連れ去られた先で頼まれたから異世界をプロデュースすることにしました。あっ、別に異世界転生とかしないです。普通に家に帰ります。

KZ

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始まりのバレンタイン

ルイちゃんのチョコレート講座! 終わり!

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 外は未だに雪が降り続いている。
 その勢いは時間が経つ毎に増しているようで、外はもう雪国のようになっている。
 雪化粧された見慣れた場所。昔はよく、この縁側で遊んだ。最後に雪だるま作ったのもここだった。

 雪は当然、我が家にも積もったが、我が家では雪にはしゃいだ妹が暴走し、2人しかいないのに強制雪合戦させられて、綺麗な雪がなくなってしまったのだ。
 汚れた雪だるまなんて嫌だったから、それでお隣さんの庭に雪だるま作りにきたのだ。

 あの最後に雪が積もった時から、再び雪が積もるまで過ぎた時間。その時間と俺たちとの空白も同じだけあった。
 タイミングがいいというのだろうか。この雪は、あの年の再現ということなのかもな。

 俺の最後のバレンタインとなった年と同じくらいに降っている雪。
 しかし、今日をもってまたバレンタインが始まるから! この雪は俺を祝福するために降ってるんだから!

 まあ、長くなりましたがそういうわけなんで。

 これはホワイトクリスマスならぬ、ホワイトバレンタインになるのだろうか?
 ホワイトデーと被ってるからないな。
 2月12日。 ……もう13日になってしまった。

 チョコレートは完成したが、料理が納得のいく味にならなくて、何回か作り直しをしてたら日付が変わってしまっていた。
 味見役の2人には申し訳ないことをした。
 おばちゃんありがとう。おっちゃんは一応ありがとう。

 だが、そのおかげもあり無事に完成した。おそらく、より完成度は上がったはずだ。
 お店出せるレベルにまで到達したいるかもしれない! と冗談はさておき、あとはルイに渡すもとい、食べさせるだけ。

 ……これも知らなかった。
 ただ『チョコレートを渡す』。たったそれだけの行為に、これほど勇気が必要だとは思わなかった。

 そこには、いろいろな覚悟がある。

 そもそも受け取ってもらえるのか?
 喜んでくれるか?
 味は大丈夫だろうか?
 何て言って渡せばいいのか?

 このように考え出したらキリがない。
 考え出したら簡単に日が暮れたり、日が上ったりするだろう。
 しかし、それでも女の子は、バレンタインにチョコレートを渡す。感謝であり、好意であり、想いであるチョコレートを。

 その想いを俺はずっと貰い続けていたのに……傷つけた。その上、それに気づきもしなかった。

 今だって、あの時のルイの感情を理解するには至っていない。けど、それでもやらなくてはいけない。
 けじめであり、謝罪のつもりの逆バレンタインを。

「ルイ。起きてるか? チョコレートができた。悪いが今渡したいんだ」

 俺は現在、ルイの部屋の前にいる。両手は諸事情により塞がっていて、ドアをノックすることができない。
 夜中なのでそれなりの声量で、気づいてもらえるように声を掛け続けるしかない。たとえ、それが届いていなくても続けなくてはならない。

 俺がこのまま朝まで立ち尽くしたとしても、俺が作ってしまった、俺たちの距離と空白には及ばないんだから……。

「……寝てんのか? 雪降る中、ここで立たされていると、朝には俺が冷たくなってるかもしれないぞ」

 距離と空白と言ったが、そんなものはいくらでも埋められるはずだ。
 開いてしまった距離は、どんなに頑張っても元どおりにはならない。なら、1から始めるしかないんだからな。

 これは始めるための儀式だ。ずっと一緒だった幼馴染との、新たな関係を始めるための儀式。
 きっと前とは違うものになる。だって、俺たちはすれ違っていた時間の分だけ成長しているんだから。

◇◇◇

「今何時だと思ってんだよ。今から部屋の中とか無理だから」

「寒い廊下とか、もっと無理だから」

「朝になったらにしろよ。チョコレートは溶けないし、悪くならないから」

「冷めるし、悪くなるんだよ。温かいうちにお召し上がりください!」

 待ったは待ったが、ルイは呼びかけに応えてくれた。そして無理だというが、その方がもっと無理だから。
 冷めたら美味しくないし、廊下はクソ寒いし。

「……いったい何を作ったんだよ。また、余計なことしたのか?」

「またって何? 俺がいつも余計なことしてるみたいじゃん。心外だ」

「いろいろとしてるだろ。まったく自覚ないのな」

「いいから中に入れてくれよ。ドアを開けて。両手が塞がってるんだよ」

 ドア越しではそこまでは分からないのだが、部屋の中ではため息をつかれているんだと思う。が、ここで引き下がれない!

「チョコレートをどうしたんだよ。そのままで良かったのに……」

「なら、──そう言っていけよ! おばちゃんの言った通りだったのかよ!」

「あれは──、違うからな! そんなのを求めていたわけじゃない。本当は別にいらなかったんだよ。チョコレートなんて」

「なんだと……。作るなら最高のチョコレートを作れと言ったのに。だから作ったのに……」

「あんなの照れ隠しに決まってんだろ! ……他に思いつかなかったんだよ」

 ルイが言ったことを俺が本気にしただけ。だが、逆バレンタインは間違いなく行われた。
 メニューに違いもなかっただろう。
 俺がこの約2週間で得たものが、これになったんだからな。

「だけど、作ってしまったからには食べてもらわなくてはならない。これが俺からのバレンタインのチョコレートだ」

 またため息をされた気がしたが、ドアノブが回る音がして、ルイが顔だけを廊下に出してくる。
 ルイの部屋の中は電気がついておらず、この廊下より暗い。寝るところだったというのが分かる。

「5分待て」

「いや、入れてくれよ」

「見えないのか?」

 ……何のことだろ? 暗くてよくは分からないが、部屋の中が散らかっていたりするのだろうか。
 昔はそんなことなかった気がするが。

「気にするな。少しくらい散らかってても気にしない!」

「気が利かないな! 着替えるから待ってろって言ってんだよ! ほんとにもう!」

「!」

 ルイは顔だけ出していると言ってはいるが、実際は肩口まで見えている。しかし、よく見ればその部分は肌色だ。少なくても長袖ではない!

「なっ──、服着てないのか!? そんな、ばかなことが……。しかし、寝る時の格好は人それぞれだし……。そうなんだとしても何も言えないけど……」

「──着てるよ! 部屋着なんだよ。もう寝ようと思ってたんだから!」

 そう言われてバタンと勢いよくドアは閉められた。

 ど、どんな格好だったのだろう……。
 これは純粋な興味であり、やましい気持ちはないヨ。本当なんだよ。

 ごくり……カギは掛かっていない。

 付いているのかどうかはわからないが、カギを掛ける音はしなかった。
 ちなみに俺の部屋には付いていない。

 部屋の中が気にならないとは言えない。『着替える』その言葉はどこまでを指しているのかは分からないが……これは俺を信用して、俺が部屋の前で大人しく待ってると思ってのことなんだ。

 なら、裏切れないよな。俺はそこまでの外道ではないんだ。
 みんなも分かってたよな? 一瞬見たいと思ったのも理解してくれるよな? 男の子だからだ。ね。

◇◇◇

 5分だったのか5分ではなかったのかは、モヤモヤしていて気にしてなかった。
 用意ができたらしいルイが再び顔を出して始めて、『5分経った?』と思った。

「どうぞ……」

「おじゃまします」

 ルイはお着替えを終え、今度は長袖になっている。
 脱ぎ散らかしてはいないから、どんな格好だったのかは闇の中に消えた……。

 しかし、久しぶりに入ったルイの部屋は以前とはまるっきり違う。家具の配置も違ければ、雰囲気すら違う。
 それでも変わらないものもあるようだ。

「相変わらずぬいぐるみだらけだな。こんなにどうするんだ?」

「ジロジロ見てんなよ。そして人の趣味に口を出すな。いいから座れよ」

 とてもファンシーなキャラクターの顔のクッションが2つ。部屋の真ん中の小さなテーブルのところに置かれる。
 これは座るものなのか? このキャラクターは下敷きにされるんだけど、いいのだろうか?

「早くその手に持ってるのを下ろせよ。なんでドームカバー? 中に何が入ってるんだよ」

 分からない人もいるだろうから説明すると、ドームカバーとはフランス料理とかにかかってくる銀色のやつだ。
 蓋と言えば分かるか? ステーキカバーとも言う。肉にも使うな。

「はいってるのはチョコレートだよ」

「微かにジューって聞こえるんだけど。チョコレートからそんな音しないだろ」

「ち、チョコレートだよ。あけてみてよ」

 ここで躊躇わせて、タメを作らせて、流れをこちら側に向ける! 今は部屋着に心を惑わされていて、ルイにペースを握られている状態だ。それだではダメだ。
 流れを取り戻し、俺が仕切ることで、逆バレンタインは完全なものとなるのだ!

 ──ってルイは一気にカバーを外しやがった。予想と違う!

「思いっきりステーキなんだけど。チョコレート要素ないし、この時間からこんなの食べたくないんだけど……」

「躊躇えよ! 一気に開けんなよ! そして食べてよーー、お願いだからーー」

 目論見は見事に外れて、ペースは握られたままで、食べたくないと言われては頼むしかない。
 若干引かれようと、駄々をこねるしかない。

「わ、わかったよ。だけど、なんでステーキ? それにこれ……なんの肉だ? 牛じゃないよな」

 するどい。一目でそこまで気づくとは。
 当初の予定では、その辺も食べたあとで言おうと思ってたのに、もう見破られてしまった。
 今日の俺はグダグダ過ぎる!

「えー、こちらはドラゴンのステーキになります。そしてチョコレートはこちらに。どうぞ」

「ああ、チョコレートソースなのか。意外と言えば意外だけど……──今なんの肉だって言った!?」

「まさか、チョコレートソースに驚きもしないとはな。しかし、ただのチョコレートソースではない。ビックリするくらい美味しいからな! 毒植物がいいスパイスになって、とても美味なソースになっている。その美味なるソースがドラゴン肉に更なる進化をもたらしており──」

「──いや、なんの肉なんだよ! そして毒とか言わなかったか? そんなのを食わせるのか!?」

 逆バレンタインのメニューは、『毒植物のチョコレートソースで食べるドラゴンのステーキ』になります。
 俺の気まぐれ、とか入れたらカッコイイかもしれない。というか、入れよう。そしてメニューにしよう。

「大丈夫だ。とっても美味しいから。お店で出せるレベルだから!」

「──そんなの信じられるか!」

「あーんってするサービスも付いてるから! ほら、あーんして。食べさせてあげるから!」

「ふざけんな、零斗れいと。ちょ、本当にやめろ!」

 この恥ずかしさを誤魔化すのは、勢いが一番いいと思う。なので、このままチョコレートを食べさせる。
 ツンデレではないのでツンデレ渡しはできないし、壁ドンしようにもシチュエーションが足りないし、この方法が俺らしい。

 嫌だと抵抗され、ダメージを受けるくらいが俺たちらしい。こうして、逆バレンタインの儀式が行われた夜は更けていく。

 ルイちゃんのチョコレート講座も終わりだが、逆バレンタインもこれにて終わり!
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