連れ去られた先で頼まれたから異世界をプロデュースすることにしました。あっ、別に異世界転生とかしないです。普通に家に帰ります。

KZ

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始まりのバレンタイン

バレンタインを宣言したくない

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 コンビニの駐車場のスペースに立てられた壇上に上がり、お姫様がバレンタインを宣伝しています。
 お姫様を見にか、お姫様の話を聞きにかは分からないが、大量に集まった城下の人たち。これだけの人が来ればさぞかし、この宣伝の効果はあるでしょう。

「私は────」

 しかし、他の人たちと違い、俺の頭にはお姫様のスピーチがまったく入ってきていない。
 全部、右から左に抜けていっている。目に映る情報しか入ってきていません。

 何故かと言われれば俺は今、それどころではないからです。バレンタインの最初の年から、チョコレートは貰えない。その衝撃が強すぎる……。
 なぜ、気がつかなかった! チョコレートがないんだから、女の子がチョコレートを用意しているわけがない! のだ……。

「──みなさんにも、この贈るという行為が意味を持つバレンタインに、是非参加していただきたいと思います」

 お姫様が言葉を切ったところで拍手が起きる。なんか泣いてる人もいる。
 終わらない拍手をお姫様が治めて、更にスピーチは続いていく。

 なんて言うか……何も知らずにいる奴らが憎い。なんだが、バレンタインの暗黒面に堕ちそう。
 チョコレートを貰えるやつ。チョコレートを贈る女子……──全員、ムカつく! これほど頑張った俺が、報われないとはどういうわけだ!

 こんなことを許せるはずがない……。

「最後に、此度の催し。その責任者に一言もらいましょう。プロデューサーさん。どうぞ」

 お姫様は俺を呼んでいるらしい。自分と同じそこに立って、喋れと言っているようだ。
 ……いいだろう。暗黒卿と化した俺の絶望を識れ!

「お集まりの皆さん、初めまして。プロデューサーこと白夜はくや 零斗れいとです。私がバレンタインの責任者にして、チョコレートの生成を担う者。つまり、俺がやらないといえばバレンタインは行われない! もうバレンタインなんてやらない! 今年はバレンタインが何かを学び、来年に備えろ! こんな、こんなに……」

 俺がチョコレートを貰えないバレンタインなんてやりたくない。俺が確実にチョコレートを貰えるバレンタインをやりたい。苦労したんだ。それしかやりたくない。

「──いきなり何を口走るのかしら、プロデューサーさん? 今更なことに気がついて、拗ねてるんじゃないわよ! やるって宣伝してんのに、最後にひっくり返すな!」

「なんだとー。自分はチョコレートを散々パクついておきながら、何を言ってるんだ。皆さん、彼女はチョコレートを独り占めしようとするあまり、バレンタインすら利用しようというのです! 騙されてはいけません! 彼女は魔女です!」

 俺たちは互いに譲らず言い合い、壇上で睨み合い、俺が1歩前に出れば、お姫様も前に出る。
 野郎だったら胸ぐらを掴んでいるところだが、女子なのでメンチを切るところまでにしておく。

「──根も葉もない話をするな! 懲りないわね。また、少し痛い思いをしたいようね」

「また、そうやって暴力に訴えるのか? どうして手が出るの? なんで優しく諭せないの?」

「子供みたいなこと言ってんじゃないわよ。どうして、あたしがいちいち、あんたを慰めたり、優しくしたりするわけ。バカなんじゃないの?」

「やんのかー」「やってやるわよ!」

 とうとう互いの距離が0になったところで、思い出す。今朝、目の当たりした恐るべき光景を。
 どんなにバチバチでも、あの光景が脳内に再生されれば、冷静になるしかない。作戦を『いのちはだいじ』に変更するしかない。

「なんだなんだ、この茶番わよー。お姫様ってのを、わざわざ見にきてみりゃ、評判の良いのは噂だけ。どんなにチヤホヤされてても実際は、ただの口の悪い小娘じゃねーか。引っ込め! 楽して生きてるやつわよ!」

 俺が1歩後ろに後退したところで、壇上の下からそんな声がした。ギョッとして声のした方を見れば、集まった人たちの中から、ガラの悪い野郎たちがゾロゾロと壇上の真下に出てくるところだった。

「そうだ、そうだ! 温室でぬくぬく育ったくせに、育ちの悪い貧相な体してよー」

「──貧乳王女!」

「良いのは顔だけだ!」

「「ちげぇねぇ、アッハッハ──」」

 その野郎たちはあろうことか、お姫様に暴言を吐き始めた。先頭グループの口にしていたもの以外も合わせると……キミたち言いすぎだよ。僕は知らないよ。知らないからね!

「……今なんて言ったの? あなたたちも、痛い思いをしたいようね」

 お姫様は静かに。しかし、確実に怒っておられる。
 あなたたち「も」って! 俺も含まれているよね! に、逃げなくては……。

「バレンタイン最高! みんなで仲良くチョコレート食べよう!」

 だが、ただ逃げ出したのではデスる可能性が大なので、二クスが言っていたように、チョコレート食べよう会を認める発言をしておく。
 更に俺は、暴言を吐いた野郎たちにも同じことを言うようにとアイコンタクトを送るが届かない!
 野郎たちは未だお姫様を馬鹿にしている。

「最初からそうしなさいよ。手間かけさせんじゃないわよ」

 俺の発言を受けて、野郎たちを冷たく見ていたお姫様が、ゆらりとこっちを見た。
 こここ、こわい。こわいよ……。

「はい、了解です!」

「さて、残るは……」

 ゆ、許されたようだ。よかった。死ななかった。
 バレンタインの暗黒面より、怒ったお姫様の方が恐い!

「あなたたちも謝れば許すわよ? 私は、お姫様だからね」

 1人も殺めることなく治めようとは、なんとお優しい。本当はぶっ殺したくても、お姫様だから謝れば許すとは。
 お前たち。あやまれー、死に急ぐなー。土下座して土を舐めろー。いのちはだいじだ。

「謝る? 口の悪い小娘に謝るなんて、意味がわからねーな」

 そうリーダ的な男が言い、『ハッハッハ──』と仲間の男たちの下品な笑い声が聞こえる。
 あっ──、説明がなかったがチャンスを棒に振って、今にもお姫様にヤラれそうな彼らはみんな男性。中年。ヒゲのあるなし。モブ。そんな人たちです。

「やめろー、お姫様を侮辱するな! 命の保証はないぞ! 謝れ、死に急ぐな!」

「なんだ人間。王子様気取りかよ? ククッ、笑えるな! 貧乳姫に、モヤシみたいな人間とは、なんとも貧相な組み合わせだぜ!」

 俺がお姫様の前に出て、謝ろうとしない野郎たちに謝るように促すが、『ハッハッハ──』と男たちに笑われてしまう。
 違う、そうじゃないんだ! カッコつけてるわけじゃないんだ! 俺のその思いは伝わらない。

 お姫様を侮辱し、これでもかと笑う野郎たちに、我慢ができなくなった兵士たちが動き出す。
 野郎たちを殺すべく、男たちに向かおうとする兵士たちを、お姫様は手で制する。

「これだけ笑われて何もできないとは、更に笑えるぜ。お姫様が腑抜けなら、兵士もハリボテってわけだ! ハッハッハ──」

 あ、あいつら、お姫様大好きマンたちからも、城下の人たちからもヤラれそう! さっきから、黙って見ていた城下の人たちも、野郎たちに冷たーい視線を向けている。彼らもイライラしてる!

「死に急ぐなーー!」

「うるせぇ! 黙ってろ、人間が!」

「「そうだ、そうだ!」」

 この野郎たち。彼らはアレですね。人気者には必ず存在する、アンチというやつですね。
 お姫様にもいるんだね、アンチ。無条件でみんなが、お姫様を大好きではないらしい。

 俺は十分にやつらに謝罪を促した。だから、俺は悪くない。みんなも分かってくれるよね?

 今日のこの場に、兵士たちにニクスと、お姫様を守る立場の人たちは結構な数いるんだ。バレンタインの宣伝会場であるコンビニ前の警備は意外と厳重。

 最も身近な俺が無力だからだね。知ってる。

 しかし、この警備が本当に必要なのかは分からないんだ。今も、この瞬間も、お姫様の悪口を言っている彼らは知らないのです。かく言う俺もさっきまで知らなかった。

 あっ、お姫様の沸点がついに限界を迎えたらしい。

 あの今朝の話を思い出してくれ。あの時、城の後ろでは兵士たちの訓練が行われていたんだ。あそこはそのための場所だったのだ。
 不自然なくらいに人山ができていた理由は、兵士はみんな参加したいからだ。訓練にお姫様が参戦なされたから。

 あの時、俺はそれを見た。あそこにあったのは驚くべき光景だった。
 その光景とは、お姫様が兵士を片っ端からなぎ倒していた。もう、無双していた。あの瞬間、お姫様は姫ではなく将だった。

 お姫様はたまにやるらしいよ。今日のはトカゲに不甲斐なかったかららしい。
 現在、お姫様な絡んでいる男たちの戦闘力では、絶対にお姫様には勝てない。一撃でドラゴンをのし、兵士たちを無双する、お姫様(物理)には。

 アンチがどうなろうと俺は悪くない!
 ちゃんと命の保証はないぞ! って言ったから……。
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