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バグラ王国 魔王城 裏門門番
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魔王城の門番。
その門を通すか、通さないかの強い権限を持つ者。たとえ通行許可証を持っていても門番の気分1つで『通さない』となれば通れなくなる。
強いのは権限だけじゃない。その門番の実力も性質上強くなければ勤まらない。
自称元魔王トットの次に強いと豪語する魔族のフィーザキが、魔王城裏門の門番に就いて88年。一番手薄で狙われやすいその場所を日夜守る事がどれだけ大変なのかは言うまでもない。
その大変な仕事を終えると、いつも決まった酒屋で同僚達と酒を飲むことが日課になっている。
今宵も同じ門番仲間のコンサとダンソンとの3人で、新魔王ケーナを肴にして呑んでいた。
「まずは新魔王ケーナ様に乾杯だな」
「「「乾杯!!」」」
フィーザキはあっという間に一杯目を飲み終えるとおかわりして自慢話を始めた。
「おれは初めて見た瞬間にこの娘が次期魔王のケーナ様だってすぐ分かったぞ」
ケーナをまだ見たことのないコンサとダンソンは羨ましがっている。
「姫様とお付きの者をつれて裏門近くに突然現れたんだ。突然すぎて門番としての役割をすっかり忘れちまったぐらいだ。こんなこと後にも先にもないだろうな」
いつもサボっているだろう、と言われても今は聞き流して運ばれてきたおつまみをほおばり、グイっと2杯目の酒で流し込むと話を続ける。
「空間転移系の魔法を使っていたのは分かった。ただな、魔道具が空間の歪みを検知したとか、魔力反応があったからじゃねぇ。たまたま目の前に転移してきたから分かったってだけだ」
しかし、魔道具の手入れをさぼって上手く動かなかっただけだろうと2人に笑われてしまう。
「いやいやいやいや、別におれの魔道具が壊れていたわけじゃねぇ。手入れは毎日欠かさずしてる。だとするなら隠蔽系統の魔法を同時に使用してるってことだ」
何を今更そんなことを言ってるんだという視線。
「分かってるさ。お前らの言いたいことぐらい。ただな、よく考えてみろ。ファイアとかウォーターとかの初級魔法の話をしてるんじゃないぜ。魔法陣を使わない空間転移だぞ。そして1人じゃなくて3人だ」
酔い始めながらもよく考えるコンサとダンソン。
「お前らだってわかるだろ、空間転移の難しさぐらい。膨大な魔力の消費が必要で、その魔力反応がエピック級の魔道具にも感知されないよう隠蔽して、空間の歪みを悟られないよう、転移先の空間も別の空間魔法で制御してるんだぞ」
考えたら酔いがちょっと覚める。
「当然だとは思うが、転移する前にも同じことをしてるな。それくらい慎重派なんだろうぜケーナ様ってのは。魔王に選ばれるぐらいだから当然かもしれないが、これと同じこと誰が真似できる」
ぽつり、ぽつりと名はあがるが確証はない。
「これができるのが魔王様で良かったと心から思ってるぜ。自慢じゃないが、この空間転移に対して警備としての対抗手段が全く思いつかん。城内とか目立たないところに転移されたらもうお手上げだ」
何か対策はあるだろう、と考え始めた2人だが、すぐに諦めて追加の注文をし始める。
「あ、俺はコレとコレ追加ね。あと同じのもう一杯」
警備の数を増やす程度の案はでるが、それくらいはフィーザキも思いついている。
しかしその対抗手段を取ったとしても確実性はない。
「どうだ? 無いだろ? 時間や金をかければ何とかなるかもしれないが、もし敵ならそれを待っちゃくれないぜ」
現時点で対抗できる手段が無いのは致命的だ。城の警備を任される者たちにとっては背筋の凍る話。
「今、ケーナ様が敵じゃないそれが救いだよ。じゃなきゃここで酒も飲めねぇ」
そうだよなぁ、良かったなぁと安心する一同。酒もすすむ。
「それと重要な事を忘れちゃいけない」
一段と声を大きくする。
それと同時に周りの話し声まで小さくなってる。
いつの間にか他の席の魔族や亜人族たちまでフィーザキの魔王自慢を聞こうとしてる。
「あの信じられないほどの魔力量だ。俺は裏門にいたけどハッキリと分かったぜ」
俺も俺もと周りの者まで頷く。
「魔力暴走とも比較にならない程の膨大な魔力。そしてそれを操る精神力。来た時は魔力を隠してたのに、ここぞとばかりに魔力を見せびらかすだけのことはあるぜ。だけどな、おれは正直悔しかった。人族に魔族が負けたような感じがしてな……。でも同時に嬉しかったぜ。おれらの魔王様はこんなにも強い奴なんだってな」
うんうん。と、皆も同じ様な気持ちだったのだろう。
魔族の序列は基本的に強さで決まる。単純で分かりやすい。
「それと、もう1つ! ケーナ様はな、あの姫様と目を合わせて普通に話ができるんだぜ。おれも一緒に裏門に来た時から不思議には思っていたんだよ。姫様と並んで歩いていたからな」
周囲の沈黙は半信半疑。いやいやまさかといった感じだろう。
今までの話を聞けばケーナがとんでもない奴だと言うことは分かったが、テッテ姫の事をよく知る者からしてみれば簡単に信じることはできない。
それだけテッテの持つ魅了と色欲のスキルは広く知られていて恐れられている。
「お前らが疑問に思ってんのは、姫様が持つ七大スキルの1つ色欲の事だろ? だが聞いて驚くなよ、城内ではケーナ様の為に姫様が案内して扉を開けたり、メイドに指示を出したりしてたって話だぞ。そしてなにより、終始 ”笑顔” だったそうだ。これを城内のメイドや警備兵が何人も目撃してる」
ケーナがテッテのスキルによって傀儡になっていないのは明白だった。
「あー俺も見たかったぜ姫様の笑顔をよぉ!」
この話でケーナとテッテの関係が形だけの姉妹ではなく、本当の姉と妹だと思わせるには十分だった。
周囲の沈黙は続いていたが、さっきとは違う。驚き過ぎて言葉が出ないだけ。
「まさに魔王ケーナここにありって感じだな! 乾杯!!」
うおおおおおお!!!!
っと沈黙を破り歓声になる。
見たこともない人族の魔王に反対する者も、このテッテの話でその考えがくるっと変わるぐらいの内容だ。
テッテが持つ色欲スキルの性質上、城内で疎まれ嫌悪されていたことは城外の国民たちにも勘づかれていた。その上半人半魔であることをつつく者さえいる。
だが陰ながらテッテを擁護したいと思う者は多かったのだ。
だからテッテを色眼鏡で見ずに、ありのままを受け入れたケーナの評判は多くの者の心を掴む結果になった。
「祝い酒だ! じゃんじゃん飲むぞぉお!!」
うおおおおおお!!
いつの間にか店全体が魔王就任お祝いのようになってしまったこの日の売り上げは、いつもの3倍になったらしい。
その門を通すか、通さないかの強い権限を持つ者。たとえ通行許可証を持っていても門番の気分1つで『通さない』となれば通れなくなる。
強いのは権限だけじゃない。その門番の実力も性質上強くなければ勤まらない。
自称元魔王トットの次に強いと豪語する魔族のフィーザキが、魔王城裏門の門番に就いて88年。一番手薄で狙われやすいその場所を日夜守る事がどれだけ大変なのかは言うまでもない。
その大変な仕事を終えると、いつも決まった酒屋で同僚達と酒を飲むことが日課になっている。
今宵も同じ門番仲間のコンサとダンソンとの3人で、新魔王ケーナを肴にして呑んでいた。
「まずは新魔王ケーナ様に乾杯だな」
「「「乾杯!!」」」
フィーザキはあっという間に一杯目を飲み終えるとおかわりして自慢話を始めた。
「おれは初めて見た瞬間にこの娘が次期魔王のケーナ様だってすぐ分かったぞ」
ケーナをまだ見たことのないコンサとダンソンは羨ましがっている。
「姫様とお付きの者をつれて裏門近くに突然現れたんだ。突然すぎて門番としての役割をすっかり忘れちまったぐらいだ。こんなこと後にも先にもないだろうな」
いつもサボっているだろう、と言われても今は聞き流して運ばれてきたおつまみをほおばり、グイっと2杯目の酒で流し込むと話を続ける。
「空間転移系の魔法を使っていたのは分かった。ただな、魔道具が空間の歪みを検知したとか、魔力反応があったからじゃねぇ。たまたま目の前に転移してきたから分かったってだけだ」
しかし、魔道具の手入れをさぼって上手く動かなかっただけだろうと2人に笑われてしまう。
「いやいやいやいや、別におれの魔道具が壊れていたわけじゃねぇ。手入れは毎日欠かさずしてる。だとするなら隠蔽系統の魔法を同時に使用してるってことだ」
何を今更そんなことを言ってるんだという視線。
「分かってるさ。お前らの言いたいことぐらい。ただな、よく考えてみろ。ファイアとかウォーターとかの初級魔法の話をしてるんじゃないぜ。魔法陣を使わない空間転移だぞ。そして1人じゃなくて3人だ」
酔い始めながらもよく考えるコンサとダンソン。
「お前らだってわかるだろ、空間転移の難しさぐらい。膨大な魔力の消費が必要で、その魔力反応がエピック級の魔道具にも感知されないよう隠蔽して、空間の歪みを悟られないよう、転移先の空間も別の空間魔法で制御してるんだぞ」
考えたら酔いがちょっと覚める。
「当然だとは思うが、転移する前にも同じことをしてるな。それくらい慎重派なんだろうぜケーナ様ってのは。魔王に選ばれるぐらいだから当然かもしれないが、これと同じこと誰が真似できる」
ぽつり、ぽつりと名はあがるが確証はない。
「これができるのが魔王様で良かったと心から思ってるぜ。自慢じゃないが、この空間転移に対して警備としての対抗手段が全く思いつかん。城内とか目立たないところに転移されたらもうお手上げだ」
何か対策はあるだろう、と考え始めた2人だが、すぐに諦めて追加の注文をし始める。
「あ、俺はコレとコレ追加ね。あと同じのもう一杯」
警備の数を増やす程度の案はでるが、それくらいはフィーザキも思いついている。
しかしその対抗手段を取ったとしても確実性はない。
「どうだ? 無いだろ? 時間や金をかければ何とかなるかもしれないが、もし敵ならそれを待っちゃくれないぜ」
現時点で対抗できる手段が無いのは致命的だ。城の警備を任される者たちにとっては背筋の凍る話。
「今、ケーナ様が敵じゃないそれが救いだよ。じゃなきゃここで酒も飲めねぇ」
そうだよなぁ、良かったなぁと安心する一同。酒もすすむ。
「それと重要な事を忘れちゃいけない」
一段と声を大きくする。
それと同時に周りの話し声まで小さくなってる。
いつの間にか他の席の魔族や亜人族たちまでフィーザキの魔王自慢を聞こうとしてる。
「あの信じられないほどの魔力量だ。俺は裏門にいたけどハッキリと分かったぜ」
俺も俺もと周りの者まで頷く。
「魔力暴走とも比較にならない程の膨大な魔力。そしてそれを操る精神力。来た時は魔力を隠してたのに、ここぞとばかりに魔力を見せびらかすだけのことはあるぜ。だけどな、おれは正直悔しかった。人族に魔族が負けたような感じがしてな……。でも同時に嬉しかったぜ。おれらの魔王様はこんなにも強い奴なんだってな」
うんうん。と、皆も同じ様な気持ちだったのだろう。
魔族の序列は基本的に強さで決まる。単純で分かりやすい。
「それと、もう1つ! ケーナ様はな、あの姫様と目を合わせて普通に話ができるんだぜ。おれも一緒に裏門に来た時から不思議には思っていたんだよ。姫様と並んで歩いていたからな」
周囲の沈黙は半信半疑。いやいやまさかといった感じだろう。
今までの話を聞けばケーナがとんでもない奴だと言うことは分かったが、テッテ姫の事をよく知る者からしてみれば簡単に信じることはできない。
それだけテッテの持つ魅了と色欲のスキルは広く知られていて恐れられている。
「お前らが疑問に思ってんのは、姫様が持つ七大スキルの1つ色欲の事だろ? だが聞いて驚くなよ、城内ではケーナ様の為に姫様が案内して扉を開けたり、メイドに指示を出したりしてたって話だぞ。そしてなにより、終始 ”笑顔” だったそうだ。これを城内のメイドや警備兵が何人も目撃してる」
ケーナがテッテのスキルによって傀儡になっていないのは明白だった。
「あー俺も見たかったぜ姫様の笑顔をよぉ!」
この話でケーナとテッテの関係が形だけの姉妹ではなく、本当の姉と妹だと思わせるには十分だった。
周囲の沈黙は続いていたが、さっきとは違う。驚き過ぎて言葉が出ないだけ。
「まさに魔王ケーナここにありって感じだな! 乾杯!!」
うおおおおおお!!!!
っと沈黙を破り歓声になる。
見たこともない人族の魔王に反対する者も、このテッテの話でその考えがくるっと変わるぐらいの内容だ。
テッテが持つ色欲スキルの性質上、城内で疎まれ嫌悪されていたことは城外の国民たちにも勘づかれていた。その上半人半魔であることをつつく者さえいる。
だが陰ながらテッテを擁護したいと思う者は多かったのだ。
だからテッテを色眼鏡で見ずに、ありのままを受け入れたケーナの評判は多くの者の心を掴む結果になった。
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