんたちは、エドお父ちゃんの従妹の大事な赤さんを助けに行って来る」
「ナホさんには少しの間、寂しい思いをさせるかもしれませんが、必ず迎えに来ますから、カナエさんとレオさんと、レンさんとサナさんのお屋敷で待っていてください」
「イサギおとうちゃん、エドおとうさん、あかちゃんをたすけてね」
「頑張ってくるで」
小さな手を握り締めるナホは、一度両親を亡くしている。離れることが怖いのは理解できるが、王子の危篤で雑然とした王都に連れて行くわけにはいかなかった。
必ず戻ると約束をして、移転の魔術で飛んだ先で、ローズがぐったりとした赤ん坊を抱き締めていた。そばでリュリュが癒しの歌を歌い続けて、どうにか命を繋いでいるようだ。
「熱が下がらなくて、お乳が喉を通らないんだ。飲ませても吐いてしまう。かなり衰弱している」
「お願いです、赤ちゃんを……」
涙で歌えなくならないようにぐっとこらえて、リュリュはまた歌を続ける。
「薬剤の調合室をお借りします」
衛兵に案内されて、エドヴァルドとイサギは薬剤の調合室に入った。中では大勢の医師や薬師がそれぞれに薬を調合している。部屋に満ちる異様な雰囲気に、イサギはエドヴァルドの顔を見上げた。
「その薬では副作用が強すぎる! 新生児に与えたら、危険だ」
「そっちの薬草は、幼い子どもにはまだ早い」
「下手に障害が残ったりすれば、女王陛下からどんな罰を与えられるか」
ローズの第二子は新生児で、内臓がまだ発達していない。与える薬剤には、副作用のあるものもあって、それを排出できる器官が出来上がっていない新生児に与えると、重篤な障害を残す可能性もあった。
可能性の段階で、彼らは躊躇して、産まれたばかりの王子に処置をできていないのだ。
「サナちゃんが、俺を送った理由が、分かった」
「そうですね。私たちは、自分の保身など考えなくて済みますものね」
自らの保身ばかりを考えて、治療の一歩を踏み出せない医師や薬師の気持ちも分かる。重篤な障害を残してしまえば、一生涯に渡って王子は手厚い介護なしに生活できなくなる。そんな様子を見せつけられて、あの医師が、あの薬師が、王子をあんな状態にしたのだと後ろ指をさされ続けるのは、王都での出世を棄てることに他ならない。
「エドヴァルドさん?」
「ジェーンさん、来られていたのですね」
「えぇ。私は婦人科で専門外ではあるけれど、新生児を診たことがないわけではないから」
躊躇う医師や薬師の中で、必死に調合台に向かっていたクリスティアンの婚約者のジェーンが、イサギとエドヴァルドに気付いて手招きする。周囲の医師や薬師は、形だけ薬を作るふりをしているが、作業の途中で「これはダメだ」と捨ててしまっていた。
「やる気がないひとは出て行って! 邪魔よ! 女王陛下の従兄のエドヴァルドさんと、セイリュウ領の領主の従弟で、あの人参マンドラゴラを育てた婚約者のイサギさんが来たわ。作業の邪魔をしないで!」
手を動かさずに口ばかり動かしている医師や薬師を、ジェーンが手際よく追い出してしまう。残ったのはローズのお産で王子を取り上げた主治医の女性と、ジェーンと、イサギとエドヴァルドだけだった。
「状況をイサギさんとエドヴァルドさんに教えてくださいますか?」
「はい。生まれたときにはなんの異常もなかったのです。産声も元気で、体重も一般的で、聴診器で聞いた限りでは内臓に異常があるとも思えませんでした」
ジェーンに促されて、主治医が説明してくれる。出産は何の問題もなく安産で、産まれたときには王子には何の異変も感じられなかったという。
異常が起きたのは、生後2日程経ってからのこと。急に夜中に泣き出して、熱を測ってみたら38度を超していて、母乳や薬を飲ませても吐いてしまうようになったのだ。
「俺は医学には詳しくないから、ジェーンさんと主治医はん、赤さんを診て来てくれませんか? せめて熱が下がったら、母乳くらい飲めるようになるかもしれへん」
「赤ん坊の熱さましと栄養補給には蕪マンドラゴラが有効ですが……まだ新生児で飲み込めないかもしれませんね」
「哺乳瓶に入れられるように調合しよ」
もうなく元気もなくぐったりとした王子を、ジェーンと主治医が見に行ってくれている間に、イサギとエドヴァルドは袋から蕪マンドラゴラを取り出した。丸々と太った蕪マンドラゴラは、イサギとエドヴァルドとナホが抱っこして栄養剤を飲ませて、大事に育てた一匹だった。
神妙な顔つきでまな板の上に大の字になって、蕪マンドラゴラが「やってくれ」とばかりに頷く。
「あんさんの命は無駄にせぇへん」
構えた包丁を振り下ろして刻んでも、蕪マンドラゴラは悲鳴すら上げず大人しかった。刻んだ蕪マンドラゴラに、他の薬液も加えて、柔らかくなるまで煮込む。煮込んだらすり潰して、ガーゼで濾して、哺乳瓶で飲めるように液体にした。
「ローズ女王はん、とりあえず、これを飲ませてください」
「赤ちゃんには少し強すぎるかもしれませんが、一刻を争う事態です」
「何が起ころうと、そなたたちを信頼しておる」
ランプの火に飛び込んで「自分を王子様に!」とばかりに捧げようとする人参マンドラゴラは、縛られて水と豊かな土で作られたプール付きの箱庭から逃げられないようにしてある。縛られてもウゴウゴと蠢いて、箱庭の中から王子を気にしている様子がよく分かる。
「人参さんは、赤ちゃんのために……」
「大丈夫や、あんさんはリュリュ様とローズ様のそばにいるのが、大事なんや。命を捧げようとせんでええ」
「びょえ……」
人参マンドラゴラにまで心配される小さな生まれたばかりの第二王子。哺乳瓶を口に咥えさせると、少しだけ飲んで眠ってしまった。寝顔にほとりとローズの涙が落ちる。
「生まれたときはなんともなかったのに」
「ローズ様、眠っていますよ」
高熱で苦しくて眠ることもできなかった赤ん坊が眠っている。それだけで涙が溢れて来て、リュリュとローズは抱き合う。その足元で、兄の1歳のユーリも、ローズの脚にしがみ付いて泣いていた。
世界中怖いものばかりで、ツムギの後ろに隠れて生きてきたイサギは、兄弟というものがどれだけ大事か痛いほど分かっている。
「弟さんは絶対助けるからな」
「あい……」
涙に濡れたリュリュそっくりの顔を撫でると、ユーリはこくりと頷いた。
目を覚ますたびに、蕪マンドラゴラを主な材料とした熱さましと栄養剤を与えていると、第二王子の熱が下がってきて、母乳を少しだけ飲めるようになった。
これで命は繋ぎ止めたと安堵していると、赤ん坊を診たジェーンと主治医から、不穏な言葉が出る。
「やはり、内臓や体の機能には、異常が見当たりません」
「菌に感染したとしても、新生児の場合には、母親から免疫を貰っているはずなのよね。ローズ女王陛下のかかっていない病気に、新生児がかかるとは思えない」
結論として、魔術的な干渉を受けているのではないかと言われて、イサギの頭に浮かんだのは、一人の女性だった。
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