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13.ファビアンの宣言

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 空港に迎えに行ってホテルまで車で送った両親は、仲睦まじかった。金髪のレオナと黒髪のカルラ。
 カルラが背が高く体付きもしっかりとしていて、レオナは細身で華奢だ。
 色彩はレオナに似たが、体付きはファビアンはカルラに似ていた。
 ホテルのレストランで万里生も一緒に食事をして、カルラとレオナは自己紹介をしてくれた。

「私がカルラ。ファビアンを生んだ母です」
「私はレオナ。カルラにファビアンを生んでもらった方の母です」

 二人とも数か国語話せてその中に日本語も入っているので、日本語での自己紹介に万里生も安心したようだった。

「俺は阿納万里生です。ファビアンとは、一緒に暮らしてて……ファビアンのことが好きです」

 堂々と万里生がファビアンのことを好きと言ってくれている。
 それだけでファビアンは満足だった。
 しかし、問題は何も解決していない。

「ファビアンは私たちに似ていたら子どもができにくいかもしれません」
「運命の相手でもそういうことがあるので、悩まないでくださいね」

 親切のつもりなのだろうが、カルラとレオナの発言は万里生を困らせた。
 どうすればいいのか。
 ファビアンには解決策があった。

「お、俺は……」

 泣きそうな顔になっている万里生の肩を抱いてファビアンが宣言する。

「実は、僕が生もうと思っているんです」

 男性同士でどちらも生めるのならばどちらが生んでも問題はないはずだ。
 抱かれるのが怖い。妊娠出産が怖いと泣く万里生に無理をさせるよりも、ファビアンがその重荷は全て引き受けてあげた方がいい。
 例え万里生がファビアンを抱けなくても、カルラもレオナも子どもができにくい体質なのだろうと納得してくれるはずだ。

「まぁ、ファビアンが」
「ファビアンなら体も頑丈だし、安心ですね」
「そうなんです。マリオは妊娠や出産を怖がっているようだし、無理をさせたくない。僕なら、妊娠にも出産にも耐えられると思います」
「レオナは心配したけど、私が生もうと決めたときに賛成してくれました」
「ファビアンもマリオとよく話し合ったのですね。素晴らしいことだと思います」

 話し合ってはいなかったので急な提案になってしまったが、万里生は涙目になってファビアンを見ていた。

「い、いいのか?」

 自分が生まなければいけないと気負わなくていい。
 抱かれるかもしれないと怖がらなくていい。
 万里生には伸び伸びと過ごして欲しい。
 それがファビアンの願いだった。

「僕もマリオとの子どもなら欲しい。どっちが生んでもいいんだから、僕が生む方でも構わないでしょう?」

 何度も頷いて涙ながらに抱き付いてくる万里生をファビアンは抱き締めながら考える。問題は万里生がファビアンに性的な感情を抱けるかだ。ファビアンの方が体格がいいし、背も高いので、万里生はファビアンに勃起しないかもしれない。
 そうなればファビアンの方に落ち度があるという形で、子どもができなかったことにして養子を取ればいいだけなのだとファビアンは割り切っていた。

「マリオ、ファビアンをよろしくお願いします」
「ファビアンは紳士に優しく育ってくれました。マリオのことも生涯真剣に愛すると思います」
「俺も、ファビアンをずっと愛していきます」

 カルラとレオナに手を取られて、万里生は一生懸命答えていた。
 車でマンションに帰ると、万里生は真剣な表情で問いかけて来る。

「ファビアンが生む方でいいっていうの、本当か?」
「本当だよ。僕が生む方で構わない。マリオはセックスも妊娠も出産も怖いんでしょう? それなら、僕がそれを引き受けるよ。まぁ、マリオが僕に勃つかは分からないけど」

 最後は少し尻すぼみになってしまったが、ファビアンの方も真剣に答えると、万里生が耳まで真っ赤になっている。

「ふぁ、ファビアンを抱けるかは、まだ分からないけど、俺のためにそんな風に考えてくれて嬉しい。ファビアン、好きだ」
「僕もマリオが好きだよ」

 万里生の頬に手を添えてキスをすると、万里生がうっとりと身を預けて来る。細い痩せた体を抱き締めてソファに座ると、万里生はファビアンにもたれかかってうとうとと眠り始めた。
 ファビアンの両親に会うということで、よく眠れていなかったのかもしれない。
 撫でていると万里生がファビアンの胸に顔を埋めてすぴすぴと寝息を立てている。眠った万里生を抱きしめたまま、ファビアンは警戒されていない現状に心が満ち足りていた。

 それから万里生はますます家事を頑張るようになった。

「ファビアンが妊娠して、子どもが生まれたら、俺が何でもできるようにならないと困るからな」

 料理を作る頻度も高くなった。
 料理は作れば作るほど上達するもので、万里生はめきめきと腕を上げていく。
 最初はできなかった揚げ物もできるようになって、ファビアンがついて教えていたのが一人だけで揚げられるようになった。

 エビフライにコロッケにアジフライに牡蠣フライに唐揚げに天ぷら。
 揚げ物が好きな万里生は揚げ物を覚えてからファビアンにリクエストを取ってよく揚げ物を作ってくれるようになった。

「今日は何が食べたい?」
「今日も作ってくれるの?」
「赤ん坊ができたら、俺が料理も何でもしないといけないからな」
「そうだなぁ。牡蠣フライが食べたいかな」

 スーパーへの買い物はファビアンが車を出すのだが、万里生も考えていることがあるようだ。

「俺、車の免許が取りたいんだ。バイト代はそれに使う」
「僕が出すよ?」
「いや、いいんだ。もう一人暮らしはしなくていいから、自分の分はちゃんと払うよ」

 バイト代で自動車学校に通い始めた万里生。
 自動車の免許を取ろうと努力している。
 ファビアンは国際免許があるので日本でも運転できているが、万里生のためには保険のプランなども調整しなければいけなかった。それでも、万里生が自分の意思で自分のお金を使って免許を取ろうとしているのは成長に違いなかった。

「マリオはすごいね」
「そうだろ? 俺はやればできる男だからな」

 日常生活はそれで順風満帆に思えるのだが、一つ欠けていることがある。
 両想いで二人とも愛情はあるのに、万里生とファビアンの間には夜の営みがない。

 万里生はファビアンに抱き締められると幸せそうに安心して寝てしまうし、夜に部屋に訪ねて来てくれる気配もない。バスルームから出ると、万里生が真っ赤な顔でリビングでファビアンを待っていてくれることはあるのだが、何となく万里生を脚の間に抱いてテレビを見たり、お茶を飲んだりして過ごすだけで、万里生はファビアンを誘ってこない。

 これだけ父親になる思いを語ってくれているのだから、ファビアンとの間に体の関係があってもおかしくないのに、万里生は全然そういう素振りを見せなかった。

 ファビアンの体格がよすぎて抱く気になれないのかもしれない。
 抱こうと努力しているけれど、萎えてしまっているのかもしれない。

 ファビアンの方から無理に誘うことはせず放置していると、万里生は体を摺り寄せて来るが性的なことは仕掛けて来ない。
 子猫のように甘えて来る万里生を、ファビアンも撫でて可愛がるだけで終わってしまっている。

 警戒心をやっと解いてくれたところなのだから、無理に万里生に迫ってまた同じ状況にはなりたくない。
 もう少しファビアンと万里生との間には時間が必要なのかもしれない。

 ファビアンは万里生との距離を無理に詰めることなく、心地よいままでいることに決めた。
 本当に万里生がファビアンのことを抱けないのならば、そのままでもいい。
 体の関係だけが愛ではないとファビアンは割り切っていた。
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