転生皇女セラフィナ

秋月真鳥

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二章 ミカエル誕生

6.ラファエルとアンリエットの婚約式

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 わたくしが三歳になってすぐ、ラファエルお兄様とアンリエット嬢の婚約式が挙げられた。
 婚約式には皇族の一人としてわたくしも参加することが許された。残念ながらミカは小さすぎるので子ども部屋でお留守番ということになった。

 婚約式に当たって、わたくしは大事な任務を仰せつかった。
 それは婚約したラファエルお兄様とアンリエット嬢に白い薔薇の花束を渡すことだった。
 薔薇は気を付けて棘を全部外してあって、茎も転んだときに刺さらないように丸くしてあるのだが、小さな花束とはいえ、二つ運ぶのはわたくしには荷が重いということで、直前まで侍女が持っていてくれて、侍女から受け取ってわたくしは手渡すだけの役目になった。

 婚約式は宮殿の大広間で行われる。
 お父様とお母様が壇上に立ち、わたくしはお母様と手を繋いでいた。ラファエルお兄様とアンリエット嬢は貴族たちが着席している中、椅子の間に敷かれた絨毯を踏んでお父様とお母様の前に歩み出る。

「今日は我が息子ラファエルとアルマンドール公爵家のアンリエットのために集まってくれてありがとう。本日、ラファエルとアンリエットは婚約をする。これはラファエルの意志であり、ラファエルの申し込みを受け入れてくれたアンリエットの意志でもある。二人の意志を尊重して、皇帝であるわたし、ヘリオドール・アストリアノスの名において、二人の婚約を認める」
「父上、ありがとうございます」
「皇帝陛下、皇后陛下、どうぞよろしくお願いします」
「それでは、ラファエルとアンリエットは婚約誓約書にサインを」

 お父様の宣言が終わって、ラファエルお兄様とアンリエット嬢が頭を下げると、素早く文官が婚約誓約書を持ってくる。ラファエルお兄様とアンリエット嬢は婚約誓約書にサインをした。

「それでは、お祝いの花束を。花束は我が娘、セラフィナから贈られる」
「おにいたま、アンリエットじょう、おめでとうございまつ」
「ありがとう、セラフィナ」
「ありがとうございます、セラフィナ殿下」

 侍女から渡された白薔薇の花束を最初にラファエルお兄様に、続いてアンリエット嬢に渡すと、二人は嬉しそうに微笑んで受け取ってくれた。

「今日から、セラフィナはアンリエット嬢のことを『お義姉様』と呼ぶといいかもしれませんね」
「おねえたま!」
「そう呼んでいただけると光栄です」

 お母様に促されてアンリエット嬢を「お義姉様」と呼ぶと、アンリエット嬢は眩しいくらいに美しい笑顔を向けてくる。
 前世では異母兄弟はいたようだったが会ったことはなかったし、有効な関係は築けなかった。
 わたくしにとってはラファエルお兄様とミカが初めての兄弟だったが、アンリエット嬢がお義姉様になるのはとても嬉しい。こうして家族が増えていくのだと思うと感慨深い。

「ニコともリヴィアとも、これまで以上に仲良くしてくださいね」
「あい、おねえたま」

 アンリエット嬢がお義姉様ならば、ニコ様はお義兄様だし、リヴィア嬢もお義姉様になる。
 一気に家族が増えてわたくしは本当に幸せだった。

 ラファエルお兄様とアンリエットお義姉様はこれから屋根がないオープン式の馬車に乗ってパレードに出るようだが、わたくしはそれを見送った後、お母様と子ども部屋に戻った。
 子ども部屋に戻るとミカが泣いていた。

「申し訳ありません、皇后陛下。今日はセラフィナ殿下も皇后陛下もいないと気付いたようで、ミカエル殿下の機嫌が悪くて」
「そんなことに気付くほど大きくなったのですね。おいでなさい、ミカエル。お乳をあげましょうね」

 お母様がオレリアさんからミカを抱きとってお乳をあげていた。
 わたくしはマティルダさんに手伝ってもらって、きれいなドレスから動きやすいワンピースに着替える。前髪を結んでいたリボンはそのままにしてもらった。

「ミカたん、おにいたま、おねえたま、こんやくちた。おにいたま、かっこいい。おねえたま、きれい」
「ミカエルに婚約式のことを教えてあげているのですか?」
「あい、おかあたま」

 母乳を飲み終わって落ち着いてきたミカがお母様の腕に抱かれて眠りそうになっているのに、わたくしは話しかけていた。寝物語にでも、ラファエルお兄様とアンリエットお義姉様の話を聞かせたかった。

 ミカはそのまま眠ってしまって、お母様はそっとミカをベビーベッドに寝かせていた。

「おにいたま、こんやくちた。わたくち、はなたば、どうぞ、ちた」
「とても上手に渡せていましたよ。偉かったですね、セラフィナ」

 わたくしも無事に任務を終えて安心して少し眠くなっていた。
 わたくしもベッドで休むことにした。

 眠ってから一時間くらい経っただろうか。窓の外が夕焼けで赤く染まっている。
 わたくしが起きてぼんやりしてベッドでまどろんでいると、マティルダさんから声をかけられた。

「アルベルト様がセラフィナ殿下にお会いしたいと来られています」
「アルベルトたま! わたくち、あいたい」

 マティルダさんの言葉に、わたくしはベッドから起き上がって、お手洗いと着替えを済ませると、アルベルト様が待つティールームに連れて行ってもらった。
 誕生日のお茶会では、わたくしはあまりアルベルト様とお話ができなかった。年の近い子ども同士で過ごしていたので、アルベルト様はわたくしに声をかけてこなかったのだ。

 今日はラファエルお兄様は婚約式の後のパレードが続いているのでいないし、アルベルト様と二人きりなのだと思うとなぜかそわそわしてしまう。もちろん、部屋にはマティルダさんや侍女もいるが、使用人は空気であるというのが原則で、主人が話しているときには口を挟んでこないので、実質アルベルト様と二人きりということになる。

 ティールームでアルベルト様はわたくしを待っていてくれた。

「セラフィナ、お茶の時間をご一緒しようと思って来ました」

 言われてみれば、もうお茶の時間になっていた。婚約式は昼食を食べ終えてから始まって、終わってからわたくしとお母様は早めに退出して、子ども部屋でお昼寝をしたので、ちょうどお茶の時間くらいだった。

「今日はラファエルがいないから、セラフィナが寂しがっていないかと思ったのです」

 お茶の時間になっているが、ラファエルお兄様は婚約式のパレードから戻ってきていない。わたくしはお母様と二人きりでお茶をすることになったのだろうが、確かにラファエルお兄様がいなかったら寂しいと感じていただろう。

「うれちいでつ。アルベルトたま、おちゃ、ごいっしょ」
「はい、ご一緒しましょう」

 アルベルト様が席について、わたくしも幼児用の高い椅子に座らせてもらう。
 紅茶の方が少しだけ多くなったミルクティーを飲んで、アルベルト様と向かい合ってお茶菓子をいただく。かぼちゃのプリンとスイートポテトを食べていると、アルベルト様がわたくしの方に手を伸ばした。
 ハンカチで口元を拭われて、わたくしは口の周りにプリンのカラメルソースがついていたことに気付いた。

「ありがとございまつ」
「セラフィナはスプーンが上手になりましたね」
「わたくち、スプーン、フォーク、がんばってまつ」
「わたしに妹がいたらこんな感じなのだろうかと思ってセラフィナの成長を見守ってしまいます」

 わたくしはアルベルト様に妹のように思われている!?
 年下の従妹だし、妹のように思っていてもおかしくはないのだが、前世ではアルベルト様を弟のようにかわいがっていた自覚があるだけに、立場が逆転してしまったことにわたくしはショックを受けていた。

「ラファエルではないけれど、セラフィナが大きくなって婚約するようなことになれば、わたしも寂しく感じるのでしょうね」
「アルベルトたま、こんやく?」
「わたしは結婚も婚約もしません」

 わたくしのことを気にしているが、年齢的にはアルベルト様の方が先に婚約して、結婚してしまうはずだ。それを指摘すれば、アルベルト様は睫毛を伏せて俯いた。さっきまで穏やかに微笑んでいたのに、急にアルベルト様の表情に影が差して、それがクラリッサの死のせいだと分かってわたくしは申し訳ないような、もどかしいような気分になる。

 前世でアルベルト様を庇ったのは、苦しんでほしいからではなかった。
 アルベルト様が生きて、幸せになってほしかったからだった。

「アルベルトおにいたま、しあわせ、なって」
「わたしは幸せですよ?」

 その笑顔がどう見ても幸せには思えなくて、わたくしはどうすればアルベルト様がクラリッサの死を本当の意味で乗り越えられるのかを考えていた。
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