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第3話 アニメ化範囲、広い方がいい?
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「このアニメは丁寧に作られてるわねぇ。原作は読んだことないけどどの辺りまでアニメ化してるのかしら?」
「原作のライトノベルは全11巻あるんですけどアニメは1クールで2巻までしかやってないそうです。ヒロイン役の声優さんが病気で亡くなってますし、続きが見られそうにないのは残念ですね」
数年前に放映されていたライトノベル原作のテレビアニメを見ながら、部長の鷺宮早子さんと副部長の天野秀美さんは丁寧な作りと良質な作画に感心していました。深夜アニメは1クール当たりの数が多いためアニメ部では数年前の作品を鑑賞会の題材に選ぶことも珍しくありません。
「今日の議題なんですけど、私から提案させて貰ってもいいですか? では原作付きのテレビアニメで、アニメ化される範囲が広いけど展開が駆け足になるのと範囲が狭いけど丁寧な作りになるのとどっちがいいかというテーマでお願いします」
早子さんの許可を得て1年生の谷内五月ちゃんが本日の議題を提案しました。先ほどの鑑賞会で見ていた深夜アニメは後者に分類されますが、前者にも長所はあるとの考え方です。
「コントロヴァーシャルな議題デスね。ミーは何でも範囲は広い方がいいと思いマス」
「私も好きな漫画とか小説は最初から最後までアニメ化して欲しいからスパロウ君と同じ立場です。あと2人は反対側でいい?」
秀美さんの質問に対し早子さんと五月ちゃんは笑顔で頷き、それぞれ席を移動してテーブルを隔てた話し合いが始まりました。今回はディスカッションというよりディベートに近い形式になるようです。
「それでは私から、アニメ化は展開が駆け足でも範囲が広い方がいいと思う理由を説明しますね。まず、題材が神話とか昔話じゃない限りアニメ化っていうのは既存のキャラクターに絵が付いて動いて喋るという所に最大の魅力があると思うんです。特に小説やライトノベルは活字の媒体ですから、想像するしかなかったシーンをアニメで見られるというのは原作ファンにとって最大の喜びなんです。そうであれば多少雑になってもアニメ化の範囲は広くあるべきだと思います」
「ミーは小説や漫画はあまり読みマセンが、メディアミックスのストラテジーとしてアニメ化される範囲は広い方がいいと思いマス。ソーシャルゲームなどとのコラボレーションで原作の後半以降に出てくるキャラクターを出したい時も中盤までしかアニメ化されていなければ苦労しマスからね」
秀美さんとスパロウ君はそれぞれ自分の立場に沿って持論を述べ、向かい側に座る早子さんと五月ちゃんは彼女らの意見を真剣に聞いていました。
「次は私たちの番ね。秀美ちゃんの意見もスパロウ君の意見ももっともだけど、私は原作付きのアニメでもその評価はオリジナル作品と同一の観点から行われるべきだと思うの。原作ファンへのサービスは当然大切だけどよほどの人気作品が原作でなければアニメ版を最初に見る人の方が多いはず。アニメ版がちゃんとした作りなら原作の読者も増えるし、原作の消化にこだわるあまりアニメとしてのクオリティが低くなるようでは本末転倒よ」
「私はアニメを見てから原作を読んだことはあんまりないんですけど、原作が人気作品だからって適当な作りになってるアニメは何となく分かっちゃって興ざめしますね。作りが雑になるぐらいならアニメ化の範囲は狭くたっていいと思います」
早子さんと五月ちゃんもそれぞれ説得力のある意見を述べ、ディベートはお互いに互角のようでした。
「今更気づいたんですけどディベートなのに聴衆がいないのおかしいですよね。誰が外部顧問呼んできましょうか?」
「おやおや、今日は皆で話し合いかい? 生徒会の帰りに寄ってみたんだけど」
意見の優劣を判定する立場である聴衆なしにディベートを始めてしまったことに気づいた秀美さんですが、ちょうど部室の入口から男子生徒が現れました。彼は2年生にして生徒会書記を務めるアニメ部外部顧問の川角将太君で、垣鳥高校でも右に出る者はいないほどの読書家として知られていました。
「こんにちはー、川角先輩。実はかくかくしかじかなディベートをしてたんですけど」
「なるほど、そういう話か……」
「ミスター川角はどっちの意見がパスウェイズィヴだと思いマスか?」
1年生2名の話を聞き、将太君はその場に立ったままうつむきました。
「……君たちは恵まれているよ。僕みたいな本の虫はね……」
「川角君、どーゆーこと?」
同じクラスの同級生でもある将太君にそう尋ねた秀美さん。将太君は両肩をわなわなと震わせると、
「大好きな大長編ライトノベルなのに、いつまで経ってもアニメ化が進まないんだよ! 2004年から始まって現在51巻まで出てるのにアニメ化されたのは24巻までなんだぞ!! その間に外伝とかスピンオフもアニメ化し出すし! 最後までアニメ化された時には僕ももう若くないかも知れないし、途中でアニメ化が終わっちゃったらどうしようっていつも不安なんだ!! こんなことなら原作のファンになるんじゃなかった……」
「まあまあ、銀雄伝みたいに100話以上かけても最後までアニメ化される場合もあるじゃない」
「だって……銀雄伝でも原作は文庫で全10巻じゃないですかあ……」
将太君は一人で大騒ぎすると地面にくずおれて泣き始め、早子さんは困り顔で彼に慰めの言葉をかけていました。
「私たち、まだ恵まれてたみたいだね……」
「とりあえず20巻以上あるライトノベルは読むのやめときます……」
本の虫に特有の苦しみを見て、秀美さんと五月ちゃんは自分たちも気を付けようと心に決めました。
(続く)
「原作のライトノベルは全11巻あるんですけどアニメは1クールで2巻までしかやってないそうです。ヒロイン役の声優さんが病気で亡くなってますし、続きが見られそうにないのは残念ですね」
数年前に放映されていたライトノベル原作のテレビアニメを見ながら、部長の鷺宮早子さんと副部長の天野秀美さんは丁寧な作りと良質な作画に感心していました。深夜アニメは1クール当たりの数が多いためアニメ部では数年前の作品を鑑賞会の題材に選ぶことも珍しくありません。
「今日の議題なんですけど、私から提案させて貰ってもいいですか? では原作付きのテレビアニメで、アニメ化される範囲が広いけど展開が駆け足になるのと範囲が狭いけど丁寧な作りになるのとどっちがいいかというテーマでお願いします」
早子さんの許可を得て1年生の谷内五月ちゃんが本日の議題を提案しました。先ほどの鑑賞会で見ていた深夜アニメは後者に分類されますが、前者にも長所はあるとの考え方です。
「コントロヴァーシャルな議題デスね。ミーは何でも範囲は広い方がいいと思いマス」
「私も好きな漫画とか小説は最初から最後までアニメ化して欲しいからスパロウ君と同じ立場です。あと2人は反対側でいい?」
秀美さんの質問に対し早子さんと五月ちゃんは笑顔で頷き、それぞれ席を移動してテーブルを隔てた話し合いが始まりました。今回はディスカッションというよりディベートに近い形式になるようです。
「それでは私から、アニメ化は展開が駆け足でも範囲が広い方がいいと思う理由を説明しますね。まず、題材が神話とか昔話じゃない限りアニメ化っていうのは既存のキャラクターに絵が付いて動いて喋るという所に最大の魅力があると思うんです。特に小説やライトノベルは活字の媒体ですから、想像するしかなかったシーンをアニメで見られるというのは原作ファンにとって最大の喜びなんです。そうであれば多少雑になってもアニメ化の範囲は広くあるべきだと思います」
「ミーは小説や漫画はあまり読みマセンが、メディアミックスのストラテジーとしてアニメ化される範囲は広い方がいいと思いマス。ソーシャルゲームなどとのコラボレーションで原作の後半以降に出てくるキャラクターを出したい時も中盤までしかアニメ化されていなければ苦労しマスからね」
秀美さんとスパロウ君はそれぞれ自分の立場に沿って持論を述べ、向かい側に座る早子さんと五月ちゃんは彼女らの意見を真剣に聞いていました。
「次は私たちの番ね。秀美ちゃんの意見もスパロウ君の意見ももっともだけど、私は原作付きのアニメでもその評価はオリジナル作品と同一の観点から行われるべきだと思うの。原作ファンへのサービスは当然大切だけどよほどの人気作品が原作でなければアニメ版を最初に見る人の方が多いはず。アニメ版がちゃんとした作りなら原作の読者も増えるし、原作の消化にこだわるあまりアニメとしてのクオリティが低くなるようでは本末転倒よ」
「私はアニメを見てから原作を読んだことはあんまりないんですけど、原作が人気作品だからって適当な作りになってるアニメは何となく分かっちゃって興ざめしますね。作りが雑になるぐらいならアニメ化の範囲は狭くたっていいと思います」
早子さんと五月ちゃんもそれぞれ説得力のある意見を述べ、ディベートはお互いに互角のようでした。
「今更気づいたんですけどディベートなのに聴衆がいないのおかしいですよね。誰が外部顧問呼んできましょうか?」
「おやおや、今日は皆で話し合いかい? 生徒会の帰りに寄ってみたんだけど」
意見の優劣を判定する立場である聴衆なしにディベートを始めてしまったことに気づいた秀美さんですが、ちょうど部室の入口から男子生徒が現れました。彼は2年生にして生徒会書記を務めるアニメ部外部顧問の川角将太君で、垣鳥高校でも右に出る者はいないほどの読書家として知られていました。
「こんにちはー、川角先輩。実はかくかくしかじかなディベートをしてたんですけど」
「なるほど、そういう話か……」
「ミスター川角はどっちの意見がパスウェイズィヴだと思いマスか?」
1年生2名の話を聞き、将太君はその場に立ったままうつむきました。
「……君たちは恵まれているよ。僕みたいな本の虫はね……」
「川角君、どーゆーこと?」
同じクラスの同級生でもある将太君にそう尋ねた秀美さん。将太君は両肩をわなわなと震わせると、
「大好きな大長編ライトノベルなのに、いつまで経ってもアニメ化が進まないんだよ! 2004年から始まって現在51巻まで出てるのにアニメ化されたのは24巻までなんだぞ!! その間に外伝とかスピンオフもアニメ化し出すし! 最後までアニメ化された時には僕ももう若くないかも知れないし、途中でアニメ化が終わっちゃったらどうしようっていつも不安なんだ!! こんなことなら原作のファンになるんじゃなかった……」
「まあまあ、銀雄伝みたいに100話以上かけても最後までアニメ化される場合もあるじゃない」
「だって……銀雄伝でも原作は文庫で全10巻じゃないですかあ……」
将太君は一人で大騒ぎすると地面にくずおれて泣き始め、早子さんは困り顔で彼に慰めの言葉をかけていました。
「私たち、まだ恵まれてたみたいだね……」
「とりあえず20巻以上あるライトノベルは読むのやめときます……」
本の虫に特有の苦しみを見て、秀美さんと五月ちゃんは自分たちも気を付けようと心に決めました。
(続く)
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