連れ去られた先で頼まれたから異世界をプロデュースすることにしました。あっ、別に異世界転生とかしないです。普通に家に帰ります。

KZ

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始まりのバレンタイン

悪魔は想像を絶する

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 今更、異世界にはチョコレートの材料がないと判明した。だが、セバスが言うには材料としてないだけで、素材としては存在しているらしい。
 そこで正確な材料の情報が必要になり、本屋である我が家に関連する書物を探しにきた。

「チョコレート関係の本に植物図鑑。あとこれもか」

「ひらがなと書いてあるが……」

「えっ、必要だろ? 日本語覚えようぜ! お姫様にこれで勉強させよう」

 言葉は通じても文字はダメだった。なら、今後のこともあるし、資料を渡して覚えてもらおう。
 俺が異世界文字を覚える気はない。英語でも意味不明なのに、異世界文字とか無理だから。日本人だし、海外に行く予定もないから!

「小僧。次は本当に、頬を千切られないようにするんだな。それはどうしようもないからな」

「怖いこと言うなよ。ビックリするくらい痛かったんだからな! 話すからと言ってんのにやめないし! あの暴力姫!」

 お姫様に、ほっぺたをムニムニされました。
 彼女のイメージとかもあるんで表現を柔らかくしているが、実際のところはムニムニではありませんでした。以上です。

「……立ち直ったのではないのか?」

「いいえ、違います。あそこから短時間で立ち直るほど、俺はメンタルが強くありません。お姫様に脅されたんです。ここで逃げ出したらデスると」

「それで?」

「その時点でビビっているのに、ムニムニ攻撃に言葉責めと容赦なくイジメられました。すぐに我慢できなくなって、『やめてくれーー!』とお願いしたら、『やめてほしければ隠していることを全て話せ』と言われました。あれは酷い女です。とんだお姫様です」

 だから立ち直ってはいない。今も貝になりたいと思っているが、しょげているとまたイジメられるので、無理やり気合いで動いています! いつもふうに……。

 ただ、しょげてるよりはマシ。そう思う。
 あのままだったらバレンタイン終了まで、俺は使い物にならなかっただろうから。すげーーっ、痛かっただけの効果はあったんだ。

「ずいぶんと面白い話をしてるわね。あたしにも聞かせなさいよ。誰が酷い女だって!」

「──な、なんでいる!」

「あたしが、せっかく気合いを入れてあげたのに」

 そんな優しいものじゃなかったよね? と思った。
 しかし、正直なんて言ってママンがいるレジに、この本たちを持っていこうかと考えていたので、お姫様が現れてしまったのは助かりました。

「はい、これ。お釣りはこっちね」

「──ありがとうございます。助かりました!」

 簡単です。お姫様に買ってもらえばいいのです。
 前回。お買い物のルールは教えてあったので、スムーズに買い物を終え、外に出てきてくれました。

「何か言われたか?」

「何も。何かあるの?」

 問題があるとすれば、お姫様は堂々と店に入ってきたので、ママンに顔がバレてしまったということだ。俺と話しているのも見られていたし、下手すると聞かれてもいたかもしれない……。

 ママンには学校の友達とでも言っておこう。間違っても彼女とは思われないから大丈夫! なんだか自分で言ってて悲しくなってきた……。

「ところで、何しにきたんだ?」

「あんたのクズっぷりを拝見しようと思ってね」

「……否定できない。本当の事すぎて……」

 しかし、拝見しようと思ってとは? どうやって?
 まさか、ルイに直接聞きに行くとかではないだろうね? だとしたら絶対に阻止するけど。

「セバス。場所も時間も分かってたら行けるわよね? 過去」

「もちろん可能です」

 またかー。そうかー、またなのかー。
 また、悪魔ってやつは法則的なの無視するのかー。ついには時間さえ遡れるのかー。

「じゃあ行ってみましょう! クズっぷりを見に!」

「……そんなノリでいくんだ。いいんだけどね」

◇◇◇

 過去と言っても本当に過去に行くのではなく、簡単に言うと今に過去が浮かび上がるだけらしい。本当は時間の逆行も可能らしいのだが、今日は準備が足りないとのことでこれになった。
 よかったーー! 本当によかったーー! そんなタイムパトロールに捕まるようなことはしたくない。

 タイムマシンにどこでもドア。セバスは猫型ロボットだったのだろうか? 青いやつと違い、とてもではないが、人気者にはなれなそうなやつなんだが……。
 悪魔への疑問は置いといて、詳細を説明する。

 動ける範囲は現在地から1キロ前後。
 日付は小5の時の2月14日。時間は午前7時過ぎ。場所は我が家の前。本屋の側のだ。

「あんまり変わんないのね」

 お姫様は今から昔へと変化した、商店街の事を言っているのだろう。
 商店街に当時はまだあった角のところの商店。そこがなくなる前で、今は空き地になっているところに店がある。これだけでも、俺には昔だと感じられる。懐かしいとさえ思える。

「あんたも変わんないわね。昔からこんなだったのね……」

 お姫様の視線の先には昔の自分。アホな小学生代表みたいなやつだ。
 しかし、触れることも話すこともできない。自分だしこの際、100発くらい殴っておこうと思ったのだが無理だった。

「これ、幻ではないって言ったよな? それでも過去に触れないのは、過去を変えるとタイムパトロールに捕まるからか?」

「そんなところだ」

 いるんだね。タイムパトロール……。
 悪魔がいるんだからいてもいいけど、いるんだ。

「セバス。クズを見ていてもしょうがないから、早送りしてちょうだい」

「録画じゃないんだから……。あとクズって……。もう少しオブラートに包んでくれるかな」

 録画じゃないんだからと思ったのだが、セバスはテレビのものと思われるリモコンを懐から取り出し、操作して映像を早送りする。
 俺は何もつっこまないよ? 悪魔ってのはこんななんだよ?

「──ストップ! 可愛い女の子が来たわね」

 和菓子屋の裏から小学生の頃の幼馴染が現れる。挨拶して、喋って、こうやって2人で班登校の集合場所である、商店の前まで行くのだ。
 これが小学生の頃のいつもの光景。俺はそう思ってる。ルイのことを見ているようで見ていない。

「女の子は見るからにソワソワしてるわね」

 ルイは初めて1人で作ったチョコを持っているからだろう。ソワソワしているしチラチラ様子を伺っている。
 その明らかないつもとの違いに、まったく気づきもしないダメなガキが俺だ。

「あー、どうにか渡そうとしてる間に、他の子たちに合流してしまったわ」

 班登校なんだから、集まって小学校まで、ぞろぞろと並んで歩いて行くわけだ。信号を渡り、先生や保護者に地域の人たちに見守られながら、無事学校に到着。

 ルイがこの間に俺にチョコを渡せるはずがない。人目がある時点で、そんな大胆な行動にあいつはでない。チャンスは2人きりの短い時間だったんだ。

「教室ってのに入ってからも、あんたの方ばかり見てるわね。こんな可愛い子を泣かせるなんて、クズすぎて辛いわね」

「そう言われている今の俺は? 辛いよ。その言葉。オブラートに包んでくれるかな?」

 教師で。クラスメイトの前で渡すことも不可能。チョコはランドセルに入ったまま、時間だけが過ぎていく。

「子供たちはみんな学校に通ってるのね。学校作るのもいいかもしれないわね」

「建物だけで学校にはなんないぞ。先生が必要だ。美人な人がいいな。クラスメイトも美人な子がいいな」

「あんたの……クズの希望なんて聞いてないわ」

「──なんで言い直したの!? 確かにいいとこまったくないけど!」

 休憩時間も、お昼の時も、俺は友達と話したりふざけたりしている。授業中も大して変わらない。

「あんた、ダメな子供ね。ふざけてる暇があるなら、幼馴染に少しでも気を使いなさいよ。なんかもう、死んだほうがいいと思う」

「そっすね」

 俺も今ならそう思うけど、結局は俺だからね? あのクソガキが死んじゃったら俺いなくなるよ?

「……みんな教室から出ていく。荷物も持っていくし、学校はこれで終わりなのね」

 ──ここからだ。このあと何があったかのか覚えていない。実感もない。だから分からなかった。

◇◇◇

 放課後になって、仲のいい友達たちと話しながら、俺は教室を出ていく。『今日は何をして遊ぶ?』話の内容はそんなところだろう。
 俺はそういうのの仕切り役だったんだ。友達は多い方だった。

 そんな話をしながら昇降口まで来たところで、意を決したルイに引っ張られる。俺は友達たちに、先に行っててくれとでも言ったのか、俺たちを残してみんな外に出ていく。

「あんた覚えてないのよね?」

「覚えてない……。記憶から抹消したんだろう」

「──最低! 最悪! 外道! 人でなしのクズ野郎!」

「進んでるよ! 悪口言ってる間も進んでるよ!?」

 小学生の男子なんてこの時期はこんなもんだ。そう、おばちゃんは言った。
 しかし、俺はこの時の俺を許さない。ルイが許そうと許さないし……許せない。

 昇降口から階段下まで引っ張られていった俺は、ルイからチョコレートを手渡される。俺はありがとうと言ったのか顔が赤く、ルイも顔が赤い。

「一応、ありがとうくらいは言えるのね? クズでも」

「さっきから、いちいちキツい! 自分で分かってるからやめて!」

「あたしは、この子の代わりに言ってるのよ。あたしだって辛いのよ? 本当はこんなこと、言いたくないんだから」

「──嘘つけ! すっごくイキイキしてるよ!?」

 そして問題のシーンはすぐに来た。このチョコレートの受け渡しを、バカな男子たちに見られていたのだ。たぶん6年生が数人。当然からかわれる。

「こいつらも同罪ね」

「こんなモブキャラを俺たちの話に加えないでくれ。こんなモブがいようがいまいが関係ない」

 それで俺は、一度は受け取ったチョコレートをルイにつき返す。恥ずかしいとか、そんなくだらない感情でだ。
 どんな想いが込められていたのかも分からずに。ルイが傷つく言葉を口にして、受け取ったチョコレートをつき返した。そして逃げるように走っていく。

 このバカな男子たちも今なら分かるだろう。女の子のバレンタインの意味も。受け取る側の責任も。

「この時点ですでに死んだほうがいいのに……まだ、やらかすのよね?」

「……あぁ、そうだ」

 ルイは泣いてないし、俺は追いかけた友達と帰路につく。これには続きがある。
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