転生皇女セラフィナ

秋月真鳥

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一章 セラフィナ誕生

12.アルベルトの誕生日とリヴィアとのお茶会

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 ラファエルお兄様のお誕生日のお茶会から、アルベルト様には会えずにいる。アルベルト様もお誕生日なのでお茶会の準備をしていて、当然そのお茶会にはわたくしは参加できないのだった。
 アルベルト様の十二歳を祝いたい。
 アルベルト様が生まれた日をわたくしがベルンハルト公爵家にお仕えするようになってから、毎年祝っていた。
 お茶会は開かれるのだが、アルベルト様はそういう場を煩わしいと思っていたようで、後日わたくしとお茶の時間に祝うのが毎年恒例になっていた。
 アルベルト様に差し上げられるようなプレゼントは持っていなかったので、わたくしは庭師に頼んで花束を作ってもらった。庭師は毎年春薔薇を用意してくれて、アルベルト様はそれをとても喜んでくれた。

 アルベルト様のお誕生日のお茶会が終わってから、わたくしはやっとアルベルト様に会えるようになった。その日、わたくしは乳母の手を引っ張っていた。

「おとと、いくー!」
「セラフィナ殿下、お散歩に行きたいのですね。お着替えをして、帽子をかぶって参りましょう」
「あい!」

 わたくしの外に行きたい気持ちは通じたようだ。
 次は花の確保だったが、わたくしが庭に出ても庭師を見つけることができない。わたくしは乳母に身振り手振りを加えて説明した。

「おはな、ほちー! おはな、ちょきちょき!」
「花を切ってほしいのですか? 茎が少し危ないかもしれません」
「ほちーの!」

 一生懸命説明すると、乳母も理解してくれたようだった。
 庭師を呼んで命じる。

「セラフィナ殿下が持てる花で、持ったまま転んでも危なくないものを切ってください」
「心得ました」

 庭師が切ってくれたのはネモフィラの花だった。きれいな青い色でわたくしは嬉しくなる。

「かーいーねー」
「セラフィナ殿下がこんなにもお喋りをしている! 皇帝陛下と皇后陛下とラファエル殿下にお伝えしないと!」

 乳母はわたくしの話したことを記録していたようだった。
 わたくしはネモフィラの花を握って離さず、ずっと持っていた。少し萎れてきてしまったが、手を放すと花瓶に入れられてわたくしの手の届かないところに置かれてしまいそうなので、必死で持っていた。

 アルベルト様とユリウス様とラファエルお兄様がやってくると、わたくしはアルベルト様に駆け寄って少し萎れたネモフィラの花を差し出した。

「アルたま、おめめと」
「わたしにですか?」
「アルベルトの誕生日のお茶会に行けないって話をしていたから、アルベルトが誕生日だということを覚えていたんじゃないか。さすがセラフィナ、賢いな」

 一歳七か月にしては賢すぎるかもしれないと思っていたが、アルベルト様にお花をプレゼントしたい気持ちは我慢できなかったので、わたくしはアルベルト様に怪しまれようともお花は手渡した。

「亡くなったわたしのメイドが、毎年花をプレゼントしてくれて……それを思い出しました。ありがとうございます、セラフィナ殿下」

 クラリッサのことを思い出させて悲しい気持ちにさせてしまうかもしれないとも思ったが、アルベルト様は少し萎れたネモフィラの花を持って微笑んでいた。クラリッサのことはアルベルト様の中で整理がついたのだろうか。

 わたくしは最近、よく考えるようになった。
 わたくしはもうクラリッサには戻れない。
 わたくしはいつまでもクラリッサだったころのことを思い出して、振り返って、後悔していてはいけないのではないだろうか。

 お父様もお母様もラファエルお兄様も、わたくしをかわいがってくれている。溺愛していると言っても過言ではない。それは、わたくしが皇女セラフィナであるからだ。
 わたくしはクラリッサだったころのことを忘れて、皇女セラフィナとして生きていかなければいけないのではないだろうか。

 アルベルト様のことは気にかけているが、それもクラリッサとしてではなく、皇女セラフィナとしてできることをやっていった方がいいのではないか。

 わたくしはこれまで前世を振り返りすぎていたのかもしれない。
 今の幸福を受け止められていなかったのかもしれない。

 わたくしはお父様とお母様とラファエルお兄様の愛情に感謝して、皇女セラフィナとしての人生を歩んでいくべきなのかもしれないと思い始めていた。

 そのためにも、わたくしには友人が必要だ。

 アルマンドール公爵家とのお茶会の日は、近付いて来ていた。

 アルマンドール公爵家とのお茶会の日、わたくしは動きやすいワンピース姿でレギンスをはいてティールームに行った。
 アルマンドール公爵家の一家は揃っていた。

「娘のアンリエットと、息子のニコと、娘のリヴィアです」
「初めまして、ニコです」
「はじまめちて」

 アルマンドール公爵に紹介されて、初対面のニコ様とリヴィア嬢が挨拶をする。
 リヴィア嬢はアンリエット嬢が言っていた通りに利発そうな幼女だった。

 ニコ様は六歳くらいで、笑顔でわたくしを見ている。

「お姉様が言っていた、ラファエル殿下のお誕生日のお茶会で出会った愛らしい女の子とは、セラフィナ殿下だったのですね」
「そうなのですよ。リヴィアのお友達にぴったりだと思いませんか」
「リヴィアと並んだらとてもかわいいと思います」

 ニコ様も兄バカのようだった。
 わたくしは床の上に降ろされて、ティールームの端でリヴィア嬢と顔を会わせる。リヴィア嬢はわたくしを見た瞬間、にっこり笑って、わたくしの髪を撫でた。

「かーいーね」

 その笑顔がものすごくかわいい。
 アンリエット嬢と同じストロベリーブロンドの髪は少しふわふわしているが、それは幼児特有のものでもう少し大きくなれば真っすぐになるだろう。リヴィア嬢は目の色は明るい空色だった。

「かーいー」
「こえ、あげう」
「あいがちょ」

 リヴィア嬢がわたくしに差し出したのはかわいいウサギのぬいぐるみだった。わたくしはぬいぐるみはクマしか持っていなかったので嬉しくて抱き締めてしまう。

「アルマンドール公爵領は縫製が盛んで、ぬいぐるみも作っているのですよ」
「とてもかわいいですね」
「セラフィナが喜んでいる。アルマンドール公爵、ありがとう」
「喜んでいただけたら幸いです」

 お父様とアルマンドール公爵は微笑みながらわたくしたちを見ている。
 積み木が用意されていたので、ルカ様のことを思い出して警戒しつつ近寄ると、リヴィア嬢は積み木を積み上げて、わたくしに手招きする。

「どーんちて、いーよー?」
「いーの?」
「あい!」

 積み木を倒す許可を得たわたくしが積み木を倒すと、リヴィア嬢は楽しそうにきゃらきゃらと笑う。その笑い声もかわいくて、わたくしはリヴィア嬢に夢中になってしまいそうだった。
 二歳になるとこれだけ遊べるようになるのかもしれない。リヴィア嬢が女の子だというのもよかったのかもしれない。
 リヴィア嬢は絵本を差し出されても、破ることなく丁寧に扱って、アンリエット嬢に持って行っていた。

「ねぇね、ちて」
「はいはい、ねぇねが読みましょうね。セラフィナ殿下もご一緒にどうぞ」
「ここ、どーじょ」

 リヴィア嬢が自分の横の絨毯の上をぽんぽんと叩いて招いてくれるのに、わたくしもリヴィア嬢と一緒に床に座って絵本を聞く。アンリエット嬢は絵本を読むのも上手だった。
 絵本が終わると、リヴィア嬢は手を叩いて喜び、指を一本立てる。

「もっかい」
「もう一回読みますか」
「あい」

 二歳の女の子はこんなにも穏やかなのか。
 わたくしはリヴィア嬢と過ごすのが心地よかった。

 わたくしがリヴィア嬢と打ち解けているのを見て、お父様とお母様はアルマンドール公爵夫妻に話を持ち掛けていた。

「セラフィナがもう少し大きくなったら、リヴィア嬢はぜひ学友に」
「お願いしますわ」
「そんな栄誉をいただけるとは」
「喜んでお受けいたします」

 リヴィア嬢とは気が合いそうなので学友になれるのは嬉しいと思う。
 絵本が終わると、わたくしとリヴィア嬢は席に戻されて、ほぼ牛乳の薄いミルクティーとお茶菓子を食べた。

 セラフィナ、一歳七か月。
 初めて友達ができた瞬間だった。
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