転生皇女セラフィナ

秋月真鳥

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一章 セラフィナ誕生

13.セラフィナ、二歳

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 ラファエルお兄様が学園入学の準備を始めて、制服などを誂えるようになった。この国では秋が入学の季節なので、わたくしのお誕生日のすぐ後にラファエルお兄様は学園に入学するのだ。
 学園に入学してしまえば、アルベルト様が宮殿に来ることは少なくなる。
 アルベルト様もユリウス様も入学の準備を整えているようだ。

 入学式にはわたくしも出たいと思っているのだが、それが叶うかどうかは分からない。
 お父様とお母様が忙しくて学園の入学式に出られないのだったら、わたくしも当然出られないだろう。

 灰色の制服とアーガイル柄のベストのセットを着てきたラファエルお兄様に、わたくしは目を輝かせる。

「にぃに、しゅてきー」
「そうかな? セラフィナがそう言ってくれると、学園に行くのも楽しみになってくるよ」

 ラファエルお兄様にはラファエルお兄様なりに憂鬱があるようだ。
 これまではわたくしのいる子ども部屋で勉強ができていたのに、学園に入学すると子ども部屋では勉強をしなくなる。さすがに自分の部屋で勉強するようにお父様とお母様に言われてしまったのだ。

「かわいいセラフィナと学園に行っている間離れるだけでもつらいのに、帰ってからもセラフィナの顔を見ないで自分の部屋で勉強なんて……」
「にぃに、いこいこ」
「セラフィナから離れたくないよー!」

 わたくしを抱き締めて頬ずりをするラファエルお兄様に、学園の制服を見に来ていたお父様とお母様が苦笑している。

「ラファエルももう十二歳なのだから、聞き分けなさい」
「セラフィナがかわいいのは分かりますが、次期皇帝としての自覚を持つのです」
「わたしはこれまでもセラフィナが一緒でも絶対に集中力を欠いたりしませんでした。これからもそうできると思っています。そうでなければ次期皇帝の資格はないと思っています」

 無茶苦茶なことを言っているようだが、ラファエルお兄様は子ども部屋で勉強をしていたときに少しも成績を落としていなかった。学園には首席で入学できたのだから、その実力は言わずもがなである。
 それでもお父様とお母様はラファエルお兄様にわたくしと離れることを求めていた。

「ラファエルもこれから大人になっていくんだ。セラフィナも育っていく。いつまでもべったりと一緒にはいられないよ」
「節度を持って接することを学ぶのも大事です。いつもラファエルが一緒というのはセラフィナのためにもなりませんからね」

 そういえば、わたくしはあまり一人で子ども部屋で過ごしたことがない。
 ラファエルお兄様が一緒のことが多かった。
 わたくしも皇女として、一人で過ごすことを覚えないといけないのかもしれない。

「にぃに、バイバイ?」
「セラフィナー!? にぃににバイバイしないでー!? にぃにはセラフィナとずっと一緒にいたいよー!」
「ラファエル落ち着きなさい」
「セラフィナは行ってらっしゃいを言いたかったのではないかしら?」

 まだ二歳になっていない語彙でラファエルお兄様を励ましたつもりだったが、ラファエルお兄様にはショックな言葉だったようだ。
 わたくしは慌てて言い直す。

「いってらっちゃい」
「うぅ……セラフィナと離れるのはつらいけど、頑張るよ」

 ラファエルお兄様の入学準備が整うころには、わたくしのお誕生日が来ていた。
 去年のお誕生日はわたくしのお披露目だったので大々的に開かれたが、二歳の誕生日はまだお茶会デビューする六歳にもなっていないし、小規模で行われることが決まっていた。

 アルマンドール公爵一家と、ベルンハルト公爵一家が来てくれて、宮殿の少し広いティールームで祝うことになっている。
 リヴィア嬢とも会えるのでわたくしは楽しみにしていた。

 お誕生日のお茶会当日、わたくしはドレスを着せられて、ティールームに連れて来られた。ティールームの椅子には、アルマンドール公爵夫妻とアンリエット嬢とニコ様とリヴィア嬢、それにベルンハルト公爵夫妻とアルベルト様が座っていた。
 わたくしがお父様に抱っこされてお母様とラファエルお兄様とティールームに入ってくると、アンリエット嬢がリヴィア嬢を素早く抱っこして、全員が立ち上がる。

「セラフィナ殿下、お誕生日おめでとうございます」
「セラフィナ殿下のおめでたい日に立ち会うことができて光栄に思います」

 アルマンドール公爵夫妻がまず挨拶をした。

「セラフィナ殿下のとても愛らしいこと」
「リヴィアもセラフィナ殿下に会いたがっていましたよ。リヴィアとセラフィナ殿下が並んだらどれだけかわいいでしょう」

 アンリエット嬢もニコ様も挨拶をしてくれる。

「兄上、義姉上、大事なセラフィナ殿下が健康で二歳になったこと、本当におめでとうございます」
「セラフィナ殿下の素晴らしき日をわたくしたちにも祝わせてください」

 ベルンハルト公爵夫妻も挨拶をしてくれた。
 前世ではこんなに近くでお顔を拝見することはなかったし、主と使用人という立場だったので、今はそれが逆転しているのが不思議な感じがする。

「セラフィナ殿下、わたしの誕生日にはネモフィラの花をくださってありがとうございました。セラフィナ殿下の誕生日に花を用意しております」

 アルベルト様からはわたくしにダリアの花束が渡された。
 ずっとクラリッサから花を受け取る立場だったアルベルト様が、わたくしに花をプレゼントする立場になっている。
 わたくしの誕生日はクラリッサが死んだ日の翌日だが、アルベルト様は顔色はまだよくなかったけれど、笑顔を作れるようになっているようだった。
 やはりクラリッサとしての人生にはわたくしは別れを告げて、皇女セラフィナとして生きた方がいいのではないかと思ってしまう。

 皇女セラフィナとしてアルベルト様を幸せにできる方法があるとしたらなんだろう。
 わたくしにはまだよく分からなかった。

 わたくしが席に座ると、リヴィア嬢がとてとてと歩いてきて、わたくしにお人形を渡してくれた。銀色の髪に金色の目のお人形は、わたくしを模したものではないだろうか。

「どうじょ」
「あいがちょ」

 お礼を言って受け取ると、アンリエット嬢が箱を持ってくる。箱の中には人形のための着せ替え衣装がたくさん入っていた。
 前世でもわたくしは女の子ではあったが、こんなかわいいもので遊んだことはない。お人形で着せ替えができるだなんて、考えただけで胸がわくわくする。

「うれちい」

 お人形を抱き締めて幸せに浸るわたくしに、お父様もお母様もラファエルお兄様もアンリエット嬢もニコ様も、微笑ましく見守ってくれている。
 ニコ様もわたくしとリヴィア嬢の交流を喜ばしく思ってくれているようだ。

 アルベルト様からもらったお花は花瓶に飾ってもらって、わたくしはお人形を抱き締めたまま手放せなかった。このままではお茶ができないので、ラファエルお兄様がわたくしに囁く。

「人形は乳母に預けておこうか」
「やーの」
「美味しいお茶もお菓子も食べられないよ?」
「うー……」
「セラフィナが食べなかったら、誰も食べることができないよ」
「あい……」

 主賓であるわたくしが食べなければ、誰もお茶菓子にもお茶にも手を付けることができない。ラファエルお兄様に説得されて、わたくしは渋々お人形を乳母に渡した。本当はずっと持っておきたかった。

「こんなに喜んでもらえてよかったね、リヴィア。リヴィアも自分と同じストロベリーブロンドの髪に空色の目のお人形を持っているんです。わたしが、リヴィアと同じ色彩にしたらいいって言ったんです」

 ニコ様が嬉しそうにリヴィア嬢に話している。
 リヴィア嬢はニコ様の言葉に、うんうんと頷いていた。
 やはりとても仲がいい兄妹のようだ。

 取り皿にお菓子が取り分けられて、牛乳が六割、お茶が四割のミルクティーが小さなカップに注がれて、わたくしはお茶を楽しむ。
 わたくしの誕生日のお茶会が終われば、ラファエルお兄様とアルベルト様とアンリエット嬢とユリウス様が学園に入学する日もすぐだった。
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