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課外実習
古城-1- 陰謀の予感
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風が草木を揺らし、古城の門をくぐる瞬間、歴史の匂いが俺たちを包み込む。
「この古城は没落貴族が手放したものだ。しかし、それにしてもなかなか風情があるだろう?」
フェルナンド大尉は軽快なトーンで語り始める。彼の名はフェルナンド・シルバンス。俺たちの戦術論教官であり、いつもの冷静沈着な態度で教室においては講義を行うが、この通り、課外実習で外に出るとテンション高めで、ここにいる誰よりも課外実習を楽しんでいる。
城の門をくぐり、広大な庭を進む。庭園に広がる草むらの中には歴史の名残が息づいているようでとても興味深い。
フェルナンド大尉が歴史や軍事的なポイントを興奮気味で教授しているが、彼の講義を聞き流している俺たちは古びた石畳の上を歩んでいく。
「この城は数々の歴史的な出来事に関わってきた。今回の課外実習では、お前たちがこの古城からどれだけ多くのことを肌で学べるかが問われているといっても良いだろう」
風に揺れる草地を進む中、俺は周囲の景色に見とれていた。城の壁には蔦が這い、石造りの塔が青空にそびえ立っていた。遠くから見る限り美しいが、近づくほどにその荒廃が目につく。そして、城の中庭に足を踏み入れてまもなく、なにやら違和感を覚える。
遠くで鳥のさえずりが聞こえ、時折風が吹くたびに草木がそよぐ。フェルナンド大尉は少し先に進みながら、振り返って俺たちに微笑んだ。
「ここがお前たちの修行の場。この静寂な古城が、お前たちに知識と経験を与えるのだ」
古城に足を踏み入れてから何度目かの同じフレーズに呆れ、フェルナンド大尉の言葉を聞き流す。仲間たちも同じような感じであるが、当の本人は全くといって良いほど気にしてもいない。
確かにこの美しい風景と静寂は一種の芸術の域に達しているように思え、同時に精神修養の場にもなると感じる。だが、やはり何か違和感がしてならない。俺は一瞬だけ、草の音に混じるかすかな足音を感じた気がした。
フェルナンド大尉は学生たちに向けて立ち止まり、重要なことを話し始めた。
「ここで様々な戦術について学んでいくぞ。この場所が、お前たちの戦略的な洞察を磨くための舞台になる。例えば、この城に立て籠もった場合のそれもだが、その逆の場合も同様だ。生き残るためには戦術と勘がものを言う」
なおもご機嫌で歌っているかのように彼の演説は続く。しかし、城内に足を踏み入れてから感じ取っていた違和感が俺の思考を支配してフェルナンド大尉の言葉が耳に入らない。この城は放置されていたはずだが、どこかに人の気配が漂っているように感じられてならないのだ。
「おい、皆。何か感じないか? 俺だけが気のせいか?」
周囲を見渡すと、皆は微妙な表情を浮かべていた。フェルナンド大尉は振り返り、軽い笑顔を浮かべて言った。
「気にするな。古城は時折、奇妙な音がするものだ。それよりも、ここから学ぶべきことが山ほどある。さあ、進もう」
フェルナンド大尉の言葉に従いながら、俺たちは城内に足を踏み入れていく。これから学ぶべきことが、本当に城の中で待ち受けていることをこのとき、俺たちは知る由もなかった。
足元の石畳が心地よい音を奏でながら、フェルナンド大尉が歩く先に従っていく。
「お前たち、どんな局面でも冷静に判断し、最善の策を見つけることができるようになれ」
フェルナンド大尉の教えに耳を傾けながらも、俺の周りではどこか不穏な空気が漂っているように感じられた。
――前にアレクサンダーから勧められて読んだ小説になんかこういう台詞の後に碌でもないことがあった様な気がするんだが、気のせいだよな。
何かが起こりそうな予感が胸をよぎり、俺は緊張感を抱えながら進んでいく。
やがて、城の中庭から外れた場所に辿り着く。そこは城の主塔がそびえる場所で、石段が続いている。フェルナンド大尉はその先に広がる眺めを指差しながら言った。
「ここが城の主郭。防衛戦では最後の砦でもある。よって、最も堅固な作りであるのが、ここから見てもわかるだろう。今でも地方に行けば名門貴族の城館で現役な石落としがここにもある。あれはかなり有効な設備で、防御機構の中でも最も攻撃的性格を有する設備の一つだ」
フェルナンド大尉の講義が熱を帯びていく。彼は他人が聞いているかどうかよりも自分の世界に入り込んで語りたいだけ、もしくは、士官学校の中だと周りの目があるから素を出せないストレスから暴走気味になっているのかも知れない。
その暴走講義が行われている中、やはり違和感を感じる。
俺は周囲を見回し、視線が城の壁に引き寄せられた。そして、気になる存在を見つけ、信頼できる仲間を呼び寄せる。
「おい、リリー、アイザック。ちょっと来てくれ、何か気になることはないか?」
俺の呼びかけでリリーとアイザックがこちらに寄ってきた。アイザックは眉をひそめて言った。
「大将、お前さんも感じているのか?」
「ああ、なんだかこの城には他にも誰かいるような気がする」
リリーは少し驚いたような表情を浮かべながら、石段を上がっていく影を指さした。
「あそこに見えますわ。幸い、こちらには気付いていないみたい」
三人は警戒しながら、石段を上がっていく。影の正体は不透明だが、なにかを企むような気配が感じられた。
「リリー、アイザック。お前たちは先回りして調査してくれ。俺はフェルナンド大尉に報告しに行く」
二人は頷き、その影のいた場所へ向かっていく。俺は石段を降りて城内に戻り、フェルナンド大尉に向かって歩きながら考え込んだ。
「何かが起こる前触れだな。やはりアレはフラグだったんだな」
「この古城は没落貴族が手放したものだ。しかし、それにしてもなかなか風情があるだろう?」
フェルナンド大尉は軽快なトーンで語り始める。彼の名はフェルナンド・シルバンス。俺たちの戦術論教官であり、いつもの冷静沈着な態度で教室においては講義を行うが、この通り、課外実習で外に出るとテンション高めで、ここにいる誰よりも課外実習を楽しんでいる。
城の門をくぐり、広大な庭を進む。庭園に広がる草むらの中には歴史の名残が息づいているようでとても興味深い。
フェルナンド大尉が歴史や軍事的なポイントを興奮気味で教授しているが、彼の講義を聞き流している俺たちは古びた石畳の上を歩んでいく。
「この城は数々の歴史的な出来事に関わってきた。今回の課外実習では、お前たちがこの古城からどれだけ多くのことを肌で学べるかが問われているといっても良いだろう」
風に揺れる草地を進む中、俺は周囲の景色に見とれていた。城の壁には蔦が這い、石造りの塔が青空にそびえ立っていた。遠くから見る限り美しいが、近づくほどにその荒廃が目につく。そして、城の中庭に足を踏み入れてまもなく、なにやら違和感を覚える。
遠くで鳥のさえずりが聞こえ、時折風が吹くたびに草木がそよぐ。フェルナンド大尉は少し先に進みながら、振り返って俺たちに微笑んだ。
「ここがお前たちの修行の場。この静寂な古城が、お前たちに知識と経験を与えるのだ」
古城に足を踏み入れてから何度目かの同じフレーズに呆れ、フェルナンド大尉の言葉を聞き流す。仲間たちも同じような感じであるが、当の本人は全くといって良いほど気にしてもいない。
確かにこの美しい風景と静寂は一種の芸術の域に達しているように思え、同時に精神修養の場にもなると感じる。だが、やはり何か違和感がしてならない。俺は一瞬だけ、草の音に混じるかすかな足音を感じた気がした。
フェルナンド大尉は学生たちに向けて立ち止まり、重要なことを話し始めた。
「ここで様々な戦術について学んでいくぞ。この場所が、お前たちの戦略的な洞察を磨くための舞台になる。例えば、この城に立て籠もった場合のそれもだが、その逆の場合も同様だ。生き残るためには戦術と勘がものを言う」
なおもご機嫌で歌っているかのように彼の演説は続く。しかし、城内に足を踏み入れてから感じ取っていた違和感が俺の思考を支配してフェルナンド大尉の言葉が耳に入らない。この城は放置されていたはずだが、どこかに人の気配が漂っているように感じられてならないのだ。
「おい、皆。何か感じないか? 俺だけが気のせいか?」
周囲を見渡すと、皆は微妙な表情を浮かべていた。フェルナンド大尉は振り返り、軽い笑顔を浮かべて言った。
「気にするな。古城は時折、奇妙な音がするものだ。それよりも、ここから学ぶべきことが山ほどある。さあ、進もう」
フェルナンド大尉の言葉に従いながら、俺たちは城内に足を踏み入れていく。これから学ぶべきことが、本当に城の中で待ち受けていることをこのとき、俺たちは知る由もなかった。
足元の石畳が心地よい音を奏でながら、フェルナンド大尉が歩く先に従っていく。
「お前たち、どんな局面でも冷静に判断し、最善の策を見つけることができるようになれ」
フェルナンド大尉の教えに耳を傾けながらも、俺の周りではどこか不穏な空気が漂っているように感じられた。
――前にアレクサンダーから勧められて読んだ小説になんかこういう台詞の後に碌でもないことがあった様な気がするんだが、気のせいだよな。
何かが起こりそうな予感が胸をよぎり、俺は緊張感を抱えながら進んでいく。
やがて、城の中庭から外れた場所に辿り着く。そこは城の主塔がそびえる場所で、石段が続いている。フェルナンド大尉はその先に広がる眺めを指差しながら言った。
「ここが城の主郭。防衛戦では最後の砦でもある。よって、最も堅固な作りであるのが、ここから見てもわかるだろう。今でも地方に行けば名門貴族の城館で現役な石落としがここにもある。あれはかなり有効な設備で、防御機構の中でも最も攻撃的性格を有する設備の一つだ」
フェルナンド大尉の講義が熱を帯びていく。彼は他人が聞いているかどうかよりも自分の世界に入り込んで語りたいだけ、もしくは、士官学校の中だと周りの目があるから素を出せないストレスから暴走気味になっているのかも知れない。
その暴走講義が行われている中、やはり違和感を感じる。
俺は周囲を見回し、視線が城の壁に引き寄せられた。そして、気になる存在を見つけ、信頼できる仲間を呼び寄せる。
「おい、リリー、アイザック。ちょっと来てくれ、何か気になることはないか?」
俺の呼びかけでリリーとアイザックがこちらに寄ってきた。アイザックは眉をひそめて言った。
「大将、お前さんも感じているのか?」
「ああ、なんだかこの城には他にも誰かいるような気がする」
リリーは少し驚いたような表情を浮かべながら、石段を上がっていく影を指さした。
「あそこに見えますわ。幸い、こちらには気付いていないみたい」
三人は警戒しながら、石段を上がっていく。影の正体は不透明だが、なにかを企むような気配が感じられた。
「リリー、アイザック。お前たちは先回りして調査してくれ。俺はフェルナンド大尉に報告しに行く」
二人は頷き、その影のいた場所へ向かっていく。俺は石段を降りて城内に戻り、フェルナンド大尉に向かって歩きながら考え込んだ。
「何かが起こる前触れだな。やはりアレはフラグだったんだな」
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