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始まりのバレンタイン

ここまでの集大成。チョコを作ってみる!

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 ルイちゃんのチョコレート講座が昨日。今日はいろんな意味で休みの日曜日。
 俺は、朝から異世界に来ています! 時間は有効に使わないといけないためです。

 今日は自分のチョコレートを試作しないといけないのと、城のシェフ~たちに、チョコレートを教えておかないといけないのだ。

 チョコレートの材料である、カカオ豆、カカオバター、砂糖。この3つは悪魔たちにより生成完了しました。
 あとは必要なら買ってきます。材料調達クエストには、しばらく、できれば一生行きたくないので!

 このように材料はあるし、バレンタインのチョコレートを、もう作り始めてもいいかもしれない。
 食べよう会にはチョコレートの量が必要だし、作ったとして日持ちするわけだしな。

 そのためには、カカオ豆からのチョコ生成法が必要だったが、必須ではなくなった感がある。
 理由はカカオマスの残りの量がヤバいためだ。ルイが言った通りだった……。
 1キロもいらなかったわ。

 無駄にあるカカオマスを使って、いくつか作っておいてもいいんじゃないだろうか。というわけだ。
 もうね、一生分くらいのチョコレート作れそうなんだ。本当にできるかは分からないけどね。

 とりあえず、シェフ~たちの腕前を見て、できるようならチョコレートを作成していこうと思う。
 試作に使うチョコレートは作らなきゃだし。

「おはよう! 今日はキミたちに、チョコレート作りを実践してみてほしい。今日のお城のご飯は、全部チョコレートでいい。もし文句を言われたら、肉にチョコレート載せてやれ! では、始めたいと思います」

 城の1階にある調理場には、城のお抱えシェフ~たちが勢ぞろいしている。
 調理台を並べてもらって、黒板的なやつを持ってきてもらって、調理実習のようなスタイルでチョコレートを作成していく。

 ところで……なんでシェフ~たちの中に、お姫様が混じっているんだろう。
 初め気づかなかった。いつものドレス姿ではなく、昨日覚えたエプロン姿だからだ。
 エプロンはルイがくれたらしい。

「なんでいるの?」

「あたしも参加するわよ。ルイに教えてもらったからかしら、自分でも作りたくなったの。邪魔はしないわ」

「別にいいんだけど事前に言おう。シェフ~たちの心の準備とかあるからね」

 シェフ~たちはみんな、お姫様の様子を伺っている。いつものお姫様大好きマンたちとは違う。
 俺には分かる。彼らはお姫様にビビってる。
 そして、シェフ~たちがビビってる理由なんて1つしかない。

「今日はシェフ~をいじめるなよ。みんな、初めてチョコレート作るんだからな。いちゃもんつけないようにお願いします」

「何よそれ……。あたしが、いつもしてるみたいじゃない」

「してたでしょー。みんな気を使ってたの! 口うるさいお姫様に忖度して、日々ご飯を作ってたんだよ」

「彼らはそれが仕事でしょ。気に入らなければ注文くらいつけるわよ。 ──それと口うるさいってなに!」

 お姫様は俺を掴もうとして手を伸ばすが、俺たちの間には調理台があって、更に俺は危機察知してバックステップしたため、お姫様が手を伸ばしても俺には届かない。
 よかった。調理台がなかったら俺は、チョコレートを作れなくなっていただろう……。

「ほら、みんなビビってるから。もう少し優しく。短気は損気だよ。仲良くチョコレート作って」

「──誰のせいよ! ちょっと、無視して始めようとすんな!」

 これは俺のせいじゃないだろう。お姫様の日頃の行いが問題のはずだ。
 お姫様はギャーギャー言っているが、チョコレート作りが始まればそっちに集中するでしょう。

◇◇◇

「──と、材料と工程は説明した通り。お姫様が黒板に書いてくれたので、分からなくなったら各々の確認するか、俺かお姫様に聞いてください」

 背後の黒板的なものに、まったく読めない文字でチョコレートのレシピが記されている。
 読めない俺にも分かるくらい、お姫様は字も綺麗! お姫様はいろいろ万能だな。

 そして城の料理人たち。その包丁使いは慣れたもので、カカオマスは瞬く間に刻まれていく。

 ──はやっ! もう砂糖をゴリゴリしてる。

 シェフ~たちは動きに一部の隙もない。
 これには、流石と言わざるをえない。プロだ、プロ。
 変わりばえのしない食材で、日々料理してきただけはある。

 実際、素材の味料理は美味しいのだ。タレが欲しいとか、贅沢言わなければな。
 あれらは、彼らの料理の腕の良さが分かるメニューだ。工夫はないようでされていたし。

 しかし、そう思うと疑問が残る。『誰も何にも気づかなかったのだろうか?』と。
 悪魔という『不可能はないんじゃね?』そう思わせるヤツらがいるんだ。料理の幅なんていくらでも広がるはずだ。
 それこそ、俺なんていなくてもだ。

 これが当たり前。そう言うのは簡単だ。だが、何かが不自然。
 食が発展しないのと、戦関係は別問題のはず。それなのに、代わり映えのしない食べ物しか存在していない。

 悪魔たちは、どうしてなんの力も貸さないのだろう? 二つ返事で了承しそうなのに。コンビニだって作ってくれるのに。
 意図的にそうされているってわけじゃないよな? まさかな……。

「あんたもやるんじゃなかったの?」

「お、脅かすなよ。考え事してたんだよ」

 料理人たちを眺めて、考え事していたら、お姫様が隣にいた。びっくりした! 集中し過ぎてたのか、気づかなかった。

「ルイのことね。どんなチョコレートにしようか悩んでたのね」

「えっ、全然違うけど」

「隠さなくてもいいわよ」

 本当に全然違うんだけど……。まあ、疑問は今度セバスにでも聞いてみよう。
 今はチョコレートだ。異世界事情はまた今度だ。

「全然違うんだけど、それも考えないといけないな。普通のチョコレートじゃ、ありきたりだよな」

「そうね。ルイはチョコレート作れるしね。ただのチョコレートじゃダメじゃない」

「しかし、普通のチョコレートと、トリュフチョコと、ブラウニーチョコしかバリエーションがない。アレンジは……雑魚には無理だと言われたしな」

「とりあえず全部作ってみたら? 何か閃くかもしれないわよ」

 それが一番か。幸い刻む作業と、砂糖をゴリゴリする作業は、料理人たちが終わらせたみたいだし。
 ──って、はやっ! 連携も見事だ。まあ、城中の料理を作ってるんだから、当たり前か。

「だが、その前に温度の話だ。生臭いチョコレートにならないようにしなくては! お姫様そっちから声かけていって。俺は逆からいくから」

「美味しくないチョコレートなんて嫌だしね……」

 書いてはあるが、テンパリングとコンチングは直に説明した方がいい。
 完成するチョコレートに差が出る。
 どうせなら、美味しいやつがいいに決まってる。

◇◇◇

 作業開始から1時間くらいで、カカオマスから作るチョコレートは完成した。あとは冷やすだけだ。
 冷蔵庫はある。しかし、電気で冷やすのではないらしい。まぁ……冷えるんだからなんでもいいよね。

「もう、ビックリです。レシピに材料があれば、チョコレートくらい余裕なんだね。次は作ったチョコレートを使用した、お菓子を作っていきます。レシピはまたお姫様が書いてくれるので、確認しておいてください」

 俺とお姫様も、それぞれチョコレートをつくりました。俺はそれほど甘くなく、お姫様は死ぬほど甘く。
 こ、これは個人の自由だから。俺は絶対にあのチョコレートは口にしないけどね!

「昨日のことだし、この作業は問題なかったな。ただ、カカオマスがまだまだ残ってるんだけど……」

「これから試作するんだからいいんじゃないの」

「毎食チョコレートにしたら、みんな怒るかな?」

「……本気で言ってるの」

 1回に数十グラムしか使わないカカオマスを、1キロは買いすぎました。今日使っても残るとは!
 お姫様の言う通り、いろいろ試してみよう。
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