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14.万里生の変化

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 ファビアンが宣言したことに対して、カルラもレオナも賛成して、万里生の手を取った。

「マリオ、ファビアンをよろしくお願いします」
「ファビアンは紳士に優しく育ってくれました。マリオのことも生涯真剣に愛すると思います」
「俺も、ファビアンをずっと愛していきます」

 女性同士の両親というのも驚いたが、優しく丁寧な二人に万里生は手を握り返してしっかりとファビアンを愛することを誓った。
 ファビアンの運転してくれる車でマンションに帰ると、ファビアンに確かめる。
 両親の前だったからファビアンはああ言ってくれただけで、本当は生みたくないのかもしれない、抱かれたくないのかもしれないと万里生は疑っていた。自分があれだけ抵抗して嫌がったのだ、ファビアンが簡単に決意できるはずがない。

「ファビアンが生む方でいいっていうの、本当か?」
「本当だよ。僕が生む方で構わない。マリオはセックスも妊娠も出産も怖いんでしょう? それなら、僕がそれを引き受けるよ。まぁ、マリオが僕に勃つかは分からないけど」

 最後の方は小さい声になってしまっているが、ファビアンははっきりと宣言してくれた。万里生も自分がファビアンに勃起するのか分からない。
 分からないけれど、ファビアンの豊かな胸元や引き締まった腰を見ているとそわそわしてくるのは確かだ。

「ふぁ、ファビアンを抱けるかは、まだ分からないけど、俺のためにそんな風に考えてくれて嬉しい。ファビアン、好きだ」
「僕もマリオが好きだよ」

 必死に赤面しながら万里生は告白するのに、ファビアンは余裕の表情でそれを受け止めてくれる。
 頬に手を当てられて口付けを交わす。触れるだけで唇が離れて行ったのが寂しくて、追いかけるようにファビアンの分厚い胸板にもたれかかると、ファビアンはソファに座って万里生を抱き締めてくれる。
 ファビアンの胸に顔を埋めると、ふかふかで心地よくて、いい匂いがして、万里生は安堵感で眠くなってしまった。そっと胸をふにふにと揉んでいるととても気持ちがいい。
 このままファビアンが万里生に抱かれてもいい気分にならないだろうか。

 期待して胸を揉んでいても気付かれず、そのまま万里生は眠ってしまった。

「ファビアンが妊娠して、子どもが生まれたら、俺が何でもできるようにならないと困るからな」

 できる男をアピールするために万里生は家事を頑張ることにした。
 ファビアンも何もできない男とは子どもを作りたくないだろう。
 万里生もあれだけ抱かれるのには抵抗したのだ。ことを性急に進めたくはなかった。
 ファビアンの体も見たいし、触れたいのだが万里生はぐっと我慢していた。

 我慢している間に、万里生はすっかりとタイミングを逃してしまった。
 ファビアンを抱きたいのだが、どのタイミングで口にすればいいのか分からない。
 料理の腕は上達して揚げ物ができるようになったが、口説くのは全く上達しないどころか、ファビアンに上手く好意を伝えることもできない。
 抱きたいと伝えたいのに何も言えず、バスルームから出て来たファビアンを前にもじもじしていると、ファビアンが万里生をソファで脚の間に抱き締めてテレビを見たり、お茶を飲んだりしてくれる。
 心地いいのだがそうではないのだと万里生は伝えきれずにいた。

「俺、車の免許が取りたいんだ。バイト代はそれに使う」
「僕が出すよ?」
「いや、いいんだ。もう一人暮らしはしなくていいから、自分の分はちゃんと払うよ」

 もうファビアンに甘えるだけの万里生ではない。
 一人暮らしはしなくてよくなったので、万里生には貯めていたバイト代がたくさんあった。それを使って車の免許を取るのだ。
 妊娠すればファビアンは車の運転が危険になるかもしれないし、子どもが生まれれば保育園の送り迎えにも車は必要だろう。

 今は自分の稼ぎがバイトくらいしかないので、すぐに子どもを作ることは考えられないが、授かったらファビアンとの間に子どもは欲しい。
 子どもは欲しいのだが、行為ができていない現実もある。

「ふぁ、ファビアン!」

 裏返った声でバスルームから出て来たファビアンに声をかける万里生。ファビアンは立ち止まって首を傾げている。

「どうしたの、マリオ? 眠れないの?」
「そ、そ、そそそそ、そうなんだ」
「僕と一緒に寝る?」

 これはお誘いではないのだろうか。
 万里生の心臓が飛び跳ねる。
 今日こそファビアンを抱けるかもしれない。

 ファビアンの部屋に連れて行ってもらって、ベッドに寝るファビアンの胸に顔を埋めて、ふにふにと胸を揉む。胸も性感帯のはずなのだが、ファビアンはくすくすとくすぐったそうに笑って、万里生の髪を撫でて来る。

 抱きたいのに、万里生はそれを口に出せない。
 ファビアンが気付いてくれるように胸を触っているのだが、ファビアンはそれが万里生のお誘いだと気付いてくれない。

 髪を撫でられている間に、万里生は眠くなってくる。
 ファビアンの胸は柔らかくいい匂いがして、とても心地いいのだ。

 ファビアンを抱けないままに、万里生は冬になって十九歳の誕生日を迎えていた。
 一緒に眠るようになって、万里生は何度かファビアンを誘おうとしたのだが、上手く言葉が出ずに何もできないままで終わってしまった。抱きたい気持ちはあるし、ファビアンの胸を揉んでいると股間が熱くなるのだが、ファビアンはそれに気付いてくれない。
 口に出さなければ伝わらないのだろうが、万里生はあまりにも伝えるのが下手くそだった。

「マリオ、お誕生日おめでとう。これ、僕からのプレゼント」

 万里生の十九歳の誕生日に、ファビアンはビロードの箱に入った美しいプラチナの指輪をくれた。それはファビアンのものとお揃いで、いわゆる結婚指輪というやつだった。

「僕の人生にマリオがいないなんてもう考えられない。どうか、僕と結婚してください」

 プロポーズされて、万里生は涙が溢れて来る。
 ファビアンのことを上手く口説けず、まだ抱くこともできていない万里生だが、それでもファビアンはいいと言ってくれる。ファビアンは愛してくれると言ってくれる。

「俺も、ファビアンのいない人生なんて考えられない……愛してる」
「僕も愛してるよ、可愛い僕のマリオ」
「俺のファビアン」

 抱き締め合って、ファビアンと万里生は口付けを交わした。
 口付けも触れるだけのものだったが、万里生は最高に幸せだった。

「俺もファビアンのお誕生日を祝いたい。ファビアンのお誕生日はいつなんだ?」
「僕は春に終わっちゃった」
「それじゃ、来年は絶対に祝うからな」

 春先は万里生はファビアンに警戒していてお誕生日を把握するどころではなかった。出会ってから一年と少し経って、万里生とファビアンの関係は全く変わっていた。

 それでも変わらないのは、肉体関係がないことだ。

 プロポーズしてくれたのだから万里生はファビアンに抱いていいと許しをもらえると思ったのに、その夜も一緒のベッドで何もせずに眠っただけだった。
 これは万里生が主体になって動かなければ関係は全く進まないのではないだろうか。

「ファビアン、だ、だ、だ……」
「どうしたの、マリオ?」
「大好きだ!」
「僕もだよ」

 抱きたいの一言が言えない。
 どうしても口から出てこない。

「ファビアン、愛してる。愛してるんだ」
「僕もマリオを愛しているよ」

 必死の口説き文句も、それ以上の情熱をもって返されて、有耶無耶にされてしまう。

 どう言えば伝わるのだろう。
 どうすれば察してもらえるのだろう。

 察してもらおうと考えている時点で、優しいファビアンにはそれが通用しないことを万里生は気付いていない。
 どうにかしてファビアンを抱きたい万里生だが、前途多難だった。
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