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乾いた怒り④
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インテルシア魔導国と12の小国からなる連合国。
既に斥候との小競り合いは始まっていて、本陣もいつでも動ける状態で待機している。それもあって対象地域へのクエストをギルドが禁止し始めた。
凄い情報だろと言わんばかりのどや顔グランジを通して私の耳にこの情報が入った。
情報屋としては優秀なのかもしれないが、今回に関しては私の方が早かった。
ひとつ有益な情報としては予想していたより展開が早いこと。
今後の対応をどうしようかと考えているとグランジがソファでくつろぐクレアを見て小言を挟んでくる。
「おい、なんか1人増えてるな」
「え? あ、うん」
「今度は何者だ?」
「見ればわかるでしょ、赤が似合う綺麗な方よ」
「だから聞いてるんだ。あれほど綺麗で目立つ赤い髪をそのままにしてる奴なんて普通いない」
「赤髪なんてどこにでもいるでしょ?」
「いるにはいるが、被り物をして隠すか、わざと色をくすませることをするんだ」
言われてみて初めて気がつく。
(確かにそうかも)
「でもなんで? もったいない」
「本当に知らないのか? 子供でも知ってる事だからわざわざ金は取らねーけど。綺麗な赤髪ってのは憤怒の魔王を思い出させるから、暗黙の了解で皆んな避けてんだぞ」
この会話に反応したのか、クレアがチラリとこちらに視線を飛ばす。
それでも構わず続けるグランジ
「女で、髪が長くて! しかも顔! 美人じゃねーか! まるで……」
「まるで?」
グランジは息を呑み、急に声のトーンが小さくなる。
「……まるで、憤怒の魔王だ」
こんな簡単にバレるとは思ってなかった。
それはそれで都合がいいともいえる。
嫌でも目立つならそれに越したことはない。
「わかっちゃうんだ」
「はぁ!!? いやいやいやいや冗談だろ!?」
「なんで冗談だと思うの?」
「……憤怒の魔王は聖剣の勇者、今の最強の勇者に倒されたはず。こんなところでくつろいでるわけ……」
「それがねぇ、あのソファは特注だから憤怒の魔王でもくつろげちゃうんだよね」
熱く見つめるグランジ。冗談と言ってほいしいらしい。
クレアは人族の絶対敵ポジションに君臨していたが、それはその方が都合がいい一部人族のせいだと思っている。
私が感じたクレアの印象とは程遠い人物像だ。
それでもクレアに挑んできた勇者たちを殺したのは真実なのだろう。ただクレアにとってみれば血を吸う害虫を殺したのと大差ないこと。
それを大きな罪とし、勝手に大悪とされ続けるのは人族の印象操作や情報操作が比較的簡単にできるからだ。
「……ダメだって……憤怒の魔王甦らせちゃダメだって……色々おかしなことしてるなぁって薄々思ってたけど……。なぁ、俺死ぬのか? 生きてる帰れないのか?」
ドン引きのグランジ。
面白い顔が見れて思わず笑ってしまった。
「あのね。細かいことは端折るけどクレアは死んでないからね。ちょっと遠くにいたから連れてきただけだから。それと私の大切な人に絶対失礼なことしないでよね」
いくら何でも端折りすぎたかもしれないが、説明したところで理解させるのが大変なので諦めてもらう。
「ああ、分かっている。ここじゃ死ねない」
もう拾ってきた子犬みたいだ。
震えてはいないが、恐怖を必死抑え込んでいる。
「有益な戦争の情報を持ってきたけど、反応が薄い理由がやっと理解できた。ここに戦争がひっくり返るぐらいの存在がいるんだからな」
「その戦争まさにひっくり返そうとしてるんだよね。グランジの見立てだとどれくらいの確率でいけると思う?」
クレアの存在感を評価してくれるのはありがたい。
ついでに戦争を個の力で止めようとしている話を真面目に聞いて考えてくれるグランジは、既に一般的な人族から外れ始めている。
「本当に本物だってことをそれぞれの国が認識できれば戦争してる場合じゃないからな。それなら8、9割、その前提がないと3割もないか……」
「そうかぁ。いきなり現れるだけじゃダメかぁ」
「広めたいのか? だったら、この情報流していいか?」
「どうせ誰も信じないよ。グランジはクレアを見たから信じられたんでしょ?」
「いや情報に命賭けてる奴らには売れる。『憤怒の魔王が生きている』あからさまに嘘だと思われる情報でも命を賭けて売れば売れる」
情報屋は限られた人しか知らない正確な情報が命と言ってもいい。そこで嘘を言うことは文字通り生きてはいけない。
「いいよ。でもせっかくだから高く売ってよね」
「当たり前だ、俺の命もかかってる」
こちらの話しに興味が湧いたのかクレアが近寄ってくる。
「わっちのことを広めてくれるでありんすか?」
「そ、そうだ」
腰が引き気味でも必死に言葉を返す姿は、これから命を賭ける男なだけある。
「ならばコレを持って行くでありんす」
クレアは髪の毛を1本摘むと、途中でスッと切り落とした。
そして手のひらに乗せ差し出す。
「くれるのか? 金ならないぞ」
ただの髪の毛ではない。憤怒の魔王直々から頂ける本人の髪の毛。
すぐに渡せる憤怒の魔王復活を証明できるものとしては信頼性は高いかもしれない。
金銭的価値はもちろんのこと、歴史的価値や実験試料的な価値も高い。
「金など不要でありんすからその分しっかり広めるでありんす」
「もちろんだ、任せてくれ」
綺麗な赤い髪。
コレを見てほとんどの人族の脳裏に浮かぶのは魔王クレアしかいないだろう。
それだけ魔王クレアは悪として刷り込まれているのだ。
流す情報は、『憤怒の魔王が生きている』『勇者との戦いで負った傷は癒えている』『元の支配領域に帰る可能性がある』の3つにすることを決めた。
髪の毛を丁寧に包むと、グランジは急いで出て行った。
「わっちらはこれから何をするでありんすか?」
「そんなの決まってるじゃない。『クレア降臨』にふさわしい演出を考えるのよ」
「演出? でありんすか?」
「余も! 余も! 降臨したいのじゃ! 派手でどでかいのがいいのじゃ!!」
「なんでフランも!? べつにいいけど、その分しっかり手伝ってもらうからね」
「綺麗な演出を希望するでありんす」
「もちろん、任せなさい!!」
作戦名にふさわしい演出を練ることにした。
既に斥候との小競り合いは始まっていて、本陣もいつでも動ける状態で待機している。それもあって対象地域へのクエストをギルドが禁止し始めた。
凄い情報だろと言わんばかりのどや顔グランジを通して私の耳にこの情報が入った。
情報屋としては優秀なのかもしれないが、今回に関しては私の方が早かった。
ひとつ有益な情報としては予想していたより展開が早いこと。
今後の対応をどうしようかと考えているとグランジがソファでくつろぐクレアを見て小言を挟んでくる。
「おい、なんか1人増えてるな」
「え? あ、うん」
「今度は何者だ?」
「見ればわかるでしょ、赤が似合う綺麗な方よ」
「だから聞いてるんだ。あれほど綺麗で目立つ赤い髪をそのままにしてる奴なんて普通いない」
「赤髪なんてどこにでもいるでしょ?」
「いるにはいるが、被り物をして隠すか、わざと色をくすませることをするんだ」
言われてみて初めて気がつく。
(確かにそうかも)
「でもなんで? もったいない」
「本当に知らないのか? 子供でも知ってる事だからわざわざ金は取らねーけど。綺麗な赤髪ってのは憤怒の魔王を思い出させるから、暗黙の了解で皆んな避けてんだぞ」
この会話に反応したのか、クレアがチラリとこちらに視線を飛ばす。
それでも構わず続けるグランジ
「女で、髪が長くて! しかも顔! 美人じゃねーか! まるで……」
「まるで?」
グランジは息を呑み、急に声のトーンが小さくなる。
「……まるで、憤怒の魔王だ」
こんな簡単にバレるとは思ってなかった。
それはそれで都合がいいともいえる。
嫌でも目立つならそれに越したことはない。
「わかっちゃうんだ」
「はぁ!!? いやいやいやいや冗談だろ!?」
「なんで冗談だと思うの?」
「……憤怒の魔王は聖剣の勇者、今の最強の勇者に倒されたはず。こんなところでくつろいでるわけ……」
「それがねぇ、あのソファは特注だから憤怒の魔王でもくつろげちゃうんだよね」
熱く見つめるグランジ。冗談と言ってほいしいらしい。
クレアは人族の絶対敵ポジションに君臨していたが、それはその方が都合がいい一部人族のせいだと思っている。
私が感じたクレアの印象とは程遠い人物像だ。
それでもクレアに挑んできた勇者たちを殺したのは真実なのだろう。ただクレアにとってみれば血を吸う害虫を殺したのと大差ないこと。
それを大きな罪とし、勝手に大悪とされ続けるのは人族の印象操作や情報操作が比較的簡単にできるからだ。
「……ダメだって……憤怒の魔王甦らせちゃダメだって……色々おかしなことしてるなぁって薄々思ってたけど……。なぁ、俺死ぬのか? 生きてる帰れないのか?」
ドン引きのグランジ。
面白い顔が見れて思わず笑ってしまった。
「あのね。細かいことは端折るけどクレアは死んでないからね。ちょっと遠くにいたから連れてきただけだから。それと私の大切な人に絶対失礼なことしないでよね」
いくら何でも端折りすぎたかもしれないが、説明したところで理解させるのが大変なので諦めてもらう。
「ああ、分かっている。ここじゃ死ねない」
もう拾ってきた子犬みたいだ。
震えてはいないが、恐怖を必死抑え込んでいる。
「有益な戦争の情報を持ってきたけど、反応が薄い理由がやっと理解できた。ここに戦争がひっくり返るぐらいの存在がいるんだからな」
「その戦争まさにひっくり返そうとしてるんだよね。グランジの見立てだとどれくらいの確率でいけると思う?」
クレアの存在感を評価してくれるのはありがたい。
ついでに戦争を個の力で止めようとしている話を真面目に聞いて考えてくれるグランジは、既に一般的な人族から外れ始めている。
「本当に本物だってことをそれぞれの国が認識できれば戦争してる場合じゃないからな。それなら8、9割、その前提がないと3割もないか……」
「そうかぁ。いきなり現れるだけじゃダメかぁ」
「広めたいのか? だったら、この情報流していいか?」
「どうせ誰も信じないよ。グランジはクレアを見たから信じられたんでしょ?」
「いや情報に命賭けてる奴らには売れる。『憤怒の魔王が生きている』あからさまに嘘だと思われる情報でも命を賭けて売れば売れる」
情報屋は限られた人しか知らない正確な情報が命と言ってもいい。そこで嘘を言うことは文字通り生きてはいけない。
「いいよ。でもせっかくだから高く売ってよね」
「当たり前だ、俺の命もかかってる」
こちらの話しに興味が湧いたのかクレアが近寄ってくる。
「わっちのことを広めてくれるでありんすか?」
「そ、そうだ」
腰が引き気味でも必死に言葉を返す姿は、これから命を賭ける男なだけある。
「ならばコレを持って行くでありんす」
クレアは髪の毛を1本摘むと、途中でスッと切り落とした。
そして手のひらに乗せ差し出す。
「くれるのか? 金ならないぞ」
ただの髪の毛ではない。憤怒の魔王直々から頂ける本人の髪の毛。
すぐに渡せる憤怒の魔王復活を証明できるものとしては信頼性は高いかもしれない。
金銭的価値はもちろんのこと、歴史的価値や実験試料的な価値も高い。
「金など不要でありんすからその分しっかり広めるでありんす」
「もちろんだ、任せてくれ」
綺麗な赤い髪。
コレを見てほとんどの人族の脳裏に浮かぶのは魔王クレアしかいないだろう。
それだけ魔王クレアは悪として刷り込まれているのだ。
流す情報は、『憤怒の魔王が生きている』『勇者との戦いで負った傷は癒えている』『元の支配領域に帰る可能性がある』の3つにすることを決めた。
髪の毛を丁寧に包むと、グランジは急いで出て行った。
「わっちらはこれから何をするでありんすか?」
「そんなの決まってるじゃない。『クレア降臨』にふさわしい演出を考えるのよ」
「演出? でありんすか?」
「余も! 余も! 降臨したいのじゃ! 派手でどでかいのがいいのじゃ!!」
「なんでフランも!? べつにいいけど、その分しっかり手伝ってもらうからね」
「綺麗な演出を希望するでありんす」
「もちろん、任せなさい!!」
作戦名にふさわしい演出を練ることにした。
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