たぶんコレが一番強いと思います!

しのだ

文字の大きさ
156 / 221

バグラ王国 魔王城 裏門門番

しおりを挟む
 魔王城の門番。

 その門を通すか、通さないかの強い権限を持つ者。たとえ通行許可証を持っていても門番の気分1つで『通さない』となれば通れなくなる。
 強いのは権限だけじゃない。その門番の実力も性質上強くなければ勤まらない。

 自称元魔王トットの次に強いと豪語する魔族のフィーザキが、魔王城裏門の門番に就いて88年。一番手薄で狙われやすいその場所を日夜守る事がどれだけ大変なのかは言うまでもない。
 
 その大変な仕事を終えると、いつも決まった酒屋で同僚達と酒を飲むことが日課になっている。 

 今宵も同じ門番仲間のコンサとダンソンとの3人で、新魔王ケーナを肴にして呑んでいた。

「まずは新魔王ケーナ様に乾杯だな」 

「「「乾杯!!」」」

 フィーザキはあっという間に一杯目を飲み終えるとおかわりして自慢話を始めた。
 
「おれは初めて見た瞬間にこの娘が次期魔王のケーナ様だってすぐ分かったぞ」

 ケーナをまだ見たことのないコンサとダンソンは羨ましがっている。

「姫様とお付きの者をつれて裏門近くに突然現れたんだ。突然すぎて門番としての役割をすっかり忘れちまったぐらいだ。こんなこと後にも先にもないだろうな」

 いつもサボっているだろう、と言われても今は聞き流して運ばれてきたおつまみをほおばり、グイっと2杯目の酒で流し込むと話を続ける。

「空間転移系の魔法を使っていたのは分かった。ただな、魔道具が空間の歪みを検知したとか、魔力反応があったからじゃねぇ。たまたま目の前に転移してきたから分かったってだけだ」

 しかし、魔道具の手入れをさぼって上手く動かなかっただけだろうと2人に笑われてしまう。

「いやいやいやいや、別におれの魔道具が壊れていたわけじゃねぇ。手入れは毎日欠かさずしてる。だとするなら隠蔽系統の魔法を同時に使用してるってことだ」

 何を今更そんなことを言ってるんだという視線。

「分かってるさ。お前らの言いたいことぐらい。ただな、よく考えてみろ。ファイアとかウォーターとかの初級魔法の話をしてるんじゃないぜ。魔法陣を使わない空間転移だぞ。そして1人じゃなくて3人だ」

 酔い始めながらもよく考えるコンサとダンソン。
 
「お前らだってわかるだろ、空間転移の難しさぐらい。膨大な魔力の消費が必要で、その魔力反応がエピック級の魔道具にも感知されないよう隠蔽して、空間の歪みを悟られないよう、転移先の空間も別の空間魔法で制御してるんだぞ」

 考えたら酔いがちょっと覚める。

「当然だとは思うが、転移する前にも同じことをしてるな。それくらい慎重派なんだろうぜケーナ様ってのは。魔王に選ばれるぐらいだから当然かもしれないが、これと同じこと誰が真似できる」

 ぽつり、ぽつりと名はあがるが確証はない。

「これができるのが魔王様で良かったと心から思ってるぜ。自慢じゃないが、この空間転移に対して警備としての対抗手段が全く思いつかん。城内とか目立たないところに転移されたらもうお手上げだ」

 何か対策はあるだろう、と考え始めた2人だが、すぐに諦めて追加の注文をし始める。

「あ、俺はコレとコレ追加ね。あと同じのもう一杯」

 警備の数を増やす程度の案はでるが、それくらいはフィーザキも思いついている。

 しかしその対抗手段を取ったとしても確実性はない。

「どうだ? 無いだろ? 時間や金をかければ何とかなるかもしれないが、もし敵ならそれを待っちゃくれないぜ」

 現時点で対抗できる手段が無いのは致命的だ。城の警備を任される者たちにとっては背筋の凍る話。

「今、ケーナ様が敵じゃないそれが救いだよ。じゃなきゃここで酒も飲めねぇ」

 そうだよなぁ、良かったなぁと安心する一同。酒もすすむ。

「それと重要な事を忘れちゃいけない」

 一段と声を大きくする。
 それと同時に周りの話し声まで小さくなってる。
 いつの間にか他の席の魔族や亜人族たちまでフィーザキの魔王自慢を聞こうとしてる。

「あの信じられないほどの魔力量だ。俺は裏門にいたけどハッキリと分かったぜ」

 俺も俺もと周りの者まで頷く。
 
「魔力暴走とも比較にならない程の膨大な魔力。そしてそれを操る精神力。来た時は魔力を隠してたのに、ここぞとばかりに魔力を見せびらかすだけのことはあるぜ。だけどな、おれは正直悔しかった。人族に魔族が負けたような感じがしてな……。でも同時に嬉しかったぜ。おれらの魔王様はこんなにも強い奴なんだってな」

 うんうん。と、皆も同じ様な気持ちだったのだろう。

 魔族の序列は基本的に強さで決まる。単純で分かりやすい。

「それと、もう1つ! ケーナ様はな、あの姫様と目を合わせて普通に話ができるんだぜ。おれも一緒に裏門に来た時から不思議には思っていたんだよ。姫様と並んで歩いていたからな」

 周囲の沈黙は半信半疑。いやいやまさかといった感じだろう。

 今までの話を聞けばケーナがとんでもない奴だと言うことは分かったが、テッテ姫の事をよく知る者からしてみれば簡単に信じることはできない。

 それだけテッテの持つ魅了と色欲のスキルは広く知られていて恐れられている。

「お前らが疑問に思ってんのは、姫様が持つ七大スキルの1つ色欲の事だろ? だが聞いて驚くなよ、城内ではケーナ様の為に姫様が案内して扉を開けたり、メイドに指示を出したりしてたって話だぞ。そしてなにより、終始 ”笑顔” だったそうだ。これを城内のメイドや警備兵が何人も目撃してる」

 ケーナがテッテのスキルによって傀儡になっていないのは明白だった。

「あー俺も見たかったぜ姫様の笑顔をよぉ!」

 この話でケーナとテッテの関係が形だけの姉妹ではなく、本当の姉と妹だと思わせるには十分だった。

 周囲の沈黙は続いていたが、さっきとは違う。驚き過ぎて言葉が出ないだけ。

「まさに魔王ケーナここにありって感じだな! 乾杯!!」

 うおおおおおお!!!!

 っと沈黙を破り歓声になる。

 見たこともない人族の魔王に反対する者も、このテッテの話でその考えがくるっと変わるぐらいの内容だ。

 テッテが持つ色欲スキルの性質上、城内で疎まれ嫌悪されていたことは城外の国民たちにも勘づかれていた。その上半人半魔であることをつつく者さえいる。
 
 だが陰ながらテッテを擁護したいと思う者は多かったのだ。

 だからテッテを色眼鏡で見ずに、ありのままを受け入れたケーナの評判は多くの者の心を掴む結果になった。

「祝い酒だ! じゃんじゃん飲むぞぉお!!」

 うおおおおおお!!


 いつの間にか店全体が魔王就任お祝いのようになってしまったこの日の売り上げは、いつもの3倍になったらしい。
しおりを挟む
感想 96

あなたにおすすめの小説

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

イジメられっ子世に憚る。

satomi
ファンタジー
主人公須藤正巳はぼんやりと教室で授業を受けていた。その時、突然教室中に物凄い量の光が…。 正巳が属する2-C全員が異世界転移することとなってしまった。 その世界では今まで正巳が陰キャとして読み漁ったラノベともゲームとも異なり、レベルがカウントダウン制。つまりレベル999よりレベル1の方が強い。という世界だった。 そんな中、クラスのリーダー的陽キャである神谷により全員で教室の外に出ることに。 いきなりドラゴンに出会い、クラスの全員がとった行動が『正巳を囮にして逃げること』だった。 なんとか生き延びた正巳は、まず逃げた連中へ復讐を誓う。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ
ファンタジー
 2020.9.6.完結いたしました。  2020.9.28. 追補を入れました。  2021.4. 2. 追補を追加しました。  人が精霊と袂を分かった世界。  魔力なしの忌子として瘴気の森に捨てられた幼子は、精霊が好む姿かたちをしていた。  幼子は、ターニャという名を精霊から貰い、精霊の森で精霊に愛されて育った。  ある日、ターニャは人間ある以上は、人間の世界を知るべきだと、育ての親である大精霊に言われる。  人の世の常識を知らないターニャの行動は、周囲の人々を困惑させる。  そして、魔力の強い者が人々を支配すると言う世界で、ターニャは既存の価値観を意識せずにぶち壊していく。  オーソドックスなファンタジーを心がけようと思います。読んでいただけたら嬉しいです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!

よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

処理中です...