転生皇女セラフィナ

秋月真鳥

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一章 セラフィナ誕生

26.アルマンドール家との雪合戦勝負

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 アルベルト様の突然の訪問から五日後の週末、ラファエルお兄様がアルベルト様とユリウス様とアンリエット嬢を呼んで庭で雪遊びをすることになった。
 なんと今回は冬休みなので特別にニコ様とリヴィア嬢も来てくれるということで、わたくしはものすごく楽しみにしていた。

 お母様は妊娠していることを内密にしているので、ご自分の部屋に戻られて、わたくしとラファエルお兄様は子ども部屋でアルベルト様とユリウス様とアンリエット嬢とニコ様とリヴィア嬢を待っていた。

 最初にアルベルト様が到着して、続いてユリウス様が到着して、アンリエット嬢とニコ様とリヴィア嬢は最後だった。アンリエット嬢が右手でニコ様と手を繋ぎ、左出てリヴィア嬢を抱っこして現れたときには、わたくしはソファから飛び降りて駆け寄って行ってしまった。

「リヴィじょう!」
「セラフィナでんか!」

 二歳の誕生日のお茶会以来の再会を喜び合うわたくしとリヴィア嬢が、しっかりと抱き締め合っているのを、アンリエット嬢もニコ様もラファエルお兄様も微笑ましそうに見守ってくれていた。

「わたくち、てぶくろ、つけてちた」
「わたくちも、てぶくよ、あゆ」

 ミトン型のかわいい小さな手袋を見せてくれるリヴィア嬢に、わたくしも自分の手袋が見せたくて乳母を促す。乳母はわたくしの小さな手に、ミトン型の赤い手袋をつけてくれた。

「セラフィナでんかのたぶくろ、あか!」
「リヴィじょうのてぶくよ、ピンク!」
「かわいいね」
「かーいーねー」

 お互いに褒め合いながら、わたくしは外に出る準備をさせてもらった。
 温かなコートとネックウォーマーと手袋。足元は滑らないように靴底が冬仕様になっている小さな長靴だ。
 全員で庭に出て、最初はリヴィア嬢と雪だるまを作った。
 わたくしとリヴィア嬢だけでは作れなかったが、ニコ様が手伝ってくれると、雪玉を転がして大きくするだけで雪だるまの元になる雪玉ができる。ニコ様が大きくなった雪玉を重ねてくれた。

「いい雪だるまですね、セラフィナ殿下、リヴィア」
「おめめ、ちゅける」
「どうちる?」
「ちゅばき、ちゅかう」

 リヴィア嬢を椿の茂みの近くに連れて行って、わたくしは葉っぱと落ちている花の花びらで雪だるまの口と目を作った。
 雪だるまが出来上がると、ラファエルお兄様がわたくしを呼ぶ。

「セラフィナ、雪合戦をするよ!」
「あーい!」
「雪合戦ですか? セラフィナ殿下にぶつけるなんてできません」
「わたくしもセラフィナ殿下やリヴィアにはぶつけられませんわ」

 アルベルト様とアンリエット嬢が困っていると、ラファエルお兄様が提案する。

「わたしとセラフィナ、ニコとリヴィアの兄妹チームで、アルベルトはわたしのチームの雪玉を作って、アンリエット嬢はニコとリヴィアのチームの雪玉を作ればいいんじゃないかな」
「わたしはなにをすれば?」
「ユリウスは審判だ」
「誰が何回当たったか数えておけばいいんですね」

 ラファエルお兄様の提案に、全員納得した様子だった。
 わたくしのチームは、アルベルト様が雪玉を作ってくれて、わたくしとラファエルお兄様が雪玉を投げる。リヴィア嬢のチームはアンリエット嬢が雪玉を作って、リヴィア嬢とニコ様が雪玉を投げる。

「ハンデをつけるために、わたしは五個しか雪玉を投げられないことにしよう」
「それでは、試合開始!」

 ラファエルお兄様の言葉に、ユリウス様が宣言して、雪合戦が始まった。
 アルベルト様の作った雪玉を投げようとするのだが、なかなか遠くに飛ばない。リヴィア嬢とニコ様は少し離れているので、全然届いていない。
 リヴィア嬢も雪玉を投げるが、なかなか届かずに困っているようだ。わたくしが焦れて前に出ると、ニコ様の投げた雪玉がぽふんと胸に当たってしまった。

「セラフィナ殿下、痛くありませんでしたか?」
「いちゃくない!」

 泣くほどではなかったので気を取り直してわたくしはアルベルト様に雪玉を渡してもらって、振りかぶって投げる。まだリヴィア嬢に届かない。リヴィア嬢も届かなくて焦れて来たのか、前に出てきている。

「えい!」
「それ!」

 最終的に、わたくしとリヴィア嬢は向かい合うようにして雪玉をぶつけ合っていた。リヴィア嬢の腕力では雪玉が当たっても全然痛くないし、わたくしの腕力でもリヴィア嬢は痛くなさそうだった。

 雪塗れになってわたくしとリヴィア嬢は大笑いしていた。

「きゃーはっはっは!」
「うふふふ!」

 笑いながら雪玉をぶつけ合う。
 その間に、ラファエルお兄様は決めた五個の雪玉を投げ終えて、ニコ様の的になっていた。

「そこまで!」

 ユリウス様が懐中時計で時間を測って、試合を終わらせる。
 結果発表を待つわたくしとリヴィア嬢を、ラファエルお兄様とアンリエット嬢が一生懸命雪を払ってくれていた。

「ラファエル殿下が雪玉に当たった回数六回、セラフィナ殿下が十二回、ニコ殿が四回、リヴィア嬢が十回。今回のアストリアノス家とアルマンドール家の試合は、アルマンドール家の勝ち!」

 ユリウス様が告げると、リヴィア嬢とニコ様が飛び跳ねて喜んでいる。
 わたくしは負けてしまったが、リヴィア嬢と遊べてとても楽しかったのでよしとした。

 雪遊びが終わると、急に寒くなって、風邪を引かないようにわたくしたちは一度室内に戻った。
 雪で濡れたコートやネックウォーマーやマフラーや手袋を暖炉の前で乾かして、わたくしたちはティールームに移動する。
 ティールームにはお茶の準備がしてあった。

 紅茶と牛乳が半々のミルクティーは牛乳も温められていたので、飲むと体がぽかぽかしてくる。リヴィア嬢も同じものをふーふーと冷ましながら飲んでいた。
 ラファエルお兄様とアルベルト様とユリウス様とアンリエット嬢とニコ様は普通のミルクティーを飲んでいた。

 今日のお茶菓子に出されたのは、苺の入ったシュークリームだった。
 わたくしとリヴィア嬢のために、シュークリームは一口大のプチサイズになっていた。

「いちご、アルたま、もってきた?」
「はい。ベルンハルト公爵家の領地で採れた苺を持ってまいりました」
「アルたまのいちご、おいちいの」
「アルベルトたまのいちご?」
「あい」

 リヴィア嬢はアルベルト様の名前が全部言えるようだ。わたくしもそろそろ練習すれば言えるようになるかもしれない。いつまでも「アルたま」と呼んでいてはいけない気がする。

「いちご、おいちいね」
「ね?」

 リヴィア嬢がシュークリームを頬張って苺の美味しさに感動している。口の周りにクリームがついているのはアンリエット嬢が素早く拭き取った。

「アルベルトはセラフィナに夢中で、セラフィナにリボンを持ってきたり、苺を持ってきたり、図鑑を持ってきたりしているんだよ」
「セラフィナ殿下は愛らしいですから、気持ちは分かりますわ」
「アンリエット嬢はリヴィア嬢に贈り物をする年上の男の子がいたらどう思う?」
「微笑ましいと思います。リヴィアはまだ小さいですし、かわいいですし、贈り物をしたくなる気持ちは分かります」

 あれ?
 世間の兄バカ姉バカの皆様が、ラファエルお兄様のように嫉妬深いわけではないようだ。
 アンリエット嬢はリヴィア嬢に贈り物をされても何も思わない様子である。

「わたしはアルベルトがセラフィナの婚約者の座を狙っているのではないかと思っているんだけど」
「ラファエル殿下、正気になってください。セラフィナ殿下が成人するときには、わたしは二十八歳のおじさんですよ」
「皇族ならばそれくらいの年齢差は関係ないかもしれないし」
「それに、わたしはセラフィナ殿下の従兄なのです。愛らしい年下の従妹を妹のように思っていてもおかしくはないでしょう?」
「それはそうか」

 やっとラファエルお兄様も納得した様子だった。
 アルベルト様にはっきりと断られて、わたくしは胸がもやもやしてくる。
 アルベルト様は結婚しない、婚約もしないと言っているが、公爵家の嫡男なのだから、そのうち縁談が舞い込んでくるだろう。それを全部断ることなどできるのだろうか。
 一生独りで暮らして、アルベルト様は幸せなのだろうか。

 わたくしとアルベルト様の年の差は十歳。
 とても大きく感じられるが、皇族ならばそれくらいの年の差があっても結婚してもおかしくはない。

 アルベルト様が家族を持つことや、結婚することから顔を背けて、幸せを遠ざけているのならば、わたくしがアルベルト様を幸せにするというのはどうなのだろう。

 わたくしは前世でアルベルト様を弟のように思っていたし、今世でもアルベルト様に優しくされて、アルベルト様のことはいい方だと思っている。

 考えてから、自分は何を考えてしまったのだろうとわたくしははっとした。

 わたくしとアルベルト様が結婚することを考えてしまった!?
 わたくしは、アルベルト様と結婚したいのだろうか。

 前世ではアルベルト様を守って死んでもいいと思うくらいには大事にしていた。
 今世ではアルベルト様に幸せになってほしいと思っている。

 わたくしは、アルベルト様のことが好きなのだろうか。

 前世でも恋愛には全く縁がなかったのでよく分からない。
 ただ、アルベルト様がクラリッサの死に囚われ続けて、結婚する資格がないと思っているのだったら、そうではないと伝えたい。アルベルト様にも幸せになる資格があるのだと伝えたい。

 でも、わたくしがクラリッサだったことを言っても信じてもらえないだろうし、頭がおかしいと思われるのが関の山だろう。

 わたくしはクラリッサだったことは過去にしてセラフィナとして生きていこうと心に決めているし、セラフィナとしてアルベルト様が幸せになれるようにどうすればいいかを考え続けてきた。

 それが、わたくしとアルベルト様との結婚!?

 いやいやいや、わたくしはまだ二歳だし、アルベルト様もまだ十二歳だ。
 わたくしが結婚できるまでは十六年もあるし、婚約できるまででもまだ十年は待たなくてはいけないのではないだろうか。
 皇族は学園に入学するのを待たずに政略結婚の相手と婚約させられることがあるが、わたくしはどうなのだろう。

 考えていると、わたくしは訳が分からなくなって、頭がぐるぐるとしてきた。

 考えすぎて頭から湯気が出てきそうだ。

「セラフィナ、全然食べてないね。どうしたの?」
「わたくち……ね、ねんね!」
「疲れて眠くなっちゃったの?」
「あい」

 このぐるぐるとした思考を断ち切るために、わたくしはこの場を離れることにした。
 子ども部屋に戻るときに、アルベルト様がわたくしに心配そうな目を向けてきていたが、わたくしは何も言うことができなかった。

 子ども部屋に戻ったら、わたくしは着替えさせてもらって、ベッドで休んだ。
 横になっていると、眠気が襲ってくる。雪合戦ではしゃぎすぎて疲れていたようだ。

「セラフィナ殿下、皇后陛下がいらっしゃいます」
「おかあたま……」

 ベッドでうとうとしていると、侍女が告げる。お母様は子ども部屋に入ってきて、ベッドで眠りかけているわたくしの髪を撫でて、額に手をやった。

「熱はないようですね。雪で体が冷えたのかもしれません。暖炉の火をもっと強くして、部屋を暖めてあげてください」

 お母様の声に、侍女が暖炉の方に行って、薪を足している気配がした。
 温かな空気に包まれて、わたくしは眠りに落ちていった。
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