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魔王⑧
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城内でのテッテ待ち伏せを潜り抜け、トットに報告。
トットでも勇者が魔王を討ち損じていた可能性があることを知らなかったそうだ。
その逃げたとされる魔王の名は
「確か……クレア・シエ……バスだったかの」
(シエ……バス? どこかで聞いたような……)
逃げた事が本当であればその先の空間にいる可能性は十分にあるという、ただこちらから見つける方法は難しいそうだ。
例えるなら、世界の海の何処かで泳ぐ1匹の稚魚を手探りのみで見つけるのと一緒らしい。
結局あちらからこちらの空間に来ない限り居場所は分からない。
「おそらく魔王クレアはもうここには来ないだろう」
「どうして?」
「こちら空間に戻るということは殺されに戻るということだ。追手の来ない場所で暮らせるならそうするだろうよ」
「でも恨みで戻って来ることだって……」
「恨みか。そもそもあの魔王は好戦的でもないのだがな。どうせ人族があいつをわざと怒らせ、戦うよう仕向けたのだろう。なにせ憤怒のスキル持ちであったしな」
憤怒はテッテの色欲と同格のスキルでその能力も扱いづらさも飛びぬけていたらしい。
逆にクレアだからスキルにふりまされずに済んでいたのかもしれないという。
「結局は人族がまねいたことなのかもね」
「昔はわしにも人族からの挑発があったが、凄かったぞ。毎日毎日飽きずによくやるなと」
「よく耐えたね。凄いよトットは」
「今となっては笑い話じゃ」
魔王クレアの危険性については一応理解できた。
万が一こちらの世界に再び現れたとしても、好戦的でなくスキルが強いだけの魔王であれば、話し合いを受け入れてくれる可能性が高い。
結局人族が一番警戒していたのは他国の人族だったのかもしれない。
カスケードで巻き込まれた人達への私なりの弔いはこれで終わり。
責任やら賠償やらはあの2人に任せることにした。
今回はアヤフローラ教国の事情に踏み込み過ぎたかもしれないが、実家のエーナの方がもっと過激だしこれくらいはマシかもしれない。
魔王になってあっちに行ったりこっちに戻ったり、それでも比較的穏便に済ませることができて満足できた結果だった。
それからは魔王城と自分の家とで私とコピー体をときどき入れ代わりながら過ごすことにした。
理由としては魔王としての仕事も無いわけでは無かったがメインはテッテの監視。
今度は結婚するとか言い始めないか心配だったからだ。
「あっ!結婚!!」
すぐに外交をアヤフローラとの外交を任せている家臣を呼び、あの第4皇女との婚姻の件についての事を訊ねる。
まだあちら側からの返事はまだ来ていないとの事。
そもそも、教皇と1人の枢機卿は押し付け先を見つけたかのように喜んでいたのも気にかかる。
「だったら、その婚姻を取り下げて。なんなら私が直接行ってこようか」
こちらから申し込んでいて、魔王自ら断りに行くなど言語道断。そもそも申し込んでこちらが断ることがありえないとか。
それでも、
『返事が長引くということは、無理な願いだった。だから縁がなかったと思い諦めますよ』
というような内容の手紙にして、それが1秒でも早く届くようにと願った。
その願いが届いてしまったのだろうか、探索スキルが知らせるルオーシアル・コン・ニライの影。
確かに来てくれた本人に手渡せれば早く届くのは間違いないのだけど……
「待ってくれそんな……あれは姫じゃない。オークじゃないか!」
確認のため千里眼スキルを使って見たのだが鑑定結果は第4皇女。
(……本当に皇女なのか……)
久々にくらう耐性を貫通する精神攻撃。
未婚の姫だから作戦にはうってつけだと思い、容姿については調べていなかった。
正門まで来た一行は、護衛を引き連れた姫というより城へ攻め込む騎士団の大将のようだ。
鑑定スキルを使わず初見で姫だと気づける者がこの世に何人いるだろうか。このままでは正門の門番が攻め込まれると勘違いして戦闘を仕掛けかねない。
(私がお出迎えしなきゃダメかな……)
正門まで転移すると私の姿に気づいて近づいてくる姫。
それを見て「危険ですお下がりください魔王様」や「オーク? いや、ハイオークかもしれない!!」などと失礼な事を言う者がいたので門番たちを落ち着かせる。
しかし、間近で見ると正にハイオーク。通常個体の倍はあるだろうと思われる巨体だ。
「これはこれは、ルオーシアル・コン・ニライ姫ではありませんか。私は新しく魔王になりましたケーナと申します」
感情を殺し、挨拶に徹する。
”姫” という言葉に何か違和感を感じたのだろう。ざわつく門番達。
「来ちゃった♡」
その言葉に無意識下で手加減スキルが停止、最強の防御スキルアブソーブが発動する。
自動的にスキルが発動や停止をするのは、対する相手が私にとって危険と判断されたからである。
その危険と判断される元になったのは、この姫が持つスキルの暴食のせいだろうとは予想していた。
「本日は、どのようなご用件で?」
「分かってるくせに♡ 婚姻の話を承諾することにしたわ。それであたしが直接来ただけのことよ。新しい魔王のことは噂で聞いてとてもとても気になってはいたのよね。実際に見てこんなに可愛い女の子だなんて! ますます結婚する気が湧いてきちゃった。今すぐにでも食べちゃいたい♡」
感知スキルが ”即時退却” の過去最大の警告を発する。
それでも退くことのできないこの状況。
「そのお話には誤解があるかもしれませんね。詳しくは中でお話ししますのでどうぞ」
「ゴカイ? なーにそれ? でもいいわ、色々お話したいのはあたしもよ。まずはお茶をしましょう」
暴食スキル以外は大したことのないレベルやステータス。
それでも強敵と呼ぶのはこのような者なのかもしれない。
深夜まで続いたお茶会での必死の説得により、多くの攻防があり5つの犠牲を条件になんとか婚姻を白紙に戻すところまでは漕ぎ着けた。
「そちらの条件を受け入れるのですから、あたしの条件もちゃんと守ってくださいね」
「わかってるよ!ルオお姉ちゃん」
「フフフ♡よろしい」
(このオークめ、なんでこんなに元気なんだ)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
決まり事5条
・魔王ケーナはルオーシアル・コン・ニライ姫と2人きりの時は『ルオお姉ちゃん』と呼ぶこと
(メイドなどのお付きがいる場合は不可)
・魔王ケーナはルオーシアル・コン・ニライ姫が望めば一緒にお風呂に入ること
(あらいっこをする場合は背中のみに限定)
・魔王ケーナはルオーシアル・コン・ニライ姫が望めば一緒にお食事をとること
(あーんをするのは1回の食事で1度まで)
・魔王ケーナはルオーシアル・コン・ニライ姫が望めば添い寝をすること
(姫にお休みのチュウを求められた場合はほっぺにのみ可)
・魔王ケーナはルオーシアル・コン・ニライ姫が望めば一緒にお出かけをすること
(お泊まりする場合、部屋は一緒でもベットは別々)
以上の5項目に反した場合その場で結婚が成立する事とする。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あ、最後にお願いがあるのだけど」
「え、まだ条件を付ける気なの?」
「これは条件じゃなくてお願い」
「なに?」
「あたしをさらってちょうだい」
「なんのために?」
「だってそのほうが面白いじゃない♡ 魔王にさらわれる姫。まるでおとぎ話ようで憧れていたの」
(逆だろうに)
確かに魔王が一国の姫をさらうのは王道ではあると思う。
が、しかし
私にだってそんなロマンのある魔王のロールプレイをオーク相手に消費したくはない。
「・・・・・・わかった。行けたら行くよ」
「まぁ嬉しい。あたしお城で待ってますからね。あ、でもすぐには帰りませんからそのつもりで」
戦ってもいないのに私をここまで追い込ませたのは後にも先にもこのオーク以外はいないだろう。
今後は相手をよく調べることを怠ってはいけないと肝に銘じたのだった。
トットでも勇者が魔王を討ち損じていた可能性があることを知らなかったそうだ。
その逃げたとされる魔王の名は
「確か……クレア・シエ……バスだったかの」
(シエ……バス? どこかで聞いたような……)
逃げた事が本当であればその先の空間にいる可能性は十分にあるという、ただこちらから見つける方法は難しいそうだ。
例えるなら、世界の海の何処かで泳ぐ1匹の稚魚を手探りのみで見つけるのと一緒らしい。
結局あちらからこちらの空間に来ない限り居場所は分からない。
「おそらく魔王クレアはもうここには来ないだろう」
「どうして?」
「こちら空間に戻るということは殺されに戻るということだ。追手の来ない場所で暮らせるならそうするだろうよ」
「でも恨みで戻って来ることだって……」
「恨みか。そもそもあの魔王は好戦的でもないのだがな。どうせ人族があいつをわざと怒らせ、戦うよう仕向けたのだろう。なにせ憤怒のスキル持ちであったしな」
憤怒はテッテの色欲と同格のスキルでその能力も扱いづらさも飛びぬけていたらしい。
逆にクレアだからスキルにふりまされずに済んでいたのかもしれないという。
「結局は人族がまねいたことなのかもね」
「昔はわしにも人族からの挑発があったが、凄かったぞ。毎日毎日飽きずによくやるなと」
「よく耐えたね。凄いよトットは」
「今となっては笑い話じゃ」
魔王クレアの危険性については一応理解できた。
万が一こちらの世界に再び現れたとしても、好戦的でなくスキルが強いだけの魔王であれば、話し合いを受け入れてくれる可能性が高い。
結局人族が一番警戒していたのは他国の人族だったのかもしれない。
カスケードで巻き込まれた人達への私なりの弔いはこれで終わり。
責任やら賠償やらはあの2人に任せることにした。
今回はアヤフローラ教国の事情に踏み込み過ぎたかもしれないが、実家のエーナの方がもっと過激だしこれくらいはマシかもしれない。
魔王になってあっちに行ったりこっちに戻ったり、それでも比較的穏便に済ませることができて満足できた結果だった。
それからは魔王城と自分の家とで私とコピー体をときどき入れ代わりながら過ごすことにした。
理由としては魔王としての仕事も無いわけでは無かったがメインはテッテの監視。
今度は結婚するとか言い始めないか心配だったからだ。
「あっ!結婚!!」
すぐに外交をアヤフローラとの外交を任せている家臣を呼び、あの第4皇女との婚姻の件についての事を訊ねる。
まだあちら側からの返事はまだ来ていないとの事。
そもそも、教皇と1人の枢機卿は押し付け先を見つけたかのように喜んでいたのも気にかかる。
「だったら、その婚姻を取り下げて。なんなら私が直接行ってこようか」
こちらから申し込んでいて、魔王自ら断りに行くなど言語道断。そもそも申し込んでこちらが断ることがありえないとか。
それでも、
『返事が長引くということは、無理な願いだった。だから縁がなかったと思い諦めますよ』
というような内容の手紙にして、それが1秒でも早く届くようにと願った。
その願いが届いてしまったのだろうか、探索スキルが知らせるルオーシアル・コン・ニライの影。
確かに来てくれた本人に手渡せれば早く届くのは間違いないのだけど……
「待ってくれそんな……あれは姫じゃない。オークじゃないか!」
確認のため千里眼スキルを使って見たのだが鑑定結果は第4皇女。
(……本当に皇女なのか……)
久々にくらう耐性を貫通する精神攻撃。
未婚の姫だから作戦にはうってつけだと思い、容姿については調べていなかった。
正門まで来た一行は、護衛を引き連れた姫というより城へ攻め込む騎士団の大将のようだ。
鑑定スキルを使わず初見で姫だと気づける者がこの世に何人いるだろうか。このままでは正門の門番が攻め込まれると勘違いして戦闘を仕掛けかねない。
(私がお出迎えしなきゃダメかな……)
正門まで転移すると私の姿に気づいて近づいてくる姫。
それを見て「危険ですお下がりください魔王様」や「オーク? いや、ハイオークかもしれない!!」などと失礼な事を言う者がいたので門番たちを落ち着かせる。
しかし、間近で見ると正にハイオーク。通常個体の倍はあるだろうと思われる巨体だ。
「これはこれは、ルオーシアル・コン・ニライ姫ではありませんか。私は新しく魔王になりましたケーナと申します」
感情を殺し、挨拶に徹する。
”姫” という言葉に何か違和感を感じたのだろう。ざわつく門番達。
「来ちゃった♡」
その言葉に無意識下で手加減スキルが停止、最強の防御スキルアブソーブが発動する。
自動的にスキルが発動や停止をするのは、対する相手が私にとって危険と判断されたからである。
その危険と判断される元になったのは、この姫が持つスキルの暴食のせいだろうとは予想していた。
「本日は、どのようなご用件で?」
「分かってるくせに♡ 婚姻の話を承諾することにしたわ。それであたしが直接来ただけのことよ。新しい魔王のことは噂で聞いてとてもとても気になってはいたのよね。実際に見てこんなに可愛い女の子だなんて! ますます結婚する気が湧いてきちゃった。今すぐにでも食べちゃいたい♡」
感知スキルが ”即時退却” の過去最大の警告を発する。
それでも退くことのできないこの状況。
「そのお話には誤解があるかもしれませんね。詳しくは中でお話ししますのでどうぞ」
「ゴカイ? なーにそれ? でもいいわ、色々お話したいのはあたしもよ。まずはお茶をしましょう」
暴食スキル以外は大したことのないレベルやステータス。
それでも強敵と呼ぶのはこのような者なのかもしれない。
深夜まで続いたお茶会での必死の説得により、多くの攻防があり5つの犠牲を条件になんとか婚姻を白紙に戻すところまでは漕ぎ着けた。
「そちらの条件を受け入れるのですから、あたしの条件もちゃんと守ってくださいね」
「わかってるよ!ルオお姉ちゃん」
「フフフ♡よろしい」
(このオークめ、なんでこんなに元気なんだ)
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決まり事5条
・魔王ケーナはルオーシアル・コン・ニライ姫と2人きりの時は『ルオお姉ちゃん』と呼ぶこと
(メイドなどのお付きがいる場合は不可)
・魔王ケーナはルオーシアル・コン・ニライ姫が望めば一緒にお風呂に入ること
(あらいっこをする場合は背中のみに限定)
・魔王ケーナはルオーシアル・コン・ニライ姫が望めば一緒にお食事をとること
(あーんをするのは1回の食事で1度まで)
・魔王ケーナはルオーシアル・コン・ニライ姫が望めば添い寝をすること
(姫にお休みのチュウを求められた場合はほっぺにのみ可)
・魔王ケーナはルオーシアル・コン・ニライ姫が望めば一緒にお出かけをすること
(お泊まりする場合、部屋は一緒でもベットは別々)
以上の5項目に反した場合その場で結婚が成立する事とする。
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「あ、最後にお願いがあるのだけど」
「え、まだ条件を付ける気なの?」
「これは条件じゃなくてお願い」
「なに?」
「あたしをさらってちょうだい」
「なんのために?」
「だってそのほうが面白いじゃない♡ 魔王にさらわれる姫。まるでおとぎ話ようで憧れていたの」
(逆だろうに)
確かに魔王が一国の姫をさらうのは王道ではあると思う。
が、しかし
私にだってそんなロマンのある魔王のロールプレイをオーク相手に消費したくはない。
「・・・・・・わかった。行けたら行くよ」
「まぁ嬉しい。あたしお城で待ってますからね。あ、でもすぐには帰りませんからそのつもりで」
戦ってもいないのに私をここまで追い込ませたのは後にも先にもこのオーク以外はいないだろう。
今後は相手をよく調べることを怠ってはいけないと肝に銘じたのだった。
応援ありがとうございます!
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